第022話 呼びしモノの地へ
「はあー、マジで何やってんだよアーダルベルト」
「黙れルトルート、お前こそ面倒ごとを押し付けてさっさと寝やがって」
出発は昼過ぎになった。ドラゴンを見付けてからほぼ丸1日走り続けだったのだが、アーダルベルトはそれから更にシャルロッテに報告。その後もアイリスの異変から再び呼び出されて会議に強制参加させられ全く寝れていなかったのだ。
「いやでも、起きたらまたドラゴンの下に行く事になるとは思わんだろ」
「ならお前がシャルロッテ様に断るか? ルトルート」
そう言うと苦虫を噛み潰したような顔をするルトルート。
勿論ドラゴンの下へ向かうなんて護衛の範疇を超えているから断る事も出来るのだが、護衛対象になるアイリスは自分達にとって迷宮探索での大きな借りがある。
多くの仲間が大怪我から回復され生き残る事が出来た命の恩人、無下に出来る相手ではない。
当然リアースレイ精霊王国からしても要人と言う事もある。
「まっ、(シャルロッテの)金払いは良いしあの子供が行くと言うなら安全かもな」
ルトルートはアイリスを遠目で見ながら、迷宮探索で先を見透すかの様に次の階層場所や魔物の存在を言い当てていたのを思い出していた。
その間もアイリスは落ち着かない様子だった。自分を呼ぶ何かに対してなのであろう、と皆んながそう考えていた。
――当のアイリスはただただドラゴンに絶賛パニック中であったのだが。
ドラゴンって何!? 聞いて無いんだけど?? 何か俺の為に行くみたいになってるじゃん! めっちゃ皆んな張り詰めてるよ!? これ断れないヤツじゃない?? 寧ろ何かあったら俺の所為になるじゃないの???
マジで怖い、マジで怖いんだけど!? 何なの? 俺を呼んでるのドラゴンなの??
『落ち着くのじゃ、いざと言う時は逃げれば良いのじゃ』
いや逃げられないじゃん! 空を飛んでバビューーンだぞ!?
『――お主思考が幼くなっておるぞ?』
『その前にネネェが様子を見てくるなのー』
おおっ!?
『まあリリィ達は精霊剣からそこまで離れられんのじゃ。結局近くまでは行く必要があるがの』
おぉ……。
『1Kmくらいなら離れられるから問題無いなの!』
おお。
お昼過ぎ、城を出て馬車で20分程、王都の西側外壁まで行きそこから歩いて門を抜けて行った。外壁は城と同じ様な造りで6mくらいの頑丈そうな煉瓦造りになっている。
アデール王国やカントラス王国の王都の外壁も5mくらいはあったけど理由が違う。此処は高地で他国の兵士への警戒は必要なく、この地の魔物が越えられない高さがあれば良いのだ。しかし積雪を考えると結局この高さになってしまうのだそうだ。
「ここからは道なき道だ。歩いて2日、往路で4日掛かる」
アーダルベルトの言葉に前を見ると左右に高さの異なる小さな木々が生えていて、前方200m程先から大きな木々が生えている森が広がっていた。
遠くには大きな山々が頂上付近に雪化粧をしていて自然の雄大さを感じさせる光景だ。
「左右の小さな木々は薪に使う木を新たに植えて育てているそうだ」
そんなアーダルベルトの言葉も耳に入らない程アイリスはその光景に目を奪われていた。
(2日……、往復で4日も歩くの? 挫けそうなんだけど?)
但し自然の雄大さに魅いられている訳ではなかった。
『主ぃ、目が死んでるなのー』
『しっかりするのじゃ! これから向かうのじゃぞ!? 迷宮では一月近く歩き詰めじゃったであろう!』
あの時は迷宮なんて行った事が無かったし! お金稼ぎとちょっとした観光気分があったんだよ!? 今回はお金にならないし歩き続けた先にはドラゴンが居るって言うし、踏んだり蹴ったりじゃないか!!
『……良い大人は観光気分で迷宮探索なんかしないのじゃがの?』
ぐふうっ!?
「アイリスちゃん、何時までも魅入ってないで行きましょう?」
アイリスの手を引くナージャにはアイリスが自然に魅入られている様に見えていた。
その光景はアイリスの見目の良さも相まってアイリスを含めて無駄に幻想的な光景に見えていたのであった。
今回のメンバーは少数精鋭になっている。前回の道程で現地迄の驚異度は分かっているので対応出来る最低限の人数になっていた。能力的に探索者達の方が高かったので連携も考えて前回一緒だった案内役の傭兵達は居ない。
アーダルベルトとルトルートの探索者チームのトップグループ10人程。その中にはアイリス達と共にしていたレーディアとツェツェーリアの女性陣も居た。
アイリス陣営はシャルロッテにレイク、リック、トマソンの4人。そこにミリアーナにナージャ、ヴェルンの3人が入る。
「シャルロッテ様がこう言う事に参加するって珍しいわよね。何かあるの?」
「逆にあの子の様子を見て何も無いと言えるの?」
「――言えないわねぇ」
ミリアーナからシャルロッテに、自身のたわわな胸に話し掛けられるが敢えてスルーして答える。
アイリスを大事にしているアピールでもあるが、何が起きるのかアイリスの能力、その特異性をシャルロッテ自身で把握する事が主目的だ。
(それが分からなければ今後の扱いに困るのよね)
「それに貴女には珍しく見えるかも知れないけど、貴女が思う以上に私は動いているわよ?」
「んん~? ああ、そう言えばシラルの町に居た時もスタンピードの起きた村まで来てたわねー」
「その他にも色々と飛び回っていたのよ」
ナージャはアリアとカチュアの所に残るか悩んだが、結局アイリスに付いて行く事にした。2人からアイリスを守って欲しいと頼まれた事が決め手になったのだ。
ヴェルンは当初手薄になるビアンカの護衛に残る選択をしたが、ビアンカはアリアとカチュアを連れて飛空挺に避難する事にしたのでアイリスに付いて行く事になった。
「ふふっ、迷宮以来のチーム行動ね」
ミリアーナは元々アイリスのチームメンバーだからと当然の様に付いて行く。とは言え本人の言う通り傭兵らしい仕事を共にするのは迷宮以来なのだが。
「ドラゴンの下に行くと言うのに楽しそうですね。ミリアーナは」
「何よヴェルンは、行くのは自分で決めた事でしょ? どうせ行くなら楽しまないとね。ドラゴンよドラゴン、胸が踊るじゃない」
軽快そうに道なき道を歩くミリアーナをヴェルンはうんざりした顔で見ながら「断れるなら断っていますよ」と小さく呟いた。
ヴェルンとしてはシャルロッテにアイリス、ナージャが参加するとあっては自分も参加しない訳にはいかないと責任感から参加を決めたのだった。
「はあっ、はあっ、はあっ」
何か皆んな急いでないか? こっちはほぼ全速力で、付いて行くのも精一杯なんだけど??
『歩幅が違うのじゃ』
『主、大丈夫ー?』
大きな木の根を越えるのもキツい。微妙な高低差のあるでこぼこした所を通るのもキツい。予想以上に体力が奪われて行く。
回復魔法を使ってるけどキリがないんだよ? 魔法も集中力が必要だし、魔力の消費も疲労感を強くしていくし、……もうしんどい。
「待って下さい。アイリスちゃんがキツそうです。ペースを下げられませんか?」
「――ああ、いや、午後からの出だったからな。今日中に半ばまで行っちまおうと思ってたんたが……」
「そうですか、なら此方で何とかしましょう」
ナージャさんとアーダルベルトさんがこっちを見て何か話している。休憩でも取ってくれるかな?
と思っていたら笑顔でナージャさんがこっちに向かって来て紐をシュルシュルと取り出して俺に巻き付けあっという間に抱き上げられてしまった。
「ナージャ、貴女抱っこ紐なんて持って来てたの?」
抱っこ紐??
「ふふっ、当然の備えです。さあ行きましょう!」
呆れた口調のミリアーナは分かるけど、さっきより元気いっぱいな感じのナージャさんは分からない。俺がぽかーんと見つめているとニッコリ頭を撫でられてしまう。
まあ、付いて行くのが大変だったし良いか。せめてナージャさんが疲れない様に回復魔法でも掛けてもらおう。――リリィとネネェに。
『任せるなのー!』
『うむ、仕方がないのじゃ』
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