第009話 メメントリア王国へ
飛空挺の中ではナージャがシャルロッテからアイリスを受け取ろうとして拒否されていた。
「なっ、何故ですかシャルロッテ様? はっ! まさかシャルロッテ様、アイリスちゃんに邪な感情を!?」
「貴女と一緒にしないでくれるかしら?」
当然そんな気持ちは無い。アイリスが寝ながらも神聖っぽい魔力を自身に施されているのを感じ手離せないのだ。自身の美容と健康の問題なのだから当然だろう。
寧ろその特権を存分に味わっていたであろうナージャに重い殺意を覚える程だ。
そんなやり取りを離れた場所から見ているアリアとカチュア。
2人はメメントリア王国からの往路でシャルロッテ一行が乗り込み、挨拶も早々にダールトンをやり込めている姿を見て戦々恐々とさせられていた。
シャルロッテが子供の頃から振り回していたダールトンとの関係は未だに続いているのだ。
ダールトンはヒストロスやアニーニャも気を使う相手、ビアンカに対してすら自信溢れる対応をするのにシャルロッテ相手には見る影も無い。
その姿はシャルロッテの長身と人並み外れた美貌もあって畏怖を抱かせるのに充分だった。
「アイリスちゃん、良くあの人に抱き付けるね」
「アイリスちゃんってやっぱりおっぱい大きいのが良いのかな?」
「ナージャさんと一番仲が良いからどうかな?」
「でも(胸が大きい)ミリアーナさんとも仲良いよね」
カチュアはナチュラルにナージャに失礼な事を言った。否定しなかったアリアも他意は無かったが大概だろう。
アリアとカチュアはアイリスの奴隷だ。重税に苦しむ貧しい村で村の救済の為に人減らしの為にアイリスに借金奴隷として買われたのだ。
その後は痩せ細った体を回復させる為にアイリスからの回復魔法と食っちゃ寝生活が続いていた。豪華な部屋にベッドに食事、スイーツまで付く生活は分かっていても自分達が貴族の令嬢にでもなった様な気分にさせられていた。
暫くして侍女見習いの仕事をする様になって夢は覚めたが、それでも部屋や食事は豪華なままだし、日々の食事にすら困窮していた村での生活と比べれば雲泥の差だ。
そんな2人にとって色々と気遣ってくるナージャと無遠慮に詰めてくるミリアーナには次第に心を開いていった。
だが良く分からないのがアイリスだ。平民と聞いているが貴族も高貴そうな客人も気を使う相手、普通なら恐怖を抱いていただろう。
しかし蓋を開ければあの性格だ。恐怖よりも見目の麗しさとズレた性格が無駄な神秘性を感じさせ、幼いながらも見惚れてしまっていた。
2人からすれば自分達より少し背の高い可愛い男の子だ。雇い主でもあるし仲良くなっておきたい相手だろう。
まあ実際一緒にダンスや勉強をしたり、お昼寝したりと子供同士としては仲良くはなっている。
ナージャが本の読み聞かせをすると必ず途中で寝てしまったり、仲良くなろうとスイーツをあげたら叱られたりもしたが、概ね良い関係性を築けていると言えるだろう。
アイリスはお腹いっぱいなんだなと喜んで貰おうとしてアリーニャ止められ絶望していたが。そんな姿が2人からも時折手の掛かる弟妹の様に見えている事に気付けば更に絶望していたかも知れない。
「ナージャ、貴女はあっちの本物の子供達の相手をしていれば良いでしょ?」
「……分かりましたビアンカお嬢様。ですがアイリスちゃんも本物ですからね」
「シャルロッテ、貴女もそんなキャラだったかしら?」
主であるビアンカにまで圧を残してアリアとカチュアの下に行くナージャ。アイリスを抱きながら話しをしようとするシャルロッテ。
ビアンカが2人を見てちょっと疲れた様にジト目になってしまうのは無理も無いだろう。
「それで? 結局どうなっているのよ? 一から話して頂戴」
ビアンカに促されてシャルロッテはアイリスを抱っこしたままソファーに座った。
「私が幼い頃からアデール王国に潜入して人も物資も送り込んで様々な工作していたのはご存知ですよね?」
「ええ、勿論」
シャルロッテがアデール王国に初めて潜入したのは10歳程の頃だと聞いていた。その頃からお父様やダールトン達を振り回して今現在その敵国を落とす処まで来ているのだ。
(それはお父様も頭が上がらないわよね)
「この子が起こした数々の騒動は潜入させていた間者が利用して教王国商業王国、王侯貴族の評判を著しく下げていったのよ。それに焦った教王国商業王国は精霊王国を追い出し、王侯貴族を利用してフォシュレーグ王国に戦争を仕掛けさせた訳です」
「確かに、次々問題を起こしてくれたわね。――色々と」
「ふふっ。泣き言でも言われるかと思ったのですが、意外と余裕ですね」
「あれだけ次々と問題が起これば開き直りもするわよ」
「(父親の)グランツ様は未だに泣き言ばかりですけどね」
シャルロッテをジト目で睨むビアンカだが、父親の情けない所を暴露されて何とも言えない表情になってしまった。
「はあ、――それで? それが何で戦争に繋がるのよ?」
「ただ精霊王国を追い出してもアデール王国の愚王を納得させられないでしょう? 飛空挺だけでなく精霊王国からしか得られない希少品は沢山あるのですよ?」
アデール王国では精霊王国の酒や宝飾品、化粧品等が特に有難がれていた。
「だから飛空挺の技術を手に入れ現物は愚王に、更に戦争を支援してフォシュレーグ王国もアデール王国のモノとする。最終的には精霊王国と繋がりがあるカントラス王国も滅ぼす。そんな絵図を描いていた筈ですよ」
「アデール王国じゃなく教王国商業王国が?」
「彼等からすれば精霊王国の影響を排除出来れば良いのです。誰が治めようと自分達の独占市場に出来るのですからね」
その後アデール王国東部北部は軍事的に抑えている事、南部は政治的に抑えている事を具体的に聞いていった。
「西にも何かしたのではなくて?」
「別に、まあ独立したければすれば良いとは伝えたわね」
(敵に囲まれた状況で独立なんて、敵に回れば潰すと言っている様なモノじゃない。無関心を装っているのが余計に質が悪いわね)
ビアンカは頭が痛くなる様な気分で眉間を抑えながら話しを続けていった。
「アイリスちゃん、起きて、そろそろ着くわよ?」
「んあぅ?」
シャルロッテ様に起こされて周りを見渡すと、豪華なソファーが並んでいる大きな部屋にいた。
どうやら何時の間にか飛空挺に乗り込んでいたらしい。熊のパジャマに着替えさせられてシャルロッテ様の膝枕されてるし。
「アイリスちゃーん、こっちだよー?」
「こっちこっち、もう山が近いよ!? 一緒に見よ!」
ぼうっとしながらもキョロキョロとするアイリスにアリアとカチュアが呼んでいた。
トテトテ「ふぎゅっ」
2人に呼ばれて寝ぼけたままだけど駆け寄ろうとしたらヨロヨロして転んでしまった。うーん、リリィの魔力が残ってて気持ち悪い。ちゃんと抜いておいて欲しい。
『ネネェの魔力でもあるのじゃが? と言うか突然起こされたら予想出来んから無理なのじゃ。いい加減慣れるのじゃ』
『ネネェは主の為に頑張っただけなの!』
「アイリスちゃん大丈夫ですか!?」
「ん、だいじょぶ」
起き上がらないアイリスを助けようとシャルロッテが動くがナージャがいち早く反応して回収されてしまった。
「……」
そんな2人の姿をシャルロッテが両手を広げたまま所在無さげに見送っていた。
(あんなシャルロッテも珍しいわね)
図らずもシャルロッテの見た事の無い光景をビアンカに晒させるアイリスだった。
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