第028話 幕間 門前の争い
「ビアンカお嬢様、商業王国が動いた様です。冒険者を引き連れて門の前に来ている様です」
「アデール王国の時を思い出すわね」
ビアンカはため息をつきながら窓から正門の方を見る。庭には百人以上の傭兵が集まっている。更に門の外にも50人程の傭兵と国が寄越した近衛兵が10人程門前に陣取っているのだ。庭も門前も大渋滞を起こしている。
そしてレーディアやツェツェーリアと言った迷宮探索でアイリス達と仲が良かったメンバーを中心に屋敷の中でも護衛として待機していた。
(これがアイリスちゃんの引き起こした事態だと思うと頭痛がするわね)
「まあ国が味方についているだけアデール王国の時より大分マシでしょう」
ビアンカはヒストロスの言葉に頷いてヴェルンにナージャの拘束を解かせる。
「ナージャ、縄を解くけどアイリスちゃんの所に行っては駄目よ」
「何故ですか!? アイリスちゃんが狙われているんですよね!!?」
「あの子にはミリアーナが付いているでしょ。それより貴女は数少ない家の戦闘員でもあるのよ? ヴェルンと一緒に私の護衛に付きなさい」
ナージャの主はビアンカだ。真っ当過ぎる命令に流石のナージャもぐうの音も出なかった。
そんな緊張感を感じさせないナージャを冷めた目で見るビアンカであったが内心ではこの事態に恐怖を感じていた。貴族の娘とは言えまだ14歳の未成年、大人の当主であっても平静ではいられない事態に巻き込まれているのだから当然だろう。
(大丈夫とは思っているけど怖いモノは怖い、いくら精霊王国に丸投げすると決めたとは言え万が一と言う事が無いとも限らないし)
(アイリスちゃんとならこの状況でも眠れそうな気がするわね。って駄目駄目! 私が当主代理だもの、この状況で眠る訳にはいかないわ)
「あっ、ビアンカお嬢様、それなら一緒にアイリスちゃんの寝顔を見ながら癒されませんか? ただ起きていても時間が勿体ないですし」
(どうしよう、……鞭があったら叩きたい)
つい弱気になった自分を抑えつけ、決意を胸に抱いた所でナージャに空気をぶち壊された。意図してなのか主の恐怖心を取り去ったナージャだったが代わりに怒りを胸に抱かれた様である。
「元帥閣下よりこの場を預かった近衛第3大隊長のグリゴーストだ」
「この屋敷の執事長を任されているヒストロスです。ダールトン様も多大な支援に感謝致します」
「ははっ、まああの剣をあの方に譲渡する様にしたのは我々ですからな。それが力ずくで他者に奪われるのは面白くありません。我々の面子にも関わりますから」
ダールトンの発言に頷くヒストロスは屋敷の門前、ヴェルンを連れて挨拶を交わした後、見下ろす様に商業王国の重鎮達と冒険者達を睨み付ける。
「さて、先触れもない不調法な輩が来ている様ですな」
そんな中困惑してるのは冒険者達だ。彼等は細かな事情は聞かされていない。ただ緊急と言う事で依頼を強制されて連れられて来たのだ。
それが貴族の屋敷の前に来たかと思えば自分達の倍以上の傭兵に国の兵士までいるし、屋敷の執事からは睨み付けられている。困惑して当然だろう。
「おいおい、何の依頼か分からねえけどアレ傭兵だろ? 多すぎねえか? まさか敵じゃねえよな?」
「ああ、しかも何か武器もゴツいし。あんなの振れんのか?」
王都の冒険者達の主な仕事は大工の手伝いや行商をする商会の護衛任務等だが、経費節減の為荷運びの手伝いは当たり前で馬の世話までやらされる何でも屋の様なものだ。
戦闘職と言われているが実際に戦闘で想定されるのは小型の魔物や人型でも小物ばかり、盗賊も王都周辺では直ぐ様鎮圧される為対人戦闘も碌になく、戦闘職とはとても言えないのが現状なのだ。
「まあ敵って事はねえだろ。一緒にいるのは正規軍、それも近衛兵だぞ、騎士も居るし敵ってなったら国に逆らう様なモンだろ」
「冒険者ギルドも表だって国と事を構える様な真似はしないだろうしな」
と言う冒険者達の希望的観測も何のその、商業王国の商人達は驕り高ぶった自尊心の為か何も感じていなかった。
「ふん! 一流の商人と言うのは期を見るのに長けているモノなのだよ。野蛮な貴様等には分からんだろうが敢えて慣例を無視してでも多大な利益を優先するのが優れた商人なのだ!」
「武力に物を言わす方が野蛮でしょう。それとも優れた商人とやらは盗賊の事なのですかな?」
「とっ、盗賊だと!?」
「我等を侮辱するか!!」
ダールトンの蔑む様な物言いに煽り耐性の無い商業王国の重鎮達が顔を真っ赤にして怒り狂うが、その様はヒストロス達からしても滑稽に見えた。
「ええい、そこの執事! 城で得た魔剣と祝福の使い手を渡す様取り成しなさい! そうすれば母国に口利きしてやらない事もないですよ!?」
「そうです! 我々としても力ずくと言うのは好きではありません。素直に渡してくれれば有難がってやるのですよ?」
商業王国の重鎮達は別に煽っている訳ではない。大真面目に交渉しているつもりなのだ。彼等にとってはこれが交渉であり、大抵の相手にはそれがまかり通る力を持っているのだ。
「力ずくだあ? その人数でかあ?」
自分達に媚を売れと国宝を超える伝説級の魔剣と聖女と見紛う程の回復魔法の使い手を渡せと言う商業王国の重鎮達にヒストロスが唖然としていると、力ずくと言うのが癇に触ったルトルートが横から小馬鹿にした風に鼻を鳴らして煽る様に呟いた。
「ふんっ、冒険者達はまだまだ増えますよ。何せ王都中からかき集めていますからな」
「この国にもお話し(脅迫)をしていますしいずれ王公貴族も動くでしょう」
「我が商業王国を無下にすればこの国がどうなるか、分からない程愚かでないと願うばかりですな」
「「はっはっはっ」」
確かに精霊王国は王都にのみしか進出しておらず貿易と言っても4機の飛空挺での空輸のみ、カントラス王国では庶民はたまの贅沢として利用する位だ。
逆に商業王国はカントラス王国の流通を一手に握っており隣国との貿易も商業王国無しには語れない。何せ周辺諸国の流通も商業王国が担っているのだ。その影響力は計りきれない程大きい。
「しかし貴方達にそこまでの権限がありますかな? この国やフォシュレーグ王国に不利益を与える様な真似をすればリアースレイ精霊王国の影響力が増大しますよ? もし貴方達が手を引くのであれば我々は王都以外にも進出して行きますからね?」
そこにダールトンの冷静な突っ込みが入る。下手な真似をして精霊王国を躍進させてしまえばここにいる商業王国の重鎮達は多大な責任を取らされる事になるだろうからだ。
「ぐくっ、生意気な。そうだお前達! お前達はどうなんだ傭兵共! 我々と取り引き出来なくなれば困るだろう!?」
「そっ、そうだ! 家族だって生活出来ない様にしてやるぞ!!」
「ぶははっ! 俺等この国の人間じゃねえし家族もこの国に居ねえのよ? 何ならお前等ぶっ殺して自分の国帰るわ、なあルトルート」
「ああ、俺等は別にこの国に未練も何も無いしな」
「どうせお前等殺っても商業王国は他から代わりの人を送り込んで終いだろ? この国から手を引くなんて勝手な真似、お前等ごときに出来る訳ねえもんなあ? 丁度良いからテメー等ぶっ殺してから国を出るか?」
「「「ひいっ!!?」」」
ルトルートが商業王国の重鎮達に大剣を突き付けると尻餅を付きながら後ずさる重鎮達、それを見て「ぶひゃひゃひゃひゃ」と楽しそうに笑うルトルートに傭兵達は此方が悪役みたいだと呆れていた。
明日から04時10分と22時10分に投稿します。
ブックマークや何らかの評価を頂けると励みになるので大変嬉しいです。
これからも宜しくお願い致します。




