第021話 アイリスを呼びしモノ
メメントリア王国の王都を出て西へ向かって2日、アーダルベルトとルトルート達は傭兵を護衛しながら順調に進んでいた。
「狼系が多いな。さして強い訳じゃねえが油断出来る相手でもない。深く探るには面倒だな」
「けどルトルート。冬には白い毛に生え変わるらしいし、そうなると高く売れるんじゃないか?」
「冬に魔物を狩りに行くのは自殺行為らしいぞ。分厚い雪に足を取られるし敵は雪の白に溶け込んでろくに見えやしないらしいからな」
ルトルートとアーダルベルトの会話に傭兵が待ったをかける。そんな会話を続けながらも調査済みの範囲を超えて歩み続けていた。
「おいアーダルベルト」
「ああ、――これはちょっと、ヤバいな」
そんな中周辺の魔力の質が大きく変わっていったのを皆が感じていた。この先の地図は無い。
他の方角はもっと遠くまで知られているのだが西側だけが徒歩で2日辺りの所までしか知られていないのだ。
原因は分かっていないが先に進むと気分が悪くなると言われていた。
「取り敢えず、……進めるだけ進むぞ」
魔物が増えると言う時点である程度危険があるのは承知の上だ。傭兵の言葉にアーダルベルトとルトルートも同意して進んでいった。そしてそのまま数時間、増えてくる魔力の圧には明確な怒りを感じる様になった。
「単なる魔物の様な邪素ではないが、何かが居るのは分かるな」
徐々に危険度が増していくのを感じ、撤退の2文字がチラつき始める中、歩き続けていると生い茂る木々の先にキラキラしたモノが見えて来た。
太陽の光が反射している様なので恐らく湖か何かだろう。
「まっ、待て……」
何とか其処まで進もうとした時、端にいた探索者仲間が青い顔で止めに入った。その青ざめた顔から其処から何かが見えるのだろうと側に行き、見ている先に目を向けた。
その瞬間、誰もが目を見開き体を硬直させた。
「――ド……、ドラゴン、……だと?」
そこには黒い鱗に覆われ大きな翼を持つ全長15mはあろうかと言うドラゴンが佇んでいたのだ。
「成る程、ね」
直ぐ様アーダルベルト達は引き返し、城まで戻るとシャルロッテに直接報告する事にした。流石にドラゴンと言うのはシャルロッテも想定外だった様で、眉間にシワを寄せている。
「ドラゴンが近くに居たから魔物が増えた。――っていうのは良く分からないですがね」
「――それは逆じゃないかしら?」
「逆?」
「西側からの魔物が少ない現象は何百年も昔からの事、……ならドラゴンが来てその現象を打ち消したのではないかしら?」
「あっ、――成る程」
アーダルベルトの疑問にシャルロッテが答える。それは憶測ではあるが納得のいく答えだった。
「歩いて2日の所にドラゴンか」
「ドラゴンならひとっ飛びですよこんな所。……来られたらこんな国あっという間に滅ぼされるでしょうね」
「まあ魔物の増加現象は数年前からですから、それがドラゴンが来た所為なら今すぐ襲って来るって訳じゃないでしょうがね。――逃げますか?」
「取り敢えずダールトン様を呼んで頂戴。それとこの話しは箝口令を敷いておいて」
「はっ、了解しました」
「此方も了解、一応口止めはしておいたけどもう一回釘を刺しておくわ」
シャルロッテの言葉にレイクが答えダールトンを呼びに向かい、アーダルベルト達は傭兵達の下へ向かって行った。
「――ドラゴン、……ドラゴン、ね。ままならないものね」
「アイリスちゃーん、朝だよー?」
「起きてぇーー」
アリアとカチュアの呼ぶ声がする。もう朝なのか。でも未だ眠いんだよ? ベッドの中、ミリアーナの胸に顔を潜らせて『――――』んにゃ!?
「ん? どうしたの? アイリスちゃん」
遠くから、ずっと遠くから、――大きな何かに呼ばれている気がする。
『確かに呼ばれておるの』
『何なのー?』
いきなり体を起こし、その大きな瞳を見開いて何処かを注視しているアイリスに驚くミリアーナ。だがアイリスはミリアーナの声よりも呼んでいる何かが気になっていた。
その呼んでいる方向に注視しながら自分の体調の異変に気付く。何時もはリリィとネネェの魔力の残り香を感じるのだけどそれが無い。
でもそれよりも、呼ばれてるから行かないと。
「あっち、――呼んでる……」
取り敢えず寝惚けたままだけどフラフラとそのまま歩き出そうとするアイリス、だがアリアとカチュアに抱き止められた。
「アイリスちゃんパジャマ!」
「アイリスちゃん、めっ、だよ!」
その後も寝惚けているのか何なのか、あくまで外に出たがるアイリスに何かあると、ナージャはシャルロッテに事情を話して対応を求める事にした。
『落ち着くのじゃ主よ』
『ネネェ達も良く分からないけど、何かに呼ばれてるなのー』
どうやら俺が寝ている間もリリィ達は呼ばれているのに気付いていて、俺への調整強化を止めていたらしい。だから2人の魔力が残って無くて体がスッキリしてるのか。
『強くしてあげてるのにー』ぷんすか
『相変わらずなのじゃ』ジト目
でもこの感じは何だろう? 呼んでる相手に悪い感じはしない。けど無視しているとゾワゾワとして惹かれる感じが強くなる。
んー、このままだと気持ち悪いし行った方が良いと思うんだけど、そう思うと逸る気持ちが強くなって落ち着かない。
アイリスが呼んでいる何かに思考を割かれている間、皆んなに無理やり着替えさせられミリアーナに抱き上げられたままシャルロッテの所に連れて行かれていた。
――1人で歩けるのに。
『お主が1人でフラフラと外に出ようとするからじゃろ』
『主1人は無謀なのー』
「それでアイリスちゃん、西に行きたいのね?」
「ん、……西?」コテリ
「あっちだ」
アーダルベルトの指差す方向にアイリスは「ん」と答えて頷いた。その答えにアーダルベルトは小さく「マジかよ」と呟いた。
そこはドラゴンの居た処なのだから当然だろう。
もう一度向かうなんて無茶振りもシャルロッテなら躊躇わないだろう。拒否しようにもそれをさせない説得を受ける事になる気がする。
「アイリスちゃん、危険は無いの?」
「危険?」コテン
シャルロッテ様が俺の前でしゃがみこんで聞いて来る。危険って何だ?
『悪い感じはしないのじゃ』
『ネネェもー』
「(だよな)――だいじょぶ」
「……はぁーー」
それを聞いていたアーダルベルトは盛大なため息をついた。
「ドラゴン、……ドラゴン、ですか。――倒せますか?」
「いや無理だろう。本物のドラゴンだぞ?」
その場に呼ばれたダールトンが厳しい目でアーダルベルトに尋ねてくるが間髪入れずに否定した。
「この間、アデール王国の副都の迷宮30階層でタイタンスネークと言う堕ちたドラゴンとも言われる蛇の魔物と戦ったが、驚異度は段違いだろう」
「あの時ですらこの子供の回復魔法が無ければどれだけ犠牲が出ていたか分からないんだ。迷宮と違い天井の無い場所で空飛ぶドラゴンを相手にするのは全滅すらチラつく程だぜ」
「そもそも本物のドラゴンとなりゃ刃が通るかどうかすら分かんねえしな。どう戦うかじゃねえ。どう逃げるか考える相手だぜ?」
ダールトンに、と言うよりシャルロッテを説得する様に説明していくアーダルベルト。ダールトンは顎をさすりながら成る程、と聞いているがシャルロッテの方は――。
「それで、どうすればその場所に行けるかしら?」
「無理だって! 命からがら逃げて来たんだぞ!?」
全然効いてなかった。
「流石に精霊の愛し子であるアイリス様を危険にさらすのは……」
「その愛し子が呼ばれていると言うのよ?」
「「「……」」」
ダールトンが苦言を呈そうとするが、シャルロッテにそう言われると何も言えなくなってしまった。
「私もこの子を危険にさらしたい訳ではないわ。でも何かに導かれていると言うのであれば本人には危険は無いのではないかしら? リアースレイ精霊王国でも希少とされる巫女様よりも上位の大巫女様並みの能力を持つ本人が大丈夫と言っているのよ?」
チラりとアイリスに目を向けるとミリアーナに抱き止められているがずっと落ち着きが無く、1人にしたら今にも飛び出して行きそうに見えた。その認識はダールトン達も同じであった。
((精霊の愛し子としての使命かも知れない))
だとすれば避ける訳にはいかない。それはシャルロッテとダールトンの共通した考えであった。
「止められないのであれば、なるべく安全に配慮しなければなりませんな」
「ええ、人任せにも出来ないし私も行くわ」
「シャルロッテ様が!?」
その様を見てダールトンも諦め、シャルロッテはリアースレイ精霊王国への印象を考え自分も付き添う事に決めた。
レイクも止めようとしたが、シャルロッテの目を見てこれは止まらないと分かり自分も参加する事にした。
アーダルベルトは白目をむいて気絶しそうになりながら「取り敢えず、……寝かせてくれ」と呟いてよろけそうになりながら部屋を出ていった。
丸1日走りっぱなしの上にこんな会議に参加させられていたのだ。既に限界だったのだろう。
(えっ!? ドラゴンがいるの?? 怖っ!!)
そして当のアイリスにもドラゴンは寝耳に水の話しであった。
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