第004話 お泊まり
風呂上がりユリアンヌは鏡を見て自信満々、喜色満面で夫の前に出ていった。
「どうかしら貴方?」
「ん、あ、ああ、そうだな」
「貴方?」
「すっ、すまん! 何時もは厚化粧をしているし分からんのだ!!」
空気が凍てついた。――マリアンヌ達女性陣からは「アホウなのかコイツは」と言う視線を向けられたのだが、当のユリアンヌは冷たい笑顔の中まま瞳に明確な怒りを宿していた。
「ま、まあ良いわ。それにしてもこれは、マリアンヌの言う通り茶会では騒がれてしまいそうね」
「そうですね奥様。マリアンヌ様の母親と言うより姉と言った方が違和感ないかも知れません」
「あら本当に? おほほほほ、それは困ったわね」
「目立つのが問題なら化粧で誤魔化せんのか?」
全然困った感じではなかったユリアンヌにまた馬鹿夫が余計な一言を言ってしまった。最早才能であろう。
「あら? 私に不細工な化粧をして茶会に出ろと?」
ユリアンヌはブチ切れ、アルムールの味方は居なかった。
男の使用人達は主人の言動を常から予想していて初めから目を合わせていなかったのだ。逆に女性陣は皆冷たい視線を向けていたが、救いが無い処か針のむしろだろう。
因みにユリアンヌに美容魔法をする前に隣町の義母の処に早馬で先触れを出していて、翌日の夕方には此方に来れるだろうと言う事だった。
アルムールとしてはそれも頭の痛い話しだが、更にユリアンヌがアイリスの美容魔法のその価値の高さを絶賛し、女性使用人達にも施していると聞き、その対価をどうするか青い顔をして悩んでいた。
健康に金を掛ける、と言うのは分かる。しかし美容と言われると分からない。シミ、シワ等化粧で隠せるならそれで良いではないかと思うのだ。アルムールがそうユリアンヌに尋ねたらまたしても盛大にブチ切れられたのであった。
完全に自業自得である。
「アイリスちゃん、起きなさい。もう朝よ?」
「んぅ~みゅ」
「くっ、相変わらず可愛いわね」
んん~、ミリアーナ? 何でビアンカお姉様じゃなくミリアーナと寝てるんだ?
「ほらアイリスちゃん、朝食出来たってよ?」
「ぅん……起きゅ」
うーん、あれれ? 裸だ。ベッドの上で寝転がったままキョロキョロ辺りを見渡していると見慣れない部屋にいて、顔を赤くして此方を見ている若い侍女さんが居る。
何だろう? 昨日美容魔法をした1人と言うのは分かる。だから病気とかじゃないと思うんだけど?? 首をひねって不思議そうに見つめているとプルプル震え出していた。何となくナージャさんと同じ匂いがする人だ。
それは良いとして、ミリアーナは何時も通りだけど何で俺まで服を着てないんだっけ? いや、まあミリアーナの所為だろうけど。
『風呂に行く途中で寝落ちしたのじゃ』
『ミリアーナと侍女さん達で主をお風呂に入れてたなのー』
そうか、昨日は夜知らない侍女さん達を相手に美容魔法を掛けて疲れちゃったしな。
その場に居た1人だけのつもりで声を掛けたのに、次々並んで結局ネネェに魔力を貰いながらやる事になってしまったんだった。
こう言う事にはネネェの方が積極的なんだよな。何とか俺の役に立とうとしているんだろう。まあリリィの魔力と同じで魔力が清浄過ぎて気持ち悪いのは変わらないんだけどな。
『主ヒドいなのー、折角手伝ってあげたのにー』ポカポカ
分かった分かった、悪かったよ。ネネェが頭をポカポカやってきて抗議してくるけど魔力の攻撃? なのか赤子にペシペシやられるくらいの感触がある。
今までリリィはそんな事やって来なかったから慣れなくて不思議な感じがする。
『普通の人には見えんからの。お主がおかしな挙動をせんように敢えて触れんかったのじゃ。リリィが出来ん訳ではないからの。勘違いするでないのじゃぞ? しなかっただけじゃからの? 何時でも出来たのじゃぞ?』
分かった分かった。何だリリィもいきなり圧を強くして。
ミリアーナと呼びに来た侍女さんに服を着させられて、いやミリアーナは先ず自分の服を着ろよ。
「ミリアーナ様はご自分の服を着て下さい」
ほら侍女さんにも言われた。
「あら貴女は私には着させてくれないの? ふふっ」
「……貴女はご自分で出来るでしょう」
俺も自分で出来るんだが??
『主頭揺れてるなのー』
『まだ寝ぼけとるの。今にも寝そうで1人で着替えられる様には見えんのじゃ』
「ちょっ、胸を押し付けないで下さい! 分かりました、分かりましたからぁ! お手伝いしますから離してぇ!?」
俺の着替えが終わったらミリアーナの着替えを見させられた。いや見させられたって言うか俺が寝ない様に見張られながら着替えてるだけなんだけど。
暇だからミリアーナに着替えを手伝うか聞いたらミリアーナは乗り気だったけど侍女さんに止められた。体を動かせば眠気も覚めていくかと思ったんだけどな。
『相変わらず凄いなお主』
ん? そうかな? 何か分からないけど、褒められた。
「ああ! アイリスちゃんミリアーナに変な事されなかった?」
「んぐっ」
食堂に着くといきなりナージャさんが抱き付いてきた。ナージャさんは時折スキンシップが激しくなるんだよな。体をまさぐられる様に撫で繰り回されて、頬を擦り付けられてちょっと鬱陶しい。
「ナージャ、アイリスちゃんが苦しそうよ」
「これは失礼、大丈夫ですかアイリスちゃん」
「んゅ」コクリ
流石ビアンカお姉様、一言で収まった。ビアンカお姉様にも抱き付いて挨拶しておく。しかし眠いな。まだ頭がふわふわしてる。
「ふあよぅ、ございましゅ、す。ビアンカお姉し、さま」
「……ええ、おはようアイリスちゃん。先ずは朝食を頂きましょうね」
「んぅ」コックリ
うーん、暇になってしまった。朝食を食べたらする事が無い。楽器が無いから練習も出来ないし、ダンスの練習もアリアとカチュアが居ないしビアンカお姉様達も相手してくれそうにない。
『他人の屋敷じゃからの』
『楽器やダンスってそこまで好きだったなの?』
音楽は流石に半年以上もやってるし何曲も覚えて歌を歌っても皆んな誉めてくれるしな。ねぇねにも聴かせたいし将来の仕事にも出来るかも知れないらしいから練習は欠かせないだろ?
ダンスは、体を動かすのは楽しいかな? 何となくコツみたいなのが掴めて来たと思うし。
まあビアンカお姉様達相手だとリードして貰う形になっちゃうのは相変わらずだけど、アリアとカチュア相手なら背も俺の方が高い(重要)し踊り易いからな。
初心者用のダンスらしいけど上手く踊れる様になってくると成長も実感出来るし、この歳でもやっぱり褒められるとヤル気にもなるもんなんだよな。――剣の鍛練と違って怪我しないし。
『せ、精霊剣2本も持っておいて何を言っておるのじゃ!?』
『痛いのがイヤなのは仕方がないなの』
『ネネェも今は精霊剣に宿っておる自覚をするのじゃ!!』
『ネネェは主がネネェを持っていてくれれば良いなの』
『くわっ!?』
愕然として言葉が出なくなったリリィの為じゃないけど、他にする事ないし剣の鍛練をする事にした。けど周りが強すぎて全く成長が実感出来ないんだよなあ。
今日もナージャさんにヴェルンさんとミリアーナに相手をして貰う。屋敷の人達にも手合わせして欲しかったけどヴェルンさんに止められた。
加減が掴めない内に手合わせしてどちらかでも怪我をすれば外交問題になるかもしれないと言う事だった。良く分からないけど仕方がない。
「アイリスちゃん大分双剣に慣れて来た様ですね。守りが固くなっています」
「確かに、無理な動きが減って剣筋も柔らかくなったな」
ナージャさんヴェルンさんの言う通り何となく双剣での自分の型と言うモノが出来て来た様な気がする。
双剣になって構えが今までより少し正面を向く様になった。初めは正面を向くと言うのが怖かったから両方の剣とも守りに徹する形で使っていってたんだけどそれが合っていた様なんだよな。
『成長を実感しとるではないか』
不貞腐れた様にリリィが言う。まださっきのダメージが残っているのか? でも双剣に慣れて来ただけで1本持ちの時の比べて強くなったって訳でもないんじゃないかな?
『うぬぅ、確かに片手剣から細剣の変わっても今まで長年剣1本でやってきたのじゃ。それを短期間で追い抜く事は難しいのじゃ! だからと言って精霊剣が2本もあるのに剣1本に戻すなんて出来ないのじゃ!』
『ネネェも! 剣の鍛練するならネネェも使って欲しいなのー』
分かった分かった、まあ自分に剣の才能があるとは思えないけど今更剣を手放そうとも思わないからな。精々出来る限りの事はやってみるさ。
『才能はあると思うのじゃ(華奢な体でなければの)』
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