第020話 お姫様とダンスを
偉そうなおっさんが話したらその後、奥の偉そうな椅子に座った。
その後そのおっさんに次々人が話し掛けている。暫く終わりそうにない。周りを見ても皆んなそれぞれ話し込んでいるみたいだ。
はあ~~、何が楽しいのか、さっさと帰りたい。近くのテーブルには花が飾られているだけで何も無い。たまに誰かが置いたグラスを使用人が回収していく位だ。
つまんないつまんない、皆んな飲み物しか飲んで無いけどお菓子とか頼んじゃ駄目なのかな?
『――ビアンカにでも聞いてみたらどうじゃ?』
ビアンカお姉様は駄目って言うから駄目だ。
『まあ悪目立ちするかも知れんしの』
む、向こうにお菓子の置いてあるテーブルがあるじゃないか!
『あっ、おい?』
お菓子のあるテーブルに歩いて行ったらビアンカお姉様位の娘と小さな娘がいた。小さな方はカチュアとアリアより小さい。5、6歳位だろうか。
「お菓子、食べて良い?」
大きい女の子の方に聞く、俺は大人だからな。この娘達の物かも知れないからちゃんと聞いてから食べるぞ。とは言えいっぱいあるから期待が膨らんでしまうな!
『……』
「どうぞ、お好きな物を選んで下さい」
「わーい、ありがとー」
やった! 大きな方の女の子は笑顔で許可をくれて近くの使用人を呼んでくれた。良い娘だな!
『…………』
「畏まりました。どちらに致しましょう」
「うーん」
色んなドライフルーツが乗ったクッキーやクレープがある。クッキーは食べてきたのと味はあまり変わらなそう、となると。
「あれ、クレープ食べる」
「中身は何をお入れしましょう」
薄いクレープ生地に入れる具材を選んで行く。豆乳ヨーグルトにアップルやレッドベリー、それに砕いたクッキーを選んで作って貰った。
「ふふふ」
お皿に盛られたクレープにフォークを入れて口に運ぶ。うーん、んまい! 甘い! 豆乳ヨーグルトのトロリとした食感とアップルやレッドベリーの酸味のある仄かな甘さ、砂糖の入ったクッキーの強い甘さも上手く合わさって良い。うんうん、これは中々強い。
「あなた、せーれー王国の人?」
「んーん」フルフル
もぐもぐ、小さい方の女の子が話し掛けて来た。もぐもぐ。だが今はクレープだ、美味しい。
「変わったドレスきてるわね?」
「?? 僕、男、だよ?」
「「えっ!??」」
少女達の声が重なった。もぐもぐ、節穴だろうか?
「あなた、ひととはなす時はかおを見てはなしなさいよね」
なら話さなくて良いや。もぐもぐ、クレープ優先。
『お主……』呆れ顔
「ちょっと、むぐ!?」
第2王女のアルトレイシアは突っ掛かろうとした第3王女マドレイシアの口をそっと塞いでアイリスを見る。
ふらふらとやって来た子供は驚く程見目が良く、その儚げな雰囲気に思わず目を惹かれてしまっていたのだ。
(男の子だとは思わなかったわね。それにしてもなんて可愛いらしい子なのかしら。でも巫女の衣装を着てるのに精霊王国ではないと言うのはどう言う事なのかしらね?)
「お久しぶりですなアルトレイシア姫、ダールトンです。アデール王国の事があって私は今この国の商工ギルドの副ギルドマスターをしているのですよ。以後お見知りおきを」
「っええ、お久しぶりですね。ダールトン様」
「ダールトン様」
「おお、これは宰相殿」
「そちらの方は何方様なのですかな?」
「此方のお方は巫女、リビエラ様に請われ急遽お越し願う事になったアイリス・フローディア様です」
「ほほう、余程高貴なお方なのですね(いや分からん! 高貴な身分だとして何故此処に連れて来る事になった? 何の意味があるのだ)」
ダールトンがアイリスのフォローに入った事でカントラス王国側も成年したての姫では荷が重いとレストッド宰相が割って入る事になった。
アルトレイシアはそれを見てホッと一息つく事が出来たが、妹姫のマドレイシアは自分よりお菓子を優先するアイリスを興味津々に見つめていた。
ビアンカはその様子を遠巻きに見ている。アイリスがふらふらとお菓子に誘われて行ったのを見てダールトンを差し向けたのだが、当の本人はマリアンヌと涼やかに飲み物を口にしていたのだった。
「アレ、よろしいのですかビアンカ様」
「私が行くより良いかと思いますわマリアンヌ様」
(シャルロッテなら嬉々として参戦して行くのでしょうけど触らぬ神に祟りなし、なのよね。あんな伏魔殿に行くなんて面倒臭、――畏れ多いわ)
「ん?(会場の音楽が変わった?)」
実は今まではリアースレイ精霊王国より購入したオルゴールを流していたのだが楽団が入り生演奏を始めたのだ。
「ダンスの時間よ。あなたも踊れるのでしょう? いっしょに踊りましょうよ」
「「「!?」」」
「ん、……下手」
「ならわたしがリードしてあげるわよ」
「うーん、……んっ」コク
自信ありそうに言うけどリードって言っても5歳くらいの女の子、まだ習ってそんなに経ってないだろうな。俺も習ったばかりだしまともに踊れるとは思わない。
けどこんな子供に誘われちゃ断れないし下手同士なら丁度良いかな。
『権力者が怖いとか抜かしておったのに、お菓子を食べて緩んどりゃせんかこ奴?』ボソッ
中央に歩いて行くアイリスを見てダールトンは冷や汗をかいていた。
アイリスが10歳程度に見えたとしても数日しか練習をしていないダンスを同年代並みに踊れる訳がない。
ダールトンはアイリスの機嫌を損ねるのが何よりも不味いと考えている。
精霊神によって巫女に加護が与えられている事を知るリアースレイ精霊王国の者達にとって、巫女と同等かそれ以上の加護を受けていると思われるアイリスは神聖不可侵の存在なのだ。
そんなダールトンの動揺を見て宰相のレストッドは更に慌てふためいた。
何故ダールトンが動揺しているのか分からないが超大国のやんごとない相手に何かあってはと滝の様な汗をかいていた。
少女に手を引かれながら踊りだしている人達の中を歩いて行く。周りを見るとどうやら習った範囲のダンスで済むみたいだ。何とかこの子に恥をかかさない程度に収められれば良いんだけどな。
アリアとカチュアより小さく俺より頭一は小さいから歩幅を気を付けていかないといけないかな。
「さあ踊りましょう?」
中央に来てから向かい合い、楽しそうに手を差し出してくるマドレイシアの手を取って促される様に踊り出した。それにしてもニッコニコだな。まあ俺は子供に好かれる質らしいからな。
『まあ見目だけは良いからの。――見目だけは』ボソッ
ゆったりした曲に合わせて体を合わす様に踊って行く。確かにアリアやカチュアに比べると上手だな。まあ当たり前だけどビアンカお姉様やマリアンヌ様程ではない。
うーん、お互いぎこちない踊りになってしまっているのが分かるな。目が合って見つめ合うと顔を赤くして、貴族だのと言ってもこれだけ小さい子供だと只の可愛い子供に見えるな、ほっこりする。
アイリスの拙いダンスを見てレストッド宰相はこれか! と思った。そして瞬時に周りの貴族達に睨みを効かせ黙る様に合図を送った。
周りにいるのは皆高位貴族達ばかりであり、暗黙の了解を互いに視線を合わせ共有していく。しかし空気を読めない者達は何処にでもいるものだ。
「おやおや、アレではまるで覚えたての幼子の様ですな」
「いえいえ、精霊王国の子供は成長が早いのでしょう。歳はお相手の姫と変わらないのではないですか?」
「はっはっはっ、成る程成る程。其れならば納得ですな」
教王国商業王国の連中である。
聞こえてんだけど? て言うか姫様にも聞こえてるんだぞ? 泣きそうになってるじゃないか、誰か何とかしてやれよ。
『一緒に踊っておるお主の役目じゃないかの』
ぬぬ、それも、そうか? うーん、でもどうやって? ――あっ。
「熊さん、今日初めて見た」
「ぐす、……そうなの? わたしは何度も会っているわよ」
「羨ましい」
「……そう、うふふっ、お茶をしたり絵本を読んでもらったりしてるの」
うん、笑顔になって自慢気だ。子供は笑顔なのが一番良いな。
「ん、熊さん乗り心地良い」
「乗ったの!? 嘘! 私だって乗せてもらえないのにっ!!」
おおう、羨ましい、ズルい、私も乗ってみたいと駄々を捏ねられてしまった。けど俺に言われてもね。
『乗せる様に頼むと言うのは止めておくのじゃぞ? お主が言えば断れんじゃろが、相手に迷惑じゃからの』
とリリィに言われて何も言えなかったよ。
「安易に他者を卑下するのは己の心が貧しい証拠だと思いませんか宰相殿?」
「いや、ははは、そうです、かな」
ダールトンから同意を求められ答えに窮する宰相レストッド、カントラス王国からすれば超大国同士のやり合い等居ない所でやってくれ、と言いたい所だろう。
「それは我々に言ったのかな? 精霊王国の」
「そう聞こえたのであれば自覚があっての言葉だった様ですな。全く、大人気ない」
「ふん、私達は只見たままを言っただけなのだがね。それを誹謗中傷する等、そちらの方こそどうなのかね」
「そうだそうだ! そもそもあの様なまともに踊れもしない子供を連れて来るのが間違いであろう!」
「はあ、その物言いが大人気ないと言うのだよ。宰相殿、格式に合わない者達はこの様な場に呼ぶべきでは無いのではないかな?」
「なっ! それは我々に言っているのか!?」
「我々を馬鹿にしているのか!!」
堪え性の無い教王国商業王国の面々にチクチク言うダールトン。双方に挟まれ逃げる事も出来ない宰相レストッドは、出来るなら今すぐ気絶したいと願っていたのだった。
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