第031話 幕間 ライハルト子爵領暴動、ライハルト子爵
「ええい、どうなってるんだ! レンリートの奴は儂と戦争する気か!!」
「ライハルト様、落ち着いて下さい!」
「これが落ち着いていられるかっ! 何で儂の領地で暴動なんて起こってるんだ! レンリートが何かやってるに違いないだろうが!!」
街の衛兵が早馬でタージレンの街で暴動が起きたと知らせ、その時レンリート伯爵領の領軍が動いていたと報告を受けたのだった。
「此方も軍を動かすぞ! 兵共もかき集めろ!!」
「お待ち下さい、そんな事をして戦争になったら此方から仕掛けた事にされるかも知れません」
「何だと!? 奴等は我が領に勝手に軍を入れて暴動を起こしてるんだぞ」
「そう、……暴動です、領民による。レンリート伯爵は表面上無関係です、今の所は、ですが。しかし暴動など普通には起こり得ないモノです。何らかの工作があったと見るべきでしょう」
「……それで?」
「となると当然この領で行動する大義名分を用意していると考えるべきです。下手に兵を挙げればそれをも利用されかねません。戦の準備はするべきですが先ずは此方からも情報収集を、現状では分からない事が多過ぎます」
それから数日、ライハルト子爵領の領都では徐々にその行動の全貌が明らかになって来ていた。そしてそれは神聖教会や商業ギルド、冒険者ギルドにも伝わっていく事になる。
「この領都に向かっている?」
「そのようですな。教会や各ギルドから暴動を鎮圧するよう要望が来ています」
「何をふざけた事を、元は奴等が原因ではないか!!」
「確かに、しかし各組織からの要望を受けての暴動鎮圧と言う名目なら軍を動かしても問題無いでしょう。レンリート伯爵を牽制するには丁度良いかと」
「チッ、手をこまねいていてレンリートの奴に良いようにされるのも癪に障るな。良いだろう、やれ」
「はっ」
それから更に数日、レンリート伯爵からの書簡が届けられた。溜め息を吐きながら側近にそれを手渡す。
「おい、これをどう見る?」
「失礼、……ふむ」
そこにはレンリート伯爵家の次男から面会を希望する旨を書かれていた。
「これはレンリート伯爵家の領軍をこの領地に入れた大義名分の為のモノ、ではないでしょうか」
「そんなふざけた話しがあるか! 3千だぞ! 百でも多いのにこんな数で来て大義名分になるか!!」
「正しくその通りです。が、3千の兵は暴動鎮圧の為にタージレンの街の権力者共からの要望に答えた、と言う形になっております。この大義名分と言うのはその前に入れた数人の兵の為のものでしょう」
「くっ、勝手な事を。それで結局奴等の目的は何なのだ!?」
「おそらく精霊神社の建設許可ではないでしょうか。後は商工ギルドと傭兵ギルドの権利拡張辺り、ではないですかね」
「アレか、しかし神聖教会の圧力を考えているのか? 我が国で精霊神社などの信仰を許しているのはレンリートの所くらいだぞ。下手すれば邪教徒扱いだ」
「確かに、とすると突っぱねるしか無い訳ですが。そうなると今回の暴動を利用して色々とロビー活動をしてくるでしょうかな」
「むうっ、儂に統治能力が無いとでも触れ回るつもりか!」
「何処かで落とし所を模索しませんとそうなるかと」
その後も話し合いが続いたが結局伯爵の使いと会わなければ分からないと言う事で何も決まらずに終わった。
「子爵っ! これはどう言う事だ! 何故さっさと暴動を収めない! 我が神聖教会が幾つも被害が出ておるのだぞ!!」
ライハルト子爵領領都の神聖教会の神官長が他の神官を引き連れて伯爵邸に詰め掛けて抗議してきた。更に商業ギルド、冒険者ギルドのトップも呼び寄せて来ている。
「商業ギルドでも冒険者ギルドでも大きな被害が出てるね」
「ああ、冒険者ギルドじゃ職員が何人も殺されているようだ」
どちらのギルドも暴動の話しは聞いているが、此処に来た者達は子爵領の領都で贅沢三昧をして普段から地方の事など頭に無い。彼等は未だ事の重大さに気付いてない。ただ抗議して子爵から譲歩を受けに、つまりおねだりに来たようなモノである。
「現在我が領軍が暴動の鎮静化を図って動いている」
「何と弱腰な、暴動を起こすような罪人などさっさと殺してしまいなさい!」
「幾ら神官長でも儂に対して命令権があるとでも思っているのか?」
上から目線の大神官に対してムッとして威圧する。
「何を言う! 神聖教会への攻撃は神への背信行為、断罪して然るべきであろう!?」
「ふむ、断罪、神罰として処すべきと?」
「おお、その通りよ、分かっておるではないか執事長」
「閣下、神官長様はこう言っております。断罪や神罰となれば軍ではなく教会の神兵がすべきかと」
「うむ? ……ふん、確かにその通りだな。許可はしてやるから任せたぞ神官長」
「なっ、何故私がそんな事をしなければならんのだ! 貴様等がやれば良かろう、貴様の領地だろう!!」
「何を言う、我等が下手に処刑等してはレンリートの所の軍を動かす口実にされかねん。それにそもそも暴動は神聖教会に対して起こったものではないか」
「――貴様、今まで多くの貢ぎ物をしてやった恩を忘れたか!」
「貴様だと? ふんっ! 儂に取り入りたい者達は皆そのくらいしてくるぞ」
そう言って商業ギルドのギルド長を見る。実際に両ギルドだけでなく多くの商会から贈り物があり、子爵にとっては高貴な自分に貢がれるは当たり前の事だと考えているのだ。
その贈り物の中に子爵好みの奴隷がいても、その奴隷が不当に攫われ奴隷に堕とされていたとしても自分の為ならば当然、寧ろ奴隷にとって自分に使われるのであればとてつもない幸運だろうと考えている。――ぶっちゃけコイツも屑である。
その後も話し合いともならない押し付け合いが続いたが子爵があくまで突っぱねた為に物別れとなった。
商業ギルドと冒険者ギルドのトップ達は軍を動かす事になれば物資や人を動かす事になるだろうと金儲けを考えていたがすかされて肩を落として帰って行った。
「ふん、亡者共が!」
「ふふっ、見事な手腕でしたわライハルト子爵様」
「チッ、……シャルロッテとか言ったか。それでこれからどうするつもりだ?」
さて、何故シャルロッテが此処にいるかと言うと勿論子爵との交渉の為である。
シャルロッテだけでは交渉に貫目が足らない為、レンリート伯爵家の次男のラウレス・レンリートに連れられる形で来ていたのだ。
シャルロッテはこの子爵領で傭兵ギルド支部のギルド長をしながら調査をしていた。そしてライハルト子爵家の数々の不正の証拠を掴んで、此処でそのカードを切ったのである。
勿論子爵への奴隷の提供も含まれる。子爵は違法奴隷とは知らなかったと言い訳をしたが奴隷が喋れない訳じゃない。断らなかったら同罪なのだ。
高貴な自分に抱かれるなら喜ぶべきだだの訳の分からない事を言ってきたが国法に反する事を言うとは陛下への侮辱かと言って黙らせた。
スタンピードに対処しなかった事も責めたがすっ惚けたのでレンリート伯爵が激昂していたと言ってやった。より上位の者からの言葉では惚ける事も出来ない。
不正の証拠を自分に反感を持っている伯爵が握っていると分からせたのだ。
「伯爵が求めているのは先ずは商工ギルドによる土地の買い取り許可です」
「ルドルフ」
「はっ、現在は商業ギルドからの貸し出しのみになっております。彼等の既得権益を犯すのは難しいでしょう」
子爵は執事長のルドルフに顔を向け説明を促した。シャルロッテの言う事を聞くのも癪だが自分の領地なのに商業ギルドを動かせないと言うのも気に入らないと不愉快な気分を隠そうともせずに顔に出した。
「それについては商工ギルドが交渉致しますわ。子爵様にはその許可だけ頂ければと」
「成る程、其方の弱みも握っておられるようで」
「ふふ、どうかしら?」
その後傭兵ギルドの権利拡張に精霊神社の建設の交渉もしていった。精霊神社建設に対しては難しかったが神聖教会が無い街や町、村なら構わないとなった。
「さて神聖教会を追い出しますか」
ライハルト子爵邸を出て呟くその冷たい笑みにラウレス・レンリートは顔を引き攣らせた。此処に来るまで悲惨な暴動の現場を見て来たからだ。
(何故か若返ってるけど、俺も16、父やシャルロッテに結婚を言われるけどシャルロッテを見てるから萎えるんだよなぁ。シャルロッテが美人過ぎるのが悪いんだよ。せめてもう少し人間味があれば可愛げがあるのに)
何て事を思いながらもレンリート伯爵家の次男ラウレスは決してシャルロッテと目を合わせないようにしてるが、その視線は常にシャルロッテの体を追っていた。
思春期真っ只中のヘタレであった。
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