第011話 幕間 眠り姫の外野で
「それで聖女は何処にいる?」
「さあ? 知らないわね。それより私や聖女様の事を傭兵に調べさせているみたいじゃない」
「……何の事かな」
ギルド長室で私はナージャとヴェルンを引き連れて此処のギルド長、副ギルド長と話している。この街の長は男爵家の3男で神聖教会と強い繋がりがある。まあこのライハルト子爵領では珍しくもないけど。
そしてこの目の前の男も神聖教会派、と言うよりは権力欲が強くてそっちに取り込まれた口だ。
「理由は何かしら? レンリート伯爵に喧嘩を売るような真似するなんて」
「知らんと言っている」
「それにしても何故此処は3階建てなのかしらね?」
「……それで充分だからだ。わざわざ神聖教会にケンカを売る真似をする事もないだろ」
「規格に合わない豪華な部屋があったのは? それも私的に利用されているようだけど」
「チッ、……必要だからだ。さっきから何が言いたい!」
大分イラついてるわね。でもそれは寧ろ私の方なのよね。コイツの首を差し替えて此処の建て直しも考えないといけないし、どれだけ費用が掛かるか。
コイツの財産を差し押さえても全然足りないし実家の男爵家にも取り立てないとイケないじゃない。――面倒ね。
「かと思えば傭兵や一般職員用の物は安物で済ませているようだし、貴方の権限で出来る事じゃないでしょう。何の為に規格を決めてあると思っているのかしら?」
「節約出来る所を節約しただけだ。それに此処はライハルト子爵領だ。レンリート伯爵の顔色を伺う必要はないだろ」
あるに決まっている。この国の傭兵ギルドはレンリート伯爵家の支援ありきの組織なのだから。
「それはレンリート伯爵から査察を入れて貰うからそこで釈明して頂戴」
「そんなもの必要ない! 査察ならきちんと受けている」
「貴方の意見は聞いてないわ。子爵領の査察じゃ足りないようだからね。これはもう決めた事よ」
ドンッ! 「必要無いと言っている!!」
机を叩いて此方に凄んで来た。よっぽど知られたくない事があるようね。
「レンリート伯爵がそう判断すれば無くなるでしょうね?」
「そもそも、伯爵に、話す必要が無いと言っているんだ!」
「貴方が判断する事じゃないわ」
「……どうしても話すつもりか?」
「ふふっ、此処で話さないと言って貴方は信じるの?」
「そう……、だな」
「サージェスが来ました」
「入れろ」
「はっ」
俺は傭兵ギルドに行ってからシャルロッテ様の依頼で宿の一室である人物と会っていた。
「此方がシャルロッテ様からの手紙です」
「うむ」
手前に居た人物が手紙を受け取り封を開け、中身を確認して奥の人物に手渡した。
「……確かに、シャルロッテ嬢はこの街まで巫女様をお連れ出来たようだな」
巫女? ……いやまあ女じゃないんだけどな。大丈夫か? いや、流石に分かってるか。虚偽の報告受けてる訳無いもんな。
しかしシャルロッテ嬢ねえ、こいつも貴族家出身か? ったくシャルロッテ様と関わってから胃の痛くなるような相手ばかりさせられるぜ。
ドカドカドカ!!
廊下から走って来る音が聞こえる。思わず廊下に向いて短槍に手を置いて警戒した。
「ドルファン様! マーカスです。通します」
「ドルファン様っ、教会が動きました! 100人程が傭兵ギルドに向かってます」
「よし、装備を整えてすぐに向かうぞ!」
「「「はっ!」」」
マジかマジかマジかよー!!
「すみません。俺はコレで、すぐに仲間と傭兵ギルドに向かいたいです」
「うむ、ご苦労!」
宿屋を出て傭兵ギルドに向かう途中仲間と合流した。
「サージェス! 冒険者も動いたぞ!!」
「この街の傭兵も敵に回りかねん! マズイぞ!!」
「クソッ、最悪だ! 兎に角傭兵ギルドに向かうぞ!!」
「「おうっ!」」
畜生、コレで金払いが悪ければとっくに逃げ出してるのに、何で金払いが良いんだよ傭兵ギルドは!!
傭兵ギルド2階の一室、ミリアーナとアイリスのいる部屋にレイクからノックがあった。部屋を出るとピリピリと張り詰めたような空気を感じた。良くない事が起きていそうね。
「何よぉ、人がお楽しみの最中に……」
「ミリアーナ。教会が冒険者を巻き込んで此方に向かっているそうです」
「っ……で? どうするの? 逃げる?」
「逃げ道はありません、迎え討ちます」
「簡単に言ってくれるわね。此処の傭兵だって味方とは言えないんでしょ?」
「そうですね、籠城戦となれば勝ち目はないでしょう。なんとかシャルロッテ様と合流しなければなりません。今はサージェス達も居ませんし」
「で? 結局私達は此処でその籠城をするって事?」
「はい、下手に動くとシャルロッテ様に迷惑が掛かると思いますので」
確かに、街に入った時点でサージェスからある程度状況を聞いてるし、シャルロッテさんならこの状況も想定してそうよね。
「それで、リリスさんは?」
「寝てるわよ。あの子馬車でも良く寝てるし、今日も多分しばらく起きないわよ? 起こした方が良いかしら?」
「いえ、戦力に加えて間違いがあっては困ります。万が一此処を破られても寝ている子供をわざわざ傷つけるような真似はしないでしょう」
「そうね、賛成。リリスちゃん弱くはないけど強くもないしね」
アイリスが良く寝てるのは無属性魔法の鍛練で消費した魔力を精霊剣リリィに回復させる為なのだが、リリィの事を秘密にしてるので良く寝る子供扱いになってるのをアイリスはまだ気付いていなかった。
――当然リリィは気付いて黙っているのだが。
白い制服で帯剣した神兵を引き連れ、白い神官服にゴテゴテした装飾品を大量に身に付けた太った神官がレイク達の前までやって来た。狭い廊下に20人程集まり、後は階段と1階ロビーに80人程、その神兵達を遠巻きに傭兵達が見ている。
アイリスの部屋の前にはミリアーナとトマソンが、その先でレイクとリックが廊下を塞いでいる。
「サージェス達は間に合わなかったようね」
「ああ」
冒険者も傭兵も教会には良いイメージは無いハズなんだけど、金で簡単に釣られるものかしら?
「でもどうするの? 下手に抵抗すれば街ぐるみで異端者扱いされるわよ?」
「シャルロッテ様からはリリスさんを守る為なら構わないと言われている」
「それって、神聖教会は国際的な組織よ? 国だって容易に逆らえないのにシャルロッテさんにどうこう出来るとは思えないんだけど?」
「どうせ俺達は元孤児だ。何処へだって逃げられる。教会の横暴にはムカついてたからな、憂さ晴らし出来るなら丁度いい」
「本気、みたいね」
レイクはその端正な顔立ちから普段は見せない凶暴な笑みを浮かべた。
「ふふふ、逃亡するならこの街まで辿り着くかも知れないと網を張っていて正解だったな。さあ、聖女様を渡しなさい。これは神意ですよ」
着飾ったデブ神官が何か言っている。
何が神意だか、虫唾が走るわ。コイツ等の手前勝手な神意とやらにどれだけの人が血と涙を流したのか。目を付けられれば攫われ嬲られ殺される。外道の集団でしょうが。
レイクとリックが剣を抜いて臨戦態勢に入ると隣りのトマソンも槍を構え好戦的な笑みを浮かべていた。
覚悟が決まっている、と言うより暴れたくて堪らないようね。
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