第007話 幕間 問題、発生!?ビアンカ視点
「はあ、……アイリスちゃん大丈夫かしら?」
「合否に関しては大丈夫でしょう、学力については充分だと、剣術については学生レベルでは上位に入ります。後は礼儀作法ですが商人よりはマシです。ナージャやヴェルンも居ますしそうそう問題を起こす事もないでしょう」
ビアンカは第1学院に向かう馬車の中でヒストロスとたわいない話しをしていた。出来れば自分もアイリスの試験に付いて行きたかったのだが都合が付かなかった。
「全く、学院初日じゃなければアイリスちゃんに付き合えたのに気が利かないわね」
「ははっ、まあ諦めて下さいビアンカお嬢様」
私がこの国に来たのは精霊神社、商工ギルド、傭兵ギルドの総本山リアースレイ精霊王国とのコネクション作りの為なんだから厳密にはこの国、アデール王国とは仲良くする必要は無いのよね。
――とはいかないのが貴族社会の面倒な所、基本この国の王侯貴族はウチの国を敵国として下に見てるから堪らないわ。対処を誤ると陰湿な虐めのターゲットになりそうだし。
去年来た時に他にも他国からの留学生が僅かだけどいたから小さいながらもコミュニティを築けて何とかなったけど今年はどうなるかしらね。
「では行ってらっしゃいませビアンカお嬢様」
「ええ、ヒストロスも気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
自分の教室の手前で別れ中に入って行く。このクラスは2年2組、80人程のクラスだ。数字が小さい程優秀、と言う建前だけど権力者程上位の組に入る。
私が入っても皆一瞥して目を逸らす。まあそんな立場よ。
ヒストロスも大変よ。付き人それぞれの部屋が用意されている訳じゃないから他の王侯貴族の付き人達との付き合いも出て来てしまうのよね。
敵国の真っ只中だし下手すると私より大変かも。まあヒストロスは本来ならお父様の執事、優秀ですから大丈夫でしょうけど。
「ビアンカ様、お久しぶりですわね」
「マリアンヌ様、お久しぶりでございます。お元気そうで、お変わりありませんか?」
「ええ、貴女に会えて嬉しいわ。私は国に帰らなかったからずっと退屈していたのよ?」
この方はアデール王国南方の小国タヒュロス王国の公爵令嬢で立場的には私と同じような立場。緩やかなウェーブのかかった黒い長髪に黒い瞳のたれ目がおっとりした印象を与えている大人っぽい美人だ。
マリアンヌ様は最上位の貴族だけどアデール王国の半分に満たない領土と言う事もあり、また経済的にも軍事的にも強くない為舐められてしまっているのよね。
アデール王国に軍事的にもしょっちゅうちょっかい掛けられていると言うのも親近感が湧く。その点はウチも同じだからね。
本来地位だけ考えればマリアンヌ様は第1組に入るべきなのに、まあ私も伯爵令嬢だけど国賓として来ている以上そうあるべきなんだけど、表向きは成績順と言う事になっているから文句も言えないのよね。
そんなこんなで周囲の目を無視してマリアンヌ様との会話を楽しんでいった。
これで終わればどれだけ良かったか、でもそうはいかなかった。
午前の授業を終え昼食を摂りにマリアンヌ様と付き人を連れ大食堂に行った。同様の立場にある他のクラスや学年の仲間と集まって食事を摂るけどそれでも3学年で8人しかいない。
「はあ、私の国もビアンカ様の国くらいの国土があれば色々変わったのでしょうけど……、何とかアデール王国を介さずに商工ギルドとの繋がりを作らないと外圧で滅びてしまいそうですわ」
「私の所も色々問題がありますわ。この国との小競り合いは最早日常化していますけど、ここ数年は商工ギルドとの繋がりの所為か此方は押され気味なのです」
マリアンヌ様のタヒュロス王国は度々アデール王国にちょっかいを掛けられているから商工ギルドに仲介を頼みたいようなのよね。
「私のメメントリア王国も商工ギルドとの繋がりを持ちたい所ですけど上手くいかないのです。それに仮に上手くいったとしてもアデール王国を通しての繋がりになりますから……、税を掛けられれば商工ギルドとの取り引きが強くなれば成る程アデール王国を豊かにしてしまうのです」
そう言うのはアデール王国北方の小国、メメントリア王国の第一王女、スカーレット・メメントリア様。赤いストレートの長髪にぱっちりとしたつり目の赤い瞳で意思が強そうに見える美少女、アデール王国に戦争を仕掛けられ、敗北して人質としてこの国に囚われている方だ。
「「「………………はぁ」」」
上手くいかないわね。今後の事に憂鬱になっていると大食堂が突如無音になって緊張が走った。
皆んなが見ている方に目を向けると大食堂にある3人のグループとその付き人達が入って来た。……その3人はこの学院でたった3人だけのコミュニティ、けど私達とは逆に強者の立場のコミュニティだ。
そして人間ではない、リアースレイ精霊王国から来た獣人と言われる種族なのだ。――私もこの国に来て初めて見たわ。
この世界には人間以外にも数多くの人種がいる。獣人、エルフ、ドワーフ等だ。けど基本的には全てリアースレイ精霊王国にしか居ないので私達は見る事はない。
それ以外だとこの国のように国賓として招かれる場合があるくらい。私個人としては国に招きたい所だけど、かつて商業ギルド神聖教会は彼等を奴隷や家畜として扱っていた時代があって敵視されているのよね。未だその勢力が強い私の国では望むべくもないわ。
私と同じ国賓と言う立場だけど全く違う。それもその筈、リアースレイ精霊王国は商工ギルド、精霊神社、傭兵ギルドの総本山、機嫌を損ねてこの国に就航している商工ギルドの飛空艇が飛ばなくなったらその原因になった者は王家に首を落とされるだろう。
飛空艇と言うのは信じられないけど空を飛ぶ船の事、商業ギルドでも造れない物でアデール王のお気に入りなのだ。私達にとっては彼等との関わりは劇物以外の何者でもない。
と言うのに何故か私達の方に歩いて来てるんですけど!?
「ビアンカと言うのは誰だ?」
「はっ、はいっ! 私です。何かありましたでしょうか!?」
何で私!??
うっ、思わず席を立ってしまいましたわ。声も大き過ぎです、淑女として失格です! 落ち着かないと!!
「精霊の愛し子がいるな? 会わせろ」
「………………は?」
「惚けるな! 貴様の家に精霊の愛し子がいる事は分かっているんだ!」
獣人は総じて体が大きい人が多い。声を荒げたこの方も背丈は180程で、大きめの人間と変わらないけど筋肉質で横幅がある。顔は人間寄りだけど他は全身毛で覆われている。
何が言いたいかと言うとハッキリ言ってガタイが良すぎて怖いのだ。
「待てよアシュトン、このお嬢さん怯えてるぜ? 取り敢えず落ち着いて話そうや」
「そうね、何か行き違いがあるかもしれないし」
後ろの2人、男の方は前の方と同じような体格で女の方は人間並みにほっそりとした方、でもしなやかな筋肉のつき方で機敏そう。3人共動物のような耳と尻尾があって遠目には癒されそう、……遠目にはね!
ってそんな事より精霊の愛し子って巫女様が言っていたアイリスちゃんの事じゃない!? どうするどうする! どうすれば良いの??
こんな時に何でシャルロッテがいないのよ!?
「宜しいでしょうか?」
「ん? 何だお前は?」
「はい、私はビアンカお嬢様の付き人をやらせて頂いているヒストロスと申します。これ以上騒ぎを大きくする訳には行きませんので御三方には当屋敷にご招待させて頂きます。ですので続きは後ほどとして頂ければと」
「ふん、面倒な事だな」
「まあ良いんじゃない? どうせ幾ら話したって此処で会える訳じゃないんだし」
「そうね、元々私達から会いに行くつもりだったんだし予定通りじゃない。それじゃ宜しくね? ビアンカ」
「はっ、はい」
3人が去って行くのを呆然としながら見送った。……ヒストロス、頼りになるわね。
「ビアンカ様、大丈夫?」
「はっ、……はい。大丈夫ですわマリアンヌ様」
ああ〜、視線が痛い。グループの人達からは困惑と嫉妬? それ以外からは嫉妬と憎悪。
ああ〜、頭が痛い。アイリスちゃんを連れて来たの失敗だったかしら。シャルロッテめ、ちゃんと言っておきなさいよね!?
「申し訳ありません皆様、私今日はこれで早退させて頂きますわ」
「えっ、ええ。――後日話しを聞かせて下さいね」にっこり
マリアンヌ様とスカーレット様からの圧力を背にふらふらと学院を後にした。
明日から07時10分と13時10分に投稿します。
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