第035話 幕間 レイク、シャルロッテとルシオス
「あの女達、レイクが目当てだったぞ? 何なら引き抜いちゃうか?」
「止めとけリック、残った男共と揉めるぞ」
「んだよトマソン、お前は無駄に慎重過ぎんだよ。なぁレイクはどう思うよ?」
「うん、それで上手く回るなら俺は構わないよ」
「…………無理だね」
リックが諦めたのを見てトマソンはホッと一息つく。レイクは結果が出るなら手段は問わない脳筋な所があるし、リックは結果を出しつつ経過を楽しみたいタイプだ。
噛み合うと我を通す為に権力者相手でもとんでもない事をしでかすのだからトマソンの頭の痛い所だ。
(シャルロッテ様と言う制御装置と出会えた事は僥倖だったな)
傭兵になる前は神聖教会や商業ギルドともバチバチにやり合っていたからな。あのままだったら遠くない内にレイク以外は死んでいただろう。
「引き抜きなんかする前に食糧の確保を頼めよ」
「はっはっ、企てが上手くいかなかったらな」
「企てってランク上げて説得するだけだろ。聞くと思うか?」
「チッチッ、分かってないなあトマソンは。少なくともあの女の子等ならちゃんと真面目に考えてはくれるんじゃん?」
「成る程、リックは良く考えてるな」
レイクが感心してるがトマソンはリックが今考えた言い訳だと見抜いていた。脳筋気味のレイク、チャラいリックと何かと後先考えない仲間に気苦労が絶えないトマソンだった。
探索者達のクランと別れて11階層から探索を進めて行く。迷宮は広くなり、レイク達でも地図通りに進んで2時間は掛かる様になっていた。階層も草原から森林っぽくなり視界が良くない所が増えて来た。
そんな中オーガが単体で襲い掛かって来たがレイクは危なげなくあっさりと両断してしまう。
「野生に比べると臆病さが無い、と言うか慎重さが無いな」
「レイクが簡単に倒し過ぎて分かんねえよ。お前また強くなったんじゃね?」
「そう言うリックもトマソンも強くなってるだろ。身体強化魔法の部分強化がスムーズになってるぞ」
「まあな」「ああ」
身体強化魔法の部分強化と言うのは身体を動かす瞬間動かす場所を強化するモノで、全身を強化する全身強化と併用する事で効率的な強化を出来る様になるのだ。
「後は出力調整だな」
「それが出来れば俺達もランク6が見えて来るんだけどなあ?」
「そこまで出来てればそう遠くないと思うぞ」
その後も探索を続けてレイクはリックとトマソンがオーガの相手をする様を見て2人がランク6になるのはそう遠くないなと感じていた。
流石に止めはレイクがしているが慣れて来るにしたがって2人共危なげなく抑えられる様になっている。2人なら後2、3ヵ月もすればランク6クラスの力を持つだろうと思えた。
そのまま14階層まで進んで行くと少し開けた所で幾つものテントとお揃いの装備を着けた領軍の兵士達50人程の集団と合流した。たった3人で領軍の兵士達の最前線まで辿り着いてしまった事にかなり動揺されてしまった。
領軍の兵士達と話し合った結果このまま合流して下層に進む事になった。この先は最前線の領軍でも未知の階層になるから地図も無い。俺達だけじゃ魔物は倒せても下層への道を発見するには時間が掛かり過ぎるので人海戦術が必要だと言う考えだ。
「それにしても凄まじいな。1人でオーガを倒してしまうレイク殿もそうだが、リック殿トマソン殿も充分相手取れている様だ」
領軍ではオーガ一体に5人、逃がさない様にと、いざと言う時の交代要員として更に10人で取り囲んで対応していた。今はレイクは1人で、リック、トマソンはそれぞれ5人の領軍と組んで先頭を進んでいる。
15階層へは領軍が当たりを付けていたので簡単に見つかったが16階層への道は見つからなかった。
今回は14階層のテントまで戻って一晩休んでから領軍と共に帰還する事に、テントは持って帰るのは面倒だけど置いておくと迷宮に取り込まれてしまう。
人が管理していれば大丈夫らしいが持ち帰るしかない。そう思っていたが途中10階層で探索者達と会ったので日にちを決めてテント等を預かって貰う事にした。
軽くなった分帰りの道中食糧になる魔物を狩って帰る事に、更に1階層で少年達が居たので荷物持ちを頼んで2階層に戻って追加で幾らか石猪を狩ってから帰る事にした。領軍の人達も余裕がある人達は手伝ってくれてそれなりの量を卸す事が出来た。
「なあ? この1階層で少年等に荷物持ちやらせてちょっと食糧確保してから帰るのって使えんじゃね?」
「大抵余力を残して帰還するだろうから出来なくは無いだろうけど、疲れてはいるだろうから無理強いは出来ないぞ?」
リックの考えは良いと思ったがトマソンの言う事も分かるな。結局提案としてギルドに丸投げした。
それから2ヵ月、探索者達もちょこちょこ食糧になる魔物を卸す様になっていた。領軍は迷宮からの帰還の際に途中の階層で探索者達にテント等を預け、身軽になった分食糧になる物を狩って帰る様になって更に多くの食糧を卸している。
そういった行動が受け入れられたのか農家の人達も食糧の放出を受け入れてくれた。
俺達の迷宮探索も順調に進んで領軍と共に22階層まで来ていた。20階層からは黒狼の上位種の大黒狼が群れで遅い掛かって来たりオークも上位種のソルジャーやナイトが混ざる様になって来た。
特にオークナイトは力はオーガ以上、素早さもかなりあって単体でもオーガより強かった。それがオークの群れの中に混じって襲って来るのだからレイク達でも気が抜けなくなっていた。
しかし苦労した分迷宮内の邪素も順調に回収出来ているらしく放置しても1年はスタンピードを起こさないだろうと副ギルド長のジャルバットがニコニコ顔で言っていた。
外からの仕入れ体制が整って食糧問題が解決したのだ。村人達の不安も取り除かれ村の空気も良くなったのも機嫌の良い理由だろう。
――そしてそんな中、遂にシャルロッテ様がやって来た。
シャルロッテ様がやって来て村に居る主要メンバーが探索者ギルドのギルド長室に呼ばれていた。領軍から2人、探索者クラン2つそれぞれのトップ2人、それにレイク達だ。
「先ずは私がいない間皆んな良くやってくれたわね。感謝するわ」
褒められているのに真っ青になっている副ギルド長のジャルバット。方や座っているだけでもその冷たい美貌と自信の現れか、レイクからしても強いオーラの様なものをシャルロッテから感じていた。
こうして見ると役者がまるで違うなとレイクは思う。
「此方も紹介するわね」
「ルシオスと申します。以前はこの地にて男爵をしておりました。現在は大恩あるシャルロッテ様に仕えさせて頂いております」
「「おお」あのアドン様か」
「今はただのルシオスです。ルシオスと呼んで下さい」
シャルロッテの横に立つ40代位の出来る執事風の男が自己紹介すると領軍の兵士達がざわめいた。村の人達に随分慕われていたらしいし村人は喜ぶだろうな。
「探索者ギルドの寮は完成している様だけど不都合は無いかしら?」
「ああ、領都のギルド寮と変わらんぜ」
「まあ贅沢言うなら飯屋が少ないからそっちの方を何とかして欲しい位かな」
「そう、2棟目の寮も建設中みたいだし此方は大丈夫ね。それで傭兵ギルドの方はギルドは出来ているけど、人はいないし寮も無い様だけどどう言う事なのかしら?」
「そっ、それはっ、ひいっ、人手不足っでしてぇっ!」
「何を言っているのよ。それを何とかするのが貴方の仕事でしょう? 人を育てるのも使うのも貴方の裁量の問題よ」
「ぐふうっ! 申し訳ありませんん~」
副ギルド長のジャルバットには目もくれず机の上の書類の束に手を伸ばし指先でトントンとつつく。
最近の食糧問題の解決等から笑顔が多くなっていた面影は消え去り、良くないモノに呪われたのかと言う程顔色を悪くするジャルバット。シャルロッテ狂信者のレイクとルシオス以外はえも言われぬ緊張感に包まれていた。
「適正に合ってない人事があったわよ? 調整すれば余剰人員が作れるわ」
「ひゃい、し、しかし、本人の意向もありましぇて」
「時と場合を考えなさい。そんな余裕があったのかしら?」
「すっ! 済みましんっ!」
((噛み過ぎだろおっさん!))
床に頭を擦り付ける副ギルド長に威厳が欠片も感じられ無くなって複雑な気持ちになる探索者達だが、決してフォローには入らなかった。狩り場ではないが空気を読む力はあった様だ。
「迷宮1階層に居る子供達を使ったのは良かったわね」
「あっ、ありがとうございます」
誉められたリックだがシャルロッテ相手では茶目っ気を出す勇気は出なかった様だ、――正解だろう。
「でもあの子達をずっと1階層で待たすのも勿体ないわよね?」
「「「………………」」」
(((喋る度にピリつかせるの止めてくれないかな?)))
「領軍の方で雑用係にでも使えば兵士を余らせる事が出来たんじゃなくて?」
「「うっ」……はい」
今度は兵士が標的になった様だ。
「料理洗濯掃除と任せれば他にも村人を雇えて交流にもなったわね。読み書きの出来る兵士ならギルド員としても使えただろうし、傭兵ギルドの稼働も出来ていたかしら?」
そうなれば行商人の護衛も出来て食糧問題も農家に備蓄の放出をさせる事もなかったかも知れない。探索者達も食糧問題には当初目をそらしていただけに副ギルド長と兵士と共に気まずい空気にさせられてしまった。
「貴方達も立場ある地位に居るのだから、物事を俯瞰して大きな目線で見て考えていきなさい。私はこれからレンリート伯爵と王城に行かなければならないから、今後はルシオスを代理として置いておくわね」
「お任せ下さいシャルロッテ様」
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