第005話 副都の迷宮探索序盤
少し前、最後尾に着く国軍サイド。
「ゲッフェルト大隊長、漸く4階層に着きましたね。どうします? 鎧だけでも着けますか?」
「まだ此処で出るのは小物ばかりだろう。その必要な無い」
「ですな」
国軍は兵站の荷物持ちとして探索者を雇ったが、それとは別に武器や鎧を持たす者達を商業ギルドに雇わせていた。丈夫な軍服を着ているからこの程度の階層なら対魔物と言う点では問題無いとは言えるが、危機意識が低いと言わざるを得ないだろう。――実際持たされた者達は呆れと侮蔑の目で彼等を見ていた。
「それにしても探索者共は常識を持っていませんな。我等を最後尾に置くなど……」
「ふん、高貴な身分と言うモノを理解出来ないのであろう。我等が攻撃を受けたらどう責任を負うつもりなのか」
「然り、後ろから攻撃を受けやすいのなら荷運びの探索者を最後尾に着けるのが道理であろうに」
「まさかその道理を説いたら依頼から逃げ出すとは思いませんでしたな、脆弱な奴等よ」
「結局商業ギルドが報酬を上げて何とかなりましたが最後尾に着く事は拒否されましたな。まあ商業ギルドが雇った冒険者を後ろに付けましたし、我等の武具も持たせる事が出来たので返って良かったのですがな」
「うむ、我等を理解しているのは商業ギルドだけ、思ったよりもキツい任務になりそうだな」
「しかし任務を終えれば昇格もあり得ます、今から楽しみですよ私は」
「はっはっはっ、気が早いな貴君は」
身軽な格好で時に酒を煽りながらピクニック気分としか言い様のない国軍の一団とは違い、同胞扱いされた商業ギルドの副都支部で支部長のザーザルは荒れていた。
「クソがぁああーーっ! 無駄な散財させやがって!! 私を誰だと思っているんだあのゴミ共はぁああーーっ!!!」
「落ち着いて下さいザーザル殿! 冒険者も送りこめましたしこれで30階層攻略が出来れば他の冒険者も呼び込めます」
「そうです! 必要な散財だったのです!!」
「ふざけるなっ!! アレは俺の金だったんだぞぉおおおーーっ!!!」
そうなのである。国軍の急な要求に商業ギルドの資金を使えず自身の私財で賄うしかなかったのだ。本来必要の無い私財の散財をさせられて荒れるなと言う方が無理な話しだろう。
前回の迷宮探索じゃ考える余裕が無くて気付かなかったけど、迷宮って精霊が居ないな。
『精霊は基本的に邪素、淀んだ魔力を嫌うからの。邪素塗れの迷宮なんぞには寄り付かんのじゃ。リリィは精霊剣に宿っておるから問題無いがの』
無い胸を張って偉そうに言うけどリリィじゃなく精霊剣と精霊神の力なんだよな?
6階層に入ると今までの草原に岩地が混ざって来た。その間が土や小石の道の様になっていて通り易くなっていてまた先頭に立つ事になった。
「ここから新しく出て来る魔物は草原側から石猪、小型の魔物だけど鼻が効くのと頭が石みたいに固くて突進力があるから小っちゃい嬢ちゃんは注意が必要かな? 後は岩地側に手投げ猿、石を投げて来るからなるべく草原側を歩く様にね?」
「岩地側には入って行くと水場があるから普段はそこで保水するんだけど、今回は10階層の補給地まで手持ちの水で行けるのは良いわね」
「手投げ猿は身軽で面倒臭いからね」
レーディアとツェツェーリアの話しを聞きながら警戒しながら進んで行く。
『主よ石猪じゃ、来るのじゃ』
リリィの指差す方向の草むらから50cm程の石猪が飛び出して来た。身体強化魔法で横にかわしながら首に精霊剣で一突き、石猪の勢いに任せ精霊剣を抜いて残心、石猪はそのまま倒れた。
「落ち着いてるわねぇ。新人は大抵この階層で躓くんだけど」
「草で見えないし突進力があってタフだから、気付いた時には正面から受けて怪我するものなのよ?」
「手投げ猿も石投げで上手くかわせないとボロボロにされるしね。重装備だと地面が不安定な岩地を歩くのに向かないし」
「国軍はこれが嫌で迷宮を手放したって言う話しよねえ」
「3階層の床の凹凸とかもね?」
『リリィのお陰で不意打ちされずに済むのじゃ、感謝するのじゃぞ」
分かってるよ、こんなのの突進なんて受けたら俺じゃ普通に大怪我だし。
6階層を終えて1時間程の小休止、その間にリリィに魔力体力を回復して貰う。外魔力循環を使ってリリィが大気中の魔力を自分の魔力に変えて俺の身体に入れて来る。清浄過ぎる魔力は俺にとって毒だけど寝てる間にやってもらったから大丈夫。
『毒じゃないのじゃ! リリィの魔力は巫女なら喜んで受け入れるのじゃぞ!?』
イヤ俺巫女じゃないし。
『巫女じゃなくても清廉潔白な者なら有り難がるモノなのじゃ!!』
俺清廉潔白じゃないし。
『堂々と言うななのじゃ! 本当にお主と言う奴は全くもうっ!!』
はいはい。この後も頼むよリリィ、お前の探知が無いと俺はどうにもならないからな。
『分かっておるのじゃ! じゃがいずれお主も感知魔法を覚えるのじゃぞ?』
んん〜? リリィが使えるなら良いじゃんか。俺は他の魔法の鍛練をした方が良いだろ。
『感知魔法は戦闘に有効なのじゃ。使い熟すと死角からの攻撃も肌で感じる様に分かるし、敵の動きを目だけでなく魔法でも手に取る様に分かるのじゃからな?』
それかなり重要じゃね? 何で今まで教えてくれなかったんだよ。
『感知魔法は魔力を食うし使い熟すのが難しいからの』
そうなのか?
『先ず身体強化魔法を使えるようになって無属性魔法を使える様にならんといかん。その後も念動魔法で体外で無属性魔法を操れるよ様にならんといかんし感知魔法はそれからじゃの』
ほう〜、モノには順序があるって事か。
『お主の場合は魔力量の問題もあるのじゃ。戦闘では身体強化魔法に頼りきりじゃろ? もっと魔力量を上げんと感知魔法を戦闘で使える余裕など無いのじゃ』
ぐぅ、けど魔力量を増やすのはリリィ任せになるよな?
『睡眠中に回復魔法の応用で能力拡張をしとるからの。けど魔法を使い熟す事でも効率的に使える様にもなるし魔力量も増える事もあるのじゃ、自身で精進する事も忘れるでないのじゃ』
そりゃあ、――分かってるよ。
『(しかし肉体面では早々に伸びなくなったが魔力はどこまで伸びるのか未だまるで底が見えんのじゃ。下手するとハイエルフ並みまで? ……いやまさかの、人間でそんな事はあり得ないのじゃ)』
後方、国軍は軽装で歩くだけだがそれでも長時間歩かされイラついていた。そして当然注意も散漫になりこう言う事も起きる。
「ぐわっ! 何だ、ぎゃあー!! 噛まれたーー!!」
「うおっ! 何だ!?」
「石猪だ! 何でコッチに??」
「おい冒険者! さっさと何とかしろ!!」
「ああん? 石猪くらいテメーで何とかしろや!」
「何だと! 我等を守るのも仕事だろうが!?」
「知らねえよ! コッチは戦いながらテメー等の荷物背負わされてんだ! 抜けて行った魔物くらい何とかしやがれ!!」
「貴様ぁ! 冒険者風情が舐めた口を叩くな!! その首かき切ってやろうか!?」
「良いから早く何とかしてくれぇええーー!!足が千切れるうぅううーーっ!!!」
小休止をとってから7階層へ、途中後ろで何かあったみたいだけど、ほっといて進むつもりの様だ。
「行くわよ嬢ちゃん、下手に絡むと巻き込まれて面倒臭い事になるわ」
「もう既に面倒臭いわよ。国軍なんてお荷物に冒険者共まで来る事になって、ウチの荷物持ちの探索者達が絡まれたらどうするのかしら」
「レーディアに任すわよ、副団長でしょ?」
「ツェツェーリアに命令して当たらせましょうか?」
「止めてよー!」
「「あはははは」」
面倒ってだけで問題無さそうだな。
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