第017話 お城のパーティーへ
「城からの招待ねえ? 処刑しようとしておいてどの面下げてマリアンヌ様まで誘ってるのかしら」
ビアンカは執務室でヒストロスとマリアンヌを呼び、カントラス王国の王城から来たパーティーへの招待状への対応を話し合っていた。
「アデール王国の弱体化が見込まれる以上マリアンヌ様のタヒュロス国との関係を拗らせたままにしておく必要がありませんからな」
「勝手な事ね。どうします? マリアンヌ様」
「それでも、行かない訳にはいかないでしょう」
マリアンヌが城の招待に応じればカントラス王国は終戦を宣言出来てマリアンヌも母国をこれ以上戦乱に巻き込まずにすむ。一方的に攻められたとは言え力関係から言えばカントラス王国の勝手な言い分も受け入れざるを得ないと考えたのだった。
「表向きは伝説級の魔武器の入手の発表となっているのね」
「民衆向けのパフォーマンスが必要だったのでしょう」
「それもタヒュロス王国から奪った物でしょうに。伝説級の魔武器と言うのがどの程度の物か分からないけど、威力? と言うか、能力と言うか、そう言うのはどうなのかしら?」
「伝説級と言えば勇者の聖剣ですが、お伽噺の様な1人で一軍を相手取れるとかは聞きませんな。昔の勇者が単身で竜を倒したと言うのは有名ですが、それも眉唾物ですし」
「どれだけ凄くても使い手次第とでしょうしね。でもそれなら国として警戒する程では無いわね。――と言うか何でそんな物を有り難がるのかしらね?」
「ははっ、……男の愚かな見栄とでも言いますか、女性で言うと国宝を超える伝説級の宝石を得た様な物かと」
ビアンカの心底不可解だと言う質問に、ヒストロスは伝説級の魔武器と言う物のロマンが分かってしまった事に少々恥を感じながら何とか答えをひねり出した。
「そう、女性の宝石への情熱は愚かな見栄と言う訳ね」
「あ、いえ、決してその様な事は……」
しかしにっこり微笑むビアンカにヒストロスは徹底的に間違えた答えをひねり出した事に気づいたのだった。
「まあ何にしても、ダールトン様に相談して擦り合わせておいた方が良さそうね」
「…………はっ」
3人とはまた遊ぶ約束をしてから帰って行った。子供同士やっぱりアリアとカチュアが気に入ったんだろう。
一応俺が雇い主だから俺も誘われたけどね?
『…………』ジト目
それと王城でパーティーがあるらしいんだけど、何故か俺まで参加する事になってしまった。――嫌なんだけど?
「ダールトン様とシルブレッド様が、巫女のリビエラ様からアイリスちゃんを連れて行く様に言われたらしいのよ」
嫌な予感しかしないわね。と難しい顔で眉間を指でほぐしながら言うビアンカお姉様。――もうこれ断れないやつじゃない?
城に行くとか怖いし冗談じゃないと訴えたらビアンカお姉様が「私が付いてるから大丈夫よ、スイーツ食べ放題付けてあげるから」と言われてしまった。
くっ、スイーツを人質に使うなんて、何て策士なんだ!
『これで策士ならお主以外殆ど策士になるのじゃ』
それから数日経ったパーティー当日。ビアンカの屋敷でアイリスは、シルブレッドが引き連れた女性達に用意された服を着させられていた。
なあ? これってまた女装じゃない?
『嫌ならそう言えば良かろう』
だって知らない女の人が沢山来て着替えさせるんだもん! 怖くて何も言えないだろ!!
『相変わらずの人見知りに口下手じゃの』
「はわわ、アイリスちゃん天使? 天使なの??」
違います。何言ってんのナージャさん?
「これ、……巫女様の着ていた服に似てる様に見えるんですけど?」
「おお、流石ビアンカ様お目が高い。確かに巫女服をアイリス様向けに独自にアレンジした特注品で御座います!」
(いや、馬鹿でも分かるわよ)
胸を張るシルブレッドに頭痛を抑える様にしてるダールトン。確かに巫女が着ていた巫女服よりも襟や袖部分に金銀の糸で草花の刺繍がされ、煌びやかな物になっている。
巫女服の神聖さも相まって幼い見た目ながらも無駄に幻想的な雰囲気を出していた。
「この白衣は巫女様の纏う白と同じ素材でして。教会の生臭共には出せない正に神の色なのです! 更に刺繍に使われた金銀の糸は王族も手に出来ないミスリルを特殊加工した物でして、我が国以外では国宝級の価値があるでしょう!!」
胸を張るシルブレッドをジト目でビアンカ。髪飾りの銀細工も見事な物だったが、まともな答えが返って来ないだろうと黙殺した。
(確かに似合ってるし可愛いんだけど、私の手には余るわね)
金銀は王公貴族の貴色、白は神職につく者達の神色として身に纏うのに制限が掛かっているのだ。
アイリスの着ている巫女服の金銀の刺繍に髪飾りは王侯貴族に目を付けられる。白衣の白に至っては教王国の神官服に比べて更に白くキラキラと光輝いているのだ。
超大国である教王国の神官達に真っ向から喧嘩を売っているとしか思えない衣装だった。
「チェンジで」
「何を言われるのですかビアンカ様! 精霊の愛し子なのですよ!? 誰よりも目立って当然ではないですか!!」
「……チェンジで」
「申し訳ありませんビアンカ様、もう時間がありません」
鼻息を荒くするシルブレッドに申し訳なさそうにするダールトン。アイリスの服をシルブレッド任せにしてしまったダールトン痛恨のミスである。
巫女の言もありアイリスを不参加にする訳にはいかないし、最終的にはダールトン達が守ると言うのでビアンカは受け入れる事になった。
「――まあ良いわ。私は普通にパーティーを楽しませて貰えば良いのよね? アイリスちゃんが引き起こす騒動はお任せ致しますね?」
にっこり微笑むビアンカ。だがアイリスが当然の様に騒動を起こすと言われたダールトンは大いにヒクつかされる事になった。
城に行くのはビアンカお姉様とその付き人として俺とヒストロスさん。マリアンヌ様とその付き人としてナージャさんとヴェルンさんが行く事になった。
ダールトンさん達商工ギルドの人達も別口で参加するそうだ。と言っても一緒に登城するし城内でも一緒らしい。この国でも権力があるみたいだし側にいるなら頼もしいかな?
ああ~緊張し過ぎて目眩が起きそう。もう倒れそうだよ。取り敢えず一番の権力者、ビアンカお姉様に引っ付いておこう。これが大人の処世術だな。
『姉の影に隠れる臆病な幼子にしか見えんのじゃ』
仕方ないだろ!? こんな状況想定外なんだよ! 平民が城なんてイジメじゃんか!!
ヒストロスさんに手を引かれ馬車を降りる。ビアンカお姉様も降りて来たので直ぐに腕に抱き付く。
お城めっちゃデカい、アデール王国のビアンカお姉様のお屋敷よりデカい(当たり前)今まで見た中で一番デカい。
廊下もめっちゃ広い、人が入ってないのに鎧を立たせてたりしてるのがマジで意味分からん。怖い、もう帰りたい。
ビアンカに用意された部屋はアデール王国に奇襲を受けても弾き返した国の貴族令嬢と言う事から爵位相当の部屋が用意されていた。
だがマリアンヌに用意された部屋は小国であり戦争をした敵国と言う事もあって公爵令嬢とは思えない程粗末な部屋であった。
顔をしかめたビアンカにシルブレッドが精霊王国の控え室へ招く事を提案し、ダールトンも同意して2人は用意された部屋より遥かに豪華な部屋に行く事になった。
「熊さん!?」
精霊王国の控え室へ入ると熊の獣人がいた。ぬいぐるみの熊さんと同じ熊耳と頭髪、本物の熊を思わせるがっしりしたガタイに思わずさん付けで口に出してしまった。
2m以上あるんじゃないかな。それが3頭(←失礼)も居るんだ、叫ぶのも仕方ないだろう。
まあ、さん付けで呼んだし良いかな? 良いよね? ナージャさんが熊のぬいぐるみを持って熊さん熊さんって迫って来るから俺もさん付けで慣れ親しんでしまっていたのだ。
呼び捨てにしなくて良かったよ。ナージャさんのお陰だな!
『そうかのう?』
「おお~、熊さんだぞ~? ガオー」
「が、がおー」
目の前にいた熊さんがしゃがみこんで挨拶? をしてきた。怒ってない様で良かった。やっぱりナージャさんのお陰だ。取り敢えず同じ様に挨拶を返しておいた。
『挨拶??』
「うはは、可愛いな。人にしておくのが勿体ない位だ。どれ、背中に乗せてやろう」
目の前の熊さんが上着を脱いで上半身裸になった。おお、ぬいぐるみみたいに毛がふっさふさだ! 四つん這いになったので乗れと言う事だろう。
顔つきからまだ10代、ビアンカお姉様よりは上っぽいけどまだまだ子供だな。まあ偉い熊さんらしいし仕方ない、遊んでやるか。
『そんなキラキラした瞳でわくわくしながら言うてもの』呆れ顔
従う振りをして抱き付いてふさふさそうな毛並みを堪能した。ぬいぐるみよりは毛が太いせいか固く感じる。でも艶々で抱き付くと気持ち良い!
「わぁー、熊さん! 熊さん! きゃっきゃっ」
良いな熊さん! この高さなら乗っても全然怖くないぞ!? 馬の代わりにしたいな!
『それ普通に失礼じゃからな!?』
ビアンカは目の前の光景に卒倒しそうになりながらもヒストロスに支えられ何とか堪えていた。
「おっと、大丈夫ですかマリアンヌ様」
ビアンカが横目で見るとマリアンヌも青い顔をしてナージャとヴェルンに支えられていた。それも当然だろう。アデール王国で獣人の立場は王族並みの扱いだったのだから。
熊獣人の男の1人がビアンカの前にやって来た。顔つきから此方も恐らく10代後半と言った所だろう。
体つきからアデール王国にいた狼獣人達より圧迫感がある。
「悪いな、ベルダートは子供好きなんだ」
(((子供じゃないんですけど!?)))
ビアンカとヒストロス、ヴェルンの心の声である。因みにナージャは笑顔で頷いて、マリアンヌはそもそも年齢を知らないので熊獣人達と同様子供だと思っている。
「ビアンカお嬢様、ご挨拶を」
思わず一歩引きそうになりそうなのを堪えた所で、ヒストロスからの言葉で礼を失してしまった事に気づいた。
「失礼致しました。フォシュレーグ王国レンリート伯爵家3子、長女のビアンカ・レンリートと申します」
(アイリスちゃんが大人だなんてバレ様がないし、もしバレたらダールトン様から聞いていると思ってたって事にすれば良いかな?)
「ああ、俺はラザフォード、あっちの女性がリグレーシアだ」
「貴女が精霊の愛し子の雇い主なのね、宜しくねビアンカ」
「はい、此方こそ宜しくお願い致しますラザフォード様、リグレーシア様」
「で? そっちのお嬢さんは?」
「タヒュロス王国ルクセンガング公爵家2子、長女マリアンヌ・ルクセンガングと申します」
改めて3人の熊獣人を見るとその衣装は王族並みの衣装となっていた。それは共に来た商工ギルドのダールトンとシルブレッドも同じだ。このカントラス王国でも彼等のリアースレイ精霊王国は強い権勢を振るっている様だ。
(アイリスちゃん関連は全部この人達に丸投げで良いわよね)
改めてトラブル、ではなくアイリスの押し付け先を見て安心したビアンカだった。
ブックマークや何らかの評価を頂けると励みになるので大変嬉しいです。
これからも宜しくお願い致します。




