第007話 幕間 知り得た情勢
「後は家の事ですね。アリアとカチュアはどうしましょう。アイリスが購入した奴隷と言う事ですが、屋敷に居る以上教育は必要だと思いますが」
「そうねアリーニャ、お願い出来るかしら」
「お待ち下さい! そう言う事なら私が! 既にうち解けているこのナージャがやるべきではないですか!?」
「落ち着きなさいナージャ! 何ですか貴女はいきなり! はしたないですよ!!」
「すみませんアリーニャ様っ! でも私がっ! 自分があの子達のお世話がしたいんです!!」
「お世話じゃなくて教育よ! 貴女本当にどうしたの!?」
「はあ、――ナージャ、落ち着け」
「ヴェルン! 貴方も何か言って下さい!! 私程この役目に相応しい者は居ませんよね!? ねっ!!?」
「だから落ち着けと言っている。あの2人の教育係になると言う事はアイリス付きの侍女からは外れる事になるぞ? アイリスは一緒に教育を受ける訳ではないからな」
「はうっ!?」
首を締めんばかりに迫るナージャの手を何とかほどいて面倒臭そうに話すヴェルン。最早慣れたものである。
「それに、教育が進んで2人がアイリスに付く様になれば教育係はお役御免で一侍女に戻る事になる。その時アイリスやアリア、カチュアの側にお前の居場所があるかな?」
「!!!?」
目を見開き愕然としているナージャを余所にその後様々な情報の共有を終えた頃1人の侍女が入って来た。
「失礼致します。ヒストロスさんが商工ギルドのギルド長を連れて来られました。ビアンカお嬢様に面会したいとの事です」
「ダールトン様では無いの? ヒストロスとは行き違いになったのかしら」
「この国の商工ギルドのギルド長です。ダールトン様ではありません」
「内容は聞いてないのよね」
「はい、聞いておりません。会って話したいとの事でした」
「分かったわ。別室に案内して頂戴。先にヒストロスと話すわ」
「畏まりましたビアンカお嬢様」
ヒストロスから話しを聞いたところ、ダールトンは不在だったが巫女様からの手紙もありカントラス王国の商工ギルド長が対応する事になったらしい。
そのギルド長から助力を惜しまないとの言葉を貰い、今後の対応についてビアンカと直接話し合いをしたいとの事で連れて来る事になった様だ。
「おお、貴女がビアンカ様ですかな? 私はこの国で商工ギルドのギルド長を務めていますシルブレッドと申します。どうかお見知りおきを」
ビアンカが応接室に入ると件のギルド長は立ち上がり挨拶をして来たがビアンカ、ヒストロスに続いて青筋を立てたダールトンが入って来た事でその場で固まってしまった。
「な、何故お前が此処に……?」
「これは私の案件だよ。此処に来るのは当然だろう? それより言うべき事があるんじゃないか? 私への客人を騙す様な真似をした」
「ふん、この国は私の担当だ。精霊の愛し子が関わるのだぞ? 貴様1人に任せておけるか」
「開き直りか。まあ良い、確かに私はカントラス王国の情報には疎いからな。来たからには役に立ってもらうぞ」
「ふん、当然だ」
「あの、騙すとはどう言う事でしょう」
ヒストロスから話しを聞いてる間にダールトンが屋敷にやって来たのだが、話し合いに同席を求められたので受けたらこれである。
ビアンカは困惑しているが貴族の令嬢を置いての不穏な発言に疑念を持って問いた。
「ああ失礼、この馬鹿が私がギルドに居たのに居ないと詐称して対応したのですよ。能力はあるのにどうも功名心に駆られた様で」
「くっ、お前は年下の癖に枯れすぎだ。商人の風上にも置けんぞ」
「――お2人共商人ならば最低限の礼節を持って頂きたいのですが?」
「「失礼しました」」
話しが進まないと一番年下のビアンカに諭されて2人とも気まず気に頭を下げるのだった。
侍女にお茶を用意させ一先ず一息付いてから会談をする事に、その口火を切ったのはダールトンからだった。
「先ずはビアンカ様方をどの様にしてフォシュレーグ王国へ帰すのか、その方策を話し合いましょうか」
「当てがあるのですか?」
「当て、と言う程確実性は無いのですが危険は少ないと思います。先ずは話しを」
「聞くわ」
「では……、メメントリア王国のスカーレット姫様から何か話しは聞いておりますか?」
「会談をしたいと話しが来ていたわね。此方に来たばかりだし、貴方から話しを聞いて明日朝にでも返事を出す予定でしたけど?」
「成る程、実はスカーレット姫様の妹であるメメントリア王国の第2王女コクリコット姫様が病に掛かっておりましてな。此方にも相談があったのですが、巫女様の癒しの神業は精霊神社の中でしかその能力を発揮出来ません。しかし病の姫様を長時間馬車で移動と言うのもやはり無理な話しなのでして」
「ちょっと待って! まさかメメントリア王国に行けって言うんじゃないでしょうね!?」ガタッ
メメントリア王国は高地にあり魔の森に囲まれていてアデール王国としか国境を接していない。つまりメメントリア王国に入国するには敵国であるアデール王国へ再び入らなければならないのだ。
「まさかまさか! 精霊の愛し子様をそんな危険な目に遭わせる訳には行きません!! おいダールトン! どう言う事だ!?」
ダールトンは荒ぶるシルブレッドに見向きもせず手で制してビアンカが落ち着くのを待ってから口を開く。
「……ビアンカ様は我が国と貿易をする条件をご存知ですか?」
「確か、王都への飛空挺の乗り入れと商工ギルドと精霊神社の権利関係だったかしら」
「そうですね。その認識で間違いありません」
「っ! まさかメメントリア王国に飛空挺を!??」
シルブレッドが驚きの声を上げるがダールトンはお前に話して無いんだよと睨み付ける。そこそこ目端は効く様だが商人としてその狼狽えっぷりは何とかならないのかと怒りを吐き出さずに堪えていた。
「スカーレット姫様はその条件を受け入れて我々の手の者がメメントリア王国に行って交渉中でして、今は返事を待っております」
「それ、上手く行くとは限らないのよね?」
「上手く行く可能性は高いと思いますよ」
ダールトンはお茶を一口含み一息付いてからその根拠を羅列していった。
一つ、アデール王国に戦争を仕掛けられ命綱の農地を奪われている。
一つ、ラージヒルド商業王国の商人に高価格で農作物を買わされている。
一つ、ルードルシア教王国は痩せ細った危険な土地を忌避して教会も建てない癖に寄付だけは迫る。
「元々高地で立地が悪い上に魔の森に囲まれアデール王国、ラージヒルド商業王国、ルードルシア教王国と悪意ある相手と多少の取り引きがあるだけなのです。我々の手を振り払う理由はありません」
何があるか分からないので楽観視はしていませんがね、と締めた。
「ただ問題もあります。我が国との国交を受け入れたとしてもメメントリア王国は小国です。精霊神社を建てても巫女を派遣するのは難しいのです」
「……そこでアイリスちゃんの出番と言う訳ね」
「ええ、アイリス様なら第2王女コクリコット姫様の治療も出来るのではないかと」
「それで、私達がその話しを受けたとしてもフォシュレーグ王国に帰れませんよね? メメントリア王国へ飛空挺で行ったとしてもフォシュレーグ王国とは繋がっておりませんし」
「その通り。ヒストロスさんの言う通り2国は国境を接しておりません。現状では、ですが」
「まるでこれから国境が接するかの様な物言いですな。ダールトン様」
それはアデール王国が削られる事を意味する。メメントリア王国かフォシュレーグ王国か、又は両国がアデール王国へ戦争を仕掛けると言うのか、どちらにしろ大きな出来事がまた起こる。ヒストロスは見定める様に厳しい視線でダールトンを見つめた。
「先ずはフォシュレーグ王国の現状を、レンリート伯爵領の北にあるマルトア伯爵領はアデール王国との戦争で領地を削られた上レンリート伯爵領に攻め入りました。しかしあっさりと潰され戦時下に内乱を起こしたとして子爵に落とされ領地は剥奪、現在は王家直轄領となっております」
「……何故、その様な馬鹿な真似を……」
「領主とはその領地では王の様なものですからな。自尊心が肥大化して抑えられなかったのでしょう」
実際はアデール王国の侵略を知っていたのに教えなかった(証拠は無い)と言う理由で以前奪われた(と思っている)アドン元男爵領が再開発されて発展しているらしいと聞いたので奪い返そうとした、と言うのが真相だが。
「逆にレンリート伯爵領はアデール王国の領地を削り取り伯爵領として似つかわしくない程広範な領地を得ました。また南部のラーダンス子爵領をアデール王国から救った功績もあります。その功績によりレンリート伯爵を辺境伯へと陞爵される事が決まっております」
「「「辺境伯!?」」」
「ええ、更に第三王女エミリアーナ・フォシュレーグ姫様とラウレス・レンリート様の婚約をお決めになり、王家直轄領になった旧マルトア伯爵領を下げ渡す事になりました」
「ええっ!? ラウレスお兄様が!!」
(て言うか第三王女!? あの我が儘姫で有名な!??)
第三王女のエミリアーナ・フォシュレーグは好奇心の塊で本狂い魔法狂い。魔の森や迷宮に行ったりして突撃姫等とも陰では言われていて、自身で騎士団を率いる程破天荒な性格をしている。
ビアンカも面識は無かったが突飛な行動力は聞いていた。
(ラウレスお兄様に御せるとは思えないわね。私も巻き込まれない様にしないと)
「はい。継承権は低いとは言え姫様は王族ですのでラウレス様の爵位は伯爵になるかと聞いております」
「ちょっ、ちょっと待って!? それじゃ(長男の)レシュレートお兄様は?? いや、レシュレートお兄様は結婚してますけど面目丸潰れじゃないかしら?」
レシュレートは厳しい領主教育を受けて来ていて、実際に様々な仕事にも付いて経験を積んでいる。次男のラウレスは教育は受けているがそこまで厳しくはなく重い責任も無い気軽な立場だった。
それが棚ぼたで伯爵になる上、更に王女まで娶る事になるなんて仲は良くとも複雑だろう。
「ねえ? 多少削られたと言っても伯爵領よね? それがラウレスお兄様のモノになったらレンリート家の権勢が強くなり過ぎじゃないかしら?」
「表向きはそうなりますが実質要職は王家側の者達で固められているでしょう」
「ああ、まあ、そう言う事なら納得ね」
(報償であって報償でないって事ね。寧ろお父様に首輪を付けたつもりかしら? シャルロッテに付けないと意味無いと思うけど)
「それと、……旧マルトア伯爵領はアデール王国に削られたままで王族が嫁ぐには相応しくないとの事で領地を奪い返すつもりです」
「そう、まあ当然かな?」
「ラウレス様に指揮を取らせてその功績によって伯爵位を授けるつもりの様です」
「ああ、成る程ね」
「レンリート伯爵もそれに参加して、ついでにメメントリア王国まで領地を伸ばすつもりの様です」
「――はいっ!??」
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