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10億ボタン!? 10億円もらえるなら押すっきゃねえだろ!

掲載日:2026/02/05

 昼下がり、男は公園のベンチでぼんやりしつつ、こうつぶやいた。


「あーあ、金が欲しいなぁ……。10億円もあれば、一生遊んで暮らせるのになぁ……」


 すると、突然周辺が薄暗くなり、笑い声が響き渡った。


「フハハハハハ……!」


「な、なんだ!?」


 男がきょろきょろしていると、「こっちだ」と呼びかけられる。

 そこには角が生え、翼と尻尾を持ち、真紅の目を持った化け物がいた。


「ひいいっ!? な、なんだお前は!?」


「私は悪魔だ。貴様の“10億”という言葉に反応して、現れてやった」


「あ、悪魔……」


 男は震えるが、悪魔はにっこりと笑む。


「そう怯えるな。私は貴様にプレゼントを与えたいだけだ」


「プレゼント……!?」


「これだ」


 悪魔は掌サイズほどの小さな台座を差し出した。丸いボタンが一つついている。


「これは『10億ボタン』という」


「10億ボタン……!」


「どうだ? 押してみるか?」


 さっきまで死んだようだった男の目がとたんに輝く。


「10億ボタンってことはあれだろ!? これ押せば10億円もらえるんだろ!? だったら押すっきゃねえだろ!」


 悪魔はニヤリと唇を歪める。

 男は迷わずボタンを押した。

 すると――


「……うわぁっ!?」


 男の上空に巨大な鉄の塊が現れた。

 それはそのまま落下し、男の全身をベンチごと押し潰した。

 悪魔はそれを見て高笑いする。


「フハハハハ……! 10億は10億でも今のは『10億キログラムボタン』だ! 10億キロの鉄に押し潰され、哀れ貴様は圧死というわけだ!」


 悪魔は鉄の塊を眺める。


「といっても……聞こえてはおらぬだろうがな」


 これは悪魔のお遊び。

 誘惑にかかった人間の命を奪うためだけの、暇潰しに過ぎない。


「欲望にまみれた人間というのは無様なものだ。こんな下らぬ罠に引っかかるのだからな。さて、帰るとするか」


 悪魔は元いた世界に戻ろうとする。


「いてて……」


「ん?」


「あちこちすりむいてる……マジでいてえ……」


「な、なに……!?」


 鉄の塊の下から、男が這い出してきた。多少怪我はしているが十分動けるようだ。


「10億キログラムボタンとは、一本取られたよ」


「貴様、なぜ生きている!?」


「打ちどころとかよかったんじゃないか。多分」


「そんなんでどうにかなるはずが……」


「それより10億ボタンってあれで終わりか? 他にないのか?」


 まさかのハプニングに悪魔は顔を歪めていたが、すぐ文字通り悪魔の笑みを浮かべる。


「あるぞ」


 先ほどの物とは多少色が違うボタンを取り出す。


「おっ、これを押せば今度こそ10億円ゲットできるんだな!?」


 悪魔は曖昧に笑うだけで答えない。


「よーし、押すぞ!」


 男がボタンを押したとたん、凄まじい電撃が男の全身を襲った。


「あががががっ!?」


「残念だったな! 貴様が今押したのは『10億ボルトボタン』だ!」


 数十秒もの間、強烈な電撃を浴びた男は、仰向けに倒れてしまう。


「先ほどの鉄の塊は運よく避けたようだが、今度は直撃したな」


 バカな人間を罠にはめることができたと、悪魔は満足する。


「し、痺れたぁ~」


「……!?」


 男はむくりと起き上がった。


「昔、スーパー銭湯で電気風呂っての入ったけど、あれより全然痺れるな」


「なぜ生きている!? 10億ボルトだぞ!?」


「たまに雷当たっても助かる人いるじゃん。ああいう原理だろ」


「ぐぬぬ……」


「で、他にないのか? 10億円くれるボタン出してくれよ」


 悪魔はまたもボタンを手渡す。


「10億ボタンだ!」


「よっしゃ、今度こそ10億円いただきっ!」


 男がボタンを押すと、その全身は炎に包まれた。


「あぢいいいいいっ!!!」


「『10億度ボタン』だ。太陽より地獄よりも熱い10億度の炎によって焼き尽くされるがいい!」


 男は灼熱の炎で焼かれるが――


「何年か前、熱中症になった時よりきつかった……」


 これも耐えてしまった。


「なんで!?」


「きっと熱中症になったおかげで、熱に強くなったのかもしれないな」


「そんな仕組みの人間いるかぁ!」


「いるんだから仕方ないだろ。で、10億円出してくれるボタンは?」


「ほれ、10億ボタンだ!」


 男がボタンを押すと、今度は肉体がしわしわになっていく。


「あああ……!? 体が乾く……! なにこれぇ……!」


「『10億リットルボタン』だ。押した者は体内から10億リットルの水分を失う。干からびてミイラになってしまえ!」


 しかし、男は平然としている。


「さっきエナジードリンク飲んだから助かったのかも」


「んなわけあるかぁ!」


 悪魔は次のボタンを取り出す。


「だったら、この10億ボタンはどうだ!」


「10億円もらったぁ!」


 男が押すと、その体は忽然と消えてしまった。

 悪魔は今度こそ勝利を確信する。


「今のは『10億光年ボタン』……奴の体は地球から10億光年離れた星に飛ばされた。あの生命力なら生きているかもしれんが、もう二度と地球には戻れまい」


 だが、悪魔の背中から――


「ただいまー」


「なにいいいい!?」


 振り返ると男がいた。


「どうやって戻ってきた!?」


「必死にクロールで宇宙遊泳して戻ってきた。宇宙空間は息継ぎできないのがきつかったな」


「息継ぎ以外にも色々問題はあるだろぉ……!」


「さあ、他にないのか!? 10億円よこせ!」


「だったら、この10億ボタンはどうだ!」


「今度こそ10億円が出てくるんだな!」


 男は迷わず押す。


「かかったな! それは『10億歳ボタン』だ! つまり、貴様は10億年分老化することになる! いくらなんでもこれで生きていられるのは不可能だ!」


「何本か白髪が増えたかな……」


「なにいいいいいい!?」


 男は10億歳になっても無事だった。白髪が増えたのを少し気にしているが。


「貴様、なんなのだ!? 人間じゃないのか!?」


「れっきとした人間だよ! 戸籍見るか!? 免許証見るか!? マイナンバーカード見るか!?」


「いや……貴様が人間なのは間違いないのだ。なのになぜ……」


 悪魔には人間とそうでない者を見分ける力があるのだが、悪魔の目からすると男は確かに人間だった。

 それなのに、どうして男がこれほどの生命力を持つのか……それは分からなかった。


「だったらこのボタンを押せ! ちゃんと10億円に関係のある10億ボタンだ!」


「よしっ、10億円いただき!」


 男がボタンを押すと、スタイル抜群で赤いワンピース姿の黒髪美女が出てきた。


「おおっ、すごい美人だ!」


 男も見とれてしまう。ところが、この美女は一筋縄ではいかない性質を持っていた。


「ねえ、指輪買ってぇ、車買ってぇ、マンション買ってぇ~」


「その女は10億円貢がないと、永遠に貴様に物をねだり続けるぞ!」


「こりゃ厄介だな……」


 金欠気味の男にとってはまさに天敵といっていいかもしれない。

 しかし、10分後には――


「ふぅ、なんとか俺自身の魅力に惚れさせたぜ……」


「素敵……お金なんていらない。一生あなたについていくわ」


 美女は男の魅力にメロメロになっていた。腕にすがりつき、愛の言葉をささやく。

 男は悪魔に次のボタンを要求する。


「俺は10億円手に入れるまで絶対諦めないぞ!」


 悪魔はついに悲鳴のような声を上げた。


「貴様ほどのスペックがあれば10億円なんていらないだろぉぉぉ!!!」






おわり

お読み下さいましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
彼こそ10億円の価値ある男ですね! いや、10億円どころじゃない10億ドルでも足りない! イカした男ですな!
多分サラリーマンとかが「今夜高い焼肉行きてぇなぁ、10万ぐらい降ってこねぇかなぁ」程度の願望なのでは・・・
某地上最強の生物が思い浮かんだけど 奴が金に困る訳ないか…
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