第014話 治療と西の魔物
「病人がいるのですよ? 静かにして下さい」
「……ふう。だが、確かに私は幼い頃からコクリコット程倒れたりはしていないが鍛練等で怪我も多かった。回復魔法を受けたのはコクリコットよりも寧ろ多かったかも知れないぞ?」
「確かに、でもそれならば回復魔法が原因では無いのではないですか?」
「それは治療をすれば分かる事だわ」
「それは、でも間違っていたら危険ではないですか?」
「回復魔法を止めたら体調が安定したのでしょう? そのアドバイスをした相手が保証しているのよ?」
「くっ」
「もう良いだろう。お前達のこれ迄の献身に疑いは無い。今回の治療は国王陛下であるお父様も許可している事なのだ。それに意を唱えるつもりでは無いのだろう?」
「はっ、はい。……それは勿論でございます」
陛下の名を出されてはこれ以上何も言えない。熱くなってしまったがコクリコットが治るのであればそれは自分達にとっても喜ばしい事なのだ。私事でそれを止める訳にはいかない、自らにそう言い聞かせて引き下がっていった。
上手く行く事を願うが、もしこれで治療が上手く行く様なら自分達が苦しめたも同然だ。後でコクリコット姫様に幾らでも謝罪するしかないだろうと覚悟して。
「つまりシャルロッテは軽い怪我や病でも、高度な回復魔法を掛けて貰える立場の人間しか掛からない病だと言うのね」
「魔力が固まっていると言う事と、回復魔法を止めて安定したと言う事からの予測ですが」
「まあ、……理屈には合っていると思うわ」
「それよりも先ず治療よ。お互いに無理はさせられないから経過観察をしながら進めて貰うと言う事で良いと思うのだけど、……どうかしら?」
「そうだな。コクリコット、この子の手を触れても良いかな?」
「はっ、はい。お姉様、宜しくお願い致します」
ベッドの脇まで促されたがコクリコット姫の処に手が届かない。――俺の背が低いからじゃないよ? ベッドが大き過ぎるんだよ?
侍女さん達がコクリコット姫を近くまで移動させて、手が届く様になったので手の甲に手を乗せた。後はリリィとネネェに任せるだけだ。
『任せるのじゃ』
『リリィ? ネネェは3日も掛けないで、魔力を抜くだけでも充分だと思うなのー』
『それではまた魔力が固まってしまう可能性があるのじゃ』
『魔力操作を覚えれば良いなの。後は自分の努力なの。そんな事より主は帰りたがっているなのー』
『魔力操作を覚える前に具合が悪くなるかも知れんし、そうなったら回復魔法も使えんじゃろ』
『普通の子供は皆んなそうなのー』
まあ、そうだろうけど子供相手だからなぁ。ちゃんと治しても良いと思うんだよ?
『良いのなのー? 主が言うなら良いけどー』
仕方がないよな。けど俺も手伝えば早く終わらないかな?
『回復魔法は逆効果じゃぞ? それに魔力を抜くのは魔力操作で出来るじゃろうが、お主では他人の魔力を吸収する事になるから気分が悪くなるのじゃ』
――止めとくか。
『それが良いなのー』
うあー、相変わらずリリィ達の魔力が清浄過ぎて気持ち悪い。これで3日間? 人格変わっちゃうんじゃないかな?
寝よう。――アイリスはふかふかそうなベッドに誘惑されてあっという間にすやすやと眠りついてしまった。
『はあ、……やっぱりこうなったのじゃ』ジト目
『なのー』困り顔
「治療はしているわ。魔力の動きを感じれば分かるでしょう?」
コクリコット専任の医師達が突然コクリコットのベッドに突っ伏して寝出したアイリスに困惑しているとシャルロッテがフォローした。
「魔力って感じ取れるものなの?」ボソッ
「私も魔力を扱いますが私には無理ですね」ボソッ
ビアンカの疑問に「シャルロッテ様なら出来るかも知れませんが」とナージャが答えていた。
シャルロッテが出来るでしょ? と言う雰囲気で言っていたので出来ない医師達も何も言えなくなっていたが、確信犯だろう。
「シャルロッテ、治療に時間が掛かる様だけど何時までも皆んなで此処に留まる訳にもいかないんじゃないかしら?」
「まあそうなんですけど。あの子を1人残して行く訳にもいかないですし、もう少し様子を見てみましょう」
「まあ、確かに……」
半眼になってアイリスを見下ろすビアンカだが確かにアイリスを1人残すのは怖い。と言うかあり得ない。シャルロッテが残ると言うなら大丈夫だろうけど……。
チラリと横のナージャを見るとすやすや眠るアイリスとそれに困惑しているコクリコットに頬を染めながら熱い視線を送っていた。勿論カメラも活躍させている。
スカーレットが気を利かせてコクリコットに寄り添って話し掛けていたが、スカーレットはナージャの庇護対象範囲を超えていた様だ。
(テコでも動きそうに無いわね。1人で離れる訳にもいかないし、結局付き合わされるのか)
ナージャに冷たい視線を送りながらビアンカは、仕方がないので近くの席に座り部屋付きの侍女にお茶を頼んでやり過ごす事にした。
(うーん、アイリスちゃんの主として来たけど国王陛下には挨拶を済ませてあるし、本来私が此処に来る必要はなかったのではないかしら?)
ビアンカの顔を売ろうとしたシャルロッテの罠である。
その頃、シャルロッテに雇われてこの国に来ていた傭兵達は、新たにビアンカの護衛として連れられて来た者達と擦り合わせをしていた。
「西側の魔物が増えてはいるんだ。……ただスタンピード程ではないんだよな」
「他の地域と変わらない程度に落ち着いているからな」
「寧ろ今まで西からの魔物が少なかった方がおかしいくらいなんだ」
「……成る程な」
「それで? シャルロッテ様はその調査をしろってか」
話しを聞きながら資料を見ている者達はアデール王国副都の迷宮でアイリスと共にしたルトルートとアーダルベルト達である。
アイリス達と共にアデール王国を脱出した後はダールトンに請われてアイリスとビアンカ達の護衛として雇われていたのだ。
それをシャルロッテの間者に嗅ぎ付けられシャルロッテからダールトンを説得? してシャルロッテに雇われる事になったのだ。
「俺等も戦闘は出来るがメインは情報戦で雇われているからな。そっちにこれ以上人数は割けんのよ」
「そうは言っても俺等は迷宮とかの魔物との戦闘が専門の探索者だぞ? 魔物を狩ってまわれば良いって訳にはイカねえんだろ?」
「調査についてはこっちでやるさ。お前等にはその護衛を頼みたいんだよ」
「おう、そう言う事なら構わんぜ。なあアーダルベルト」
「まあ、……そうだな」
一方、次期王位を狙うベルドットはコクリコットの見舞いにスカーレットが向かった事を聞いていた。
「国王と宰相は執務に戻ったと言うのだな?」
「はっ」
リアースレイ精霊王国は愚かにも自身の案を受け入れなかった。フォシュレーグ王国も現王家に取り入ろうとしている時点で敵と見て良い。
「となると国交を結ばれ不平等な関係を作られる前に事を起こさねばならないな」
不平等な関係であろうと双方に現王家を支持されてしまうと王家の権勢が強まり自分達が主流派から外れてしまう。それ自体も受け入れ難い事だが外部の勢力が入る事で3年前に麓の領地、砦を奪われた真実。
アデール王国から密輸した酒に酔い、薬を盛られ、味方を見捨てて逃げ帰った事が明るみに出てしまうかも知れない。それが公にされると国民の支持を失い砦で死んだ兵の遺族からも敵対されてしまうだろう。それは軍を掌握した支持母体を失う事と言うだ。
「この国を食い物にされる訳にはいかんからな」
ベルドットは次期国王に成るべき人間でありその程度の失態は許されて当然だと考えている。それなのにこんな事に気を使わなければならない事に憤慨していた。
「兵を動かすぞ。この国を傀儡国家にする訳にはいかないのだ!」
「「「はっ!」」」
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