第016話 破綻から解決へ
余りの事態に呆然とする国王ギリアムと宰相カールイスを余所に、近衛隊の隊長は冷静に成り行きを見ていた。そんな中ナーバロン侯爵が引き入れた兵士達が我に帰り抜剣しようするのを見て決断した。
「1番2番抜剣! 3番待機、陛下をお守りしろ!! 行くぞ!!」
「剣を捨てよ! 剣を抜けば王家への反逆と見なすぞ!!」
まさかの同士討ち、しかも貴族同士の刃傷沙汰である。兵士達が固まってしまうのも無理は無い。更に取り敢えず何とか剣を抜こうとした所で精鋭の近衛兵からの命令である。
しかも抜けば国家反逆罪に問われるとまで言われては上層部が倒されてしまった現状降伏しか出来ないだろう。
「ナーバロンよ、何が狙いでこの様な真似をした?」
腕を押さえ、脂汗をかきながら何とか止血しようとしているナーバロンに宰相カールイスが歩み寄り問いかけた。
「狙い、ですか。そうですな。陛下には王位をコクリコット姫様のお相手に譲って頂きたいのですよ」
「その様な真似、出来る筈が無い」
「そうですなあ。まあ、そうでしょうなあ」
宰相カールイスの否定の言葉にも青ざめた顔をしながらも不敵な笑みを見せる様子に疑念を持っているとナーバロンは得意気に狙いを話していった。
「ああ、大丈夫ですよ。我々の目的は此処にいる近衛兵や宰相殿の兵士達を足止めする事ですから」
「何だと? どう言う事だ!!」
「グライスロー公爵閣下は今頃姫様方と仲睦まじい時を過ごしておられるでしょうから、邪魔になるでしょう?」
「「なっ」貴様!!」
勿論スカーレットの事も心配だがコクリコットはまだ11歳の子供だ。それに病弱で最近まで寝たきりの生活を余儀なくされていたのだ。
(31歳にもなってそんな幼い子供に手を出すだと? あの軍人の癖にぶくぶく太った豚がか!?)
「陛下、大丈夫です。既にその公爵一派は蹴散らされております」
「「「はっ??」」」
近衛の隊長の言葉に国王と宰相だけでなくナーバロン侯爵達も口を開けて固まってしまった。
国王が怒りに震え、近衛と宰相の私兵を率いてグライスロー公爵一派を断罪してやろうとした所で近衛の隊長に出鼻を挫かれた少し前、コクリコット達がいる後宮にそのグライスロー公爵一派が詰めよっていた。
「此処より先は男子禁制です。お帰り下さい」
「(いずれ成る)陛下の許可は得ておる、どけ!」
「なりません! ならば陛下をお連れしてからにして下さい!」
男子禁制の後宮入り口を守っている3人の女騎士が剣に手をかけて警戒する中、ベルドットは百人もの兵士を引き連れてやって来ていた。
その場にはアイリス達の共をして待機しているレイク達3人もいる。レンリート伯爵軍の騎士と言う体で来ていてベルドットとは面識があったが、ベルドットは現状で他国と揉めるのを嫌って敢えて見て見ぬ振りをした。
それよりも女騎士に対して王になろうと言う自分を拒絶する事に不快感を隠さずにいた。引き連れた兵士達に「邪魔だ。退かせ」と命令し、兵士達に退く様に迫らせた。
「そこまでにして貰おうかな?」
緊張状態の中、割って入ったのはレイク達3人だ。
「この国の国王陛下からの要請でウチの要人が中に招かれているのでね。その間不埒者が侵入しない様に共に警護させて貰っているんだよ。ま、正解だった様だね」
レイクはレンリート伯爵軍の騎士として、ベルドットはメメントリア王国の将軍として互いに面識はあったがベルドットは百人もの数を引き連れている。
相手は女騎士とレイク達、6人しか居ないのだから引き下がるか見て見ぬふりをするだろうと高を括っていたのたが、堂々と割って入られた事に面を食らっていた。
「ウチの主とこの国の国王陛下から直接言われているんでね。押し通ろうと言うのなら死んで貰うよ?」
「フォシュレーグ王国の騎士相手なら、我等が手を出されないとでも思っているのか?」
ベルドットはその物言いに動揺はしたが、脅しだと判断した。が、そんな訳が無い。レイクは意味が分からないと首を捻るがリックとトマソンは苦笑いだ。
「何を勘違いしてるのか知らんがウチ等ならこの程度の人数は意味無いのよ」
「……無駄死にする事も無いだろう。引き下がった方が良いぞ」
「っぐ、貴様等っっ!!」
他国の騎士とは言えレイクだけでなくリックとトマソンにまで舐められた態度を取られたベルドットは激昂した。
「おい殺れ! 押し通るぞ!!」
「「「はっ!!」」」
前にいた兵士達が剣を抜いて脅す様に迫って来る。この人数差では本当に斬らなくても降伏させられると考えての事だった。
キンッ、キンキンッ「「「なっ!?」」」
レイクは剣を抜いて迫って来る兵士達を見て大剣、シャルロッテより授かった魔剣レーティッシュを振り迫って来た3人の兵士の剣を切ってしまった。唖然とする兵士達を余所にリックは以前トマソンと共にレイクの魔剣レーティッシュを借りてみた事を思い出していた。
(相変わらず頭おかしいわ)
魔剣レーティッシュは国宝級の中でも最上級の魔剣、魔力を通す事で切れ味や耐久性が増す魔剣だ。しかし一方で繊細な魔力操作が出来ないと無尽蔵に魔力を垂れ流す事になって持ち手の魔力を枯渇させてしまう、扱いの難しい魔剣でもある。
身体強化で魔力の扱いに慣れているリックとトマソンでも扱いきれなかった程だ。シャルロッテがレイクにだけ最上級の魔剣を渡したのも頷ける話しだ。
(と言うかそれを見抜けるシャルロッテ様もシャルロッテ様だよな。怖い怖い)
目の前に百人の敵に囲まれているのにその場に居ない味方を恐れているリック達も中々の大物と言えるだろう。――こんな時に名を出されたシャルロッテもだが。
「なっ、何をしている! さっさとしないか!!」
「いや、しかし……」
ベルドットも勿論その様を見て恐れを抱いていた。しかし後宮に押し入ろうとした事は国王に伝われば流石に断罪されるだろう。軍を押さえている以上優勢ではあるが後に退けない状況であるのも事実だ。
「良いから行かんか! 後宮の他の女共は貴様等の好きにして良いぞ!!」
「「「!?」」」
「まっ、お待ち下さい! 彼処には私の姉も居るのですが!?」
「私も家族がいます!」
「黙れ! それならばその方等で保護すれば良かろう!」
ベルドットが引き連れた兵士達は高位貴族の子息達で公爵家のベルドットには逆らえないが命の危険を感じ動けずにいた。しかしベルドットのその言葉に下卑た欲望を滾らせた兵士達が前に出て来た。
「全員で掛かれば、殺れるよな?」
「なあ、活躍した奴に優先順位があるって事で良いよな?」
「当然だろ? ふひひ」
そう言う兵士達に突き動かされて次々と剣を抜いて前に出て来た。全員ではないのは後宮には貴族の令嬢が多く仕えていて、親族がいたり純粋に倫理観から躊躇いがある者達だ。
多数に囲まれ敗北を確信していた女騎士達は、後宮に避難を呼び掛けるか此処で戦い1人でも外敵を排除するか旬順していた。
「君達は後ろにいてねー。何なら後宮に入って避難してても良いよう? 無駄だけど」
「それは、どう言う……?」
リック達は女騎士達を庇う様に前に出ていたが絶望的な状況の筈なのにその殺る気満々な笑みを見て困惑していた。
「ふっ」
そんな中レイクは欲望で濁った目をした兵士達に斬りかかり、正面にいた兵士2人を袈裟懸けに鎧ごと切り分けた。
更に返す刀でもう1人肩から股まで真っ二つに両断する。
「「「…………え?」」」
その余りの有り様に思考停止する兵士達、その後も右に左に次々と命を刈り取っていく中、漸く我に帰った兵士達が散り散りになって逃げ出して行った。
「うわっ、うわぁああっ! 人殺しいいーーっ!!」
「ひいっ! こんなの聞いてない! 聞いてないぞ!!」
「何だよコレっ!? 何だよコレはぁああーーっ!!」
「逃がせ! 俺を逃がせよーーぐはっ!?」
「リック! ベルドットは逃がすなよ!!」
「知ってるわ! レイクこそ間違って殺すなよ!? トマソン此処を頼む!!」
「ああ、任せろ」
レイクは無差別に殺して回っている訳ではない。欲望に濁った目をした者達を選んで切り捨てていっていた。
混乱の中ベルドットは身の危険を感じこそこそと逃亡を図っていた。3年前の砦を奪われた時と同じである。
「はいそこまで、お前さんは逃がさんよー?」
「きっ、貴様っ、私を誰だと思っている……」
但しその経験は活かせなかった様だった。リックに首筋に剣を突き付けられ身動き出来なくなっていた。
睨み付け様にもリックの何時でも首をはねると言わんばかりの鋭い視線に、自分の命を何とも思っていないのが分かってしまったのだ。
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