第002話 タヒュロス王国入国
タヒュロス王国のマリアンヌ様のルクセンガング公爵領領都外れの牧草地に飛空挺を停め、今はマリアンヌ様のお屋敷に先触れを出して返事を待つ間に飛空挺内で昼食を摂っている。
「先触れを出されたルクセンガング公爵のお屋敷では上へ下への大騒ぎでしょうねマリアンヌ様」
「そう思います、スカーレット姫様」
「マリアンヌ様、アイリスちゃんは連れて行った方が良いと思うのですけど、如何しましょうか?」
「え? アイリスちゃん、ですか?」
「確かに、ビアンカ様の言う通り貴女の今の肌艶を見ると騒がれそうですわね」
「スカーレット姫様まで……」
(でも確かにお2人を見ると私もあの子の施術で騒がれる程には肌艶が良くなっているのでしょうね。……あの子が居ると何かと騒ぎになりそうな気もしますが)
「このままだとその肌艶からアデール王国で手厚い厚遇を受けていたと勘違いされかねませんよ」
「それは……、業腹ですわね」
ビアンカの言葉に一気にマリアンヌの表情が消え冷たい目になった。
マリアンヌはスカーレット、ビアンカと寄り添って学院生活を送っていたがとても厚遇とは言えず寧ろ女性としての身の危険を感じる事もある程でだったのだ。その言動も当然だろう。
「カントラス王国とは停戦したとは言え、向こうから一方的に戦争を仕掛けられたのですから。アデール王国の方がマシかもしれないとすり寄る者達が出ないとも限りませんわよ?」
アデール王国の現状を知るマリアンヌからすれば何を馬鹿なと言いたい所だろうが何処にでも馬鹿と言う者はいるものだ。
自身の思い描く都合の良い栄光の未来があたかも確定しているかの様に思い込み行動する。マリアンヌもその様な愚か者達に心当たりがあり眉間にシワを寄せていた。
実際に勝てない相手なのだからなるべく良い条件でアデール王国の傘下にと言う派閥もあるくらいなのだ。――因みにマリアンヌを人質にする事に積極的だったのもその派閥だったりする。
「アイリスちゃんの美容魔法を誰かに施してその誤解を解くと言う事ですか?」
「アイリスちゃんからは了解を得ています。後はその判断をマリアンヌ様にお任せ致しますわ」
「私を見たらお母様からは確実に詰められる気がしますから、大変助かりますけど」
(やはり騒ぎになる予感がしますわ)
夕刻前に飛空挺を降りて馬車に乗り、マリアンヌ様のお屋敷に向かう事になった。
メンバーはマリアンヌ様スカーレット姫様ビアンカお姉様、そこに俺やミリアーナ、ナージャさんにヴェルンさんと護衛が入る。
精霊王国のダールトンさん達は飛空挺に留まるそうだ。マリアンヌ様は是非送ってくれたお礼がしたいと言っていたらしいけど断られたらしい。
『魂胆は見えておるからの』
『精霊王国と国交を築きたかったなのー?』
人口2万程の公爵家の領都、タヒュロス王国第二の都市であるがフォシュレーグ王国やアデール王国カントラス王国からするとありふれた中規模の街になる。
土壁の平屋建てが多く小さい家がひしめき合っていて、大通り以外では貴族が使う様な大型の馬車は通れない程雑多な街並みになっていた。
それでもルクセンガング公爵家の屋敷はそれなりに広く、馬車で敷地内に入って庭を数分走らせてから屋敷前に辿り着いた。
「「「お帰りなさいませマリアンヌお嬢様。お客様方もルクセンガング公爵家へようこそおいで下さいました」」」
アデール王国でビアンカお姉様が住んでいた屋敷と同じくらいのお屋敷かな。
お屋敷に入って直ぐ侍女や執事達の使用人がマリアンヌ様達を温かく出迎えて来て何人かは涙ぐんでもいた。慕われてるね。まあ他国に留学していたら戦争が始まって避難して来たとなったら心配して当たり前か。
「おお、良くぞ無事に帰ってきた! マリアンヌよ」
「ええ、本当に、会いたかったわマリアンヌ」
「お父様お母様、マリアンヌ、只今帰りました」
その後侍女と共に廊下から来た壮年の夫婦と思える男女が待ち構えていた。マリアンヌは優雅にカーテシーをして挨拶をしてから抱き合って再会を喜んでいた。
あれがマリアンヌ様の両親か、使用人の人達も喜んでるしついででも送ってあげて良かったな。――流石ビアンカお姉様だな。
因みにアイリスは未だにマリアンヌやスカーレットが人質としてアデール王国に来ていた事を知らない。ビアンカがリアースレイ精霊王国との繋がりを得る為に留学していたのも敢えて伝えていない。
シャルロッテからの忠告だったのだが、ビアンカも今となっては伝える事でどんな波風、突風大嵐が吹いていたかと考え恐ろしくて言え無くなっていた。
アイリス自身貴族とは無縁の生活を送っていてビアンカ達が初めて会った貴族なのだ。アイリスの庶民の目から見れば彼女達は何不自由なく贅沢な生活をしている様にしか見えなかったのだから人質云々は気付けなくとも仕方がないだろう。
「お父様、此方がメメントリア王国の第一王女スカーレット姫様とフォシュレーグ王国レンリート伯爵家3子長女のビアンカ様ですわ」
「スカーレット姫様、ビアンカ様、ようこそおいで下さいました。公爵家当主アルムール・イル・ルクセンガングと申します」
アルムールはスカーレットとビアンカに対して上位者として扱いもてなす事にしていた。スカーレットに対しては同程度の規模の国の姫と言う事で問題ない。
問題はビアンカだが本来なら小国とは言え公爵家の当主が下手に出る必要はないのだが、マリアンヌの先触れで家が辺境伯への昇爵が内定している事。アデール王国に奇襲を受けたが追い返す処か逆侵攻してアデール王国を攻め立てている事等を知らされていた。
自分達が散々苦しめられ、娘を人質にまで差し出された強国を、である。
無下には出来ない。先触れがなければ下に扱っていたかもしれないが、使用人達にも言い聞かせてあり、皆が冷や汗をかきながら屋敷に迎え入れ歓迎していた。
「アデール王国で内戦があったと聞いて心配していたのだが、わざわざ飛空挺まで出して送って下さるなんて、思ったより待遇が良かったのだな」
「ええ、肌艶も良い様ですし元気そうで安心したわ」
「いえ、アデール王国は噂通りの国でしたわ。私も常に身の危険を感じていましたし、精霊王国が保護して下さっていたから無事に過ごせたのですよ」
アデール王国を誉める様な発言に嫌悪感を隠さずに実状を話していった。そこにスカーレットやビアンカも追従していく。
マリアンヌは自分の体を隅々まで見定める様に見つめている母親に冷や汗をかいていたが。
(これはやはりアイリスちゃんに施術して頂く事になりそうですわね。ビアンカ様が連れて来て下さって本当に助かりましたわ)
「しかし内戦が起こったのは聞いているが、近年は無茶を言ってくる様な事も無かったのたがな」
アルムールは顎を擦り思案しながら内心を吐露した。
人質として娘を取られておいて何を言っているのかと思うかもしれないが、それ以外で無茶を言ってくる事が少ないと言うのはそれまでのアデール王国からすると考えられない事なのだ。
実際にはリアースレイ精霊王国との貿易での好景気によって、敵国フォシュレーグ王国に対する優越感を得ていた余裕が締め付けを緩めていただけなのたが。
「私達はアデール王国から直接来た訳ではありませんわお父様。内戦があったのはもう2ヶ月も前の事ですよ? アデール王国からはとっくに逃げ出していましたわ」
「何? それでは一体何処にいたんだい?」
「カントラス王国ですわ」
「なっ、何だと!?」
カントラス王国と聞いて思わずアルムールは驚愕して立ち上がってしまった。
カントラス王国はついこの前戦争を仕掛けて来た相手なのだ。国家規模はアデール王国と同等、仲が良いと言う訳ではないがアデール王国に比べれば理性的な国と言う印象だったのがそれが覆された大事件であったのだ。
「それで、大丈夫だったのかい!?」
「……あの国でも初めは精霊王国からの取り計らいもあり、手厚くもてなして頂きました。しかしこの国との戦争の後は捕らえられ、危うく戦争の責任を取らされて処刑される処でしたわ」
「「…………」処刑……」
「何だそれは……っ! ふざけおって……」
あまりの扱いに唖然とする夫妻だったが、当主のアルムールは我に返り怒りに震えていた。その怒り様にマリアンヌはカントラス王国の印象がアデール王国を下回ったと感じた。
恐らくこの情報が伝われば国全体がそう考える様になってしまうだろう。
「私から見るとアデール王国は有り得ませわ」
「しかし現状カントラス王国とは絶縁状態になってしまっているしな。周辺諸国を見ればどちらかとは縁を結んでおく事は必要だろう」
元々この国はアデール王国寄りだった。好戦的なアデール王国側に付いていないと攻められる恐れがあったからだ。
マリアンヌはアデール王国は今現在フォシュレーグ王国に領土を削られて今後の見通しも不透明な事を伝えたが、それでもカントラス王国には付けないと平行線を辿っていた。
マリアンヌもアデール王国は勿論嫌だが、処刑未遂までされてカントラス王国も嫌になっていた。その中途半端な考えから説得も中途半端なモノになってしまったのだが、それはそれで仕方がないだろう。
そうして話しが進まない中、ビアンカやスカーレットと言う客人が居る所で話す事ではないと一旦中断する事になった。
そこで口をつぐんでいた公爵夫人が満を持して口を開いた。
「ところでマリアンヌ、貴女のその肌艶の事は何時になったら話してくれるのかしら?」
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