第008話 魔力が足りない、おのれ3馬鹿!
翌朝、石猪の肉と野菜のスープに黒パンを食べて出発。直ぐに8階層に下りて行く。
しかし悩ましいな。付いて行くだけでも回復魔法を使ってやっと、出来れば身体強化魔法も使いたいくらいなのに荷物持ちをやらされている3馬鹿に回復魔法を施さないといけないのだ。
余計な魔力を使いたくないから拒否したい所だけど、俺は回復要員として参加してるから何の為に来たんだって事になる。
足手まといと見られない様に戦闘で実力を示しておく必要もあると言うのに全く、腹立たしい。
――とアイリスは思っているが実際には既に商工ギルドのトップにごり押しされた重要人物、そもそも戦闘要員としては見られていない事に気付いていない。
『いざと言う時は魔力の盾や短距離転移を使ってやるのじゃ。だから思いきって戦うのじゃ!!』
リリィもやる気だし、無視して精霊剣を取り上げられたら今後の生活が苦しくなる。くそぅ、魔力が足りない!せめて3馬鹿がいなければ。
『それはリリィが外魔力循環でお主に補給するしかないの、戦闘中に使う事態を想定して予行練習するくらいの気持ちで我慢するのじゃ!』
うぐ、無いとも言えない状況を口にしやがって。あの気持ち悪さの中でまともに戦えるかと言うと無理だな。はあ〜〜〜、……命には代えられないか、仕方がない。
『お主は不本意かも知れんがな。こうやって魔力を補給してもらえるのはお主だけなんじゃからな?特別なんじゃぞ?』
充分分かってるよ、ねぇねを助けられたのも今持つ力も、それでお金を稼げるのも全てリリィのお陰だからな。リリィが居なければねぇねは奴隷のまま、娘のユミルも奴隷に落とされていただろうしな。
特にねぇねを助けられた事はリリィには感謝しか無いよ。
『おおう、思ったより気持ちが重いのじゃ』
――お前、自分から振っておいて何だよ。
俺だってボロボロの武器防具で日々生きるので精一杯だったんだぞ? 回復魔法も無い、怪我をしたら教会で馬鹿高い金を取られるか足りなければ即奴隷落ちだ。
今はそんなギリギリの焦燥感も無く生きられてるんだ。幾ら感謝してもしきれねえよ。
『ううむ、それだけ素直に感謝を口に出来るくらい善性なのに、リリィの魔力は受け付けないのは何故なのじゃろうな?』
お前俺の年齢を考えろよ、三十路超えて綺麗事だけで生きていけたと思うのか? スレもするだろ。
『(そう言う割にはオナゴに甘えたり泣いたり言動が一々子供っぽいのじゃが? 内面の善性を年齢がネックになって受け入れられないのかの? これも一種のツンデレかの?)』
「アイリスちゃんは良く眠れたみたいね?」
「んぅ?」
ミリアーナが眠そうだ。
「昨日あれから国軍の馬鹿共がテントを寄越せとか言って来て、危うく奪い合いになるところだったんですよ?」
「結局冒険者から寝袋を奪ったらしいけどね。金で解決したらしいけど、相当恨まれてるんじゃないかしら」
ナージャさんまでも眠そうだ。けど俺が寝てたのはリリィの力だからな。
『何じゃ、不満か?』
いや有難いです。
『(その所為で良く寝る子供扱いされてる事は黙っておくのじゃ)』
食事を摂った後ミリアーナもナージャさんも眠気が落ち着いたみたいで昨日と同じ隊列で行く事になった。
「あのくらいで寝不足なんてヤワ過ぎるわね。嬢ちゃんの方がよっぽど図太いじゃない」
「図太いって、こんな細っこい嬢ちゃんには似合わない言葉ね。それより8階層からは岩地を進む事もあるから、そこでは私達が前に出るわよ。良いわねレーディア」
「確かに嬢ちゃんには荷が重いか、分かったわよツェツェーリア」
「それは良いけど私が寝不足なのは迷宮だからよ。安全って言われても魔物の領域でしょう? 安心出来ないのよ」
「それは慣れる、と言うか実感するしかないわね。人が大勢いる所では魔物が自然発生する事は無いわよ」
ミリアーナの抗議に納得する。俺もリリィに眠らされなければ落ち着いて寝れなかっただろうな。て言うか魔物って自然発生するのか。
『魔物の自然発生は邪素、淀んだ魔力によって発生するのじゃ。反対の霊素寄りの人間がこれだけ居れば邪素も散らされるから大丈夫なのじゃ』
ほうほう。
8階層の草原岩地エリア、今までと余り変わらない道を進んで行くけど途中から岩地が突き出しているエリアに来た。
「草原エリア側を通ろうとするとかなり遠回りになるから此処からは岩地を通る事になるわ。私とツェツェーリアが前に出るわね。アンタ達はどうする?」
「んん〜、私は戦えるなら前に出たいけどどうかなナージャ」
「ミリアーナなら対処出来るでしょうけど、岩地エリアに出る手投げ猿は石等を投げて来ますから、後ろに被害を出さない様に弾いて行かなければなりません。剣が痛みますよ?」
「……止めておくわ」
ミリアーナは盾無しの双剣だからな。
「後私はアイリスちゃんの護衛として来ていますから前には出ません。ヴェルンもですよね」
「ええ、余裕があれば何処かで勘を取り戻すのに戦いたいですが、せめて15階層当たり以降でないと逆に勘が鈍りそうですしね」
「了解、んじゃ行くわよ」
「んっ」コク
戦わなくて良いってのは助かったか? いや、魔力の節約にはなるけど俺の力が通用しないってのはなんだかな。スリングショットで援護くらいするか?
『止めておくのじゃ。手に入れたばかりで何処に飛ぶか分からんのじゃ。味方に当たったらどうするのじゃ』
うぐ、――まあ仕方がないな。
岩地と言ってもほぼ平地で岩山を登る訳じゃない。大小様々な岩石がゴロゴロあるエリアだ。それでも歩く所は石畳の様に平らじゃないから歩き難いけどな。
ズルッ! 「んあっ、ごめ、なさい」
足が滑りそうになって思わずナージャさんの服の袖を掴んじまった。うぬぬ、仲間を巻き込む様な真似をしてしまうとは……。
「大丈夫ですよアイリスちゃん、歩き辛いですからね。なんなら抱っこして行きましょうか」
「んっ、良い、頑張る」
「そうですか」
何故かショボンとさせてしまった。でもまた転びそうになってはイケないと言われてナージャさんの服の裾を掴ませてもらう事になった。――何故かナージャさんは上機嫌になったみたいなんだけど?
「ギキーー! ギギーーー!!」
「「ウキーー!!」」
うおっ、アレが手投げ猿か、俺より少し大きいくらいだな、でも普通の大人よりは大分小さい。140cmくらいかな? けど手が長いな。それが3匹集まって来てそれぞれ手に石を持って投げて来た。
ガンッ! ガッ! ゴッ!!
レーディアさんとツェツェーリアさんが小楯や小手で叩き落として行く。――ああ、これは俺には無理だな。避けたり逸らしたりは出来るかもだけど、そうすると後ろに被害が出るもんな。
どうやって倒すのかと思ったら他の傭兵が追って行って散らした。足が速いし無理して倒す必要も無いらしい。
「倒すとしたら遠距離攻撃が楽だけど、魔法も魔力が勿体ないし弓も矢が勿体ないじゃない?」
「高威力の魔法なんてそうそう撃てないしね」
レーディアとツェツェーリアが落ち着いて対処しながら説明してくれた。
後方、国軍冒険者達。
「ぐわっ! なっ、何だ!? あっ、頭から血が!!?」
「ゲッフェルト大隊長! おい冒険者っ、何してる! しっかり守らんか!!」
「こんなモン守り切れるかよ! いい加減防具くらい付けやがれ!!」
「俺等は荷物持ちだぞ! 軍隊なら自分の身くらい自分で守れや!!」
「貴様等不敬だぞ!!」
「「ーーーー!!」」「「「ーーーー!!!」」」「「ーー!ーーーー!!!」」
しかし相変わらず後ろが騒がしいな。
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