第001話 アデール王国レンリート伯爵家別邸へ
ビアンカ様に雇われて隣国の王都に向かっていたんだけど、目を覚ますと見慣れない豪華な部屋にいた。何故かネグリジェを着てたので床に叩きつけた。下着姿になってしまったけど仕方がない。
『お主の荷物と精霊剣なら別の部屋に置かれておるのじゃ。此処はビアンカの屋敷なのじゃ。安心するのじゃ』
コンコン
「アイリス様、お食事の用意が出来ました」
ん? 女の人の声だ、でも聞いた事無い声だな、この家の人かな。
「失礼します」
「「…………」……?」コテリ
入って来た侍女さんと目が合ったけど俺を見て固まってしまっている。50代くらい? お母さんと同じ歳くらいかな?
「なっ、何て格好しているのですかはしたないっ!!」
「ひゃうっ!?」
首を傾げていたらいきなり怒られた、何で??
『そりゃ下着姿で平然と突っ立っておったら怒られるじゃろ』呆れ顔
あっ、忘れてた。でも目覚めたらネグリジェ着させられていたんだから仕方がないと思うんだよね? ……って言うか。
「……服無い」
侍女おばさんは額に手をやって目をキツく閉じてる。
「…………頭痛?」コテリ
その後ナージャさんも呼ばれて素早く着替えさせられた。て言うか荷物はクローゼットに入ってたよ。何だよリリィ、別の部屋なんて言うから着替えられなかったのに。
『いや、すまんのじゃ。隣りの部屋だと思うたのじゃが、まさかクローゼットだったとは思わんかったのじゃ』
ああ、いや良い。それは俺も思ったからな。まさか安宿の大部屋(20人用)の大きさのクローゼットとか、全く貴族ってのは馬鹿げてるな。侍女おばさんに連れられて(大?)食堂に行くと正面にビアンカ様、横にミリアーナがいた。あと1つ空いている席が用意されている、そこが俺の席かな?
別の侍女さんに椅子を引かれて空いてる席に座らされる。けど侍女さん達のは無いのかな? 廊下も広かったよな。そんな沢山客が来るのかね? 色々疑問が湧くけど疑問を口にする空気じゃ無かったので黙ったままでおこう。
「ようやく来たわね、アイリスちゃん」
「んっ、来た」
「改めてようこそ、我がレンリート伯爵邸へ。此処はアデール王国の王都で購入した私の別邸よ。当面は此処に住んで貰う事になるから気楽にしてちょうだい」
「んっ、……分かった」こくり
ベッドは柔らかくて寝心地良いし気楽にして良いって言うなら楽そうだ。
『(社交辞令じゃないのかの? いやまあ礼儀正しくと言うても此奴には無理か)』ジト目
「先に紹介しておくわね。この屋敷の執事長のヒストロス、侍女長のアリーニャよ」
「ご紹介に預かりました、執事長のヒストロスでございます」
「私は侍女長、アリーニャでございます。屋敷内の生活全般を任されておりますので御用の際は気軽に声を掛けて下さい」
「………………んっ」コクリ
ヒストロスさんも50代くらい、少し背が高めで180くらい? 目が細目で優しそうに見える反面、ガッチリした体型でやや色黒で濃い緑の髪と目をしてる。
アリーニャさんはさっきの侍女のおばさんで少しふっくらしてる。俺より頭一個半高くてミリアーナと同じ165くらいかな? 赤茶の髪目で丸顔で親しみが沸きそうな顔付き? かな?
「さて、今後の話しもあるけど先に食事にしましょうか」
先ずはサラダか、幾つかのドレッシングがあって好みで掛けて食べていく。白いのはチーズと言うモノが入っているそうだ。うん、何か濃厚? 偶に口直しでさっぱりする為に柑橘系のドレッシングで食べる、美味しい。
「アイリス様はちゃんはサラダをちゃんと食べられるのですね。ビアンカお嬢様も見習わないといけませんよ?」
「うぐぐ、アイリスちゃんに負けるなんて……」
何か失礼な事言ってない?
「あはは、まあライハルト子爵領に比べたらねえ? 何でもご馳走よ」
「そんなに酷いのミリアーナ? 言っても隣りの領地よね?」
「ん〜、基本うっすい塩味よね。アイリスちゃん?」
「ん? 塩は贅沢、野草集めて食べてた」
「「「えっ?」」」
冒険者時代は兎に角お金が無かったからなぁ。良く町を出て野草採取して洗って食べたよな。苦味の強い野草が多いけど、塩も買えなくてそのまま食べ続けていると途中から感情が抜け落ちるようになって味なんてどうでも良くなって来るんだよな。
ここんとこギルドに缶詰めにされて出来なかったけど、俺の体格と年齢考えると40歳まで後5年傭兵を続けられれば良い方だ。真面目に働くだけじゃなく節約もしていかないとな。
俺が新たな決意をしながら話しを聞き流していると皆んなの視線が集まっていた。――どうした?
「……アイリスちゃん、そんな食生活を此処で送る気だったの?」
「? ……んっ」コクリ
「だっ、駄目よ! 伯爵家の沽券に関わるわ、そんなの許さないから!!」
ええ〜……。
「何でそんな嫌そうな顔するのよ! 家に関わる人間にそんな生活されたら堪らないわ!」
「落ち着いて下さいビアンカお嬢様。アイリス様はこの屋敷で生活する事になるのでその食生活は我々が保証する事になります。野草を採取して食べる必要はありません」
「そっ、そうね、そうだったわ。アイリスちゃん! 給金も出すから道草食べちゃ駄目だからね!!」
「…………あい」
「何で不服そうなのよ!」バンッ!
「ビアンカお嬢様、お食事中に大声を出すなんてはしたないですよ?」
「うぐ、でもコレはしょうがないじゃない……」
俺の食生活に対して執事長のヒストロスさんに訂正され、はしたないビアンカ様を侍女長のアリーニャさんにたしなめられていた。
『はしたないって、お主道草呼ばわりされたからって……』
ちゃんと食べられる野草だったんだぞ? 不味いけど。
次に出たスープはトロみのあるごろごろ野菜のシチューに薄く切られたパンだった。美味しいね、野菜も甘味があって苦くない。パンもここまで薄く切られてると噛むのも苦じゃない。
ぱくぱく食べていると結構腹にたまってくるな。更に次にメインディッシュですとステーキを持って来られた。うぐぐ……、何という香りの暴力、お腹はそこそこいっぱいだけど香りにつられて食を進めてしまった。
「うわぁ、このお肉美味しいわね。子爵領じゃ食べた事ないレベルよ? タレも凄い濃厚ね」
ミリアーナは美味しそうにぱくついてもう食べ終わりそう。俺5分の1もいってないのに限界なんだけど? 肉はまあ美味しい、かな? 最近になって食べるようになったけど皆んなが言う程好きでは無いかな。
――やっぱりスイーツが一番だね。
「此方のお肉はハイオークのお肉です、ソースは数十の野菜、果実で作られた濃厚ソースを使っています」
「うん、肉の強さに負けて無いわね。ん? アイリスちゃん食が進んでいないわね。もうお腹いっぱい?」
「…………んっ」こくり
「あらそうなの? アイリスちゃんの為に最後にスイーツを用意させていたんだけど、無理そうね」
スイーツ!? もうお腹パンパンだよ! なんて卑怯な! こんなにお腹いっぱいにさせてから言うなんて!!
『いや、多分そんなつもりでは無いと思うのじゃがの』
リリィ! もっとお腹いっぱい食べれるようにして!
『そんな事出来る訳がないのじゃ』呆れ顔
うう〜、そんな呆れた目で見んな。
「うう……、…………スイーツ……」
『そんな食べた事も無いスイーツに大袈裟な(やれやれ)』
でも食べたかった、……ひと月の移動中はスイーツなんて殆ど食べられなかったのに。
「はぁ、諦めなさい。お腹壊すわよ?」
「…………ぐす」
「ええっ!? なっ、泣かないでよスイーツくらいで!」
ビアンカ様が席を立って俺の所に来て慰めてくれる。けどどうしようも無いんだよ? だって食べたかったんだもん。
『うーむ、野草で過ごそうとしたりスイーツで泣いたりメチャクチャなのじゃ』
野草で節約してスイーツいっぱい食べるつもりだったの!!
『思考言語まで幼くなっておるのじゃ!?』
「ビアンカお嬢様、また朝出せば良いでしょう」
「そっ、そうね。そうしましょう。お願いねアリーニャ、それで良いでしょアイリスちゃん!?」
その後あの手この手で慰められて何とか機嫌を治してグダグダになった食事は終わった。
『……お主…………』
今話から第3章になります。環境も立場も新たにしたアイリスを中心に引き起こされる騒動に引き続きお付き合い下さい。
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