第016話 何と言う辱めだ
「さて、そろそろアイリスもやってみますか?」
「んっ」コク
ヴェルンさんに促されて、まだ出来る自信は無いけどやる事にした。俺だけ怖気づいてる訳にいかないからな。いや怖くは無いんだよ? 肌が出てるのなんて顔だけだし目はゴーグルで隠してるし大怪我なんてしようが無いもんな。
でも皆んなが出来てるのに俺だけ出来ないなんて恥かきたく無いのよ。
『あー、残念じゃが前方に噛みつきネズミと吸血蝙蝠が1匹ずつおるのじゃ』
くっ、まだ覚悟が決まってないのに……、けど仕方がない。見たところ吸血蝙蝠は羽ばたく時身体が上下するから突きは当てにくいみたい。だからなるべく体の中心を狙って斬らないと。
ナージャさんの真似して突いても空振りして無駄に恥かくだけなのが目に見える。お手本にしたいけど俺が練習無しで真似出来るレベルじゃないだろう。
「キュキッ! キュアー!」
ドスッ「ギッ!!?」
「アイリス! 蝙蝠1匹お願いします。1匹ですので落ち着いてやって下さい」
いやいや、ヴェルンさん? アンタ噛みつきネズミが顔を出した瞬間に脳天に投げナイフでブッ刺しちゃって……何者!??
「キュキーー!」
うわっ、もう目の前に来てる! ヴェルンさんの早技に機が動転しちゃったよ!?
吸血蝙蝠、意外に早い! でも流石に俺も伊達に何十年と剣を振ってない。身体が咄嗟に反応して剣を振っていた。リリィのお陰で目も良くなって吸血蝙蝠の動きも良く見えている。
イケそうだ。俺は反射的に振っていた剣に更に力を込めて吸血蝙蝠の中心を袈裟斬りに両断する、つもりで斬りつけた。
――いやまあ両断は出来なかったけど致命傷は与えたよ? まだピクピク動いてるけど、吸血蝙蝠に止めを刺して一息ついた。
『失敗しなくて良かったとか思っておらんじゃろうな。慌てふためいて一番のベテランが聞いて呆れるのじゃ』ジト目
くっ、分かってるよそんな事。だからそんなジト目で見んな。
「アイリスちゃんやったじゃない♪ 結構簡単に倒しちゃったわね」
「ええ、充分に引き付けてから芯を捉えた一振り、良かったですわ」
うう、リリィにダメ出しされてから褒められても、慌ててたのがバレてないだけで逆に恥ずかしいわ!!
「あらあら赤くなっちゃって、照れちゃってるのかなアイリスちゃん?」
「可愛いですねぇアイリスちゃんは……」
うぐぐ……、何と言う辱めだ。
もう良い、次だ次! 火照った顔を鎮めるように頭を切り替えて進むと吸血蝙蝠が2匹襲い掛かって来た。ヴェルンさんと1匹ずつ相手する。充分に引き付けてからさっきのように袈裟斬りにしてやる。
スカッ
ってヤバっ!? 空振った! 待て待て待って!? 焦るヤバい!!
ビシィ!
うおっ、またリリィの魔法の盾に助けられちゃった。フラフラと床に落ちた吸血蝙蝠の羽根を踏み付けて精霊剣で止めを刺した。
「………………」
『ふう、………………お主もうちょっと落ち着けんかの?』呆れ顔
くっ、分かってんだよ! そんな事は!!
失敗して落ち込んでると思われたのかナージャさんとミリアーナに慰められた。でもリリィの魔法の盾を褒められても俺の力じゃないんだよね……はぁ。
『所詮低階層の敵、落ち着いていれば倒せると言うのに……、お主は周りに良い所を見せようとやる気が空回りしとるのじゃ』
うぐぐ、だって皆んな簡単に倒してるんだよ? そんなの意識しちゃうんだよ!?
その後何度か戦って慣れていった。でも、ちょっとでも大振りになったりタイミングがズレると避けられたりするから慣れても気が抜けない相手だ。皆んなは簡単に倒してるのに、コレが才能の差か……。
『周りは上級者なのじゃ。比べて恥だなどと感じる必要など無いのじゃ。全く、寧ろ戦い以外の所で恥かきまくっておる癖に』←酷い
えっ!? は……、恥って?? 俺何かした?
『何でも無いのじゃ(オナゴに抱き付いたり泣いたりは此奴にとっては恥では無いのかの??)』
むう。
「そろそろ帰りましょう。これ以上は陽が落ちてしまいます」
「そうですね。アイリスちゃんも慣れて来たようですし、真っ直ぐ戻れば夕方の内に帰れるでしょう。2人共良いですか?」
「そうね。アイリスちゃんも良いよね?」
「んっ、良い」
「……ねえナージャ、迷宮って下の階層に行く程厳しくなるんでしょ? 傭兵なら2階層ですらランク3でも怪我する事もあると思うわ。此処にいる探索者って……レベル高いのかしら?」
あー、それは俺も思った。此処でやってる奴等は2階層程度簡単にクリアしてんだろうしな。傭兵の方がレベルが低いなんて認めたくないけど、ミリアーナも同じ気持ちなのか面白く無さそうな顔をしてる。
「ふふっ、それがそうでもないんですよミリアーナ。低ランクの探索者はまず2階層には潜りません、2階層3階層で出る吸血蝙蝠は素材もろくに取れません。それなら肉が取れる噛みつきネズミ専門でやった方がお金になりますから」
……ほう。
「そしてランクが上がるともっと下の階層に行きます。が、そう言う人達も低階層の面倒な敵は無視して行きますし、狩る場所と狩る魔物をある程度限定して自分達に合った相手としか戦いません。地域の治安の為に色んな魔物と戦う傭兵とは単純には比較出来ないんですよ?」
「んん〜、成る程ねえ。応用が効く傭兵と特化型の探索者ってトコかしら」
「そうですね、ただ何処の世界でも例外はいますけど……」
「んっ?」コテ
何故俺を見る?
『傭兵なのに巫女並みの回復魔法の持ち主とか明らかに傭兵の世界の例外なのじゃ』
それリリィの力じゃん! 酷い風評被害だよ!!
『散々利用しといて風評被害とはなんなのじゃ! もうどっぷり共犯なのじゃ!!』
今共犯って言った!?
向かって来る敵を倒しながら帰って行く。けど来た時に粗方魔物を倒した道にも新たな敵が出て来て何か不思議な感じがした。
『邪素と魔物は存在が比例するのじゃ。魔物を倒して邪素が薄くなったとは言え迷宮ではすぐに補充される、そして邪素があって魔物がいない所には魔物が集まるのじゃ。自然発生する場合もあるがの』
邪素が補充されて魔物が集まるって事か。
『うむ、まあ此処じゃ誰にも知られておらんがの』
それ俺に教えて良いヤツ?
『気になるのなら誰にも言わねば良いのじゃ。まあ言ったところで証明出来んのじゃ、どうにもなるまい』
それ言っても嘘つき呼ばわりされるじゃん。
その後ナージャやミリアーナがかまって来るのを躱しながら自身に回復魔法を掛けつつ寮に帰った。――結構歩くから疲れるんだよ?
『他の者は平気そうじゃがの』ボソッ
寮に帰って一息、今夜は何故か俺を挟んでナージャとミリアーナの3人で寝る事になった。狭いって言うのに。
まあ実は1ヶ月近くの馬車旅でも一緒だったからか、昨日は久しぶりの1人寝だったのに何か落ち着かなかったんだよな。
『結局リリィが寝かせてやったのじゃ』
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