第010話 メメントリア王国入国
飛空挺の中、大広間は左右と前方に大きな窓がはられていて外の景色が見える様になっていた。眼下に見える広大な麦畑から先、更に広大な緑深い山々が近づいて見えて来ている。
遠く離れた一際高い山々には夏も終わりだと言うのに山頂付近には白く雪化粧がされたままで一際目を引く景色になっていた。
それから山の上空まで行くと一本の細い道が続いていて、暫くすると山の中腹辺りで畑に囲まれた街が見えて来た。
「ほら、アイリスちゃん。あの真ん中の大っきいのがお城なんだってよ?」
「アイリスちゃん寝てたけどアデール王国のお城も通ったんだよ。見れなくて残念だったね」
「ん」コクリ
カチュアに言われて見るとアデール王国やカントラス王国の城に比べると、寧ろ砦っぽい建物が見える。後アリア、アデール王国のお城は見た事あるからな?
「家が尖っているのはね。雪が積もらない様にしてるんだって」
「アデール王国のお城も何か尖ってたよね?」
カチュアが言う様にお城? 以外の多くの家々は屋根が尖って出来ている。雪が自然と落ちる様に出来ている様だ。
後アリアの言う様に確かにアデール王国のお城は屋根が尖ってたな。あの時は見栄え重視だと思っていたけど、カントラス王国も同じだったし雪対策だったのかも知れない。
俺の住んでいたシラルの町でも冬には何度か膝まで積もる事もあるし、雪降ろしの仕事もお城みたいな大きな建物では大変だろうしな。
この国のお城の屋根は平たいけどそれは上で兵士が鍛練したりするそうだ。冬の雪かきも兵士の鍛練の一つだそうで、アリアとカチュアが得意気になって教えてくれた。
飛空挺はお城の前の広場に停められた。お昼に来た時はお城の上に停まったらしい。まあ先触れも無くこんな大きな飛行物が飛んで来たら、大騒ぎで大勢人がいる広場になんか停められる訳ないのか。
魔動カートで下まで降りてから外に歩いて出ると冷たい風が頬を撫でる。
夕方、と言うか日も落ちかけてもう夜になるがそれにしても肌寒い。もうすぐ夏も終わるけどシラルの町なら秋から冬に入る位の寒さだな。
パジャマから着替えた時に上着を着させられたけど正解だった。
『皆んなの前で下着姿になって着替えさせられても平然としとるとは、相変わらず羞恥心が死んどるのじゃ』
男の着替えなんかに何の価値があるんだよ。
『男らしい、なのー?』
『無理がある解釈じゃの』
『なのー』
北の高地にある国なのがこの寒さの原因らしい。冬は大雪で大変らしいしこんな所に住まなければ良いのになとは思う。
飛空艇を降りたらレイク達の先導でシャルロッテ様が先頭に、続いてビアンカお姉様とスカーレット姫様。その後ろに俺とカチュアとアリア、ダールトン様達が続いて城に向かって歩いて行く。
「……シャルロッテ様、……お疲れ様です?」
お城の前には百人程の兵士が出迎えに来てシャルロッテ様に挨拶して来た。けど挨拶した老兵士は何か目を見開いて驚いている様子だ。
「何? 何かあったの?」
「あっ、いえ何もありません」
「――シャルロッテがまた美人になっているからでしょ?」
「あら、そんなに変わりました? 確かに肌艶は良くなっている様だけど」
「鏡見てたでしょうに、喜びが滲み出ているわよ?」
と思ったらビアンカお姉様がジト目になって答えていた。確かにシャルロッテ様は元から凄い美人だったけど、さっきまで掛けていた美容魔法のお陰で更に磨きが掛かっているのだ。
俺も見たらビックリしたんだよ?
『一応お主がやった事になっとるんじゃがの』
『主すぐ寝てたなのー』
「ゴホン、ビアンカお嬢様失礼しました。――よくぞご無事で、此れからは我々が護衛に就きますのでどうか御安心を」
「ええ、宜しくお願いするわね」
出迎えに来ていた兵士達はレンリート伯爵の兵士らしい。メメントリア王国の兵士は居ないのかな?
「それで、変わりは無いかしら?」
「はい、シャルロッテ様」
「そう、取り敢えず国王陛下の所に行きましょうか。スカーレット姫の事もありますし」
「そちらがスカーレット姫様ですか。お初にお目にかかります。レンリート伯爵軍にて将を任されておりますバルトレッドと申します」
「ええ、メメントリア王国第一王女、スカーレット・メメントリアです」
お互いの挨拶もそこそこにお城に入る。
ビアンカお姉様のお屋敷と違って余り飾り気の無い無骨な感じの内装が目に付く。まんま砦のイメージだな。
そこにビアンカお姉様の兵士とは違う兵士達10人程が待ち構えている。メメントリア王国の兵士かな? 砦の中で待っていたのか。
「此れより先は我々が案内する」
「城の中を勝手に歩き回られる訳には行かないからな」
「言葉使いがなっていないわね。まあ良いわ。国王陛下の所に案内なさい」
「……此方へ」
シャルロッテ様が相手をして彼等に付いて行く様だ。
にしても中も風が入らないだけで結構寒い。これ部屋の中まで寒いとか無いよな? 何かもう気分駄々下がりなんだけど? 飛空挺の中で治療すれば良くないか?
『部屋から動けない容態なのかも知れんの』
ああ、成る程。
(第一王女のスカーレット姫様に挨拶もしないなんて、どうなっているのかしら)
ビアンカはこの国の兵士達の反応に不快感を感じていた。
スカーレットの手前、顔には出さずシャルロッテの後を着いて行く。チラリとスカーレットの方を見ると微笑んではいたが目は完全に据っていた。
後ろを見るとアリアとカチュアがガチガチに緊張してアイリスの手を左右から握り締めていた。当のアイリスはのほほんとして辺りを見回しているが。
(ナージャも見てるしシャルロッテも居る。これならアイリスちゃんが知らずにやらかす事はなさそうね)
「リアースレイ精霊王国の方々をお連れしました!」
「入れ」
2階の一室まで来ると引率した兵士がノックして中から入る様返事がある。けど俺リアースレイ精霊王国の方々じゃないんだけど? て言うかダールトン様くらいだよな?
「陛下は何処にいるのかしら?」
兵士がドアを開けて入る様促すが中を一瞥しただけでシャルロッテは中に入らず兵士を問い詰めた。どうやら違う部屋に案内された様だ。何だよ面倒臭いな。
「どうした。さっさと入らんか!」
「天空の間は開いているかしら?」
「はい、と言うか貴賓室は全て抑えておりますよシャルロッテ様」
「結構、では其処に着きしだい陛下を呼んで頂戴」
「畏まりました」
「どうやら別の部屋に案内されてしまった様です。ビアンカお嬢様、お手間を取らせて申し訳ありませんが移動しましょう」
中から怒鳴り声が聞こえるけどシャルロッテ様は無視して仲間の兵士と話しを進めてからビアンカお姉様達に詫びて歩き出した。
「待てと言っている! 勝手に何処かに行くでない!!」
俺も行こうと部屋の前を横切ったら偉そうに着飾ったおっさんがシャルロッテ様に向かって怒鳴り付けてきた。俺(35歳)より少し上くらいか? そこそこデカくてガタいも良い。腹がへっこんでたら厳つい顔に威厳を感じたかも知れないな。
『つまり何も感じてないなのー』
だっておっきな声を出すからアリアとカチュアがびっくりしちゃったじゃん。今も震えて怖がって。いや、何か俺まで2人に引っ張られてナージャさんヴェルンさんの影に隠れさせられたんだけど??
『お主を守ろうとしたのじゃろ』
『案外冷静なのー』
「――はあ、何か用かしら?」
「なっ、貴様! 私はこの国の公爵家の人間だぞ!! 貴族のなりそこない風情が何だその態度は!?」
「レンリート伯爵家よりも小さい小国風情が、同列に語るとは物を知らない様ね」
面倒臭そうに返事をするシャルロッテ様に公爵家? のおっさんはドンとドアの柱を叩いて怒りを露にしている。それを心底冷たい視線で切り返したシャルロッテ様、俺の背筋にも冷たいモノが走る。やっぱり怖いなシャルロッテ様。
「なっ、ぐぐっ、何と無礼な! やはりなりそこないはなりそこないだな! 貴族とは思えん口のきき方だ!!」
「語彙力が無いわね。そもそも自国の姫がいるのに先に挨拶も出来ないの? 貴方の方こそ貴族失格じゃないかしら?」
「ふん! アデール王国に行った時点でどう扱われるかは察せる。どうせあの王家に娼婦の様に扱われたのであろう! そんな女をこの国の姫などと扱えるか!!」
堂々とクズ宣言。スカーレット姫は庶民の俺にも優しいんだぞ?
『庶民……?』
『スカーレットは主を庶民扱いしてないと思うなのー』
「はあ。そもそもスカーレット姫がアデール王国に人質として向かったのは、麓の農地を奪わて食糧不足になったからじゃない。軍のトップだった貴方達グライスロー公爵家の責任でしょう」
「あっ、アデール王国との国力の差を知らんのか! ド素人が!!」
「麓の農地を守る砦は要塞化していたし相手は子爵家単独だったそうじゃない。充分対処可能だった筈よ。自分の無能を棚に上げて、本来貴方が取るべき責任を王家の姫様に押し付けておいて、何を偉そうにしているのよ」
「む、ぐぐ」
まるで目にして来たかの様に言うシャルロッテに言い返せず顔を怒りで真っ赤にしているおっさん。良い気味だ。
「それにスカーレット姫はリアースレイ精霊王国が庇護下に置いていたから清いままよ。ねえダールトン様?」
「はあ、まあそうですな」
「おお、その方は確かリアースレイ精霊王国の御仁であったな! 私はグライスロー公爵家の当主で将軍位に就いているベルドットだ。その方と話したかったのだ! さあさあ此方へ、良い話しがあるのだ!」
「申し訳ないが私は(アイリスの後見の)ビアンカ様の付き添いとして来ていますので、勝手な真似は出来ません」
「そう言わずに、貴国にとっても必ず良い話しだと思うぞ?」
ベルドットが尚も説得するがダールトンは首を横に振って拒否をした。
王族に次ぐ権力を持ち現在では軍部も掌握していて王族すら気を使う相手となっていたベルドットは、貴族でもないダールトンに怒りを爆発させそうになったが何とか堪えた。
「――フォシュレーグ王国は要らないと思わないか?」
業を煮やしその場で口にした言葉でダールトンが片眉を上げて自分を見てきたのを興味を持たれたと感じてビアンカ達を尻目に説得を初めた。
「間にフォシュレーグ王国を挟む必要は無いだろう? 直接取り引きが出来ればフォシュレーグ王国に掠め取られる利益を我等で分け合えるではないか」
さも素晴らしい案だと言わんばかりに両手を広げ自信満々の笑顔で言うベルドットをアイリス達子供組? 以外は冷めた目で見ていた。
「なっ! 何だその目は!?」
「申し訳ないが我々にとって国交を築く価値があるのは(アイリスの居る)フォシュレーグ王国のみ、せめて中堅国家程度の規模になって頂かないと」
「そんな誰もが思い付きそうな事を自信満々で言われてもね」
けんもほろろなダールトンにシャルロッテの嘲笑。怒髪が天を突き剣に手を掛けるが、レイクが間に入り臨戦態勢に入った事で怒りを抑え、ベルドットはシャルロッテを睨み付ける事しか出来なかった。
ブックマークや何らかの評価を頂けると励みになるので大変嬉しいです。
これからも宜しくお願い致します。




