第022話 スイーツは神だった
「それにしても高い建物がいっぱいあったねー?」
「んっ」コクリ
「そうね、レンリート伯爵領だからかしら、工事中のも多かったけど」
ユミルとねぇねに挟まれていると、シャルロッテさんがナージャさんとミリアーナを連れてトレーに何かを乗せて持って来た。
「この街は今建て替えラッシュなのよ。建物を高層に切り替えれば街を広げなくても人口を増やせるでしょ?」
「アイリス様、夕飯まではまだ少しあるのでこちらをお召し上がり下さい」
「んっ」コクリ
様? ナージャさん女装を止めたからお嬢様から様呼びに変えたのかな?
「スイーツ? 何これ、見た事ないよ?」
「ドライフルーツの盛り合わせでございます」
「フルーツ~? 私果物って酸っぱいから嫌いー!」
「ドライフルーツは大変甘くなっているので大丈夫だと思いますよ?」
ユミルの言う事も分かる。俺も安さに釣られてたまに食べるけど酸っぱ過ぎるんだよな。でもナージャさんが今さら嘘をつくとも思えない。
色や形、大きさ不揃いの半透明の石ころのような物が小さめの皿に乗せられている。フォークが置かれていたので導かれるようにフォークを突き刺してみる。石ころみたいと思ったけど意外と柔かいのか。薄い黄色で半透明の石ころに見えるソレは白い粉が付いている。
ユミルも同じようにフォークで刺して此方を伺っている。けど他は誰も手に付けていないな。仕方がない、大人の男として先陣を切るしかないな。
『そんな大層な事かの?』
「「甘っ!!?」」
口に入れた瞬間、思わずユミルと声を合わせてしまった。ユミルも一緒に食べてたのか。でも美味しい! こんなの食べた事ない!!
白い粉がとてつもなく甘い! そして思わず噛み切ってしまったドライフルーツ本体も仄かな酸味と極悪な甘さがとてつもなく美味しい!!
「美味しいねママ! リリちゃん!」
「ん! ん!」コクコク
「そうね、こんな食べ物があるのね」
「ふふっ、この国ではかなりの高級品だけど、この伯爵領では庶民でも何とか手の届く値段にしてあるわね」
「んっ、おかわり」
「早っ! リリちゃん早いよ!?」
「これは神」
「小腹を満たす為ですからおかわりはありませんよアイリス様」
「っ!? ――絶望、……ご飯もこれが良い」
「あっ、私も私も!」
「これは摂り過ぎると体に良くありませんので駄目です」
「ええーーっ!?」
「……回復魔法で」
「そうだ! リリちゃんの回復魔法があったよ! これで食べ放題じゃん!?」
「そう言う訳にもいきません」
「だいじょぶ、食べられる」
何が大丈夫か分からないけどもっと食べたい。何とかナージャさんを説得しないと。
「2人共いい加減にしなさい! 駄目だってナージャさんが言ってるでしょ!!」
!!? ねぇねに怒られた?? ユミルと一緒に、あのねぇねに? 何時もリリちゃんリリちゃんって付いて来てた可愛いだけのあのねぇねに??
「はい、アイリスちゃんあーん」
「あーん、むく、んっ」
余りのショックに混乱していたらミリアーナが自分のドライフルーツを食べさせて来た。
「はい、ユミルちゃんもあーん」
「あーん、うへへ、美味しいー、ミリアーナさんありがとう」
「うふふ、美少女達の笑顔は甘味より良いわねー」
ミリアーナが何か言っているけどねぇねに怒られたショックが抜けない。涙目でお菓子の味を噛み締めるしか出来ないよ、モグモグ。
『まさに母親に怒られた姉妹じゃの』ボソッ
「それにしてもこのドライフルーツって本当に庶民が食べられる物なのですか? 砂糖も沢山使われているみたいですし、見た事のない食材も使われているみたいですし」
「安くはないですがこの伯爵領では調味料はそこまで高くはありません」
「そうね、そういった商品は商工ギルドではどの国でも殆ど変わらない卸値になっているのよ」
「えっ? でもそれじゃ儲からないんじゃ?」
「それでも利益は出てるのよ? それにそれを目当てに多くの人が商工ギルドに入ってくれたわ」
実はドライフルーツにはさほど砂糖は使われていないのだが、ナージャ達もそこまで詳しくは無かったのでそんな勘違いが起きてしまっていた。
ねぇねは宿屋をやっていたからかお店で働く事に興味があるみたいでシャルロッテさんナージャさんが答えてる。にしても詳しいなシャルロッテさん、傭兵ギルドと商工ギルドは関係が深いんだろうけど相変わらず謎が多い人だ。
「ライハルト子爵領では駄目だったんですか?」
「あそこはまだ商業ギルドも神聖教会も勢力が強いし、領主もそちら側ですからね」
その後夕飯まで時間があるって事で傭兵ギルドの屋上じゃなく裏手の鍛練場で思いっきり体を動かした。ずっと軟禁状態だったストレスをようやく発散出来たのだ。
まあ模擬戦では相変わらずミリアーナにボコボコにされたけど。ナージャさんやヴェルンさんとも手合わせして貰ったけど全く敵わなかったな。
『それでも技量は上がっておるのじゃ。無属性魔法の身体強化魔法や念動魔法も近いうちに使えるようになるじゃろ』
延々と馬車の中で使い続けたからなあ。魔力を回復させては鍛練、回復させては鍛練の繰り返しでキツかった。
『魔法の扱いをリリィのお陰で知れるのじゃぞ? 普通は才があっても人から見て聞いて覚えるから正解を見つけるまで時間が掛かるのじゃ』
まあ確かに正解は見えてるよ。でもなあ、レイク達は元から身体強化魔法は使えてるしミリアーナも簡単に使い熟し初めてるし、俺ってよっぽど才能無いんだなあ。
『ミリアーナは元々下地があったのじゃ。お主の場合その下地作りを今現在しているのじゃ。まだリリィを所有してひと月も経っておらんのじゃぞ? 焦る事は無いのじゃ』
ああそっか、まだ1ヶ月経ってないのか。それにしても最近は身体を動かせなかったけどあんま体力落ちてなかった気がするな。
『リリィの調整のおかげなのじゃ』えっへん
って事は鍛えなくても体は強くなっていくって事か?
『それでは微々たるものになるじゃろな。鍛えながら調整を受けた方が効率が良いのじゃ。その分魔法関係の調整に回せるしの』
「ああ〜、皆んな強ーい、リリちゃんには勝ちたかったよー」
ユミル、子供のお前にまで負けたら俺の立場がないんだよ? 意地でも勝たせて貰ったぞ。
鍛練すると言ったらユミルも混じって来たんだよな。でもユミルには戦って欲しくない。冒険者をやっていたって言ってもお手伝い系統だったらしいし、背も俺と同様低いし才能があるとは思えないしな。
ねぇねも心配してるんだし護身術を嗜む程度で満足してくれないかな?
「アイリスちゃんもユミルちゃんも、無理して戦う必要ないんじゃないかな?」
「なっ……っ」
そのミリアーナの言葉は俺の心を抉ってきた。俺は戦力としても見られて無かったのか。
「成る程、それでアイリスちゃんはふて寝してるのね?」
「シャルロッテさんは分かるの? 私なんでアイリスちゃんを泣かせたのか分からなくて」
――泣いてない。
『(頬を膨らませて涙ぐんで)アレを泣いて無いと言うなら何を泣いてると言うのじゃ?』
……良い大人があんな事で泣く訳ないもん。
『もんて、――まあ、お主がそれで良いのなら構わんがの』呆れ顔
「これでもギルド長をしてたからね。多分ミリアーナがアイリスちゃんを戦力として見てなかった事がショックだったんじゃないかしら? 今までの経験を否定されたと思ったのかも知れないわよ?」
ふて寝してる俺の横でミリアーナとシャルロッテさんが話してる。止めて貰えないかな?
でもシャルロッテさんの言う通りなんだよな。分かってくれた嬉しさから頭を撫でるシャルロッテさんの手を取ってニギニギしてしまう。
「……シャルロッテさんの言う通りみたいね。ごめんねアイリスちゃん。私からチーム組もうって誘っておいてあんな事言っちゃって」
「……良い」
男が何時までも引きずってるトコは見せられないからな。ご飯が運ばれて来たから席に着いて飯でも食おう。
「アイリスちゃん、アネモネさんと隣りが良かった?」
「ん、……我慢、する」
ミリアーナに聞かれて思わずシャルロッテさんの手をギュッと握り込んでしまった。けどねぇねもユミルがいるしな。胸を張って答えたぞ。
そう思ってたらねぇねの方からこっちに来た、俺に甘えに来たのかね? 仕方ないから俺からギュッと抱き締めてやった。奴隷にされたり街を離れる事になったり色々あって不安定になってるのかもな。全く幾つになっても仕方がない奴だ、エヘヘ。
『(むしろ傷付いた幼子をほっとけないと言う雰囲気なのじゃが、どうして此奴はこうなのじゃ?)』
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