第025話 会談続き
「成る程、先に報告は聞いているが良くやってくれた」
神聖教会とか国とか不穏な話し合いが始まって怖くて聞きたくないからシャルロッテさんの肩を借りて寝た。リリィに睡眠魔法を掛けて貰ったんだ。何でも出来るなリリィは。
『貴族を怖れるかと思えば貴族の前で眠りこける図太さがある。相変わらず訳が分からんのコヤツは』呆れ顔
「それでその方がレイクか」
「はっ、レイクです。傭兵ランク6、明けの雷光と言うチームに所属しております」
「はあー、この人もイケメンねぇ。若いし下手な貴族より貴族らしいわ。この人も学院に護衛として連れて行きたいわね」
「ビアンカ様、はしたないですよ? それにレイクは今後の予定も決まっております。ご遠慮下さいね?」
「ぷぅー」
「ふっ、助かる。シャルロッテにはビアンカの教育係りを任せたいくらいだな。――で? 予定とは何かな? それ程の猛者なら領軍に入って欲しいくらいなのだが」
「元アドン男爵領の迷宮に入って貰おうかと」
「アドンの迷宮か……、確かに君が行ってくれるなら心強いな」
「恐縮です」
「でも大丈夫なの? アドンの迷宮ってよく暴走を起こしてたんでしょ? そもそもそんな領を取り込まなくても良かったのに……」
ビアンカが口を尖らせて不満を言う。
「問題無いのだろう? 傭兵ギルドの協力があるのだしな」
「勿論ですわレンリート伯爵」
アドン男爵領は元々レンリート伯爵領の隣り、マトルア伯爵領の一部だった。けど現在はマトルア伯爵領からレンリート伯爵領に編入している。
貴族派のマトルア伯爵と中立派のレンリート伯爵は仲が悪く。マトルア伯爵領のアドンの迷宮が暴走する度にレンリート伯爵領にも魔物が押し寄せて被害が出ていた。
その為厳しく非難し更に多額の賠償金を請求してきたのだが、マトルア伯爵は賠償金を支払うどころか迷宮の暴走を止められない不名誉を避ける為に配下に男爵位を与えて男爵領として切り離したのだ。
当然その後の迷宮の暴走の被害はそのアドン男爵に請求するしかなくなる。その上マトルア伯爵まで元部下のアドン男爵を責めて多額の賠償を請求してるのだ。
「アドン元男爵は不憫だがマトルアの厚顔無恥なのも困ったモノだ」
「けどお陰で元アドン男爵領を此方に取り込めましたわ」
「まあそれもシャルロッテが上手い事話してくれたからだがな」
アドン元男爵は借金をレンリート伯爵に肩代わりしてもらい爵位を返上している。そしてそのかわり領地をレンリート伯爵領に編入させる事に同意したのだ。
「しかし手続きの為にアドン、今はただのルシオスだったか。アイツを王都に連れて行ったが貴族というモノに嫌悪感を持っているようだったな」
「ええ、彼が迷宮の土地を押し付けられ借金漬けにされたのもマトルア伯爵に迷宮の件で苦言を呈したからですからね」
「あら立派な方のようですわね、今は何をなさっているの?」
「今はこの伯爵領の領都の運営に携わって貰っているよ」
「まあ、それは良い事をなさいましたねお父様」
「お膳立ては全てシャルロッテがしてくれたがね。おかげで王都への道中も彼の口からは君への賛辞が止まらなかったよ、まるで女神を讃えるようだった」
ルシオスはマトルア伯爵に借金漬けにされた上、家族を奴隷に堕とされていた。それを逆手に取りシャルロッテは事前に方々手を尽くして彼等を買い取り交渉の材料にしていたのだ。
ルシオスからすれば主君に裏切られ家族諸共地獄に堕とされたのを救ってくれた正に女神そのものに見えたのだろう。
「ふふっ、光栄ですわ。では彼の夢を壊さない為にも私が爵位を戴く訳にはいかないですね」
「それとこれとは別だ。いい加減父の爵位を継ぎたまえ。正直君の兄弟では荷が重い」
シャルロッテの父親は準男爵で伯爵領で要職についていたが不正を働き一時牢に入れられ今は地方の村の開墾に回されている。
準男爵、準騎士爵と言うのは基本的にはこの国では当代限りの貴族位で功績によって与えられる。ただ基本的には子供には継がせられない事になっているが寄り親に認められれば次代にも同じ爵位を与えて貰えるのだ。
「私の事よりも次男のラウレス様の婚姻を考えたらどうですか?」
「アイツも16だからな。確かに結婚しても良い歳だが、……何だ? シャルロッテはラウレスが好みか?」
「あら、それでしたらシャルロッテはお姉様になるのね。それはそれで楽しそうね」
レンリート伯爵は揶揄い半分でシャルロッテを見たが、ビアンカの言葉で真顔になった。
「俺の娘? ……無理だな」
「何がですかお父様?」
「心労で死んでしまう」
「――好き勝手言ってくれるわね2人共」
「「すみません」」
底冷えするような冷笑で伯爵と令嬢を見据えている様は正に女王のようであった。ザイガス準男爵とギルド長も背筋が凍る思いをさせられ良い迷惑である。
被害が無かったのはシャルロッテの膝枕でスヤスヤと寝ているアイリスだけだった。
「全く、ウチの爵位なんて廃嫡してしまえば良いのでは? そう言う決断も時には必要ですよ」
「そう簡単に言ってくれるな。シャルロッテのフローディア家とは長い付き合いなんだ。先祖代々世話になっているし一代の失態で切りたくはない。そもそもシャルロッテはアドンの迷宮に今回のライハルト子爵領の功績もあるだろう?」
「どちらも上手く行くかはこれからでしょうに。それにアドン男爵領の編入は王都へ出向いて交渉した伯爵の成果ではないですか」
「成果と言う程ではない、お膳立てしたのは君だろう? 編入には一悶着あるかと思ってたが陛下も宰相殿もあっさり受け入れてくれたしな。騒いだのはマルトア伯爵当人くらいか」
レンリート伯爵は仇敵のマトルア伯爵の怒り狂った顔を思い出して思わずニヤついてしまう。
「だが奴に迷宮のある領地の統治能力が無いのは明白、それにマルトアの奴が賠償金を払う気が無いのは奴自身も認めていた話しだ。俺への迷宮被害の賠償金を踏み倒したと得意気にパーティーで語っていたのが仇になったな。あの土地を管理する気が無いと言っているようなものだ」
「でも小さな村が幾つかあるだけの小さな領地なのよね? そんな怒る程惜しいモノかしら? 迷宮があって困ってたんでしょ?」
「ビアンカ、マトルアの奴もあんな領地を惜しいとは思ってないさ。問題なのは俺に取られたって事と陛下と宰相殿に無能と思われた事だよ」
「成る程、これでお父様が迷宮を上手く管理しちゃったら更に面目丸潰れって訳ね」
「悪い顔をしているぞビアンカ、だがまあそう言う事だ。――それで? 本当に大丈夫なんだなシャルロッテ。何なら領軍を出しても構わんのだぞ?」
「そうですね、マトルア伯爵からの横槍の可能性を考えると牽制には必要でしょう。ただ迷宮に関しては万が一も無いように過剰な戦力を投入しておりますのでご安心下さい」
「うむ、良いだろう。だが迷宮の件が上手くいったら爵位は受けて貰うぞ」
「……はぁ、私ももう31ですよ? 結婚もしていなければ子供もいません。私を物笑いの種にしたいのですか?」
「…………お前の見目なら結婚を諦める事も無いだろう」
「コホン、お父様、今の間はいけませんわ。デリカシーの無いお父様の代わりに謝罪いたしますわシャルロッテ。ですがシャルロッテの美貌なら相手は幾らでもいると思いますわよ? 特に今ではもう更に若返って見えますもの」
「ありがとうございますビアンカお嬢様。ですが大抵の男は私に対して怯えたり下劣な視線を送ってくる様な輩ばかりなのですわ」
「ああ、確かに。――綺麗過ぎて冷たく見えるし胸の凶器がエゲツないですものね」
ビアンカはシャルロッテの胸に若干憎しみのこもった視線を送った。
「ならばその聖女様はどうだ? 平民だが能力はあるのだろう? 歳も近いし彼を守る事にもなる。君も心を許してるようじゃないか」
「流石に見た目が、――親子のようではないですか」
「「「ぶふっ!」」」
「はあ……、お父様? 準男爵もギルド長もですわよ?」
「すまん」「んん、失礼」「申し訳ない」
「ふふっ、……構いませんわ」
シャルロッテはアイリスを膝枕しながら頭を撫で、魔力で威圧をしながら冷たい笑みで答えた。――その姿に3人は背筋が凍る思いをしながら成る程、結婚は難しいかと納得してしまうのだった。
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