第032話 聖女モードとお姉ちゃん
カリンとおばさんのやり取りをぼうっと見てると新しい客が入って来た。
「あっ「えっ?」
ヤバい、今度は俺がやっちゃった。入って来た客は背の高い女で背中の傷を治してやった人だ。防具が壊されてたもんな。来てもおかしくないか。
「あっ、アンタあの時の聖女様かい?」
「…………いえ」
うぐぐ、俺より頭2つ分くらい背が高いからか威圧感があって目を逸らしちゃったよ。俺から見ても嘘っぽくなっちゃったぞ? ど、どうしよう、取り敢えずさっきと同じパターンで行くか。
聖女モードで誤魔化せないかな? あの時の自分になって押し切ろう。聖女聖女、俺は聖女、あの時の聖女。
『おお、やる気ではないか。確かにこの者も背中に傷痕が残っておるのじゃ。治すのもたいして魔力を使わんから今度こそやってしまうのじゃ』
「……背中の傷、傷跡残ってますよね? 治させてくれませんか?」ニコッ
「いえそんな、――畏れ多いです聖女様。こうして生きているだけで充分ですよ」
「皆さんが戦ってくれたから私達は守られたのです。そのお礼をさせて下さい」
『喋れとるではないか。今後はこの聖女モードとやらでイケば良いのではないかの。しかし良くも心にも無い事を言えたものじゃな』
しんどいから無理、て言うか心にもないとか失礼だな。
カリンがおばさんと話しに夢中になっているウチに隅に移動して有無を言わさず治してしまおう。面倒だから反論に聞く耳を持たないでいたら諦めたみたいだ、勝ったな。
って待った待った、何で服脱ぐの! そのままで良いのよ!? って余りの事に女言葉になっちゃったよ! これだから冒険者は!!
『ふうむ、これくらいなら……外魔力循環を使って患部で回復魔法にするぞ』
へ? ちょっと待て、俺の魔力を使うんじゃ? おお、気持ち悪い……ぐぐ。心が洗われるような気分になるのを抵抗するって何か矛盾してるよな。
『余裕があるではないか。この娘右膝と目も悪くなっておっての、ついでじゃし何処まで平気かやっておこうかの』
えっ? ちょっ、お前また勝手にぃ~~っ!?
『限界を知っておかねば検証にならんじゃろ』
コッチの返事も聞かずに膝と目に回復魔法を掛けていった。ああ、徐々に心の中にある暗い感情がかき消されていってしまう。
「……終わりましたよ。ついでに右膝と目も悪くなっていたので治しておきました。勝手な事をしてごめんなさい。そして治させて頂いて有り難うございます」
聖女モードになってるとペラペラ喋るな俺。これ何とかギリギリで耐えられたのか? さっさと会話を終わらせる為にニコニコ笑顔で応対するんだけど、呆然としてるなこの人。――聞いてるよな?
と思ってたら獰猛な笑みをしだした……怖っ。
「っと、すみません聖女様。そして有り難うございます。コレでアタシはまだまだ戦えます」
「聖女様ではありませんよ。教会とも関係ありませんからね?」
「……成る程、分かりました。命に代えても秘密は守ります」
どう理解したか分からんけど喋らないなら良いか。
『此処は自分の命の方を優先してとか言う場面ではないかの?』
結果俺の命が脅かされるだろ。
「リリスちゃーん、取り敢えずこの防具買おっか。後で可愛く改造してあげるからねー?」
いや、要らん事すんなよ? 俺1人じゃ止められないな。エリックにでも頼むかな。
見るとさっきの防具一式だった。兜に胸当て、お腹から脇腹まで覆う鎧。下は股間部分と膝から上の前面をカバーしてる。要所に金属プレートを入れて魔物の皮で覆って音消しにしてある。一般的な茶色い防具だ。でもこれなら前と対して変わらないんじゃ?
「昨日見たけどリリスちゃんの防具ボロボロだったじゃないですかぁ。それになんだかんだ言っても男モノですよね? そんなのリリスちゃんには似合いません」
確かにボロボロだったけど皮張り替えればまだ現役でイケそうだったぞ?
「締めて25万イェンだよ。どうすんだい?」
「買います」
カリンの目力が強い。諦めそうに無い。無駄な抵抗をしても結局コッチが折れるなら最初から折れておく方がマシか。
「ほらよ、コレで良いか?」
後ろからさっきの女性がお金を払って来た。えっ? 奢ってくれんの? 安くは無いぞ??
「アンタには世話になったからな、このくらいの礼はさせてくれ」
思わず目を見開いて口をパクパクさせていると照れたように言って来た。お……男前過ぎる。自分が本物の男だと言うのに完全に負けた気がする。
『誰がどう見ても負けてるのじゃ』
くっ、失礼な。
「どう言う事です? リリスちゃん、また正体バレちゃったですか?」
「ひっ!」
カリンが怒ってる。咄嗟に女性にしがみついてしまった。
「アタシは命に代えても喋るつもりは無いよ。安心してくれ」
「……ふう、程々にして下さいよ? 自分の首を締める事になるんですから」
「んっ」コクコク
「リリスちゃんは聖女様とも神聖教会とも無関係ですから」
「勿論分かってるさ」
聖女モードが解けちゃったから手を振って礼をして防具屋を後にした。
『相変わらずの人見知り、言葉足らずじゃな』
ほっとけ、聖女モードの時は頑張ったぞ? それより今手を握られてるんだけど、ちょっと力強いよカリンさん?
「一旦防具を置きにギルドに戻りますよリリスちゃん」
「早っ、早いっ、転んじゃう!」
「あっ、ごめんなさい」
大股開かないように膝を紐で結ばれてゆっくりしか歩けないのに。でも気付いたら速度を緩めてくれた。
それにしても女装に誰も気付かないな。思った以上に皆んなの目が節穴だったみたいだ。まあ誰も俺なんか気にしてないからかもしれないけど。
『いや、お主の女装が完璧なのじゃ。皆を節穴扱いしては可哀想じゃぞ?』
「あっ、……荷物、持つ」
華麗にリリィの発言をスルーしてカリンに話し掛ける。最近皆んなに世話されっぱなしだから自然と荷物を持たせてたよ。女に荷物持たせて手ぶらで歩くってどうなのよ?
「大丈夫ですよ。私の方が力あるしね。それより言葉使い丁寧にね? 見た目とのギャップが無いようにしましょうね?」
「……はい」
どんな印象なんだ俺? 釈然としない思いを抱きながらギルド4階の自分の部屋に入って荷物を置いてベッドに寝転ぶ。
「ふわぁ〜……もう寝ていたい」
ああ〜疲れるよー……。仕草とか言葉使いとか、人と会わなきゃ良いんだろ? 何でこんな事しなきゃイケないんだよ。
『そう言う訳にもいかんのじゃろ。この後服も買いに行くのじゃろが』
はあ、断れない自分が恨めしい、……仕方がないか。
一息ついてから重い体を起こして下に降りて行くと、カリンと誰かが言い合う声が聞こえて来た。
「ズルいわよカリン、リリスちゃんを独り占めするなんて!」
「ふふん、ギルド長の命令ですからね。文句はギルド長に言って下さ〜い」
カリンとミリアーナか、何を言い争ってるんだか。関わりたくないな。あんなトコ行きたくないぞ。
「最早アレはデートでしたね。ああ〜リリスちゃん可愛いかったなー」
「くっ、リリスちゃんにミリアお姉ちゃんって呼ばれてるこの私が先を越されるなんて……」
「なっ! わっ、私お姉ちゃんって呼んでって言っても呼んで貰え無かったのに!? ズルいですよミリアーナさん!」
「『………………………』」
俺は怖くなって部屋に引きこもる事にした。
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