第012話 シャルロッテの暗躍
「それで、何故ベルドットなどに好き勝手させているのですかお父様? 確か私がアデール王国に向かう際に麓の砦を落とされた責任を取らすと仰っていましたよね?」
「う、うむ、それなんだがな……。アヤツとアヤツの父親の工作によって軍部を抱き込まれてしまっていたのだ」
口惜しそうに怒りを滲ませて話す内容は、ベルドット親子は砦が落とされたのは兵士の責任ではなく戦力が足らなかったからだと死んだ兵士の遺族も抱き込み主張した。敵前逃亡して生き残った兵士達も自分達の責任にされたくないからとその説明に乗っかってしまったのだ。
軍部と遺族を抱き込まれ国中に政策が悪かったのだと触れ回られてしまい、その後に処分しようとしても王家が軍に責任を押し付けたと国中から批判される為に出来なかったと言う事だった。
「お前が去って直ぐに処分をしようとしたのだがな」
「砦の兵士の数は充分でしたのに」
重いため息を付く国王に宰相も口惜しそうに呟く。それを聞いてスカーレットも先程のベルドットや兵士達の態度を思い出し苦々しい思いになった。
「あの男はコクリコットを正妃に、私を側室に迎えてやる等と宣っておりましたが?」
「何と!?」
「あんな男にやれる訳がなかろう!!」
「王家を乗っ取るつもりですか……、増長したモノですな。陛下、流石に此処まで来ては看過出来ません。世論を無視してでも断罪すべきかと」
「ああ、だが軍を抑えられている現状ではな。近衛兵だけでは返り討ちにあうぞ」
「そうですね。先ずは姫様方の安全を考えねば、……取り敢えずコクリコット姫様の治療を、上手く行けばその後スカーレット姫様と共にフォシュレーグ王国に避難させて頂けませんか?」
「ふふっ、構わないわ。まあその必要も無いかも知れないけど」
「? それはどう言う事でしょうか」
宰相の願いに不敵な笑みを見せるシャルロッテ、それを見てビアンカは(コイツまた何かヤってるな)と半眼で見つめていた。
――所変わって街の中、ビアンカの言う通りシャルロッテによって連れられて来られた傭兵達は外からの噂話しを流していた。
「そんな訳ねえよ。子爵の兵士なんて百人程度だぞ? 徴兵したって千人いかねえくらいだろ。砦の兵士は千人て聞くぜ。普通に落とすにゃ3千人くらいは必要だろ」
「いやいや、徴兵って殆んど農民だろ。もっと必要じゃないか?」
「確かに、正規兵が千なら万は必要かもなあ?」
他領から援軍でも呼んだんじゃないかい?
「無い無い、他領の援軍なんて頼んだら謝礼の方が高く付くだろ。領地は広がるが農地は遠いし維持管理も面倒な場所だぞ?」
じゃあ何で砦が落とされたんだい?
「何でも女を送り込んだり密輸で酒を購入させたりしてたらしいけど、そん時は安酒に眠り薬を仕込んだらしいな」
――安酒?
「高級酒に仕込んでも何時飲まれるか分からんだろ?」
「まあ逃げ延びた連中はその高級酒に手を出してたんだろうよ。実際軍の高官は殆ど逃げ延びたらしいしな」
「ああ、酒で眠らされた奴等は捕虜として捕らえられ、酒も飲まずに砦を守ろうとした勇敢な兵士達は倒された。それなのに敵前逃亡したその国賊共が死んだ兵士の遺族を抱き込んでるなんて質の悪いジョークだよな」
「違いない!」
「「はっはっはっ!」」
シャルロッテにより近隣の生態調査と言う名目で送り込まれた傭兵達は調査と共に宿屋や酒場等でこの様な会話をしていた。
アデール王国とは関係無い傭兵の話しで、旧アデール王国北部では当たり前に噂されていた話しだと聞いてそこそこ信憑性のある話しではないかと思われた。
当初住民から警戒されていた傭兵達だが最近被害が増えていた西からの魔物を倒して肉や毛皮等の素材を卸してくれる有難い相手として受け入れられていたのも大きい。
ベルドットが抱き込んだ兵士達も監視をしていたが、傭兵の数が多くそこかしこに行く上、城のレンリート伯爵家の兵士達の監視の必要もありどうしても手が足りずその話しは静かに、しかしあっという間に広まっていった。
「既に遺族側の切り崩しをしているわ」
「何と、その様な……」
「これが今現在王家に付くと言っているリストね」
そう言ってシャルロッテに渡されたリストには遺族である貴族家の、実に8割の名が連なっていた。それを見た国王と宰相はか細い声で「……凄い」と呟くしかなかった。
ビアンカは他国でお前のする仕事か? と疑問を持っていたが。
「陛下、これならば軍の上層部は抑えられたままですが、近衛兵と合わせれば此方が戦力的にも上になりますな」
「うむ、そうだな。……どうするべきかな」
ベルドットの王位への執着が判明し、出来なかった断罪が現実味を帯びてきた。
しかしまだ先が不透明な状況の為、難しい舵取りが求められる。一つ間違えれば取り返しのつかない事態にもなりかねないのだから。
「先ずは王家の守りを固めるべきでしょう。ベルドットの目的は王位を得る事の様ですし」
難しい顔で付き合わせている国王と宰相にシャルロッテが助言する。
「時間は味方ですよ? 時が経てば経つ程真実が広まり世論は陛下へと向かうのですから」
「……成る程、ならばそなたの言う通りにさせて貰おう」
「はい、その為にもコクリコット姫様には是非とも体を治して頂かないといけませんね」
そう言ったシャルロッテの笑顔は誰もが見惚れる程綺麗な笑顔であった。中身を知っているビアンカにはうすら寒いモノを感じさせただけだったが。
おやつのお代わりも無いので部屋で微睡んでいたら俺だけヴェルンさんに呼ばれて広間に行った。
「此方がコクリコット姫様の治療をさせて頂くアイリスですわ」
「ん」
「アイリスちゃん、この方はこのメメントリア王国の国王陛下よ」
ふぁっ!? 先に言ってよシャルロッテ様! 知ってたらちゃんと挨拶したのに!!
『出来るかのう?』
『無理だと思うなのー』
「うむ、メメントリア国王のギリアム・アル・メメントリアだ。それにしてもシャルロッテ殿を見た時には女神の様に美しいと思ったが、これまた天使と見紛うばかりの神秘的な可憐さだな」
「ふふっ、お褒めに与り光栄ですわ」
どうしよう。何か言っているけどもう1回挨拶した方が良いかな!? 取り敢えず怒られない様にシャルロッテ様と仲が良いアピールしておこう。
『何故そう言う結論になるのじゃろ?』
『人見知りして母親に抱き付く子供なのー』
その後、シャルロッテ様の取り成しによって取り敢えず病気と言うコクリコット姫の治療を俺が出来るかどうか診てみる事になった。
「スカーレットも行くのか?」
「はい、私は未だ帰ってからコクリコットに会えていませんから」
「うむ、私は執務があるから席を外すが、ずっとお前に会いたがっていたのだ。喜ぶだろう」
「はい。そうだと良いのですが」
そう言ってスカーレット姫が案内を買って出てくれた場所はお城の奥にある男子禁制のエリアだ。今回は治療の為と言う事で国王の許可の元、特別に入る事が出来るそうだ。
一緒に来てるのはビアンカお姉様にシャルロッテ様とナージャさんだ。アリアとカチュアは病気の姫と会わせるのは良くないからと来ていない。
まあ遊びに行く訳じゃないし、来てもやる事無くて暇だろうしな。
『緊張しっぱなしになるじゃろうし、お主みたいに所構わず眠りこける事も出来んじゃろうしの』
『連れて来たら可哀想なのー』
そして当然ミリアーナも同行を拒否された。ミリアーナは傭兵として雇っているけどビアンカお姉様の正式な配下ではないからとナージャさんに言われていた。
(ミリアーナを女の園に連れて行くなんて恐ろしい真似出来る訳ないじゃない)
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