第033話 幕間 アデール王国、貴族と間者
「これは、ハメられたかも知れんな」
「どう言う事でしょうサルマトール侯爵」
此処はアデール王国の王都にあるサルマトール侯爵の屋敷。そこで寄り子のアルタード伯爵とこの国の展望を話し合っていた。
アルタード伯爵の娘マーブルはアイリスがアデール王国で通った学院の先輩で、アイリス達に誘拐から救われた過去があり、マーブルもアイリスにお姉様呼びさせるくらい仲が良かった。
「アルタード伯爵、その方も精霊王国の人間から請われて回復魔法の使い手を囲ったであろう」
「ええ、精霊王国がこの国から追い出されるかも知れないと。そうなると回復魔法の使い手達が教王国の教会に連れ去られてしまうからと言われました」
「うむ、当時は何を馬鹿なと思っていたが本当に撤退してしまうとはな。まあ教王国が回復魔法の使い手を、商業王国が飛空挺を手に入れようと陛下を唆したのだ。避けようもなかったのだろう」
「驚きましたが回復魔法の使い手の囲い込みは上手く行きましたね。相手側も教会に使い潰される事を恐れていましたから簡単でした」
「結局は渡すハメになったがせめてもの意趣返しに色々契約で縛り高値で売ってやったな」
「ええ」
「その大金を回収する為に神聖教会は契約を無視して奴隷化して使い潰そうとした。それが失敗して悪事が王都民の知るところとなり教会への暴動となった」
「はい、あれは驚きました」
「そんな都合の良い話しがあるか?」
「は?」
「精霊王国の間者が失敗させ民衆に暴露、暴動を煽ったのではないかと言っているのだ」
「……成る程」
「何が目的か、王都を混乱させるだけではあるまい」
その後お互いに頭を悩ますが情報が足らないと結論を出すには至らなかった。
「それでは自領に引きこもるのですね?」
その後アルタード伯爵は家族と今後について話した。アルタード伯爵はサルマトール侯爵と同じ王族派だが現状王都に残るのは危険と判断したのだ。
「南部の国々がこの隙に手を出して来んとも限らんからな。サルマトール侯爵も同じ考えだ」
「成る程、既に話しがついているのですね」
「それにしても王都は荒れたわ。今後この国はどうなるのかしら」
長男は納得し母は不安を口にした。娘のマーブルも口にはしないが母と同じ気持ちだ。そんな2人の様子を気にする事もなく話しを続けている。
「分からんな。今は兎に角防備を固める時だろう」
「父上、場合によっては南部の2国と同盟を結ぶ事もあるのでしょうか?」
「…………陛下がその様な判断を下される事は無いだろう」
「違います。サルマトール侯爵の、我々の派閥がです」
アデール王とは領土的野心のある自己顕示欲の強い人間だ。自国が攻められたからと他国に救援や同盟を呼び掛ける様な人間ではないのは貴族なら多くが知っている事だ。
サルマトール侯爵の派閥は自分達を含めアデール王国南部の雄だ。此方から打診すれば南部2国は喜んで手を結ぼうとするだろう。
南部の2国は合わせてもアデール王国よりやや劣る規模の国家だ。アデール王国の様なイケイケの国が隣国にある事は多大なストレスになっているのだ。
因みに今までアデール王国が南部2国への侵攻をして来なかったのは教王国商業王国がそれとなく止めていたからだ。南部の小国2国は攻めれば落とせただろうが問題は海と接している事だ。
アデール王国の愚王が海を手に入れれば海洋進出に乗り出す事が容易に想像出来る。何れ他の国々にも手を出して来るだろう。
それは超大国である教王国商業王国に迫ろうと言うモノで、決して容認出来るモノではないからだ。
「今後のアデール王国次第だが、その可能性はほぼ無いと考えている」
「っ、何故ですか? 今の王都の荒れ具合を見ればフォシュレーグ王国がそのまま侵攻を続けてくる可能性は大いにありますよ!? そうなれば西のカントラス王国だって黙っていないでしょう!」
「だからこそだ」
厳しい目で見据えられたじろぐ長男に一息ついてから言い聞かす様に話しを続けた。
「アデール王国が持ち堪えた場合、あの陛下は裏切り者を許さないだろう。その時南部2国は我等を肉壁にするだけ、その後我等が磨り潰された後に騙されただのと宣って財貨で解決を図るだろう」
「逆にフォシュレーグ王国に飲み込まれた場合、現アデール王国よりも強大な国が出来て敵に回る事になる。小国の南部2国との同盟ごときで相手取れると思うか?」
その説明に弱々しく首を横に振る長男、それを見て今後の見通しの難しさに伯爵自身も頭を悩ませていた。
「貴方、私達が戦争に参加する事は無いの?」
「フォシュレーグ王国とは無い。仮に陛下から望まれる様な事態が迫っていると判断すれば南部何れかの国に仕掛け、戦争を偽装してでも時間を稼ぐ」
「「「!?」」」
「その様な事態では戦に勝つのは難しいだろう。フォシュレーグ王国と戦端を交えた場合、生き残れたとしても戦後交渉が難しくなるからな」
(ビアンカ様、いえ、あの誘拐騒ぎの時の様にアイリスちゃんが助けてくれないかしら)
マーブルは母と手を握り合いながら無茶な事だと思いつつもアイリスを交えて遊んだ頃を思い出し恐怖を誤魔化そうとしていた。
「ベルピュート辺境伯は軍を動かさないそうだな」
「ふざけおって! 王都が荒れていると言うのに軍も派遣せんとは、我が国の貴族だと言う認識が無いのかあの田舎者共はっ!!」
神聖教会商業ギルドに近い貴族達は荒れていた。
両組織にどっぷり甘えて好き放題していたその貴族達だが、庶民の暴動や王家の粛清に揺れる両組織に王都で権勢を振るっていたその力は既に無い。
下手をすれば庶民の暴動や王家の粛清の矛先にすらなりかねないのだ。
そんな中アデール王国内で西の辺境伯はカントラス王国に睨みを効かせられる精強な軍隊を持っている。
何故そんな辺境伯がアデール王国に属しているかと言うとカントラス王国よりも口うるさくないと言う理由だけだ。自領を守る事を是としている為、他国他領との戦争に興味が無く、実質独立国の様なモノである。
「国軍はフォーシュレーグ王国側に張り付かされとるし、我等貴族の私兵だけではどうにもならんぞ」
「かと言って北は小粒な貴族しか居らんしサルマトール侯爵派は南部に引き籠もってしまった」
「うぬぬ。庶民如きに映えある王都を荒らされるなど、許されん事だぞ」
「そもそもの原因は神聖教会と商業ギルドだ。奴等に何とかさせるしかないだろう」
「くそっ! 我等の私兵では数が足らんからな。不届きな庶民などさっさと蹴散らしてしまえば良いものを」
神聖教会と商業ギルドは王都外にも大きな影響力を持っている。両組織が外から人を送り込めば何れ王都も落ち着くだろうと言う考えだった。
「教王国は庶民からの暴動、商業王国は愚王の勘気に触れ粛清の嵐、後はブラン侯爵の反逆の噂を流すだけか」
ブラン侯爵領はビアンカのレンリート伯爵領に隣接する領地だ。先の戦争でレンリート伯爵に領地を削られた領地でもある。
それはアデール王国に更なる楔を打ち込む為の一手だ。
「ブラン侯爵は愚王の勘気に触れる事を恐れて自領に引き籠もってるからな。どんな噂が王都で立とうと否定しようもないだろうさ」
「ああ、南部は此方の想定通りに引き篭もらせる事が出来たしな」
「此方のこれからの動きを少し話しただけだがな。保身を考えれば当然だろう」
「奴隷騒ぎで儲けさせてやったし文句は無いだろう」
「お陰で王都の教会はボロボロになったけどな。まあ自業自得か」
「予定通りとは言え上手くいってホッとしたよ。下手を打てばシャルロッテ様にどんなお叱りを受けるか」
そう、サルマトール侯爵とアルタード伯爵が精霊王国の間者と考えていた者達はシャルロッテが放ったレンリート伯爵の間者だったのだ。
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