第021話 チョロイン
レンリート伯爵領に入って、今は伯爵領の領都に向かう途中の街に来ている。そして俺は今すこぶる機嫌が良い。女装からほぼ解放された上に外に出れて体を動かせるからだ。
まあまだ事あるごとにレイク達の護衛が付くし、ほぼと言うのも男物の服を買えてないから女装続行中なんだけど。馬車では常にねぇねが隣りに座っているし、思わず童心に帰ってはしゃいでしまったが仕方の無い事だろう。
『ユミルと一緒に怒られておったのじゃ』呆れ顔
傭兵ギルドに向かう途中商工ギルド系列の奴隷商に行ってねぇねの隷属の首輪の書き換えた。隷属の首輪の服従の効果は絶大で弱める事は出来ない。けどねぇねの主人を俺からねぇね自身に切り替える事は出来るのだ。
「これでアネモネさんがたとえ自分で自分に死ねと言ったとしても、死ぬ気が無ければその本心を首輪が読み取って死ぬ事はないわ」
「はいシャルロッテ様。リリちゃん、ありがとう」
「んっ」コクリ
うむうむ、交渉の結果ねぇねに昔みたいにリリちゃんと呼ばれる事になったんだ。初めはリリお兄ちゃんと呼んで貰おうかと思ったんだけど何故か頑なに拒否されてしまったのだ。
『何故か??』
ちなみに俺はネネちゃんとは呼ばない。恥ずかしいからな。
『(ねぇねのほうが姉を呼ぶ弟? みたいなのじゃがの。妹の方からそう呼ばせたようじゃし確信犯じゃろな)』
しかしシャルロッテさんはそう言うけど、それで首輪の効果を失っていると言って良いのかな?
『それで死ぬようなら首輪が無くとも自殺しとるのじゃ。精々そんな気持ちにさせぬよう気をつけるのじゃな』
「あーあ、エッチな命令出来なくなっちゃったねアイリスちゃん」
「「ぶふっ!?」」
「えっ? ママに何する気だったの? リリちゃん、妹なんだよね?」
ミリアーナの発言に俺とねぇねが吹き出した。
人聞き悪いな、ユミルが信じられないって顔で見てくるけど悪ノリしてるだけだろ、目も口も笑ってるんだよ? ユミルもミリアーナに毒され過ぎだ。
「ねぇね服、本当にいらない?」
いちいち相手にしてられないから話題を変えよう。ユミルは俺が持たされた女物の服をあげたんだ。ねぇねにもあげようとしたら拒否されたんだよな。俺が男物の服を買えたらいらなくなるのに。
「いや、流石にアレはちょっと恥ずかし過ぎるわよ」
「?? 恥ずかしい?」コテン
「だって10歳くらいの少女の、お嬢様向けって言うか。私ももうおばさんよ? そんなひらひらしたのとか、痛々し過ぎるでしょ?」
「……え? ………………俺……は……?」
おじさんなのに着させられてたんだけど?? ねぇねに目を逸らされた。うぐぐ、俺だって最初は抵抗あったのに。
『最初は?』
だって皆んなこんな服ばっか着させようとして怖かったんだよ! 自腹で買ってくるアホまでいたし! もう20日以上着てんだぞ!? いい加減慣れるわ!!
『割と最初から慣れとった気がするのじゃが?』
抵抗出来ないなら受け入れるしかないだろ!? そもそも俺の為の提案だったし、受け入れるのも男の度量と言うヤツなんだよ?
『絶対違うじゃろ』ボソッ
「でもアネモネさんもアイリスちゃんの美容魔法でかなり若返って見えるけどねえ?」
「ミリアーナさんの言う通り、若々しい服装を選ぶべきかと思います」
ミリアーナにナージャさんも同意する。ねぇねは33歳だったのが20歳過ぎくらいに見えているらしい。美容魔法と言われるのも分かるな。これからは普通の回復魔法と分けて扱われそうだ。
まあユミルも客観的に見てもかなりの美少女だし、ひらひらした服も良く似合ってるからな。ねぇねにも着て欲しかったけど服が無駄にならなくて良かった。
「えへへ、ありがとリリちゃん」
「んっ、……似合ってる」コクリ
仕方がないからねぇねの服を買っていく事にした。ユミルにあげた服はどれもそこそこ良いモノだ。ナージャさんがそれと釣り合う服を買ってはどうかと言ってきたのだ。
まあ親子だし俺も妹にそんな見窄らしい格好させたくないから賛成だ。通りの服屋で買って行く事にした。
「傭兵ギルドまではすぐ近くですので馬車は先に行かせましょう」
「そうね、お願いするわ」
何故かシャルロッテさんとナージャさんも一緒に店に入って来た。
「リリちゃん本当に良いの?」
「んっ、良いの」
ねぇねの服は奴隷堕ちした時に差し押させられて奴隷商で着させられた服しかないからな。ちなみに今はナージャさんの服を借りている、けどサイズが合ってないんだよな。
「あっ、傭兵として仕事するなら服ってどういうのが良いかな?」
「むむ」
傭兵とは言え戦うばかりじゃない。あんまり危険な事はさせられないしな。33歳から戦いを覚えていくなんて、ただでさえ体も小さい(アイリスよりは大きい)のに厳し過ぎるだろ。
「アネモネさんは宿屋をやっていたのでしょう? 商工ギルドに登録して商店の従業員でもやってみたらどうかしら」
「えっ? 戦わなくて良いんですか?」
「嫌じゃ無ければ適正のある職に就いた方が良いと思うけど、アイリスちゃんどうかしら?」
「ん」コクリ
傭兵ギルドなら俺が色々教えられると思ったけど、シャルロッテさんの紹介ならそっちの方が安全か。
「私が紹介しても良いわ。なんならユミルちゃんも一緒に働けるようにしても良いし」
「本当!? ママと一緒に働けるの?」
「ええ、それなりに伝手はあるのよ」
シャルロッテさんの伝手って凄そうだけど、シャルロッテさんなら良い所を紹介してくれるだろう。ユミルも一緒に2人共戦わない仕事に就けるんなら良い事だ。
「リリちゃんも一緒に働こうよ!?」
「……無理」
今さら客商売なんか出来ないよ。駄々をこねるユミルを宥めてねぇねにお店で働けるような服を選んで貰って買っていった。ねぇねが俺に客商売なんて出来る筈が無いと言ってユミルを納得させたのは俺が納得いかないけど。
『寧ろ納得しか無いのじゃが?』
ねぇねの服や下着を何着か買ったけど、この店は商工ギルド系列で品質が良いのに安かった。散財を覚悟してたけど20万イェンいかなかった。子爵領だったら70万イェン全額でも足りなかったかもしれない。
「ふふっ、そうですね。此処はもうレンリート伯爵領、商業ギルドに遠慮せずに値付け出来るから安くて品質も良いのですよ?」
ナージャさんはそう言いながら俺に次々色んな服を当ててくる。全部女児服なんだけど? 買わないぞ? 買ってくれるとしてもいらないぞ? 何とか着せ替え人形にされるのを機転を効かせて回避して傭兵ギルドに向かった。
『アレを機転を効かしたとぬかすか(子供のようにお腹が空いたと駄々を捏ねただけじゃろ)』
傭兵ギルドに入ったら相変わらずの職員用仮眠室に入れられた。
ねぇねはまだ首輪が付いている状態だけど借金が無くなって首輪の効果も問題無くなったからか笑顔が柔らかくなった気がする。
「後は3年経ったらママは奴隷から解放されるんだよね? 借金も無くなったし良かったね、ママ!」
「うん、リリちゃんのお陰よ」
「あっ」
「えっ? どうしたのリリちゃん」
「ねぇねの主人、――ユミルに」
した方が良かったんじゃないかな? 隷属の首輪の主人はねぇねにしたけど書類上はまだ俺が主人だからな。
「ん〜、そう? リリちゃんでも対して変わらないでしょ」
「リリちゃん、気持ちは嬉しいけど家族は軽犯罪奴隷を買う事は出来ないのよ?」
「えっ? リリちゃんだって家族でしょ? それじゃ買えない筈じゃないの?」
「アイリスちゃんはリリスの名前で買ったし今のアイリス名義も伯爵領で生まれた別人って事になってるから」
ねぇねの言葉にユミルが疑問を口にしてシャルロッテさんが答えた。
そうなんだよ、俺は神聖教会から逃れる為に戸籍上は家族では無くなっているんだよな。それはそれでショックだったけど受け入れるしかなかった。
「だから大丈夫よ。リリちゃんの事は信じてるから」
「えっ、えへへ」
ねぇねが信じてるって頭を撫でて来たよ。
(((チョロいな)))
ブックマークや何らかの評価を頂けると励みになるので大変嬉しいです。
これからも宜しくお願い致します。




