第012話 副都の迷宮探索へ
翌朝何故か俺だけ迷宮に入る条件としてヒストロスさんに商工ギルドのダールトン様から送られた装備を身に付けさせられた。
白地に黒のラインが入ったぴっしりした軍服みたいだ。そこに膝下まである黒い靴にフードの付いた白いローブと帽子をかぶっている。膝や胸、股間とかに何かの補強素材が入ってるみたい、帽子は軽いけど金属が入ってるっぽくて頑丈そう、フードを被れば顔を隠せるようになってるのは良いかな。
「どう?(格好良いだろ)」ドヤァ
『男装しとるようにしか見えんの、と言うか良い大人がタダで高価な装備を貰って何とも思わんのかの』ボソッ
「うん、似合ってるよアイリスちゃん。ねっ、ナージャ?」
「ああ……、アイリスちゃんが癒やしです」
「!??」
何故かナージャさんが抱き付いて離れない。まあ良いか、朝食を摂って早速迷宮に行く事にする。迷宮前にある探索者ギルドに着いたけどまだ人が疎らだ。
『完全にナージャの中では幼子扱いになってしまったの』ボソッ
「今までの町だと早朝って混んでるもんなんだけど此処は違うのね」
「迷宮は基本的に全て定額の買い取りになります。早い者勝ちで依頼を取り合うと言うのはありませんからそこまで混み合う事はありません」
「成る程ねえ」
この建物は5階建ての内1、2階と3階の一部は石造りになっていて魔物対策で頑丈に出来ているそうだ。
「うわぁ、受付ばっかりねぇ」
「そうですね、下3階は全て受付になっています。あくまで此処は迷宮に出入りする人の管理と買い取りのみの施設ですから」
普通のギルドみたいな依頼受付用の個室とかも無いんだな。て言うかさっきからミリアーナの問いに何故かナージャさんが答えないでヴェルンさんが答えている。ナージャさんを見上げてみるけど起きてからずっとこんな感じなのだ。これから迷宮で戦うって言うのに大丈夫かよ。
「2人、ケンカ、……した?」コテ
「あはは……、ちょーっと夜のスキンシップの加減を間違えちゃったみたいでねぇ。ナージャ悪かったから機嫌直してよぅ」
「……アイリスちゃん、迷宮に入れば切り替えますからもうちょっとこのままでお願いしますね?」ニコッ
「お……、ん」コクリ
何したんだよミリアーナ! ナージャさんの笑顔ちょっと怖かったぞ!?
『昨日お主が見捨ててさっさと寝てもうたから怒っておるのじゃないかの?』
えっ? 何それどう言う事? 俺が怒られてんの??
『お主良い大人2人が本気で1人寝出来ずに自分と寝ようとしてたと思うておるのか?』困惑
えっ? ……ええ? 他に理由があるのか?? わ、分からんぞ??
『(ああ、これは説明しても無駄なヤツじゃな)単なるじゃれあいなのじゃ。好きにさせておくのじゃ」呆れ顔
本当か? それで大丈夫なのか? ……うーん、やっぱ女ってのは良く分からんな。
アイリスの困惑した姿を見てちょっと気まずくなった2人だったがミリアーナが反省してるかは怪しい所だろう。そしてナージャも許すとは言ってない。
『まあお主が間におれば問題無いし平気じゃないかの』投げやり
迷宮は副都を囲う壁の外にあって、隣接されたこの探索者ギルドの目の前にある。そして副都を挟んで反対側に王都があるのだ。スタンピードが起きても副都が王都の盾になっているそうだ。
王都に帰る時間を考えると3日しかないし俺とミリアーナは初めてだから全て日帰りで行き来する予定だ。受付で今日の予定を告げてから迷宮に入って行く。
「……桃月の妖精」
探索者ギルド用の新しいチーム名だ。迷宮に入る探索者が余りにも多いから区別する為に必要だそうだ。
「うんうん、アイリスちゃんのチームに相応しい名前だね」
空に浮かぶ月は2つある、薄っすらとした白銀色の大きな月と桃色の小さな月の2つだ。
「桃の月をアイリスちゃんの髪と瞳の色に、更に精霊が見えるアイリスちゃんを同じく精霊が見えると言われるエルフやドワーフ等の妖精種になぞらえているのです。良い名前でしょう」
むしろエルフやドワーフに笑われないか? 会った事無いけど。まあ聖女にされないだけマシか。
迷宮には探索者ギルドの3階から専用の階段を直接降りて行く、周りは分厚い煉瓦の壁で囲われている。
もしスタンピードが起きてもギルドから外へ降りる階段を塞げば3階の高さから飛び降りて外に出る事になる。大抵の魔物が暴れる前に大怪我をする事になる仕組みだそう。
「でも探索者が逃げ遅れたらどうするのかしら」
「そこは見捨てるしかありませんね」
まだ早朝だからか余り人はいない。その人達も迷宮に入って行くばかりで出て来る人はいない。階段を前にナージャさんが抱き付くのを止めて手を繋いで階段を降りて行く。今日は特に甘えん坊だな。
『………………』
迷宮に入ると薄暗くなっていて不気味な雰囲気がする。
「アイリスちゃん大丈夫ですよ。私達が守りますから、それにその装備もありますし」
「ええ、低階層の魔物の攻撃くらいその装備には無意味です」
うっ、ちょっと怖くなって緊張してるのがバレてしまった。
因みにその装備が非常に高価なのはアイリスだけが知らない。服に帽子や靴の一部にはアダマンタイトが使われていてそれ以外はクイーンアラクネの糸が使われていて防刃防火防寒等様々な高い効果あり金貨100枚、一千万イェンはする、庶民の平均年収6年分以上だ。
上級者の中でも中堅以上か、良い後援者がいなければ手が出ないレベルの代物だ。
迷宮に足を踏み入れると冷んやりした空気と何とも言えない圧力のようなモノを感じる。石の階段を降りて行くと階段と同じ石畳の通路が続いていた。
「なんて言うか変な感じがするわね。迷宮特有のモノかしら」
「そうですね、深く潜る程強く感じます。一説には魔物が生まれやすい魔力が集まる場所に迷宮が出来ると言われています」
『まあ概ね正解じゃの。邪素が濃いから自力で外魔力循環などするでないぞ主よ』
当たり前だ。リリィの外魔力循環でも気持ち悪いのにこんな魔物の領域で自分からやるなんて自殺行為じゃないか。
「この1階層では噛みつきネズミとスライムが出て来ます。まず私が戦いますからイケそうならミリアーナと交代しますね」
「了かぁーい」
軽い口調でミリアーナが答える。俺の前にナージャさんとミリアーナが、後ろにヴェルンさんが、――俺の戦う隙が無い。
この1階層は幅5・6m程の通路で小部屋もある迷路上になっているそうだ。高さは4m程あって圧迫感は無いけど戦うには狭い。
「キキッ、ギーー!」
暫く歩いていると噛みつきネズミが1匹襲って来た。30cmくらいかな? 思ったより大きい。ナージャさんが3歩程前に出てタイミングを合わせて細剣で横凪に斬り裂いた。
「噛みつきネズミは素早いですが獲物と見た相手に真っ直ぐ突っ込んで来ます。タイミングを合わせればこの通り。ただ、剣を早く出し過ぎると躱される事もあるので注意です。まあ飛び跳ねる事は無いので倒し易い相手ではありますが」
成る程、リリィのお陰で目が良くなってるから良く見える。タイミング合わせるだけなら簡単そうだな。
『まあ所詮1層目に出て来る雑魚じゃからの、お主でもイケるのじゃ』
……でも?
「あれ?何か素材は取って行かないの?」
「大したお金になりませんし3階層まで行ってからにしましょう」
ミリアーナの問いにナージャさんが返してる。うん、2人共引きずって無いみたいだな。きちっと切り替えてる。この辺は流石だ。そのままスライムはスルーして噛みつきネズミはミリアーナが主に倒して行った。
「スライムは粘性の液体生物で核を破壊しないと倒せませんが、その核しかまともな素材は無いのです」
「取れないのに何でその核が素材になるって分かってるの?」
「調べた方がいたそうです」
「暇な人も居るものねえ」
「研究者と言うモノはそう言うモノでしょう」
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