第025話 魔剣?の行方
『待って主、ネネェの剣忘れてるなの』
そう言ってネネェが指差した先にはリリィと同じ形容になった魔剣? が落ちていた。
『ネネェはその剣を宿にしているから持って来てなの』
いやそれ俺の剣じゃないんだけど? 泥棒にされない?
『そんなもんダールトン辺りが何とかするじゃろ。良いからさっさとその精霊剣を持って行くのじゃ』
精霊剣?
『ネネェの宿る剣は精霊神様が精霊剣にしたの。だから精霊剣なの』
「「「愛し子、大丈夫?」」」
そう言われてもなと思っていたら熊獣人の人達が駆け寄って来た。そう言えば偉いらしいし頼んでみるかな。
「あれ、剣、欲しい」
「剣ってあの形が変わったヤツだよな?」
「そう言えば愛し子ちゃんの剣と同じ形ねえ」
「ん、精霊、宿ってる」コクリ
「「「ええっ!?」精霊が?」マジかよ……」
熊獣人の人達が驚いて色々聞いてこられた。どうも意思の疎通が出来る程の精霊が何かに宿ると言うのは稀な事らしい。
「行動の妨げになるからな。気まぐれに仮宿にする事があるらしいとは習っていたけど」
「その、精霊は他に移る事は無いの?」
『その剣はリリィの精霊剣とは違うが希少金属であるオリハルコンとミスリルの合金製なのじゃ。精霊の宿としてはこれ以上ない位に優秀なのじゃ。リリィのオリハルコンと日緋色金も負けてないがの!』
胸を張るリリィ、だけど今それは良い。
『ネネェは此処が良い』
「移らないって」フルフル
「しょうがねえな。何とかシルブレッドに交渉して貰うしかないだろ」
「まああの剣の形を見たら、誰がどう考えても所有者たりえるのは愛し子だけだろうけどな」
3人の視線の先には邪素を振り撒いていた魔剣、片手剣であったが今は白銀色をした刃を持つ植物の蔦と花弁をあしらわれた少女が好みそうな細剣となっていた。
その姿はアイリスの元々持っている精霊剣と瓜二つ、対になっているとしか思えないのだった。
「アイリス様」
誰かに呼ばれて振り返るとイケメン王子と姉姫様がいた。そう言えば一緒に来てたっけな。危ないのに中々アグレッシブな人達だ。
「有り難う御座います。危うく多くの犠牲を出すところでした。リアースレイ精霊王国の方々もご助力ありがとうございました」
「有り難う御座いました」
深々と頭を下げる2人にちょっと困惑してしまう。
精霊王国の熊さん達には分かるけど庶民の俺にまでしないで欲しい。何か大事に巻き込まれる気がするよ?
『『手遅れじゃろ』なの』ジト目
会ったばかりで仲良いなお前達。
「アイリス様、あの見事な御業には息をするのも忘れる程に見惚れてしまいましたよ。余りの尊さに今も貴方に心を囚われてしまった様です」
パシッ!
「愛し子ちゃんに馴れ馴れしいわよ。レグラントス王子?」
イケメン王子が俺の手を取ろうとしたら熊さんのリグレーシア様がその手を払った。仲が悪いのかな?
「これはリグレーシア様。ご機嫌よう、……と言う事態でもありませんかね?」
「そうね。それにしても貴方は相変わらず節操が無いわね。愛し子ちゃんが男の子って知ってるのかしら?」
「ふふっ、それは勿論。しかしあの尊さの前には性差など些細な事でしょう?」
「……否定は出来ないけど、ちょっと引くわね。こんなのに誘われていたなんてね」
「リグレーシア様に対するこの気持ちは些かも損なわれていませんよ」
「また顎を外されたいのかしら?」
2人共ニコニコしながら話してる。やっぱり仲が良いのかな。
その後駆け付けたシルブレッドとダールトン、残っていた国王と宰相、その他重鎮達もアイリスの元に集まって来たがその中には当然ビアンカも居た。
そのビアンカはまたもやアイリスを仁王立ちで見下ろしていた。半眼で張り付けた様な笑顔で青筋を立てていて、アイリスでも一目で分かる程のぶちギレ状態である。
「何故、……勝手に私の側から離れたのかしら? 許可無く離れない様に言ったわよね? アイリスちゃん?」
「お、……お姫様が呼んでた……の?」
「わ、た、し、の、許可を取りなさいよ!」
「ごっ、ごめんなさい(涙目)」
『案の定怒られたのじゃ』『なのー』
何だよリリィは! 分かっていたなら教えろよな! こんな公衆の面前で親子程年の離れた子供に怒られるなんて恥かかせやがって。
『自業自得なのじゃ』
『人の所為にしちゃダメなのー』
羞恥によって涙目で耳まで赤くさせている姿は端から見れば叱られて落ち込んでいる幼子に見えた。ビアンカもそれを感じ取り口を閉じた。
(これ以上言って下手に誰かに庇われても良くないわね。この場ではここまでか、ふらふらされて知らない間に他国に奪われてたりしたら堪らないわ。それこそシャルロッテに何を言われるか分からないじゃない)
取り敢えずこれで叱るのは終わりと言う意味を込めてフォローのつもりでアイリスの頭を撫でてやったビアンカだが、アイリスにとっては羞恥心を高めるだけだった。
効果があるかは分からないが充分な罰にはなっていただろう。
『剣に宿っておいて使い手に剣士として生きる事を求めないとはどう言うつもりなのじゃ』
『剣に宿ったのは偶々なの。ネネェは剣に思い入れは無いなの』
『うぬぬぅ』
「アイリスちゃんどうしたの? ぼうっとして」
場所を移し、此処は王城の中の青の間と呼ばれる大会議場、カントラス王国、精霊王国、更に教王国商業王国の重鎮達が集まっている所にビアンカ達と共にアイリスも同行させられていた。
ナージャは膝に乗せたアイリスがこう言う場で眠りこけもせずにいるのは珍しいと感じていた。
「精霊が、言い争ってる」
「え? 喧嘩してるの?」
『喧嘩じゃないのじゃ、意見の擦り合わせじゃ。戦う時はアイリスの為に全力を尽くすのじゃろ?』
『当たり前なのー』
「違った」
「そう。ふふっ、でもアイリスちゃん可愛いわぁ」
ナージャはアイリスが気にしていなさそうなので聞き流す事にした。見えない精霊の事よりアイリスの相手をする事を優先するのはナージャには当然の事なのだ。
『主は力を与えてくれた恩人なの。だから恩返しするなの』
『なっ、力を与えて下さったのは精霊神様なのじゃ! コヤツじゃないのじゃ!!』
『精霊神様だけじゃないなの。主もなのー』
『ぬうっ!?』
『主が精霊神様との縁を紡いでくれたなの』
『…………そんな敬う様なタマかの、コヤツが』
『敬う? 違うの。護る……愛でる? なの』
『愛でる?? この珍妙な生き物をか?』
リリィが胡乱な目で見るがアイリスはとっくに2人の会話に興味をなくしていて寝入ってしまっていた。
『『…………』』
「ルードルシア教王国としてはあの魔剣の所有を求めます。それで今回の不始末は治めましょう」
「それを言うならラージヒルド商業王国もあの魔剣を求めますぞ」
「あの魔剣が伝説級の物であるならばルードルシア教王国の勇者一行が所持するべきでしょう」
「いえいえ、我々ラージヒルド商業王国にいる英雄級の冒険者に持たすのも一考ではないですかな?」
「…………そう言われましてもあの魔剣は我が国の宝剣とも言える物になるのでして……」
「カントラス王国では御し切れないでしょう。実際に不始末を起こしたのですから」
「然り然り、そのまま何もなくアレを手にしたままでいよう等とは、些か面の皮が厚すぎませんかな?」
ここぞとばかりに責め立てる教王国と商業王国にカントラス王国の重鎮達は「お前等こそさっさと逃げ出して何もしてない癖にどれだけ面の皮が厚いんだよ!」と言いたいのを抑え対応に苦慮していた。
そんな教王国商業王国が魔剣の所有権について綱引きをしている様子を、精霊王国の熊獣人達は冷ややかな目で見ていた。
「今の所精霊剣はカントラス王国の物なんだよな?」
「超大国には逆らえないんじゃないのかしら?」
「そうは言ってもカントラス王国もタヒュロス王国に戦争吹っ掛けて魔剣を奪ったんだろ? 因果応報ってヤツじゃね?」
「で? シルブレッド、良いのかよ? あの精霊剣をアイツ等に奪われちゃって?」
「良い訳がないですよ。巫女様に連絡を取りに行かせているのですが、流石に間に合いませんか」
仕方がないですね、と言いながらため息をつきダールトンに目配せをして歩いて行った。着いて来いと言う事だろうがダールトンは知っていた。シルブレッドがこの手の交渉が好きなのを。
(教王国商業王国を目の敵にしてるし上昇志向が強いからな。やり過ぎないと良いが)
シルブレッドと違い本当のため息をついて着いて行くダールトンだった。
「正義の象徴たる勇者一行にこそ相応しいかと思いますがね?」
「より多くの場であの魔剣を活かすにはやはり高位の冒険者でしょう」
「ば、賠償にしても流石にアレを取られては……」
「おやおや、取る等と言われるとは心外ですな。ルードルシア教王国が安全に、保護して差し上げようと言うのに」
「ラージヒルド商業王国ならば貴方方よりも余程上手く使って見せますよ?」
「――それは些か暴利が過ぎるのではないかな?」
醜い駆け引きが行われている中ににこやかな笑顔でシルブレッドはダールトンを引き連れ割って入って行った。
「魔剣の所有と言うのであれば今回の件を抑えるのに活躍した者達にこそ権利があるべきだろう?」
「なっ、何ですか貴方方は、話しの途中に無礼でしょう!!」
「その通りですよ? 今更出てきて横取りしよう等とは見苦しいですぞ!?」
「さて、我々は騒動の謝罪と解決の報酬としてあの魔剣を魔剣に選ばれた使い手が所有する事を望みます」
「魔剣の形状が変化させる。信じがたい現象ですがあの方が所持していた剣と同じ形状に変化した事を考えても魔剣自体があの方を使い手として選んだと言う事でしょう」
シルブレッドとダールトンが精霊王国がと言わないのはアイリスが精霊王国の人間ではないからだ。
精霊の愛し子たるアイリスが起こした超常現象、そこで生まれ変わった魔剣。そして当の本人がその魔剣を欲したのだから持つべきなのはアイリス以外ない。シルブレッドは精霊の愛し子の為に動ける事に幸福感に満たされていた。
「なっ、魔剣については我々が先に交渉しているのだぞ!!」
「そうだ! 後から来て何を言っている!!」
「交渉も何も貴方方は逃げただけで何の被害も活躍もしていないでしょう? 宰相殿、被害を抑え解決した者達こそが魔剣を所有するのに相応しいと思うのですが?」
「うっ、それは、そうなのですが……」
「ぬうっ、であれば魔剣と共にその者も我がルードルシア教王国で引き取ってやろうではないか。あの様な祝福が出来る者は我がルードルシア教王国にこそ相応しいからな! あの子供にとっても名誉な事だろう!」
「それならば我々ラージヒルド商業王国もあの者を預かりますぞ! あの者であれば如何様にも使えますからな」
ギラついた嫌らしい目をしながら笑みを浮かべて手前勝手な妄想を口にする教王国と商業王国の重鎮達、自分達の栄達を少しも疑ってない様だった。
「「あぁん!?」」
ただし精霊王国側の面々にそれは禁句だった、ぶちギレである。
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