第003話 癖の強い使い手
「ゴッ、ゴブリンですか!?」
「んっ……証拠」
フードを目深に被ったまま村に入って、取って来たゴブリンの耳を見せて目に付いたゴブリンは倒して燃やしておいた事を伝えた。村長は顔面蒼白になっている。俺が倒したゴブリンは8匹、村が襲われていたら死者重傷者が出ていた筈だからな。
「その場にいなかったゴブリンがまだいるかも知れないと言う事ですか。……ちゃんと調べないとイケませんね」
こう言う場合は町に行って兵に報告して兵士長が冒険者か傭兵に依頼するか兵を動かすか決めるのが普通だ。まあ規模が大きければそのまま領主に報告だが。今回はまず冒険者か傭兵に依頼するパターンだろうな。
まあそんな事よりクタクタだ。何とか泊めて貰いたいんだけど……、おい精霊剣、何とか出来ないか?
『何故我に言う? そのままこの男に言えば良かろう?』
……………………人見知りなんだよ。
『……お主、……いや、我の姿も声も普通の人には感知出来ん。己れで何とかするのじゃな』
鬼め。
「えと…………崖崩れ……」
「えっ、ああ、崖崩れですか? ここのところ雨と雪が続きましたからね。少し西に行った所でしょうか、あそこは元々崩れやすい地形ですからな」
「んっ、……と……」
「もう暗くなりますし私の家に泊まりますか? お代も結構です。その代わりと言っては何ですか魔物が出て来た時には一緒に戦って頂けないでしょうか?」
「んっ」コクリ
村長はホッとしたようにして家に招き入れてくれた。この人良い人だ。
『なんじゃその口調は、まるで幼子なのじゃ。我とは普通に話せておったろうに』
剣に緊張する性癖なんて持ってないんだよ。
見た目幼女の妹精霊にジト目で幼子言われるなんて。くっ、ねぇねの姿で人の心をエグるような事言うなよな。
『……はぁ、せめてフードを取らんか。村長には警戒されとったぞ?』
お手上げポーズで首を振ってやがる。こいつ本当に剣なのか? まるで人間みたいな反応しやがって。俺は小柄だし女みたいな見た目でトラブルになりやすいから敢えて隠してるんだよ。
『(しかし30半ばにしてシスコン、更に華奢でコミュ症とは随分癖の強い使い手に当たったものじゃ)』
クタクタだったけど何とか防具の手入れをしてからお湯で体を拭いて、着替えを借りて晩飯を貰って眠りについた。
『当然のように女物の服を寄越されたがソレを普通に着るお主はどうなのじゃ?』
村長のじゃデカ過ぎるし子供用なんて俺は着たくないぞ?
『どっちもどっちだと思うがのう』
ほっとけ、俺のこだわりだ。それより疲れてんだからもう寝る。何かあったらちゃんと起こしてくれるんだな?
『うむ、問題ないのじゃ』
俺は今布団に剣を入れて一緒に寝ている。当然鞘がないから布で巻いている。元々ソロで傭兵なんてやってるから何時でも油断しないようにこうして寝てたからな。
実際冒険者成り立ての頃に男共に襲われた事があった。まあ手元に仕込んであったナイフで返り討ちにしてやったけど、それから完全に人間不信になって寝れなくなっちゃったんだよな。
『お主も苦労しておるのじゃな。まあ我がいれば不意を突かれる事などあり得ん、安心して眠るのじゃ』
村に着くまでに依頼された薬草も採れたしコイツ結構有用だな。
『お主の視界に入る程度の距離ならば索敵出来るからの』
心が読まれるのがイヤだが所詮剣だしな。まあ高く売れるならそこで手放せば良い。ねぇねの姿をされて複雑だが所詮偽者だからな。
『さらっと罰当たりな事を抜かすでないわ。精霊剣を売り払うなど聞いた事もないのじゃ。もしそんな事をすれば神に報告して神罰を食らわせてやるのじゃ』
おいーーっ! 神って何だよ! 怖っそろしい事言ったな今!?
『当然なのじゃ。我は精霊神様により直接創り出された本物の精霊剣なのじゃぞ?』
くっ、だったら俺なんかじゃなくてもっと相応しい奴を見つけて売れば良いんだな?
『ふむ、売り付けるのはいかんが我としても相応しい者がいれば構わんぞ?』
売れねえんじゃ意味ねえだろが。それなら俺が使った方がマシだ。
『まあそれもええじゃろ。我に相応しい使い手になるのじゃぞ?』
無理言うな、俺は弱いし才能なんて無いんだからな。
『それはお主が鍛練をまともにして来なかったからなのじゃ』
俺の何を知ってんだよ。って心を読んだのか。なら分かるだろ? 仕事はそこそこ真面目にやってるし、それだけで体はガタガタで鍛える余裕なんて無いんだよ。
『我を使い熟していけばその負担も減るのじゃ。出来た時間で鍛えれば良いのじゃ』
それが出来るんならまず寝る時間を増やしたいな……。もう……寝る……ぞ……。
『――弱き者を助けるのも我の使命か。ならば貴様を守るのも我の使命の範疇なのじゃ』
「うぐぐ……、何か、気持ち悪い……」
朝起きると頭の中がぐるぐる回って体の奥から吐き気がする。何だコレ、飲んだ事は無いけど酒も飲んだかのような……。
『うむ、お主が寝ている間に外魔力循環をしておいたからの』
「いや何してんの!?」
外魔力循環ってのはあの禁忌の魔力回復法の事だ。精霊剣を挟んでるから清浄な魔力になって流れ込んで来るとは言えその清浄さが気持ち悪いんだよ!?
『魔力量を増やす為にやったのじゃがそこまで体に合わんとは、お主もう少し善良に生きんか』
羽をひらひらさせて目の前で飛びながら困った奴め、みたいな目を向けて来る妹の姿をした精霊剣の精霊にちょっとイラついた。あざといんだよ幼いねぇねの姿なんかして。何で剣なんぞに説教されなきゃイケないんだよ。って言うかコレじゃまともに動けないぞ?
『ううむ。仕方ないのう。起きる直前までやっていたが今後は影響が出ないよう加減してやるのじゃ』
「――うえっ!?」
布団から出て剣を取ると形が変わっていた。昨日は無骨な片手剣だったのに俺でも扱い易そうな細剣に変わってる。
おい、お前昨日の剣なんだよな?
『うむ、お主の適正に合わせて変化したのじゃ。しかし女子が扱うような剣になってしまったのう』
――俺は何も言わないぞ。
『まあ華美な装飾が付かないだけマシと言うものか』
改めて見ると確かに華美な装飾ではないけど持ち手が握り易く波打っていて、植物の蔓の様な模様があって何処となく品がある剣になっていた。
けど細剣なんて女が扱うもんだろ? また女みたいだとかバカにされそうでイヤなんだけど?
『それこそ今更じゃろう。己れに合った得物を使うのは当たり前なのじゃ。命には変えられんのじゃからな? それにお主が一流の使い手になれば言われなくなるのじゃ』
なれる気が一切しないんだが? まあ確かに命には変えられないし、取り敢えず使ってみるかな。
「町に戻ったら鞘も作んないとな」
それにしても体が辛い。――もう1回寝たい所だけどお腹が空いた。迷うけど仕方がない。重い体を引きずって部屋を出ると村長が何か作業をしていた。
「…………おはようございます。朝食が出来ていますよ。後、その前に相談があるのですが……」
「…………?」コテリ
部屋を出ると村長が申し訳なさそうに話し掛けて来た。昨日は疲れていて早めに寝たからまだ日が出たばかりくらいか。しかし村長にまじまじと顔を見られてしまったな。服が洗われていて借りた服にはフードが無いから仕方がないけど。
「その……町から人が来るまでで良いので此処に留まって警備にあたって頂きたいのですが……」
まあゴブリンがまだ残ってるかも知れないからな。俺の見た目は侮られ易いけど昨日実際にゴブリン8体倒してるのを知らせたから頼って来るのも分かる。
「採取依頼、受けてる……から」
でもだからと言ってタダ働きなんてやってられない。
「そう……ですか」
『可哀想に肩を落としておるぞ。何とかしてやらんか』
寝言ほざくな。俺は勇者でも聖人でもないんだよ。…………いや、待てよ? 体がしんどいし今日中に町まで戻るのはキツいしな、……アリか?
「代わり、依頼……報告……する、です」
「えっと、……私達が貴女の代わりに冒険者ギルドに依頼報告すればよろしいのですか?」
「んっ、傭兵、……傭兵ギルド」コクコク
「傭兵ギルド、ですか?」
「んっ、間違い、易い」コクリ
「それでよろしいのですか?」
「……んっ」コク
これでゆっくり休めるな。
『――自分本位な理由じゃがまあ良いじゃろ』
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