第036話 幕間 レイク、戦争の気配
「さて、本題といこうかしら」
((これから本題!?))
レイクとルシオス以外は既にやられっぱなしでもうお腹いっぱいだった。
「これから話す事は極秘事項、他に話す事を禁止するわ。もし破ればレンリート伯爵から厳罰を受ける事になると思って頂戴」
「…………それ、聞かなきゃ駄目っすか?」
「俺も、聞きたくないっす」
「駄目よ」
リックと探索者達が日和ったがシャルロッテが即座に凍りつく様な笑みで切り捨てた。
「――近々、戦争が起こる可能性が高まっているのよね」
シャルロッテのその言葉を聞いて沈んだ空気が全て緊張感に変わっていった。自分達の命に関わる事なのだから当然だろう。
「相手はマルトワ伯爵ですか?」
「いいえ、そちらはまだ不透明ね。貴方達領軍を置いて牽制しているけど、相手がどこまでこの地に執着しているか分からないもの」
「マルトワは独裁者気質のあるクソ爺ですが小心者でもありますからな。土地を奪われたと考えれば奪い返そうとするでしょうが、此方の軍備を見て臆病風に吹かれる可能性もあります」
ルシオスは元々マルトワ伯爵家に仕えていたがあまりの暴虐振りに進言したところアドンの迷宮周りの土地を押し付けられ、家族を奴隷にされていたのをシャルロッテに救われたのだ。
だからこそマルトワ伯爵については誰よりも良く知っているのだった。
「どちらもあり得ると言う事よ。まあ良いわ、今回はアデール王国との戦争の話しよ」
「「アデール王国!!?」」
まさか国家レベルの話しだとは思っていなかった面々は驚愕する。アデール王国はレンリート伯爵領とは隣り合っているのだがここ数十年小競り合いはあっても戦争とまではいかなかったのだ。
それがすぐそばに戦火が迫るかも知れないと聞けば驚くのも無理無いだろう。
「……それは、確定なのでしょうか?」
「さっきも言った通り可能性が高いって話しよ」
「…………規模はどうでしょう」
「開戦時期にもよるけど此処と北のマルトワ伯爵領、南のラーダンス子爵領は侵略を受ける可能性が高いわね。でも此方に隠れて準備をしているつもりの様だから、準備期間を考えると国を滅ぼす様な規模では無いとも思うわ」
「あの、それで……此処は大丈夫なのでしょうか」
「レンリート伯爵領はこの事態を想定して領境の防備を10年以上掛けて強化して来たのよ。それについては問題無いわ」
何とか平静を取り繕った兵士が質問を重ねていくが、そこに探索者の不安そうな質問が出る。がシャルロッテに断言され二の句が継げなくなってしまった。
「この領地が大丈夫として、他の領地は大丈夫なのでしょうか?」
「アデール王国の動向を知らなければ厳しい事になるでしょうね」
「知らないのですか?」
「さあどうかしら」
暗に他領とは言え自国の危機を知らせず共有しないと言う様な物言いに、政治的な何かがあると感じて兵士達もこれ以上は発言出来なくなってしまった。だがレイクは関係無いとばかりに引き継いで話しを続ける。
「シャルロッテ様、知らせる事が出来ないのですか?」
「アデール王国との2国間だけの話しなら出来るのだけどね。どうもルードルシア教会王国とラージヒルド商業王国が裏で糸を引いてる様なのよ。彼等に知られずに国や他領に知らせられて?」
このフォシュレーグ王国もアデール王国もルードルシア教王国、ラージヒルド商業王国と言う超大国の影響下にある。ルードルシア教王国の神聖教会、ラージヒルド商業王国の商業、冒険者ギルド等に知られずに動くのは難しいだろう。
「万が一知られたらどう動くか分からなくなるわ。現状国境の領地の削り合いなるだろうけど、下手をすると国取り合戦にされかねない。あの超大国2国の手のひらの上でね」
シャルロッテが周りを見渡すと皆難しい顔をしている。
「兵士達は状況が動き次第前線に向かって貰う事になると思うから、悟られない程度に鍛えて引き締めて置いて頂戴」
「「はっ、了解しました」」
「探索者達にはその後の村の警備を引き継いで欲しいの。何人か兵士を残すから指揮下に入ってスムーズに連携出来る様に内密に話し合って置いて頂戴。その時点で迷宮探索は停止して構わないわ。もしマルトワ伯爵が攻めて来たら村人の避難を最優先にして、村は放棄して構わないわ」
「…………放棄しても良いのか?」
「ええ、貴方達も含めて人的被害が無い様にする事が最優先よ」
「分かった、やるだけやってみる」
「それと、戦端が開かれるとマルトワ伯爵領側から難民が押し寄せて来る可能性が高いから押し返す様に。抵抗するなら殺して構わないわ」
「「………………」」
「頼んだわよ」
「ちょっ、ちょっと待って! 難民を殺すのか!?」
「ええ」
「何で!?」
返事が無いのでシャルロッテが念押ししたら漸く探索者達が再起動して問い質した。シャルロッテはチラリと視線を送って頷いたルシオスが答える。
「マルトワ伯爵領はマルトワの杜撰な領地運営により治安がすこぶる悪いのです。ならず者が押し寄せて来ると思いますが難民と区別がつきますか?」
「「…………」」
「この領地で暴れるそのならず者の責任を取れると言うのですか? 出来ないのなら殺しなさい」
ならず者が起こす犯罪は凄惨なもの、その責任を取ると言うのは当然命で償う事を指す事になる。見知らぬならず者の責任など取れる筈も無かった。
「シャルロッテ様、何とかなりませんか? せめて女子供だけでも」
「レイクは女子供が全て善人で安全だと思うのね?」
「…………いえ」
「……まあ良いわ。なら貴方が責任を持って武力放棄させなさい。その上で此方が管理出来る範囲内なら受け入れても良いわよ」
「っ、有り難うございますシャルロッテ様!!」
(リアースレイ精霊王国が虐殺を好まないかも知れない。巫女を他国に寄越すくらいだものね。こんなくだらない事で目をつけらたりしたら堪らないわ)
「それまではこれまで通りね。本当はルシオスとの顔合わせとアデール王国の事くらいで済ますつもりだったしもう良いわ。後の事はルシオスに任せるからレイク達以外は解散、仕事に戻って頂戴」
「お任せ下さいシャルロッテ様」
良い顔をしてシャルロッテに応えたルシオスはシャルロッテにダメ出しされて項垂れていたジャルバットの首根っこを捕み、引き摺る様にして部屋を出て行った。
「全く、シャルロッテ様の手を煩わせるとは万死に値するのですよ? 今回は特別に生かして活かして差し上げましょう。シャルロッテ様のお役に立てる事を咽び泣いて喜びなさい」
その人結構苦労しながら頑張ってたんだけどなあ、とは思うが誰も口にしなかった。此処では誰が強者なのか一目瞭然だからだ。
「シャルロッテ様、俺達は戦争に参加しなくても良いんですか?」
「参加したいの?」
「いえ、でも犠牲を少しでも少なくする為に何か出来る事があるんじゃないかって……」
「貴方が戦略に長けた将でもないなら無理ね」
レイクはにべもないシャルロッテの返答にガックリしながらも1階裏手の鍛練場に連れられて来て剣を渡されていた。
「魔剣レーティッシュ、日緋色金が入った合金で破魔の力が、嵌め込まれた魔石に風の力が宿っているわ。今までは片手剣だったけどこの大剣、貴方に使いこなせるかしら?」
「魔剣……、マジかよ」
リックが驚くのも無理無いだろう。
加工の極めて難しい希少金属で出来た武器は全て国宝級と言って良い。その上力の宿った魔石が使われているとなると国宝級の中でも最上級の魔剣と言えるのだ。
それを手に入れたシャルロッテの手腕にも、強いとは言え元は孤児だったレイクにポンと渡してしまう器の大きさにも驚かない方がおかしいのだ。
レイクは剣を手に取って両手で握り軽く構えると今までの片手剣に比べると若干重く感じた。――けどこの程度なら問題無い。
そのまま剣に魔力を通して藁束に向かって剣を振ると切った感覚も無く両断され周囲に柔らかな風が起きた。
「――切れ味がとんでもないですね。魔力の通りも凄い。強敵相手でも剣を振るう度に強風を起こせば相手は堪らないでしょう。とても良い剣です」
「それを手に入れるのはかなり苦労したわ。傭兵ランクを7に上がるにはリアースレイ精霊王国に認められなければならないからね。装備の弱さで落ちたなんて笑えないから頑張ったわよ」
「ありがとうございます。必ずシャルロッテ様の期待に応えます」
「ふふっ、頼もしいわ」
ランク6から人外の領域に触れランク7は片足を踏み入れランク8は英雄への入り口に立つと言われている。ランク6からは才能が物を言うと言われているがランク7は完全に人外の能力者なのだ。
ランク6でも数千人に1人成れれば良い方で、ランク7ともなれば十数万人に1人となってしまう。当然この国では初めてでその能力を測れる者が居ないのでリアースレイ精霊王国から人を呼ぶ事になった程なのだ。
「ああ~、これでまたレイクとは差が開いちまうなぁ」
「貴方達にもレイクに渡した魔剣程では無いけど希少金属が使われた武器を用意してあるわ。チームとしてのバランスもあるでしょうしね」
ぼやくリックにシャルロッテはそれぞれに武器を渡していく。リックには槍、トマソンには両手剣だ。
「これまでと同じ種類の武器にしたわよ? 重さも対して変わらない筈、どちらもアダマンタイトが含まれているわ。アダマンタイトは魔力を通さなくて重くて硬いわ。その分薄く造られているから頑丈で切れ味も増しているそうよ」
「へえ、頑丈ってどれくらいっすかね」
「人の力で刃こぼれする様な事は無いそうよ」
「成るほ……ど、…………何か変な感じですね」
リックが魔槍を手にして魔力を通してみるが上手くいかず魔槍の周りを纏わり付く様になってしまった。
「ちょっと貸して見てくれ。……ああ、これは魔力を通さないで纏わす様に使うんだな」
そう言ってレイクはリックの魔槍を軽く振るい藁束を切り裂いた。
「その通りよ。アダマンタイトは魔力を通さないから纏わす事しか出来ないの。でも元々希少金属の中でも最強硬度を持つと言われている金属よ。魔力を通して保護する必要は無いの。酸とかにも強いそうだから纏わせて切れ味を強化するのが良いわよ」
「へえ? そりゃ魔力の節約になるな。その分身体強化に使えるって訳だ。刃も薄くなって只でさえ切れ味上がってるみたいだし、流石シャルロッテ様。俺等にまでとんでもない物渡してくれるな」
「それも一応国宝級よ? それだけ期待しているって事、ちゃんと応えてくれるわよね?」
「う、……おう」
(応える気はあるけどそう言う言い方が一々怖いんだよなあ。超美人なのに絶対損してるよ。30越えてる筈なのに結婚出来ないのその所為だろ)
「期待しているって言うのにその顔は何かしら?」
「いえすいません! ってレイクまで殺気を飛ばすなよ! シャレになんねえぞ!?」
「私達はアイリスちゃんと言う劇物を手に入れてしまったわ。だけど劇物過ぎて正直扱い切れない、あの子だけに期待は出来ないのよ」
レイクは20代前半、このまま行けば今年中にランク7になる。いずれランク8にまで届けばリアースレイ精霊王国ですら無視出来ない英雄候補に入れられる。
でも英雄になるには大きな戦果も必要、今回の様な小さな戦争では無理ね。大きな戦果には大きな戦争が必要、それもリアースレイ精霊王国に利する戦争が。
「シャルロッテ様でもアレは扱いきれませんか」
「アイリスさんをアレ扱いは止めろリック。あの体躯で目立たない為にあの才能を隠し続けて来たんだぞ? 俺達には真似出来ない、尊敬出来る人物だ」
「おお、レイクがシャルロッテ様以外にそんな事を言うなんて」
「なら丁度良いわね。貴方達にはいずれあの子と絡んで貰う事になるでしょうから」
「「えっ!?」劇物を俺等に!??」
「お任せ下さいシャルロッテ様」
リックとトマソンの驚愕を余所にレイクだけが良い返事をした。
次話から第5章、劇物指定を受けたアイリスをこれからもよろしくお願いします。
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