第030話 幕間 シャルロッテ、交渉と帰還
「ふふっ、険しい顔だなお嬢ちゃん? だが信じられなくても真実は真実だ」
「その昔、……人間以外の多くの知恵ある種族が人間の奴隷にされていた時代。精霊の見える一部のエルフが精霊に助けを請い、精霊神様がその真摯な願いに応えました」
ヤークスハルトのどや顔にムカついていたら巫女のオリビア様が捕捉して来た。
「奴隷に使われていた隷属魔法はその悉くが破壊され、悪しき人間達には神罰を与えられました。そして救いを願ったエルフ達に導かれ、精霊神様によってリアースレイ精霊王国が創られたのです」
「リアースレイ精霊王国には多種多様な種族がいる。そこには人間に虐げられた人間もだ。今いるリアースレイ精霊王国の人間はその子孫と言う訳だが、だからリアースレイ精霊王国の中には他国の人間達を見返したいと言う者達も一定数居るんだよ」
「逆にもう関わりたくない、自分達の技術を与えたくないと考える人達も居る、と?」
「ふん、そう言う事だお嬢ちゃん」
関わりたくないと言うのにアデール王国とは貿易をしている。この程度までなら問題にしていないと言う事、よね? 私達の国にも同程度までなら支援をしても大丈夫、となってくれたら良いんだけど。
他国に技術を与えたくないと言うのはアデール王国内に既に流通している物なら問題無いと言う事でもある筈だから……でも。
「あの飛空挺の技術も、ですか?」
「ははッ、流石にアレは無理だ。秘匿技術だな」
「と言うか精霊神様のお力添えも無ければ、現物を手に入れても模造品を造る事も出来ないだろうよ」
飛空挺をアデール王国が量産する様な事はない、と。これは良い情報ね。あんな物が戦争に使われたら堪らないもの。
「では貴方方が私達との貿易の道を繋げてくれるのなら、私達も力を付けてアデール王国との戦争を大きなモノにすると言うのは如何でしょうか?」
「俺ぁ戦争屋じゃねえ。それが何の利益になるってんだ?」
「貴方方の、私達の国々に対する悪感情を発散させてあげる。と言うのは理由になりませんか?」
「不適な笑みをするじゃねえか。良い女になりそうだなお嬢ちゃん」
「正気ですかギルド長? こんな年でこんな事を言うなんて、と言うか私は寧ろ背筋が凍る気がしますよ」
「気が小せえなぁダールトンは、今のうちに唾付けておけよ。このお嬢ちゃんは化けるかも知れんぞ?」
「2人共、幼い少女相手に何を言っているのですか? 貴方方こそ正気ですか? 巫女として見過ごせませんよ?」
「巫女様よう、何ならこのボンクラ共あたしが鍛え直してやろうか? 獣人式でなぁ?」
「いやそんな意味じゃねえよ!? なあダールトン!」
「過ぎた発言をしてしまいました。申し訳ありません」
「お前だけ良い子ぶるんじゃねえよ!」
その後の話し合いでアデール王国の王都から私達の望むリアースレイ精霊王国の商品を、極秘裏に一部だけ適正価格で密輸出来る様にして貰う許可を得た。
でもレンリート伯爵領までの輸入には馬車や護衛等相応にお金が掛かる。アデール王国に少なくないお金を落とす事は避けられないわね。
必要なのはそれだけじゃない。アデール王国への牽制、人材の発掘と育成、資金だって幾らあっても足らない。
でもやるしかないのよね。覚悟はとっくに決まっているわ。
「それじゃアタシはそろそろ帰るわよ」
「では私も患者の治療に戻ります。後は護衛の方々を交えてお話し下さい」
そう言って獣人のメリアラと巫女のオリビア様が部屋から出て行き、入れ替わりで私の護衛が入って来た。商工ギルドのヤークスハルトとダールトンも残っている。
「ふう、子供と会話をしているとは思えない。大した肝の座りっぷりだ。精霊が興味を持ったと言うのも頷けるな」
「全く、大人の商人でもこの面子を前にすれば、まともな商談も難しくなると言うのに」
まあ此処に来る迄に盗賊に遭遇して直接相手をしたりもしたからね。シェルビドが剣ごと腕を切り落とした相手に止めを刺しただけだけど、次の機会があったら躊躇わずに殺れそうよ。
「ふふっ、本当は怖いのを何とか隠しているのですよ? ですから幼い少女相手なのでお手柔らかにお願いいたしますわ」
「ふん、本当に幼い少女が相手なら考えるがお前は違うだろ?」
「全く、貴女を幼い少女と捉えるなど薄ら寒いモノを感じますね」
「あら、まるで私が年を偽っているかの様な物言いですね。女性にその様な事を仰るだなんて、私悲しくて巫女様方に慰めて貰いたいですわ」
「「まっ、待った!」それは止めてくれ!!」
色々話して行けば何か交渉の糸口にならないかと思っていたけどヤークスハルトとダールトン、2人共この慌てよう。巫女と言うのはリアースレイ精霊王国でも高い地位にあるのかしら。
まあアレだけの能力があれば本来当然なんだけど、それを国から出すのがあべこべなのよね。それはこれからリアースレイ精霊王国の事を理解していけば分かる事かしらね。
巫女のオリビア様は精霊が興味を持ったとか言っていたけど。私に多少の便宜を計るくらいには気にしている様だったし、良い取っ掛かりになりそうね。私は薄く笑みを浮かべて更に交渉に入っていった。
((そう言うところが子供らしくないんだよ!!))
「そんじゃダールトン、後は任すわ。俺ぁ現場に戻るからよ」
「ちょっ!? そんな! 待って下さいよギルド長! 私には荷が重いです!!」
「子供相手に何言ってやがる! 俺ぁ忙しいんだよ、じゃあな!!」
「ギルド長ぉおおーーっ!!!」
何この茶番。――シャルロッテは2人のやり取りを冷たい目で見ていた。
しかしシェルビド達は大国の権力者がシャルロッテから逃げ出すのを遠い目で見送る事になった。
(((怖いわっ!!?)))
その後残ったダールトンと《色々とお話し》させて貰ってから一先ずレンリート伯爵領に帰って来た。
「…………お前、何やってんだよ」
伯爵達にはドン引きされた、軟弱者共め。
「いや10歳で自分から盗賊を殺すとか、自分の腹を刺して権力者との会談を求めたりとか、その権力者達と対等に話すとか色々おかしいだろ」
「と言うかその蔑む様な目を止めてくれないシャルロッテ?」
「伯爵も(長男の)グランツ様も疲れる様な事など何もしていないでしょう。何を疲れた振りなどしているのです」
「「お前の相手をするのが疲れるんだよ!!」」
仲が良い事で。
「それとシャルロッテ! お前エウレカにも色々余計な事話しただろ! 純真無垢な優しい娘だったのにっ、何か妖艶な悪女みたいになっちまってるじゃねえか!!」
「いずれグランツ様と結婚してレンリート伯爵家の妻となるのですから必要な事だったのです。頼もしくなったのでは?」
「頼もし過ぎるんだよ! 俺の胃が破壊されるわ!!」
「エウレカ様にはリアースレイ精霊王国の化粧品や装飾品を使って社交に積極的に出て頂いて、派閥の強化をして貰わないとイケませんからね。そのくらいが丁度良いのです」
「俺の胃が破壊されるくらいが丁度良いってどう言う事だよ!?」
リアースレイ精霊王国の事を話して行くけどいちいち止められて話が進まない。本題はアデール王国への対策なのに、でもリアースレイ精霊王国の強大さを知らせてからでないと危機感を持って貰えないから仕方ない。
イライラしながらも一つ一つ丁寧に答えていく。
「それで、シェルビドは大分お疲れな様だな。長旅を終えたばかりで済まんが報告だけして行ってくれ」
「いや、この疲れはお嬢ちゃんの相手をするのがな……」
「「……ああ」」
自分達の領地の事なのになんで被害者ぶってんのよ腹立つわねコイツ等。
「空を飛ぶ、飛空挺? ってのはその、馬車みたいなものか?」
「百人以上乗り込める大型の船が空を飛んでいると考えて下さい」
「いや大型の船でもそんなに乗らないぞ」
そうね、30人くらいの物がスタンダードで商業王国に50人乗りの物があるらしいと聞くくらいかしら。
「それで……、乗ったのか? ……それ」
「いえ、他国の者では貿易国の王族くらいですかね。乗れるのは」
「後は巫女に、獣人……か」
「親父は知ってるのか?」
「獣人って言うか他種族に関しては昔は奴隷にしてたって話しだな」
「それは知ってる」
「んで俺のじいさんがそのまたじいさんに聞いた話しだが、当時平民貴族王族関係なくそう言った奴隷を持った奴は殺されて奪われていったらしいな」
「貴族に、王族までが!?」
「ああ、後はまあ本に書かれてある程度だ。獣人にエルフにドワーフとかがいるって言うな」
「巫女についてはどうです? 神聖教会の聖女聖者とは違うのでしょう?」
「俺が、私が見たのはシャルロッテのお嬢ちゃんを治して貰った時だけだが、とんでもなかったな。明らかな致命傷、後数分も保たないだろうって傷をあっという間に治しちまった。アレを見ると神聖教会の聖女聖者は偽物としか思えませんな」
「そもそも奴等の言う聖女聖者はウチの領民から回復魔法の才能のあるのをかき集めてそう称しているだけだからな」
「只の人拐いの集団の癖に、治療を受けるのに此方が金を払って有り難がらなければならないとは、何とかならないのか親父?」
「出来るならとっくにやってる。陛下ですら無理だ。そんな事をすれば奴等は此方を邪教徒として周辺国に圧力を掛け、あっという間に潰しに来るだろう」
「ラージヒルド商業王国は人間を奴隷にしていて、今も奴隷商は大きな商いになっているわ。ルードルシア教王国も回復魔法の使い手を奴隷にして聖女聖者として使ってる。超大国どちらもお互いズブズブなのよね」
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