第007話 夜営にて、国軍の主張
「ぐあー、疲れた! 馬も使えんとは迷宮とは気が利かんものだな!」
「全くだ、国軍のエリートたる我等が何故歩兵のような真似をせねばならんのか」
「おい冒険者共!! さっさとテントを用意せんか! 何時まで待たすつもりだ!?」
「ああ? 誰かテントなんて持って来たか?」
「俺は知らねえぞ?」
冒険者達は周りを見渡すが誰もテントなんて持って来ていなかった。勿論冒険者自身が使う寝袋くらいは持って来ているが。
「おい貴様等! 何時まで待たすんだ!? さっさとせんか!!」
「いや、て言うか誰もテントなんて持って来てねえぞ? て言うかあんた等寝袋も持ってねえよな? どうすんだ?」
「なっ、何だと! どう言う事だ!!」
「いや知らねえよ。つかこっちが聞きてえよ」
これには国軍も冒険者も困惑である。
真相を明かすなら国軍が冒険者に武器防具を持たせた所為でテントを持つ余裕が無くなった事にある。因みに商業ギルドが雇った探索者達は国軍の水、食糧、着替えのみの契約である。
冒険者は国軍の装備を持たされていて自分達の寝袋は流石に気にしたが国軍の寝具に関しては意識の外だったのだ。
しかしそれに早くから気づいた者がいる。テントを用意していた商業ギルド支部長のザーザルである。ただし気づいたのは商業ギルドの支部に戻ってから、他の職員からの報告でである。
「テントも寝袋も無く、どうするつもりなんだよアイツ等はぁああああーーーーっ!!?」
国王を焚き付けて国軍と冒険者をねじ込んで副都で冒険者、商業ギルドの影響力を上げようとしたのに初手からこの様である、先が思いやられると言うものだろう。
「一体どれだけの金を使ったと思ってんだクソがぁああああーーっ!!!」
「荷物持ちは貴様等の仕事だろうが! テントが無いのは貴様等の責任なんだから何とかしろ!!」
「食事に武器防具まで持たせて寝ぼけんな! テメー等が余計な物持たすからだろがっ!! 他人の所為にすんな!!」
「まあ待て待て、栄えある国軍のエリートたる我等がこの程度で取り乱す事など無い。見ろ、傭兵共が向こうでテントを用意しているではないか」
「然り、料理もしてるようだしさっさと食事を取って寝てしまおう。流石に今日は歩き詰めで疲れた」
「そうだな。おい冒険者共、武具の手入れはしておけよ」
「「「…………」」」
冒険者達は思った、使ってねえ武具に手入れなんて要らないし、傭兵が用意したテントも飯もお前等の為じゃないと。
「……傭兵とも揉めるな」
「ああ、……でもほっとけよ? 面倒見切れねえし今のうちに飯食って寝ちまおうぜ」
「「「おう」」」
「ふん、粗末なテントだがまあ良いだろ。これで我慢してやるか。おい! 食事を持って来い! 後酒も用意しろ! それと女もだ!」
「「…………はあ?」」
アーダルベルトとルトルートは他の傭兵が絡まれる前に対応しようと前に出たが、国軍の余りの言動に呆けてしまった。
「何をしている! 早くせんか! 大隊長ゲッフェルト様の言う事が聞けんのか!! 全く、椅子にテーブルくらい出せんのか気が利かん!」
「待てコラ! 勝手にテントに入るな! 飯は俺等のもんだっ!! 自分の分は自分で用意しろや! 女が欲しけりゃ上に帰って店で買ってろ!!」
「なっ! 何と言う口の聞き方だ!! これだから野蛮人は!!」
「ああっ? 野蛮人はテメー等だろが! 他人のモンに手ぇ出すんじゃねえよ、乞食か!!」
「なっ、なっ、何だと! こっ、乞食だと!! 貴様等っ、私は第五国軍第七大隊長のゲッフェルト・マドラーであるぞ!! その私を愚弄するのか!?」
「そうだ! 下賤な分際で平伏せんか!!」
殺気立つ国軍だが武具は冒険者に預けたまま、鎧も纏っていないから周りの傭兵達も油断はしていないが注意深く伺っているに留まっている。国軍の危機意識の低さが一触即発の状況を避けた形になったが武器を持って抜いていたらアーダルベルトとルトルートに斬られていただろう。
「待て待てルトルート、いきなりケンカ売ってんな」
「日和ってんじゃねえよアーダルベルト! それともテメーのクランで接待すんのか!?」
「しねえよ!? けどもっと言い方とかあるだろう?」
「今更取り繕ってもしょうがねえだろが! 今後もあるんだぞ!? 寧ろ今ここでキッチリ言っとかねえとこの先ずっと揉めるぞ!?」
「まあ、確かに、……はあ。まあそう言う事だからこのまま引き取ってくれるか国軍さんよ?」
「何だと!? 栄えある国軍の役に立てる栄誉をくれてやると言うのだそ!? 光栄に思わんか!!」
「いや思えねえよ! 何の罰ゲームだよソレ!? んな恥晒せるか!!」
ここに居る国軍の兵士は貴族の子息ばかりで普段から我儘放題で平民の嫌われ者ばかりだ。当然アーダルベルトとルトルートの敬う様子の無い態度に煽り耐性の無い国軍は皆顔を真っ赤にして怒っている。
「きっ、きっ、貴様等ぁ!! 我等に協力するのは陛下の命ぞ!! 陛下の勅命を無視するつもりか!!?」
「いや勅命にはそこまで書いて無かっただろが、曲解するアンタ等の方が不敬じゃないか」
「国軍の役に立つのは当たり前の事ではないか!! もう良いっ、テントを寄越せ! 後見目の良い女も連れて来いっ! 情けをくれてやるから有り難く思え!!」
そのまま歩き出しテントに入ろうとした国軍の大隊長ゲッフェルト・マドラーにアーダルベルトとルトルートが同時に大剣を抜いて鼻先と首筋に突きつけた。
「ひっ、なっ!」
「そいつはちょっと、調子に乗りすぎじゃねえか? 国軍さんよ?」
殺気立つ2人に大剣を突き付けられ、足が竦み上がるゲッフェルトだった。
「もう、五月蝿いわねぇ。眠れないじゃない」
「出て行ってはイケませんよミリアーナ。貴女の凶悪な駄乳は火に油を注ぐ様なモノですから」
「駄乳って、散々揉ませてあげたのに」
「揉まされたのです! 全く貴女と言う人は!」
「それにしてもこんな騒動の中でもアイリスちゃんはぐっすり眠ってるわねえ?」
「まあ子供ですからね、眠りが深いのでしょう」
「……ナージャの中では本当の子供扱いなのね。で? 国軍の連中が踏み込んで来たらどうするの?」
「斬って捨てます」
「それ大丈夫なの?」
「アーダルベルトさんが止める筈ですが、それを超えて来るとなると戦闘不可避でしょう。まあそこまで根性がある様には見えないですが」
「おっ、女など我等の情けをくれてやるのだぞ? それこそ感謝すべきであろう」
「そっ、そうだ。何時まで大隊長に剣を向けているんだ。早く剣を下ろせ」
国軍の大隊長ゲッフェルトと騎士達は2人に剣を突き付けられながらもプライドの高さからか引くに引けず足を震わせながら到底受け入れ難い説得をして来た。
「どんだけ自分を高く買ってんだよ」
「こっ、こんな所まで歩き詰めさせられた我等を労おうと言う気持ちが無いのか」
2人の様子に直ぐさま刃傷沙汰にはならないと考え、改めて理不尽な要求をしたゲッフェルトに2人は更に呆れた。
「歩き詰めなのは俺等も同じだ、しかもこっちは戦いながら来たんだぞ?」
「戦う為に来たのだから当たり前であろう!」
「それはアンタ等も同じだろ」
「違う! 我等は30階層まで到達する事が使命であって戦う事ではない!」
「はあ、……どの道俺等より楽してんのにそんな奴等の接待なんてしてられるかよ。こっちは疲れてんだ、さっさと戻んな」
会話にならないと見てアーダルベルトとルトルートは会話を切った。その後も国軍の連中はぶつぶつ言っていたが傭兵達は剣を見せつける様にして威嚇していた為に渋々と引き下がって行った。
「…………初日でこれかよ」
「思った以上に使えねえぞアーダルベルト。このまま深く潜って行ったら何処かで暴走すんじゃねえか?」
「嫌な事言うなよルトルート、マジでありそうで怖いんだけど」
「まっ、いざとなったら蹴散らすしかねえわな。奴等の力なんてたかが知れてんだ、問題ねえだろ」
ルトルートの悪い笑顔に胃が痛む思いがするアーダルベルトだった。
明日から02時10分と08時10分に投稿します。
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