第032話 幕間 レイク、アドンの迷宮へ
俺達はレンリート伯爵令嬢を護衛しながら途中で別れ、アドン元男爵領の迷宮のある村に来ていた。村とは言ってもかなり多くの人間が見え、威勢の良い声が至る所で聞こえて来る。
「あのデカい建物は何だ?」
「領軍の宿舎ですね。迷宮にも潜っていますし柵を作ったりしてくれていますよ。あの人等がいるってだけで私等も安心出来るってもんですよ」
此処まで運んでくれた御者が感慨深そうに言う。シャルロッテ様が手を付けるまでは迷宮がスタンピードが起こすままに任せていたらしいからな。この地に住まう者達にとって長年望んでも見る事の出来なかった光景がやっと出来上がろうとしているんだろう。
「――どこもかしこも、……工事だらけだ」
「何か村って言うより町に作り替えてるって感じだな。流石シャルロッテ様、スケールがデカいぜ」
トマソンとリックの言う通りまさに建設ラッシュと言う感じで村全体に活況がある感じだ。俺達は村に入ってからは徒歩で御者に聞いた探索者ギルドの中に入っていった。
「申し訳ありません。高ランクの方でも探索者ランクはランク1からになりますが、宜しいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。戦えるとは言っても迷宮探索者としてのノウハウは無いからね」
探索者ギルドに着いて受付で探索者になり探索者カードを受け取った。同じ系列のギルドなので傭兵ギルドのガードも提出したが一応迷宮専門の探索者としては初心者なので1から説明を聞いた。
こう言った事が命を左右するしギルドの評価にも影響があるからな。
建物の作りは傭兵ギルドとそう変わらない。買い取り専門の受付が多くあるくらいかな。
「同じリアースレイ精霊王国系列の組織なんだから傭兵ギルドのランクを探索者ギルドのランクに反映出来れば良かったんだけどな」
「そう言うなリック、さっきも言ったけど俺達に迷宮の経験は無いんだ」
「レイクの言う通り。俺達の実力がそのまま発揮出来るか分からないぞ?」
「つってもよお、流石にランク1はねえだろ? シャルロッテ様から自分が来るまでスタンピードへの脅威度を減らす様に依頼されてるんだぞ? のんびりしてて良いのかよ?」
「気を抜いて思わぬ怪我なんかした方が何を言われるか。その方が怖いだろ」
「うっ、……まあ、そうだな」
「恐らくシャルロッテ様が来られたら別の依頼がされるのだろう。それまでの繋ぎの依頼と言う事なのだろうけど、コレはコレで重要な依頼だ。手を抜く事は出来ないぞ?」
「分かってるよレイク」
現在は前回のスタンピードから考えると半年以上は余裕があるそうだけど、邪素は濃くなっているらしく狩りが追いついて居ないそうだ。
迷宮の規模や邪素の集まり具合によって変わるがこのアドンの迷宮ではスタンピードに5年以上の余裕を保てる様になると迷宮の管理が安定化したと言える様になるらしい。
まだ早い時間だし取り敢えずランク1で行けるのは1階層だけなので午前中に狩れるだけ狩って来よう。
「洞窟みたいな作りなのに下が草原みたいになってる何て不思議だな」
「日の光じゃなくて上の壁が光ってるのか?」
100m前後くらいの小部屋が幾つか繋がっているらしく本当に不思議だ。出て来る魔物は角ウサギ等の小型の魔物ばかりだけど、野生の魔物と違って向こうから向かって来るので簡単に倒せるから蹴散らせるだけ蹴散らして戻って来た。
「……出来れば食べる事が出来る魔物もありますので、もう少し綺麗に倒して頂けると有難いのですが……」
「む? それはすまない」
確かに村と言っても領軍も村に来ているし食料になる物は幾らあっても足りないのだろう。狩った魔物の殆どは討伐証明の部位のだけ持って来て、帰り際も数匹食べる事は考えず適当に狩って持って来てしまった。
迷宮内から邪素のある物を取り除いていくと迷宮が安定化する。魔物を倒すだけでも効果はあるが、魔物素材を迷宮外に持ち出す事でも効果がある。
大抵は角や牙など利用価値が高い物が優先されるが、食糧が足りないのであれば配慮する必要があるかな。
「それでどう致しますか? 取り敢えずこのまま1階層で魔物を狩ってみますか? それともランクを上げてしまいますか?」
「うん? そんな簡単に許可出来るのか?」
「普通は出来ませんが現在は人が足りていないので、実力があれば傭兵ギルドと同レベルまでは一つずつならランクを上げても良いと特別に許可を頂いています」
「そうか、それなら出来ればランクを上げて欲しい」
「分かりました、ランク2に上げておきますね。ランク2は2階層までです。猪系の魔物も出て来ます。気をつけて下さい。それと出来れば食料の事を考えてくれると有難いです」
「ああ、了解した」
ランク3になると5階層、ランク4で10階層、ランク5でメンバー20人以上のクランで20階層までとなっているそうだ。
「一つ一つ上げるのは変わらないけど思ったより早くランクを上げられるなトマソン」
「ああ、一気に上げさせないのも此方を迷宮に慣れさせる為だろうし、良いやり方だと思うぞ」
「ランク5以上はメンバーの人数制限があるだけか、行くだけならランク6のレイクの足を引っ張る事も無いしな」
「俺達はまだランク5だからな」
「わざわざ言うなって」
軽口を聞きながら最低限の警戒をして2階層に降りて猪系の魔物を何頭か狩って行った。
「何て言うか、スタンピードの時を思い出すなトマソン」
「あそこまでがむしゃらに攻撃的って訳じゃないけど、野生の魔物に比べると確かに攻撃的だ。レイクはどう思う?」
「俺もそう思う。好戦的で追い掛けずに済むのは楽で良いな」
「確かにそうだけどそう言う事じゃねえ」
「何て言うか恐怖心みたいなものを感じてないよな。野生の魔物なら仲間が目の前で殺られたら多少なり怯むもんなんだけど」
「ああ確かに、違和感はそれか」
「やっぱり迷宮の魔物ってのは普通の魔物とは違うんだな」
2階層も1階層と同じ作りだ。出現して来る石猪は小型で背丈50cmくらい、首をはねて足を結んで担いだ。1人4頭ずつ持って一旦帰る事にした。
「いちいち持ち帰るのは効率悪いなあ。さっさと数倒してランク上げた方が効率的じゃねえか?」
「受付に肉が欲しいって直接頼まれたからな。どのくらい足りてないのか聞いてから考えよう」
1階層に戻ると10代半ば、見るからに初心者の見窄らしい装備の少年達が狩りをしていたので荷物持ちを頼んでみる事にした。
「本当に狩った魔物を俺等の物にして良いのか?」
「ああ、俺達は魔物の討伐の功績だけあれば良いからな。ギルドの受付から肉を頼まれていて持ち運びに困っていたんだ」
「兄ちゃん等も下層狙いか」
討伐部位証明になる左耳は取ってあるからな。しかし何故か渋い顔をする少年達、1階層で狩りをしているならまだランク1なのだろうし、ただで2階層の肉が得られるのだからもっと喜ぶかと思ったんだけどな。
「どうしたんだ?」
「どうしたも何も兄ちゃんみたいのが増えて食糧が足りてないんだよ。村の農家のおっちゃん等がもう備蓄を出すしかないかって言ってたんだぞ?」
「そうだぜ! 他の探索者のおっさん等に言ってもまともに取り合ってもくれないしな!」
「肉を取って来るどころか捨てて皮とか骨とか食えないもんばっか取って来るんだよアイツ等!」
口々に文句を言いながらも少年達は狩った魔物を丁寧に解体して行く。俺達のやり方では血抜きは不十分だったらしく更に内臓等も取り除いて軽くしていたのには少し感心した。
「首をはねて逆さに持ち運んで血が抜けていけば良いと思っていたな」
「そんな訳ねえだろレイク」
「何だよリック、知ってたのなら教えろよ」
「やだよ面倒臭い。ってか違うってのを知ってるってだけで正しいやり方なんて俺も知らねえぞ。なあトマソン」
「ああ、俺も知らん」
「と言うか知らなくても良いだろ? 俺等の仕事はこの迷宮の安定化だ。如何に強い魔物をどれだけ多く狩るかが重要なんだ。余計な事に気を遣ってる場合かよ」
「まあ、確かにそうだけどな」
そう言う考え方が少年達を見ていて傲慢に思えたが、リックやトマソンの言う事も最もだ。俺達は迷宮内の邪素を魔物を狩ったり持ち出す事で減らしていく事で迷宮のスタンピードを抑えると言うシャルロッテ様からの依頼の最中なのだからな。
これまで魔物相手は余りして来なかったから慎重にとも言われたけど、色々な魔物との戦闘経験を積めるのは望外な事だ。
「んじゃ兄ちゃん等、一応ありがとな」
「ん? いや俺等はまだまだ2階層に狩りに行くからすぐ戻って来てくれよ? なあレイク」
「そうだな。迷宮の魔物ってのは野生の魔物に比べても結構向こうから向かって来るから倒しやすい。今日はこのまま2階層で最後まで狩るつもりだ」
その後も魔物を狩り続け1階層に戻って少年達に渡していった。持ち運びが間に合わず他の少年少女達も駆り出されて来たけど彼等の体力が尽きたところでその日の狩りを終わりにして一緒に帰り俺達はランクを3に上げた。
「いや兄ちゃん等の体力どうなってんだよ!?」
「村中の子供の探索者かき集めたのにこっちが先に体力尽きたぞ?」
それは済まないなと思ったけど少年達は何処か満足そうな笑顔だったので、此方は軽く手を振って別れた。
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