第004話 幼子じゃない!
「お代はどうしたら良いでしょうか」
「ん」
「寝食と、1日2銀貨……です、かな?」
「ん」コクコク
指2本で通じた。ふっ、簡単な仕事だな。
『いやそう思うなら普通に話さんか』
そんな難しい事出来る訳がないだろ。無茶苦茶言うなコイツは。
『――ええ……』ドン引き
村長は難しい顔をしているがコレは良心的な値段だ。町の1日の平均収入の3倍程度だから命の掛かる仕事としては安い方だろう。それが分かってるから村長も値切って来ないんだろうしな。
結局村長は飲んだ、兵士や冒険者が来たら俺は追い返されてタダ働きになってしまうからな。ただ傭兵ギルドが来た場合はギルドがお金を出す可能性が高いからお金は掛からなくなる事も伝えた。2重に金を取ると評価が下がるんだよな。
村長はホッとした顔をしている。こう言う場合弱みにつけ込む奴も多いからな。
「傭兵……傭兵ギルドが来た場合、……だよ?」
一応念を押しておく。タダ働きはゴメンだからな。
「はっ、はい。分かりました」
更に念の為ギルドタグを渡した。そのマークが看板になってる所が傭兵ギルドだ。町の人間も冒険者ギルドと混同してる奴が多いから信用出来ないんだよな。まあしっかりした奴に任せるように言っておいたから大丈夫だろ。
村長はぺこぺこしながら走って家を出て行った、ご飯を出す前に。
面倒だけどこう言うのでコツコツとギルドの評判を上げるとギルドの俺への評価も高くなって美味しい仕事が回されたりするんだ。まあ俺の場合それ以前にランクが低過ぎて関係無いんだけど。
それよりも何よりもマジで体がキツい。町に戻るより此処で休みたい。今はゴブリンの事も気になるけど兎に角寝たい。
それにしても剣の変化に何も言わなかったな。お前何かしたのか?
『いや、アヤツ我をジロジロ見ておったぞ? お主の機嫌を損ねたくなくて触れなかったのじゃろう』
そうか、それならこのまま押し通すかな。て言うか本当にお前の姿も見えてなかったみたいだな。
『当然なのじゃ。精霊を見える存在など殆どいないのじゃ。お主は我の使い手だから特別なのじゃ』
その後戻って来た村長に朝食を忘れた事を謝られた。そこまで気を使われると逆に面倒臭い。しかし剣も細剣になって軽くなってるし、慣れる為にも体調が戻ったら素振りでもしておかないとな。
『うむ、今度は体調を考えて調整するのじゃ、安心して休むが良いぞ』
んじゃ寝ておこうかな? 寝るだけで良くなるなら危険も無いだろうし文句はない。
一眠りして起きたらかなり頭がスッキリした。体も軽い気がするな。何かあったら精霊剣が起こしてくれるって安心感があるから久しぶりにちゃんと眠れたんだろう。町じゃ安心して寝る事なんて出来なかったからな、20年振りくらいかな? こんなに眠れたのは。
もっと寝たい所だけど食べてすぐ寝たのにまたお腹が減ってる……結構寝たのかな? 腹を摩りながら部屋を出るけど誰も居ない。
顔を隠したいけど勝手に帽子を借りたりは出来ないし、仕方ないか。剣を布で巻いて持って家を出る。人の声のする方に歩いて行くと村長がいた。お爺さんと話しているな、何か皆んな仕事してる中で食事とか頼み辛いな。
「おお、アイリスさん。どうしました?」
「…………えと、……」
「ああ、そうですな。晩御飯までまだ少し掛かりますし芋くらいなら出せますが?」
「んっ、……お金」
「いえいえ、少しくらいなら問題ないですよ。今お茶も出させますので待っていて下さい」
『……口下手が過ぎるのじゃ。お腹を摩りながら俯いて口籠ってしまうって何なのじゃ』
呆れたように言う精霊剣を聞き流す。気が利くな村長、男だけど好感度が上がったぞ。
『その村長に微笑ましそうに見られておったのじゃ。まるで幼子を見るようじゃったぞ?』
誰が幼子だ。村長、好感度が下がったぞ。
近くのベンチに座って芋とお茶を頂く。子供が物欲しそうに見てるが無視だ。それよりも何か目が良くなってる?
『やっと気付いたのか。危うくスルーされるかと思ったぞ。目は戦いにおいて重要な器官じゃからな。優先的に治しておいたのじゃ』えっへん
「お、おお」
良く見える。俺は食べるのも忘れて呆然と目に見える景色に囚われてしまった。その後暫くして我にかえり小腹を満たしてからもう一度寝る事にした。
『いやいや、待て待て待つのじゃ! 剣の鍛練をするのじゃ! 何をまた寝ようとしとるんじゃ!』うがぁーっ!
だって寝るの気持ち良いんだもん。――て思ってたらギャーギャー言われて五月蝿くて眠れそうに無い。
仕方がないな。近くにゴブリンもいたし備える為にもこの細剣に慣れておく事にするか。辺りを見渡し柵の前に丁度いい空き地があったからそこで剣を振る事にする。
『自分の為じゃろうが全く……』ぶつぶつ
プンプンしてる精霊剣を流して剣を振り始める、と……軽い。確かにこの細剣は合ってるかもしれない。ビュンビュンと縦横無尽に細剣を振っていく。
『なんて酷い、まるで幼子が木の棒で遊んでいるようなのじゃ』
おまっ、ねぇねの姿で何て事言うんだよ!?
『自己流にも程があるじゃろ。基本くらいは抑えておかんか』呆れ顔
その後も剣にガミガミ言われながら剣を振り続けた。体が軽いしキレも良い。たっぷり寝て疲れも取れたのも良かったのか気持ちの良い汗を流せた。
『それもあるが我の調整が効いておるのじゃ。今回は目を重点的に体幹も少々整えたがそれでも最適の状態には程遠い。今後は2・3ヶ月掛けてゆっくり調整していくのじゃ』
って言う事はまだまだ体調が良くなるって事か、年甲斐もなくちょっとワクワクしてしまうな。
『うむ、我に任せておけば一流の使い手にしてやるのじゃ』ふふん
はっ、出来れば20年前に会いたかったな。
『ふっふっ、その言葉は嬉しいのじゃ』
っ……目が良くなってテンションが上がって変な事考えてしまった。妄言だ、忘れろ。
『何、お主の本音であるのは伝わっておるのじゃぞ?それから感謝もの?』
ここに来て心を読まれる弊害が。まあ所詮剣相手だし良いか。その後雑念を振り払うように汗だくになるまで剣を振っていった。
「アイリスさん。ご飯の用意が出来ましたよ?」
「ん?」
振り返ると村長が来ていた。ああ、もうそんな時間か……。
「随分熱心に訓練なされるのですね。あちらで汗を流して来られますか? 替えの服も用意しますよ?」
「んっ」コクリ
「今は村の者も使っておりますが気になるなら追い出しましょう」
「良い…………だいじょぶ」
『人が苦手と思われとるのじゃ』
村長の家にくっついて併設されている小屋に入ると暖かい空気がこもっていた。上に小さな戸が開いていて隣りの村長の家から暖気が流れ込んで来ているようだ。
木の塀で囲われてるだけだけとか、この真冬でも田舎の方じゃ家の影でお湯洗ったりもするから幸運だな。脱衣所で服を脱いでると中から全裸の女達が出て来た。男女共用か。まあ、別に害も無いし良いか。
「――あのう」
そのまま浴場に行こうとすると女の1人が声を掛けて来た。振り返って見ると皆んなタオルや服で前を隠して此方を見てる。
「……………………女用?」コテン
「えっと……、今は女性の時間なのよ?」
困ったように言ってくる女性達、共用は共用でも時間で別けているのか。しかし村長め、時間を間違えるとは勘違いしたな?
『時間ではなくお主の性別の方を勘違いしたんじゃないかの?』ボソッ
しかしどうするか、申し訳無さそうに見てくる女性達を前に途方に暮れてしまった。
「今使っている娘達もすぐ出ますから、良ければそのまま使って下さい」
「んっ」コクコク
女達は意外に冷静だった。いや、この見た目のお陰か? 筋肉ゴリゴリのゴリマッチョだったら悲鳴をあげられて性犯罪者騒ぎになってたかもしれない。恐ろしい想像に久々に自分の華奢な容姿に感謝した。
『その容姿でなければそもそも女と勘違いされんじゃろ。村長に此処に寄越される事もなかったのじゃ』
感謝して損した。
『それにしてもお主、女の裸を見たと言うのに枯れておるのう』
ほっとけ。女達が出て行ってから1人で汗を流していく。体を洗うと言われたが断っておいた、村の女達は羞恥心が薄いのかね。
『いや幼子丸出しのお主が相手じゃからじゃろ』ボソッ
洗濯して乾いた俺の服が用意されていたからそれを着て出て行く。
「ああっ、アイリスさんすみません。男の方だとは思わずに……」
「……ん、平気」
「……ご飯の用意は出来ております。家で食べますか? それとも此処で皆んなと食べますか?」
村人は皆んなで集まって食べるようだ。俺は集団が苦手なんだよな。
「家で……食べる」
「分かりました。では持っていかせますので行きましょう」
その後用意されたご飯を1人で食べた。パンと僅かに干し肉を散らした雑炊だ。パンを雑炊につけ柔らかくして少しずつ食べていく。こんな固いパンをガリガリ食べられる奴等が信じられない。
それにしても肉が少ししか入ってない。近場にゴブリンがいた所為で肉になる獣が獲れなかったのかも。
食事を終えてまた眠りについた。寝てばかりだけど体を動かしたからかすぐに眠る事が出来た。
『人間不信でずっとまともに寝れなかったと言っておきながら我をあっさり信じて熟睡してしまうとは、この妹の姿の所為かの?まあ良い事じゃから別に良いのじゃが、……本当に幼子みたいじゃの』
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