第005話 合流
お昼前、ルクセンガング領の領都上空を飛空挺がゆっくりと旋回しながら都市外れの草原に降り立った。アイリス達を乗せていた飛空挺でメメントリア王国まで行き、現地の情報を得て引き返して来たのだ。
飛空挺から先触れを通してルクセンガング家の屋敷にやって来たのはダールトン達とシラルの町でアイリスの所属していた傭兵ギルドの長をしていたシャルロッテ、スタンピードの時に無類の活躍をしていた傭兵のレイク達だった。
シャルロッテは元々ビアンカの父親である現レンリート伯爵の部下で色々と表と裏で動いていた。と言うかレンリート伯爵を矢面に立たせてアデール王国に対抗する為に好き勝手暗躍していたと言った方が合っているだろう。
レイクにリック、トマソンはそんなシャルロッテに見出だされた凄腕の傭兵達だ。
彼等はリアースレイ精霊王国とメメントリア王国との国交と、レンリート伯爵家との交易についての交渉に来ていたのだが、事情を聞いて直ぐ様同行を決めてやって来たのだ。
そんな中またも青い顔をしたのはアルムールであった。
「な、何故こんなにも早く帰って来たのだ!?」
アルムールは昨晩の美容魔法に対するビアンカへの礼を決めかねていた。若返ったかの様な美容魔法に、ユリアンヌからその価値と今後もお願い出来る様に謝礼をケチるなと圧を掛けられていたのだ。
だが馬車では2ヶ月は掛かる距離なのだから飛空挺で空を飛んだとしてもどうせ戻ってくるにも何日も掛かるだろうと高を括り晩酌をして眠りこけてしまっていたのだ。
「はっ! もしや俺に対する嫌がらせか!? 本当はちょっと離れて隠れていただけで俺を困らせ様としたんじゃ……」
「阿呆な事言っていないで出迎えますよ」
妻のユリアンヌはハリセンがあったら後頭部を叩きたくなっていた事だろう。
ユリアンヌだけでなく控えていた侍女にまで冷たい目で見られていたアルムールであったが、引き摺られる様に執務室から連れ出されていったのだった。
朝の鍛練を終えてお風呂で汗を流して休憩中、もう飛空挺が帰って来たらしく屋敷の人達が慌ただしくしていた。俺もビアンカお姉様に呼ばれて部屋に集まっていた。スカーレット姫様も一緒だ。
その後侍女さんが迎えに来て応接室に皆んなで行くと領主夫妻とマリアンヌ様。それにダールトンさんとシラルの町の傭兵ギルドの長をしていたシャルロッテ様、スタンピードの時に一緒になった傭兵の3人がいた。
『背が高いのがレイクでその右がリック左がトマソンじゃったの』
シャルロッテ様は相変わらず綺麗過ぎて人間味が無いと言うか怖い雰囲気あるなあ。思わずナージャさんの影に隠れちゃったよ。
『顔の事は他人の事言えんじゃろ』
本人の自覚は無いがアイリス自身非常に見目が整っているのだ。元々目鼻立ちが整っていたがリリィの回復魔法でバランスが整えられ、更に美肌美髪になり人並み外れた容姿になっていた。
本人の惚けた調子が周囲に幻想的な雰囲気をもっている幼子の様に見えてしまう程に。
「お久し振りですビアンカ様。肌艶も良さそうで、お元気そうで安心しました」
「本当に、アデール王国を跨いでも往路で1日掛からないのね。それにしてもシャルロッテが此処に来るとは思わなかったわ」
「ふふっ、何時かのお返しになりましたね」
「ああ、アイリスちゃんを迎えに行った時ね。確かに、でもその為だけに来た訳じゃないのでしょう?」
アイリス達がレンリート伯爵領に避難して来た時に領主のグランツにビアンカは無理矢理付いて来ていたのだ。シャルロッテもその事は予想していなかったので図らずも今回その意趣返しとなったのだった。
「ふふ、まあそうですね」
「――相変わらず好き勝手やっているわねシャルロッテは」ジト目
「あら? 私の方も色々大変だったのですよ?」
「シャルロッテの場合は自分の好きにやった結果でしょ? 純粋に、大変な目に遭った私と一緒にしないで頂戴!」
敵国であるアデール王国への留学をさせたのはシャルロッテだ。リアースレイ精霊王国に働き掛けて保護させていたとは言え肩身の狭い思いをさせられていた。
更に最後には戦争に巻き込まれて命からがら逃げる羽目になったのだから怒るのも当然だろう。
「まあ、そう言われるとその通りなのですけど」
「認めた!? そこは伯爵領の為じゃないの!!?」
憤慨するビアンカを余所にシャルロッテはナージャに抱き付いて後ろからひょっこり顔を出して(シャルロッテ視点では)不思議そうに此方を見ているアイリスと目が合ってしまった。
(この子、魔力が増えてる。しかも以前の倍以上、……成長期? 今更? それにしても増え過ぎでしょう。前から1年も経っていないのよ??)
実年齢を知っているシャルロッテからしたらとても信じられない事だった。成長期の子供だったとしてもおかしい事態だ。
(まあ、精霊の愛し子認定される様な子なんだから普通じゃなくて当然なのかしら)
それにしても以前にも増して見目が良くなっている。それこそ精霊と言われれば頷いてしまいそうな程だ。それに何故か前よりも幼く感じるのだ。
シャルロッテは非常に目を引く見目をしている。185cmと言う女としてはかなりの長身で白銀の髪、整った顔立ちに切れ長の碧眼、爆乳と、更に自身が感情を表に出す事を不得手としている事もあって人を寄せ付けない空気をもたらしていた。
それをモノともせずにアルムール公爵はシャルロッテが準男爵家の令嬢と聞いてほぼ平民なら一晩泊めてしまえばワンチャンモノに出来るかもと舐め回す様な視線を送っていた。
アルムール公爵は見抜いていたのだ。本物の、今まで見た事もない見事な爆乳だと。巨乳派を自認(?)するアルムール公爵としては見過ごせない(どころかガン見してしまう)事実だった。
(ビアンカ嬢の為だけならばわざわざこんな女性を送って来る筈がない。つまりそう言う事だろう。今夜にでも誘ってやるか)
控え目に言ってクズである。
そんな命知らずな事を考えているアルムール公爵の視線にシャルロッテは気付いていたが、それよりも直面する問題にかつて無い窮地に立たされていた。ナージャの後ろからチラチラ自分の様子を伺っているアイリスによって。
(精霊王国の事もあるし何とか仲良くなっておく必要があるのだけど、どうすれば良いのか分からないわね)
以前はナージャが寝ているアイリスをシャルロッテの膝の上に寝かせたらそのまま懐かれたのだが、今はどうして良いか分からない。あの頃のナージャはアイリスを純粋な子供とは見ていなかったから興味本意でそんな真似をしたが、今は寧ろ手放すものかとシャルロッテを威嚇までしていた。
(随分と変わったものね)
散々周囲を巻き込んで振り回してきたシャルロッテだが、アイリス相手では分が悪い様だった。
うーん、シャルロッテ様と目が合ってしまった。前はいつの間にか仲良くなっていたんだけど仕方がない。ちょっと怖いけどシャルロッテ様はビアンカお姉様と同じ権力者側だし媚びを売っておかないとな。
「あっ」
ナージャさんの残念そうな声を背にシャルロッテ様に駆け寄って抱き付いていく。相変わらず背が高い、お腹に顔を埋めてしまったぞ。
「ん?」
声を掛けて挨拶もしようと顔を上げたけど顔が見えない。胸が大きいから隠れてしまって顔が見えないんだな。抱き付いたまま仰け反る様にして顔を合わせ様としたけど中々見えない。
どんだけ大きいんだよ、もう! ミリアーナよりも更に大きいからな。俺の顔より大きいんじゃないか?
挨拶が出来なくて焦ってしまって、思わずシャルロッテ様の服を引っ張ってしゃがませてしまった。
「あぅ、こっ、こんちには」
「ええ、こんにちは。久しぶりねアイリスちゃん。元気だったかしら?」
「ん」コクリ
こんちにはじゃねえよ! しゃがみこまれていきなり目の前にシャルロッテ様の顔が来て驚いてしまったじゃないか。挨拶も出来ないのかよ俺は。
くそ、顔が赤くなってしまったのを誤魔化したい。抱き付いて顔を隠そう。
『誤魔化し……??』
『主が分からないなのー』
明日から03時10分と21時10分に投稿します。
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