第027話 皆んな治療、とお礼!?
ドラゴンが飛び去って行くのを見て一同は緊張から解き放たれ安堵の空気に包まれた。
「ふへぇ~、――死ぬかと思ったぜ」
「情けないわねルトルート。寧ろ幻想的で感動ものだったじゃない?」
「アーダルベルトの方はもう立って動いているわよ?」
胡座をかいて座り込むルトルートにルデリアとティアリスが茶々を入れる。
「いや、内心足が震えている筈だ」
「いや内心って何よ」
「ふふふっ」
そのアーダルベルトはシャルロッテと今後について話し合いを進めていた。
「シャルロッテ様、これで解決か?」
「どうかしらね。アイリスちゃんが戻って来ないと何とも言えないわ」
アーダルベルトの問いに答えながらアイリスの動向を見続ける。何かが起こるとは思って来たけど想像以上の事態だった。ーー私自身、何も出来なかったわね。
あの子を手放す事は出来ないけど、コントロールの効く相手でも無い事が良く分かったわ。それが1番の情報かしらね。
「ドラゴンが去ったとは言えこの神聖な魔力はキツ過ぎて、俺等には彼処まで行けないからな」
アイリスの方を見ていると湖の外周を回って頭部に角のある白い馬が何頭も現れアイリスの方へ向かって歩いて行った。
「あれは!?」
「聖獣のユニコーンね。こんなに居たなんて」
「ユニコーン!? 本当に聖獣じゃない!!」
少し前、アイリスが精霊樹の領域に入った時から湖の反対側ではユニコーン達がアイリスの様子を注視していた。そうこうする内にドラゴンの下に向かい治療を始めてしまう。
ドラゴンの魔力は精霊樹の魔力とは相容れない。その為、精霊樹の領域から排除しようとドラゴンを攻撃していたユニコーン達は動揺した。
しかし精霊樹と同様の居心地の良い魔力を発するアイリスのする事だからとその成り行きを見守る事にしていた。
そしてドラゴンを回復させてしまったが、そのドラゴンは暴れる事もなく大人しく飛び去って行ったのだ。
ユニコーン達は感謝の意を伝える為にアイリスの下に向かって来たのだった。
アイリスの下に来たユニコーン達は怪我をしている者達が多くいた。ドラゴンを相手にしたものだろう。火を吐かれなくとも尻尾を振るうだけでも脅威的な相手なのだ。
未だアイリスは清浄で膨大な魔力を身に纏っていて、巫女モードを継続していたのもその治療の為だ。
「やはり、癒して差し上げた方が良いですね」
アイリスが一頭ずつ回復魔法を施して行くとその清浄な魔力が心地良いのか治療が終わっても顔を擦り付けたりアイリスを甘噛みしたり近くで寝そべって来たりした。
精霊樹の神聖な魔力は他者を寄せ付けない程の清らかさがあり聖獣ユニコーンからしても一定以上は近寄れない精霊樹の防衛機構となっていた。しかし同質の魔力でありながら他者に優しいアイリスの魔力は神聖な魔力を好むユニコーンにとって非常に好ましいモノであったのだ。
「ああ、アイリスちゃん尊すぎますぅ」
「確かに幻想的な光景ね」
ナージャは涎を垂らさんばかりに食い入る様に見ていたが、流石のミリアーナもうっとりとその光景を見て同意していた。
この世界の馬は基本的に足の太い頑丈さが売りの馬が主流だ。力と持久力はあるが足はそこまで速くない。中には騎士が乗る別種の馬もいるがそれでも寸胴だ。魔物のいる世界においてはやはり速さよりも頑丈さが求められるのだ。
そこにサラブレッドの様な細身の白銀の馬、それも頭部に美しくも貴重な角を生やしているユニコーンがいる。
目にするだけでもその美しさに心奪われそうになると言うのに、愛らしくも神聖な空気を醸し出す巫女モードのアイリスに懐いて来ているのである。
どちらも絵になり皆が目を奪われるのも無理ない事だろう。当然ナージャのカメラは火を吹く勢いである。
治療を終えた一頭のユニコーンが角を咥えて此方に来ました。
自身の角は生えたままなので生え代わる前の物か何かなのでしょう。そう言えばユニコーンの角は希少とか言っていましたね。
「私にくれるのですか? ――ふふっ、ありがとうございます」
頭を撫でて上げると嬉しそうに頬を擦り付けて来ます。可愛らしいですね。
そうしていると強い魔力反応を感じ取れます。顔を向けるとバサッ、バサッ、と大きな翼をはためかせ此方にやって来る2頭の黒いドラゴンが見えました。
そのドラゴン達は精霊樹の領域から離れた所に降り立ち「グルルウゥゥゥ」とアイリスを呼ぶ声をあげた。
「どうやら未だやるべき事が残っている様です」
「ブルルゥ」
アイリスはそう言ってドラゴンの来た方向へ歩いて行った。ユニコーン達は止めはしないが不満そうな声をあげていたが。
治療したドラゴンが居た場所を越えて歩いて行くと、その治療したドラゴンともう一頭、大怪我を負ったドラゴンが居ました。
「貴方を治療すれば良いのですか?」
「グルルルルゥゥ(頼む)」
先程治療した方のドラゴンが答え、もう一頭の方はそっぽを向いたまま不機嫌そうである。このドラゴンは治療されたドラゴンと共に精霊樹からの攻撃で自己治癒が上手く出来ずにいたのだ。――元凶の場所には来たくなかったのだろう。
「もう大丈夫ですよ。すぐに治しますからね」
どうやら外傷だけの様ですね。傷は深いですが前のドラゴンよりは幾分ましです。それでも……。
「貴方も長い間、痛かったでしょう。頑張りましたね」
傷付いたドラゴンの足下に来て寄り添う様に体を預け、先程と同じ様に神聖で膨大な魔力で回復魔法を掛けていく。
「グルルゥ」
ドラゴンは精霊神の天罰による魔力が解かれ体が回復していくのを感じ、アイリスの優しい魔力に心地良さそうな声をあげた。前のドラゴン同様、鱗までは再生しないが治療は恙無く終える事が出来た。
「「グルルルルウゥゥゥ」」
喜びの声をあげるドラゴン達、そこでアイリスがユニコーンの角を受け取っているのを見た。
ユニコーンが角を渡したのであれば自分達も何か礼をするべきだろう。そう考えたドラゴン達は精霊樹(精霊神)からの攻撃で剥がれ落ちた自分達の鱗を集めてアイリスの前に持って来たのだった。
「えと、くれる、のですか?」
巫女モードでは珍しく言葉に詰まる、まるで何時ものアイリスの様だ。しかし無理もない、1枚1枚がデカ過ぎる上に大量にあるのだ。小さい物でも小盾くらいある。試しに1枚持ってみるが案の定重い、フラフラと歩くアイリスを見てドラゴン達は鱗を咥えて他の人間達の所へ持って行く事にした。
アイリスの先導があるとは言えドラゴンの接近である。誰もが恐怖で固まってしまったが、アイリスは意味が分からず首を捻るだけだった。
「ありがとうドラゴンさん」
「「グルルルルウゥ(こちらこそ感謝を)」」
アイリスのお礼の言葉に満足したのかドラゴン達は空を飛んで去って行った。ユニコーンに思う処はあったが精霊樹の側には居たくなかったのだろう。
そんなアイリスとドラゴン達の様子と見て他のユニコーン達も次々とユニコーンの角を咥えてアイリスの下に向かって行った。自分達の角なら重くないしアイリス自身が持てるだろうと考えたのだ。
それに歓喜したのはツェツェーリアである。ドラゴンへの恐慌状態から立ち直り、待ち受けていたのは憧れの存在である。それも目の前まで来てくれたのだから当然だろう。他の皆も同じ様な状況だ。
まあそのユニコーン達はアイリスにしか興味ない様であるが。相変わらず馬には好かれる様だ。ユニコーンを馬と言って良いのかは分からないが。
「ツェツェーリア、ユニコーンって清らかな乙女を好むって聞くけど?」
「ええ、アイリスちゃんを女の子と勘違いしてるのかしら?」
「清らかさ、……って言うかユニコーンに囲まれているあの姿を見るとアイリスちゃんもアッチ(ユニコーン)側に見えるわね」
「そうね。――何て美しい景色なのかしら」
「……駄目だこりゃ」
うっとりとアイリスを囲むユニコーン達を見ているツェツェーリア。だが落ち着いた風を装っているレーディアもまた、同じ様に目を奪われていたのだった。
冷静な突っ込みを入れたのはルトルートである。
1本2本なら兎も角ユニコーンの角も10数本となると重くてアイリスには持てず、ユニコーンの角はナージャが持つ袋に次々と入れられていった。ユニコーン達はちょっと残念そうである。
1本でも物語の題材に成る程に希少なユニコーンの角がアイリスに掛かれば10数本。ドラゴンの鱗と合わせてその価値を、何となく聞いた事がある者達は顔面蒼白になっていた。
(((コレ、下手に扱うと周辺諸国を巻き込んだ戦争になるヤツだ!!!)))
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