第020話 レンリート伯爵領へ
傭兵ギルドを出ると騎士団が何十人もいた。一緒に行くらしい。何か良く分からないけどこれなら安心だな。
「アネモネ、助けてやれなくて悪かったな」
「ううん、ランディ兄さんには凄く助けられたよ。ユミルが奴隷になってたらと思うと本当に……」
「うん! ランディ叔父さんありがとう!」
ねぇねとユミルがランディ兄さんとの別れを惜しんでいる。俺はさっさと馬車に乗り込んだ。
中にはナージャさんがいた。今日はヴェルンさんが御者か。
「ナージャさん、……隣り、座る」
「はい、どうぞお座り下さいリリスお嬢様」
ナージャさんのお嬢様呼びをスルーして隣りに座ると当然のようにミリアーナも俺の隣りに座ってくる。
「お嬢様、今日はまるでお姫様のようですね」
「そうでしょ? リリスちゃんは今日で最後だから私とユミルちゃんで張り切ってやっちゃったのよね。途中でアネモネさんも参加して来たし」
「それは楽しそうですね。私も参加したかったです」
「ならリリスちゃんに頼むしかないわね」
「ええ、お願いしますねリリスお嬢様。お嬢様のお世話をする事は侍女冥利に尽きますから」
いやこの格好これで最後だよね? 必要ないのにしないよ??
ナージャさんは御者として来てるけど本職は侍女だからか意外と世話焼きだ。ここ数日一緒に生活して大分打ち解けてきたけどかなり愉快な性格をしている。
茶髪茶目に切長の目、凛とした雰囲気があって近寄りがたいと思っていたのに、何故か俺をお嬢様と呼んで過剰にお世話をしたがるのだ。
「もうー、リリちゃん何で先に馬車に乗っちゃうのよ!?」
「そうだぞ、俺とは次いつ会えるか分からないのに、挨拶もしないなんてどう言う事だ?」
ユミルとラン兄が馬車に乗り込んで文句を言ってきた。何故かねぇねとユミルは困った子扱いで見てくる。
「3人の最後の挨拶に割り込めなかったのでしょう? 寂しそうに見てましたよ?」
ナージャさん何言ってんの!?
「……そうか、悪かったな」
頭撫でんなラン兄。
「ごめんね、リリちゃん」
抱き付くなユミル。そしてその慈愛に満ちた眼差しは何なのねぇね?
「良かったですね、リリスお嬢様」
ナージャさん……ハンカチで目頭を押さえて、アンタは悪ノリしてるだけだろ。
ラン兄と最後の挨拶をして馬車は走り出した。前後に騎士団が付いて何か貴族、王族の行進みたいだな。こんな状態の集団に襲ってくる馬鹿がいる訳もなくスムーズに領界まで来た。
サージェスは此処までか。
「なんとか無事に此処まで来れましたねシャルロッテ様」
「ええ、ご苦労様。貴方達には随分助けられたわ」
「ハハハ……、まあ流石に暫くは休みたいですよ」
?? スムーズに来たよな? 首を捻っているとサージェスが苦虫を噛み潰したような顔をしてる。
「……何?」コテリ
「――いや、何でもない」
シャルロッテさんとミリアーナもナージャさんまで何か俺を優しそうな目で見てくる、――何で??
『…………』
「アイリス、ミリアーナ、レイク達も、じゃあな」
「んっ」「ええ、また縁があったらね」「ああ、じゃあな」
皆んなに挨拶した後で軽く手だけ振ってサージェス達は去って行った。
「ぷはぁっ、ああーうめえっ! やっと気兼ねなく酒が飲めるぜ!!」
サージェス達はアイリス達と別れタージレンの街まで戻り酒場で祝杯をあげていた。
「流石に今回のは堪えたぜ」
「ああ、地元に戻ったらひと月くらい休みたいな」
「スタンピードからまともに酒も飲めなかったからなぁ。濃い1ヶ月だったよ」
「お前等はまだマシだ。俺なんかシャルロッテ様に目ぇ付けられて胃に穴が空きそうだったんだぞ?」
「ぶははははっ、そりゃそうだ! あの女おっかねえからなぁ!!」
全然笑えねえ。はあ、これで完全に切れてりゃ良いんだけどどうなんだろうなぁ。
「しっかしアイリスの奴、こっちの苦労も知らずにのほほんとしやがって。――あれ、本当に気付いてないと思うか?」
「うーん、町や街で何度も教会に襲撃受けたけど、アイリスは目にしてないからな」
「盗賊に化けた教会の暗部はヤバかったな。レイク達がいなかったら詰んでたかもしれん」
「ああ、久しぶりに死を予感したぜ」
「俺はシャルロッテ様と対面してて慣れてたけどな」
「「ぶふうっ!!」」
「笑わすんじゃねえよサージェス! ああもう、酒がもったいねえじゃねえか!!」
「ったく、服が濡れちまったよ」
「まあ、……アイリスは天然だろ? あんだけのハーレム状態でぐうぐう寝てられるんだから」
「ううん、――羨ましいけど俺じゃ我慢出来ねえな。生殺しじゃねえか」
「女装させられるしな」
「くくっ、それな」
「お前等にはさせねえだろ」
「「ぶふうっ!」ごはっ、ゴホッゴホッ、だから笑わすなって言ってんだろサージェス!」
「はあ、まあ天然なのは認めるけどよ。20年近くソロで冒険者、傭兵をやって来た奴だぞ? 何も気付かないってあるか?」
「ソロだからこそだろ? ソロでも安全な仕事しかして来なかったら得られる情報も経験も限られるだろうからな」
「確かに、それ以外の知識は素人同然って事か」
「ったく気楽なもんだぜ。アイツにしてみりゃただの旅かよ」
実際には乗り心地の悪い馬車から外に出られず、碌に身体も動かせなかった上に、馬を含めて皆んなに回復魔法を掛けさせられてストレスが溜まりまくっていたのだがサージェス達は気付いていなかった。
「しっかし、……可愛かったよな? アイリス」
「おまっ、敢えて皆んな口にしないようにしてたのに言うんじゃねえよ!」
「まあ女装したら誰も男と思わんだろ。しかしむしろアレで年上と言う方が信じられん」
「グリースト達じゃねえが、もう少し大人っぽかったら俺ヤバかったかも」
「……もう言うな、皆んな分かってるから」
「あれじゃ少女だろ。それにあの回復魔法、聖女と言われるのも分かるわ」
「ああ、確かにあの回復魔法は凄かったな」
「……あんなモン抱えてたらこれからも騒動に巻き込まれるだろうな」
「「「………………」」」
「まあでもシャルロッテ様やレイク達が何とかするだろ。レンリート伯爵家に囲われるかも知れんしな」
「んんー、レイク達はどうかな。シャルロッテ様に雇われただけで部下って訳じゃないだろ」
「……そうだな、まあどっちにしても俺等の手からは無事離れたんだ。それで良いじゃねえか」
「だな、乾杯しようぜ乾杯」
「ったくまたかよ。そんじゃ俺等の解放と奴等の無事を願って、乾杯!」
「「乾杯!」」
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