第010話 領界の街タージレン
翌日町を出てすぐに馬車を貴族が乗るような立派な物に乗り換えた。上の方に何かの紋章があるし普通の箱馬車より一回り高くて長い白い箱馬車だ。目立ってるけど町の出入りはほぼフリーパス出来るそう。
一昨日初めて乗ったけど馬車の揺れって酷過ぎ、ミリアーナやシャルロッテさんは何故か平気そうなのに俺はダメだ、お尻が壊れるんだよ?
2人が言うにはこの馬車は揺れが少ない方らしい、確かに実家に帰る時に乗った馬車はもっと酷かったけど。
でもこの馬車でも道が悪いからこれ以上はどうしようもないそうだ。女2人が平気そうなのに泣き言言うのは情け無いから隠れて回復魔法で誤魔化していたのにすぐバレてしまった。
「そりゃさっきまで辛そうに顔を青くしてたのにニコニコしてたら分かるわよ。それよりも自分だけ楽になるなんてズルくないかなぁ? ねえシャルロッテさん?」
「そうね、出来るならお願いしたいかしら?」
「そうそう、お触りしても良いからお願いね? リリスちゃん」
「ちょっと何言ってんのよミリアーナ。私はそんな事っ――」
「良いじゃない別に。減るもんじゃなし」
結局2人に加え御者をしていたナージャさんにも回復魔法を掛ける事になった。ヴェルンさんには要らないと言われたけど、女性陣も平気そうだったのに本当に必要だったのかな? あと勿論お触りもスルーした。
しかしその後、シャルロッテさんに馬にも出来ないかと言われて馬にも回復魔法を掛ける事になってしまったのだ。馬の為の休憩日を設けなくて良くなって予定より早く進む事になったけど、時間を掛けられないから外魔力循環と回復魔法の同時使用で地獄を見る事になった。
『即堕ちじゃったの。まさかキラキラした笑顔で馬にハグしてキスして周るとは思わんかったぞ』
――言うな、回復魔法が気持ち良いのか知らんけど、やたらとじゃれつかれて、ちょっと愛らしいと思ったらどうにも止まらなかったんだよ。でも女性陣にハグやキスしなくて良かった。……正気に戻ったらお前を手放しそうになったけど。
『――それは無理ではないかの?』
回復魔法の使い手として知られてしまったからなぁ。
寝る時は馬車の中をベッドに組み替えて寝てるけど、何故か2日目からミリアーナが仕切られた端で寝かされ俺はナージャさんシャルロッテさんに挟まれて寝る事になった。
俺とミリアーナ、普通逆じゃない?
「ちょっとこの扱い酷くない? ナージャはメイドなんだからリリスちゃんだけじゃなく私にも奉仕するべきだと思うんだけど?」
「正確には侍女です。リリスお嬢様のお世話は仰せ使っておりますが貴女のお世話はその範疇にありません」
「何よぉ、ちょっとお触りしただけじゃない。女同士のたわいないスキンシップでしょ?」
「あっ、アレは唯のセクハラです! 断じてスキンシップ等ではありません!!」
ナージャさんが真っ赤な顔して怒ってる。何をしたんだミリアーナの奴、俺が知らないって事は寝てる間の事だろうけど、女同士の事に男が関わる事じゃないか。
それからリリィに言われて魔法の練習をしたりナージャさんにリーフを習ったりしながら4日掛けて3つの町を経て大きな街に向かっている。
「ふふっ、リリスお嬢様のお手ては小さくて可愛らしいですね」
ナージャさんは一見無愛想な感じだったけど楽器を教わっている所為か打ち解けて来たようだ。でもお手てって。
その間だけど盗賊に2度遭ったらしい。と言っても見るからに貴族の馬車と分かるモノを襲って来るアホはいない。商人が襲われている所に出くわして蹴散らしたらしいのだ。
俺は見てないしシャルロッテさんが指示してレイク達が瞬殺したくらいしか聞いてない。
聞いても知らなくて良い事ですよ、と笑顔で言われて教えて貰えなかった。また女扱いしてるだろと思ったけど確かに今はリリスの格好してるから文句は言えなかった。そういう役を演じてる訳だからな。
今持ってるギルドカードはアイリスとリリスので2枚ある。ギルドカードには容姿の特徴が書かれていてアイリスの方は聖女の容姿だから使えない。だから身分証としてはリリスのカードを使うしか無いと言われている。
魔法は魔力循環と無属性魔法の鍛錬をしている。無属性魔法と言うのは自然現象以外の現象を起こす魔法、らしい。
『無属性魔法とは身体の内外で魔力をそのまま形にする魔法なのじゃ。属性に変換しないから発動は早いし色々出来て有用なのじゃぞ?』
と言う事らしいけど魔力消費が大きいと言うマイナス面もある。魔力は属性を持つ事で自然の力を利用出来るからだ。今は石ころを魔力を伸ばして覆って動かす練習をしている。
『魔力が底をついたの。ほれ、もう寝るのじゃ。外魔力循環して魔力を回復するのじゃ』
馬車の中で出来る鍛練だからやってるけど効率が悪過ぎる。どうりで知られていない魔法な訳だ。
『簡単に習得出来る技術ではないしの。じゃが習得すればいざと言う時に活きるのじゃ。瞬時に不可視の魔力を飛ばして殴ったり盾を創ったりの』
そうやって仮眠をとって魔力回復させてはナージャさんにリーフの練習を教わったり魔力循環と無属性魔法の鍛練を続けていった。
「リリスお嬢様、大分指が動くようになって来ましたね。お上手ですよ」
「んっ」コクリ
リーフだけど簡単な曲なら2曲弾けるようになったぞ? どうやら才能があるらしくて過剰な程褒められるのだ。うん、気分が良い。えへへ。
『甘やかされとるのじゃ』ボソッ
ただ起きたら膝枕されていたり子供扱いされてる気がするのだ。そんな馬鹿なと思うけど今もリーフの練習で膝に乗せられて教えられてるしな。
まあそれは良いんだけど抱っこされると眠くなるんだよなぁ。そのお陰で魔法もリーフの練習も続かないのに、言ってもナージャさんが止めてくれないのだ……すやぁ。
『そう言う所じゃぞ』
「おお〜、見えた見えた! あれがタージレンの街かぁ。流石に大きいわねー、ほら見てよアイリスちゃん!」
「んんぅ~、むにゃ……大きい」
眠気を抑えて前方を見ると確かに大きい街が見えた。確か2万人くらいの街だっけ? 今までの町の4倍か、そりゃ大きいよな。今までの町では上半分は木の壁だったけどレンガのみで出来た4m程の壁で覆われた街は頑丈そうに見える。
「この街が領界の町なんでしょ? 伯爵領って栄えてるって言うし楽しみよねえ?」
ミリアーナがはしゃいでいる。……と言うより馬車での移動に飽きたんだろうな。俺もいい加減体を動かせないストレスと回復要員としてリリィの魔力に侵され続けていて可笑しくなりそうだったしぐっすり休みたい。
『何時もぐっすり寝とるじゃろ』ボソッ
門を通った所で見知った顔が馬車を止めてそのまま乗り込んで来た。
「サージェス、何かあったのかしら」
「ああ、て言うか此処の傭兵ギルドはどうなってんだよ。どう考えても教会寄りで非協力的だぞ」
「……ふう、そうなのよね。伯爵領に1番近い街なんだから力を入れたいところなんだけど、ギルド長が教会側だから使えないのよ」
「シャルロッテ様がこの街に入った事はすぐに傭兵ギルドから教会にも伝わるだろうな。アイ……、リリスだけでもコッチに引き取って宿でも取るか?」
「それはバレた時のリスクが高過ぎるわね。かと言って全員で宿を取るのも勘繰られるし、結局ギルドに泊まれるよう交渉するしかないわね」
「俺等はどうします? これまで通り宿を取ってますけど、街に辿り着いて終わりって状況じゃないでしょう?」
「ええ、そうね。そのまま情報収集をお願いするわ。ああ、その前に一度傭兵ギルドに来て頂戴」
「了解です」
今までは傭兵ギルドの鍛練場に馬車を入れてそのまま中に入ったけど今回は普通に馬車場に入れてから入り口から入る事になった。
何時ものようにミリアーナと職員用の仮眠室に入ってベッドに倒れ込んだ。シャルロッテさんは偉いさんと話しでもしに行ったんだろう。その内戻って来るかな。
「はあ、何処の部屋も変わり映えしないわね。流石に飽きてきたわ」
「ベッド、……固い……」
今までの町では殆ど5階建てだったし、小さめの町でも4階建てなのにこの街は大きいのに何故か3階建て。何よりベッドも寝辛い。何で人口の多い街の傭兵ギルドが安っぽくなるんだよ。自腹で良いから良い宿に泊まりたいぞ。
「………………すぅ……」
「………寝ちゃったみたい」
リリスちゃん大分ストレスが溜まってるみたいね。私は馬車移動は慣れてるし泊まり掛けの仕事も何度もしてたけど、リリスちゃんはずっとソロだったからねえ。
「流石に寝てる子を悪戯するのはダメかしらね?」
「駄目に決まっています」
「そんなに怖い顔しないでよナージャ。て言うか貴女は子供好きでしょ? リリスちゃんは大人、守備範囲外じゃないの?」
「くっ、……確かにそうなのですが見た目と言動が幼過ぎてガリガリと私の精神に入り込んで来るのです!」
「――貴女も業が深いわねえ」
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