第014話 スカーレット姫様の来訪
翌日午後になってアデール王国でビアンカお姉様の同級生だったメメントリア王国のスカーレット姫様が遊びに来た。昼食後だったのでアリアとカチュアとお昼寝タイムだったのに何故か俺は相席させられてしまった。
まあアデール王国に居た時も何度か会ってるから別に構わないけど。
と思ったらどうやら俺に、と言うかリリィの回復魔法に用がある様だった。スカーレット姫様の妹が病で良くない状態なので俺に助けて欲しいそうなのだ。
「スカーレット姫のメメントリア王国に行く事になるかは未だ分からないけど、行く事になったらアイリスちゃんに受けてもらいたいのよ」
「ん」コクリ
ビアンカお姉様が受けたのなら拒否する事も無いな。誰だって妹は可愛いものだしな。
『そうかの?』ジト目
メメントリア王国に行くとしたら飛空挺になるけど未だ行けるか分からないそうだ。まあ馬車じゃなければ良いかな。
んで早ければ数日後には移動になるから治癒院での小銭稼ぎはダメだって言われてしまった。――まあ事情が事情だし流石に仕方がない。
「お疲れ様ですスカーレット姫」
「……ふふっ、何とか受け入れて貰えたわマリアンヌ様」
「アイリスちゃんとは何度か会っていますし、人となりは分かっておいででしょう?」
「国の未来が掛かっていますから緊張もしますわビアンカ様。それに人となりと言われてもあの子の善性は分かるけど、言動は理解の範疇を超えていますもの」
「それは私もですわ。未だにあの子には振り回されていますもの」
アイリスが席を外し、3人でお茶にして漸くスカーレットも一息つき緊張を解いて笑顔を見せ、ビアンカとマリアンヌもそれを見て微笑んだ。
国の未来が掛かっていると言うのはスカーレットからすると大げさではない。国の経済がアデール王国とラージヒルド商業王国に抑えられた状況をリアースレイ精霊王国との取り引きで一変される可能性があるのだ。
そのリアースレイ精霊王国が重要視しているアイリスが否と言えば全てご破算になるかも知れない、スカーレットにとっては正に正念場だったのだ。
「今後上手く行けばスカーレット姫様とは良い関係が出来そうですね?」
「上手く行けば、ですね」
「あら、お父様(を操るシャルロッテ)は優秀ですわ。充分な勝算があるのだと思いますわ」
ビアンカのレンリート伯爵領はアデール王国に逆侵攻してスカーレットのメメントリア王国と接する事でリアースレイ精霊王国との取り引きを行うつもりなのだが、ビアンカはその成功を微塵も疑っていなかった。
「はあ、お2人が羨ましいですわ」
「あらマリアンヌ様もアデール王国が弱体化すれば国にとっては良い事ではなくて?」
「ですがアデール王国はどう動くか分かりません。削れた分ウチの国を占領して補てんしようとするかも知れませんし、このカントラス王国とも戦火を交えて仕舞いましたわ。周りは敵ばかりですもの」
「……まあアイリスちゃんと仲良くしておけばリアースレイ精霊王国が助けてくれるかも知れません。お父様(を操るシャルロッテ)にも相談しておきましょう」
「ふふっ、お願い致します」
「「…………」」
「マリアンヌ様は昨日よりも更に顔色が良くなったようですね?」
諦めた様な笑みで返すマリアンヌに微妙な空気になってしまったので、話題を変えるついでにスカーレットが気になっていた事を聞いてみた。
「ええ、やっと安心出来たのかも知れません」
マリアンヌはアイリスの美容魔法の効果が大きいと分かっていたがリアースレイ精霊王国の保護対象、重要人物の為自分の手に余ると考え口にしなかった。
(ビアンカ様も良くあの子を手元に置いておけますわね。私なら怖くて家に預けてしまうと思うわ)
ビアンカがマリアンヌの心の声を聞けていたら(シャルロッテに)受け取り拒否されたんだと叫びたくなっただろう。その上心強い援軍も拒否されたのだ。
ビアンカのアデール王国内での心労は3人の中でも群を抜いていたのかもしれない。
「そうですか。そう言えば獣人の方々がビアンカ様の所へ訪れた翌日はピリララ様もあの子のお陰で肌艶が良くなったとご機嫌でしたわね」
「あら? 気になるのでしたらスカーレット姫様もアイリスちゃんの美容魔法を受けてみますか? マリアンヌ様を見て分かる通りの効果がありますわよ?」
なのでアデール王国から離れた今、元々の快活な性格に備わっていた悪戯心がたまに出てしまうのも無理無いだろう。
「えっ? いやちょっと待って下さいビアンカ様? スカーレット姫様もアレを受けるのは……」
マリアンヌは半裸で受けさせられたアイリスの美容魔法で、淫らな声を出してしまった事を思い出し顔を赤くして止めに入った。ビアンカはスカーレット姫にまでアレをやらせる気だと気付いたのだ。
いや悪い事ではない。明らかに身体には良い。獣人の方々が、リアースレイ精霊王国が重要人物として見るのも分かる能力だと思う。
けど一国の姫が晒して良い痴態では無いとも思うのだ。
「妹姫様をあの子に診せる前に、その力を見ておく事も必要かと思いますわ」
しかしビアンカのその言葉に圧されてスカーレットは新たなアイリスの美容魔法の餌食になってしまうのだった。
『いや餌食ってなんなのじゃ!?』
そう言えば俺は家臣見習いとして月5万イェン貰っているけどアリアとカチュアの主として2人に賃金を払わないとイケないのだろうか。だとすると目減りするだけだし何か考えたいな。
「何言っているのよ。私の家で働いているのよ? 私が出すに決まっているでしょう」
アリアとカチュアとダンスのレッスン中にビアンカお姉様達が見に来たから聞いてみたらそう言われてしまった。
「寧ろ衣食住は満たされているんだし2人に支払われたお金をアイリスちゃんが徴収するべきなのよ」
「……へ?」こて
聞くと2人は俺が500万イェンで買ったからそれを返し終わるまで賃金から回収するのが普通なのだそうだ。2人の場合は契約時に毎月3万イェン借金から賃金として引かれて行く契約になっているのだ。
未成年だしそれでも多い様だけど何時までも借金を返せないだろうからこの契約になった。もっと高くしようとしたらビアンカお姉様にダメ出しされてしまったのだ。
なのでそれ以上お金を渡す必要は無いし奴隷が稼いだら主の物となるらしい。まあ貴族家で豪華な食事にありつけて、毎月3万イェン貰えるなら家出た時の俺なら確かに飛び付いただろうしな。
でもなぁ、2人は年齢も低いからビアンカお姉様から家臣見習いとして月1万イェン払われるんだけど、それを奪うなんて子供のお小遣いを奪うみたいじゃん。
『お主を起こしたり掃除を手伝ったりお主より仕事してるしの』
何言ってんだよリリィ。ビアンカお姉様に添い寝してあげたり一緒にご飯食べたり美容魔法をしてあげたり色々してたじゃんかよ。
『おおう、……美容魔法以外は認識の違いが酷いのじゃ』
精霊には難しかったかな?
「別に2人からお金を取れって言ってる訳じゃないわよ? あくまでも普通はそうするって話し。どうするかはアイリスちゃん次第だけど2人共、今現在恵まれた環境に居るのはアイリスちゃんのお陰なんだからね? 感謝を忘れない様に」
「「はい、忘れません!」感謝してます!」
ビシッと背筋を伸ばして答えた2人を見て頷いたビアンカお姉様はひとしきり俺の頭を撫でてから部屋を出て行った。何故俺の頭だけなのか全く解せない。百歩譲って3人共撫でるなら分かるけど。
『リリィは百歩譲ってもお主の認識が全く解せんのじゃ』
「お金、……どうする?」コテリ
2人に振ってみたけど反応が悪い、何故だろう?
「借金減らすか貯めておくか」
「「え?」……アイリスちゃんがお金を受け取っても私達の借金は減らないよ?」
アリアがマジかコイツみたいな目で見てきた。何か傷付くぞ?
『アリアのお主を見る目が残念な子供を見る様な目になっておるのじゃ』
アリアの説明によると奴隷の主は奴隷を働かせてその賃金を借金の返済に当てるけど、それ以上の利益は奴隷の主の利益に出来るそうだ。
そうでなければわざわざ奴隷を買わずに普通に従業員を雇えば良いのだからそうした方が良いに決まっていると言うのだ。
「(ふーん、……まあでも)……お金、要らない」
「「ええっ?」」
何故か引かれてしまった。けどやっぱり子供から取るのは無いかな。こんな高額の借金を背負わされる事になったのも俺が村の為に高額で買ったからなんだし。この子等が悪い訳じゃないからな。
『お主が責任を感じる事ではなかろう。寧ろ勉強を教えて貰えて伯爵家で働くステータスまで手に入るのじゃ。恩恵の方がデカいじゃろ』
そっちはビアンカお姉様の恩恵だろ。
結局2人共お金は貯める事にした。ある程度貯まったらそれぞれ村に送りたいそうだ。その分奴隷から解放されるのが遠のくのに良い子達だな。
「アイリスちゃんも良い子良い子」
「ねえー?」
頭を撫でてあげたら撫で返された。俺が子供扱いされてるみたいで何だか解せないな。
『――その思考こそ解せないのじゃがな』
借金だの奴隷だのの話しをしていたからねぇねの事を思い出してしまった。元気かなねぇね、会いたいなあ。でもアリア、カチュアの手前弱音何て吐けないからなあ。……うう、そう思うと余計に会いたくなって寂しさが込み上げてきた。
妹のねぇねは借金の多さから犯罪奴隷扱いになっていて3年は借金を返しても奴隷のままなのだ。デパートで働いているんだよな、元気にしてるかなあねぇね。
「アイリス、今日はダンスに身が入って無いわね」
「今日はスカーレット姫様が来訪していたからね。アイリスちゃんはお昼寝してなかったから仕方がないわよ」
余所事を考えながらレッスンを受けていたら何度もアリーニャさんにダメ出しを受けてしまった。そのアリーニャさんはビアンカお姉様と何か話していて険しい顔をしている。怒らせたかな?
ダンスのレッスンの後は楽器と歌のレッスンだったけどアリーニャさんに休む様に言われてしまった。集中出来ていなかったのが見抜かれてしまった様だ。
『いや、お昼寝しなかった所為でお眠だったと思われとるぞ?』
子供じゃないんだからそんな訳無いだろ。リリィは何言ってんだか、偶にこうやってボケて来るんだよな。
『…………この伝わらなさよ』
明日から05時10分と23時10分に投稿します。
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