第032話 幕間 アデール王国、神聖教会と商業ギルド
アデール王国の王都では精霊王国が撤退した為様々な弊害が出て来ていた。希少な調味料が商業ギルドからの陸路のみとなって値段が跳ね上がり、割と安価な塩味の料理が増え王都民から不満が燻っていた。
「くっ、此処も塩味ばっかかよ。しかも薄味」
「向かいの店は胡椒が入ってるって言うぜ」
「高えし隠し味っつうか隠され過ぎてて分かんねえって話しだろソレ?」
「ははっ、バレたか。ったく、精霊王国を追い出したからだよなぁ? 商業王国もろくな事しねえよな」
「まあなぁ」
何処に国の間者が居るか分からない為、自国の批判は表だって口にはしないが至る所で不満が芽吹いていた。また王城でも城で働く文官達も商業王国の木簡や羊皮紙しか出回らなくなって不満と混乱の渦中にある。
「おい、そっちの部署未だ精霊紙使っているんだろ? 此方にも分けてくれよ!」
「馬鹿言うな、此方も何時まで保つが分からんのだぞ!」
「くそー、羊皮紙なんて高いし使い辛いのにぃいいーー!!」
そして不満を持っていたのはこの国の国王も同じであった。
飛空挺を手に入れたものの商業王国の者達はのらりくらりと日を伸ばし続け、何時まで経っても国王である自分を乗せようとしないのだ。心が広いと自負? する国王だがあっさり我慢の限界に達した。そして商業王国の重鎮達を呼びつけ怒りに震えながら怒鳴り付けていた。
「もう我慢ならん!! 一体何時になったら飛空挺に乗れるのだ!!」
「はっ、ははっ、陛下に相応しい物にするには何分部屋の構造事態を作り替えねばならず時間が掛かるのです」
「それでもあれから一月だぞ! それから一度も! 一度も空を飛んでいる処を見ていないのだぞ!! 内装等いいから取り敢えず飛ばすのだ!!」
「ははっ! 早急に準備させます!」
「明日じゃ! 明日飛ぶぞ! よいな!? よいな!!」
顔を真っ赤にしてギラギラした目で睨み付けるアデール王。今にも剣を手に振り回して来そうな雰囲気に、商業王国の重鎮達と言えども否とは言えずに引き下がっていった。
「全く! いくら心の広い我でも限度があるのだぞ!」
「くそっ、精霊王国を追い出したのに何故回復魔法持ちが手に入らん!!」
「それが先んじて貴族に囲われてしまっている様でして」
神聖教会では教王国からの高位司祭達が荒れていた。
精霊王国が撤退した為系列の精霊神社も治癒院も無くなり、後は回復魔法の使い手を回収し奴隷化して使ってやれば良いと考えていた教王国の司祭達は、貴族が先に回復魔法持ちを確保してしまった事に歯噛みしていたのだ。
「くっ、仕方があるまい。ならば貴族達から買い取るしかないな」
「それが、貴族の言う値段も問題ですが回復魔法の使い手達も月の手当てと患者の支払う値段も精霊王国の治癒院並みにしなければ受けないと申しているのです」
「ばっ! 馬鹿を申すな! そんなはした金で出来るか!!」
「回復魔法の使い手など我等教会の為の奴隷に過ぎんと言うのに何と言う不敬な事を!!」
「しかし今は王都民達の目が厳しい、奴隷化は出来ないのでは?」
「はっ、劣等国の庶民の事など知った事ではないわ!」
「そうだな。約束など幾らでもしてやれ。――貴族の方は面倒だから金を払ってやるが回復魔法の使い手共は奴隷化してしまえば不眠不休でこき使ってやる」
その後貴族への支払いを済ませ、いよいよ回復魔法の使い手達を奴隷化しようとした時に庶民(に扮したシャルロッテの送り込んだ間者)によって全てが暴かれ教会への暴動に発展した。
「明日だ! 明日あの愚王が乗り込んでくる! 何としても飛ばすんだ!!」
商業ギルドでは商業王国の重鎮達が顔を赤くして怒鳴り散らしていた。
「そりゃ無茶苦茶ですよ! 動かし方どころか何がどうなっているのかすらさっぱり分かってないんですよ!?」
「良いからやるのだ! お前が首をハネられたくなければな!!」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らした男は肩を怒らせながらドスドスと歩き去って行った。それを厳しい目で見ていたもう一人の男は精霊王国から差し押さえた飛空挺を前に技術者と話を続けた。
「本当に無理なのだな」
「ええ、全く手がかりすら掴めていません。恐らくあの羽根が沢山付いてるヤツがどうにか動くんじゃないかと思われますけど、それでどうして飛ぶのかも分からないしその方法も作り方さえも検討がつきませんよ」
「このまま明日コレを飛ばせないとなると、あの愚王の事だ。本気で我等の首をハネかねん」
「まさか、我々は超大国、ラージヒルド商業王国の人間ですよ?」
「それをやるのがあの愚王だ。我等の反対を押し切って精霊王国を王都に引き入れた前科があるだろう?」
「……どうするんです? 明日なんてどうあがいても無理ですよ。こんな複雑な物は見た事がない。正直何年あっても再現するのは難しいですよ」
まさかと思った技術者の方も続く男の言葉に顔を青くして現状を訴えた。
「それ程か、最早時間が無い。バラせるだけバラして馬車に詰め込んで隣国に逃げるぞ。そこでゆっくり解明するのだ」
「そりゃ有難い、正直毎日せっつかれて此方もまいってたんだ」
「何年掛かってでも実現させれば出世は思いのままだからな」
商業王国の重鎮達や技術者達がそんな会話をしている中、王都民達も(シャルロッテの間者が広めた)噂をしていた。
精霊紙がなくなり城の文官達が慌てふためいているらしい。自ら追い出しておいて代わりの紙すら用意出来ないのかと商業王国の商業ギルドに侮蔑の目を向けていた。
飛空挺を奪ったらしいのに一向に飛ばさない。何時もの商業王国なら他人の技術であろうと大々的に都合の良い発表会を開くのにだ。
これは飛ばさないのではなく飛ばせられないのではないか? となればあの王がそれを許すだろうか? 王都民達は分かっている。そんな訳がないと。
――そしてその噂は当の商業ギルド内にも浸透して来ていた。
重鎮達は責任を部下に押し付け何とか逃げ出そうとしていたが、そんな事になれば部下である自分達が代わりに粛清される。何処までその対象になるかは分からないが、何とか自分達にまで被害が出ない様にと重鎮達と距離を置きつつ逃げ出されない様に監視していた。
「なっ、何故王都を出られないのだ!?」
「それが、国軍が押さえているのです! 何でも商業王国の人間が逃げるとあの王の矛先が貴族達に向かうと言う噂が出回っていて、貴族達が国軍を動かしたそうです!」
「何だそれは! まるで我等が粛清対象の様ではないか!!」
「まさに! 市井でもそう噂がたてられています!!」
「くっ、不味い不味い! あの愚王め! 我等に歯向かえば国ごと磨り潰されると分かっていないのか!?」
「本国を動かすにも時間が掛かる! その前に我等が殺される等あってはならん事だぞ!? 何とかせねばならん!!」
隠れて逃げ出そうとする重鎮達とそれを阻止しようとする他の従業員達、更に貴族達の策謀も絡み攻防はアデール王と言う処刑台が目の前に来るまで続けられた。
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