第029話 庶民の噂話し
一応相手側の言い分を聞いておこうとグライスロー公爵親子を王の前に引き摺り出したのだが、反省どころか罪の意識も無く身勝手な妄言を喚き散らすだけだった。
「もう黙れ! 既に貴様等の愚行の数々は明るみになっているのだ!!」
「どっ、どう言う意味だ!?」
「砦を奪われた経緯、仇敵アデール王国と密貿易をし、酒に薬を盛られたそうではないか! その方等親子は兵士の数が足らなかった等と言っていたがな!!」
「そっ、その様な話しは知らん! 知らんぞ!!」
「アデール王国、フォシュレーグ王国、リアースレイ精霊王国から証拠証言は取れておる! 我が国でも貴様等主犯の高位貴族以外には国中に広まっておる話しだ!!」
「しかもその所為で領地が減って食料が足りなくなったと言うのに貴様等はっ! 食料輸入にかなりの上前を跳ねていたらしいな!? 恥を知れ!!」
「麓の農地を奪われ国を窮地に立たせた貴様等が、更に国を追い込む様な真似をするとは厚顔無恥にも程があるぞ!!」
「その上男子禁制の後宮に押し入ろうとする暴挙!! 最早言い逃れは出来んと思え!?」
「なっ、何を言う! 王公貴族が飢える訳ではあるまい! それに私は王家がより尊い血を引き継げる様にしようとしただけだ!!」
「そうだ! 男爵家等と言う庶民と変わらぬ下賤の血を少しでも尊くしようと言うのだぞ!? 何故それが分からぬのだ!!」
「公爵よ、王妃アプリコットに毒を盛ったのもその為か?」
「なっ、何の事だ!?」
「アプリコットはフォシュレーグ王国の治癒師によって回復した。全て調べ尽くしたぞ。――医師を脅して毒を盛らせていたとはな」
「「なっ!!」」
「砦を奪われた経緯も、後宮に押し入ろうとした事もアプリコットに毒を盛った事も、全てが国家反逆罪に当たる」
「待っ、待て! 我等の、公爵家の尊き血を失くすつもりか!?」
「貴様等の穢らわしい血等要らんわ!! もう良いっ! 連れて行け!!」
「「「はっ!!」」」
「と言う事がありまして、アレ等を生かしておくとまた何を画策してくるか分かりませんからな」
「そうなると問題は他の高位貴族家ですか? でも国家反逆罪ですから最低限関わった当人と当主の処刑をして取り潰し、はしますよね?」
さらっと言う!
「いやしかし、数が多過ぎるのです。メメントリア王家による大虐殺と思われれば民の心が離れます」
シャルロッテの望む現王家の長期安定は当然ながら王家も望む所だろう。問題は断罪すべき貴族が多すぎる事だ。
重い処罰をすればしがらみのある他の貴族達から反発を喰らいかねないし、宰相の言う通り民も不安がるかも知れない。
逆に処罰が軽ければ王家が下位貴族から反発を受けるし、庶民からも舐められる可能性もある。
「それなら――」
「おい聞いたか? アプリコット王妃様とコクリコット姫様が病から完治したって!」
「おう、ユニコーンの角だろ? 治療に使われたって言う」
実際にはそんな物使われていない。しかしユニコーンの角には魔法を効率的に発動させるのに高い効果があるのは事実だ。アイリスから高価格で買い取る許可も得てシャルロッテが仕掛けた宣伝工作だった。
フォシュレーグ王国から、となると下賜か献上どちらでも問題となるのであくまでも傭兵達からの献上品として贈らせた。メメントリア王家としても希少なユニコーンの角が手に入るのだから文句は無い。
「西の森に黒いドラゴンが現れたって聞いた時はどうなるかと思ってたんだがなあ」
「調べに行った傭兵が清らかな湖に佇むユニコーンを見付けて周囲を調べて拾ったらしいな。それを王家に献上するなんて粋じゃねえか!」
「まあな。流石にタダじゃねえだろうがな」
「んな事は良いんだよ! それで王妃様が治ったんだからな!!」
「ドラゴンも居なくなってたそうだしなあ。何でも水場に寄っただけじゃねえかって話しだったな」
最近庶民の間ではこの話題で持ちきりである。ドラゴンの話しも、民の不安を失くす為に広められていた。
「フォシュレーグ王国の治癒師にユニコーンの角を使わせて治療したって話しだな」
「難しい病だったらしいからなあ」
「ああ、コクリコット姫様は小さな頃からずっと抱えてた難病だったし、アプリコット王妃様なんて10年以上グライスロー公爵家の連中に毒を盛られておかしくなっていたらしいしな」
「許せねえよな、クソ公爵め」
グライスロー公爵家は取り潰され先代当主と現当主ベルドットは処刑されたが、庶民にも当然の話しだと受け入れられていた。
他の罪を犯した高位貴族は処刑ではなく奴隷に落とされた。家は各々爵位を落とし何れも下位貴族となり、反発を起こさせない為に当主も全て奴隷化している。
これはシャルロッテの案でリアースレイ精霊王国の隷属魔法が掛けられた首輪を着けさせられている。新たに要職に就く者達への国政の引き継ぎと、反乱に対する防止策だ。
更に家財没収の上多額の賠償金を課せられ、此れからリアースレイ精霊王国やフォシュレーグ王国との交易で活性化するであろう美味しい所からは悉く外される事になる。
何れ賠償金を払い切れずに爵位を返上する事になる様にシャルロッテに仕組まれている。それまでに王家が惜しむ様な人物が現れれば別だが、表向きにはアプリコット王妃とコクリコット姫の快癒と言う慶事に恩赦を与えたとしている。
下位貴族や庶民の彼等に対する不満はこの慶事で反らす事にしたのだ。
「アプリコット王妃様の実家のメルート男爵家を侯爵家に上げるってな」
「それそれ、クソ公爵の反対で今まで出来なかったらしいけど、才ある娘を王家に輿入れさせてくれた礼だってな」
元々は伯爵位を与える予定だったのだが、今は高位貴族はカールイス宰相のマグワイア侯爵家と同じ派閥の伯爵家が2家あるだけになってしまっていて、バランスを取る為にこの際だからとシャルロッテに勧められたのだった。
「何でも国交成立のお祝いとして建てる屋敷の金はフォシュレーグ王国が、建材と建築はリアースレイ精霊王国から出されるらしいな」
「おう、何でもリアースレイ精霊王国から断熱強化ガラスだとか断熱材だとか言う物が贈られて来るんだったか」
冬の厳しいメメントリア王国では日の出ている時間帯でも薪を焚きながら木の窓を開けて光を取り入れるしか無かった。庶民では厚着をして小窓を少し開けるだけでやり過ごすのが精々だ。
この世界のガラス窓と言うのはとても高価でありながら脆く透明度も低い。リアースレイ精霊王国の断熱強化ガラスは頑丈さも透明度も隔絶した性能を持っている。
魔物蔓延る世界で飛空挺に大量に使われているのだからそれも当然だろう。
「男爵様、じゃねえ。もうメルート侯爵様か。侯爵様が気に入れば輸入されて俺等庶民の家にも使われる様になるんだったか」
「透明の壁とか暖かい壁(断熱材)とか言われても良く分からんけどな」
「「はっはっはっ」」
笑いあっているがこの数ヶ月後、真冬に入る頃には庶民の各家に1枚ずつ断熱強化ガラスがはめ込まれ庶民達の度肝を抜いたのだった。
窓を開けずとも明るい部屋が出来ると言うのは庶民の冬の閉塞感を大幅に和らげ、輸入を決めたメルート侯爵家はメメントリア王家と共に大人気になっていった。
またフォシュレーグ王国からは良質なオイルが大量に輸入され、庶民でもランプを持ち夜でも明るく過ごす事が出来る様になりリアースレイ精霊王国と共に好意的に受け入れられていった。
対してメメントリア王国からの輸出品に不安のあった庶民達であったが、魔物素材が思いの外高価格で買い取られていった事でその不安も払拭された。
「しっかしこんな厄介者がこんな高価格で売れるなんてな」
そう言って持ち上げたのは白い魔狼の毛皮である。他にも白い魔熊等、冬場に降りて来る白い毛皮を持つ魔物は周辺諸国では高級品で大人気なのであった。
「クソ公爵とアデール王国がとんでもない額の中抜きしてたって事だよな」
「フォシュレーグ王国もそれなりにしてるだろうけど5倍以上の値段で買い取ってくれるからなあ」
「しかもその魔物を狩って来てくれるのもフォシュレーグ王国から来た傭兵達だもんなあ」
シャルロッテに選別された優秀な傭兵だからこそ犠牲無く対処出来て受け入れられているのたが、庶民達には有難い存在である事には変わりない。
自分達の代わりに危険な魔物を狩ってくれて、自分達はその素材を綺麗に加工するだけでお金を貰える様にしてくれるのだ。
その傭兵達を派遣したフォシュレーグ王国の株も更に上がっていくのだった。
因みに建てられたメルート侯爵家の屋敷が、大量に使われた窓ガラスと断熱材で余りにも明るく暖かい屋敷となり、王城よりも過ごし易いと噂になって早い内に王城の建て替えもする事が決まったのは別の話しである。
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