第028話 幕間 シャルロッテ、巫女との語らい
「嬢ちゃん!!」「シャルロッテ様!!?」
自分を刺した事なんて無いから巫女を信じて、と言うより巫女に賭けて思い切り短剣を腹に突き刺した。
物凄く痛い!! 短剣を握った手が血にまみれていく。
外野の声が小さくなっていく。手足から力が抜けていって痛みが熱を持ち出して来た。目眩がして視界が暗闇に囚われそうになる。
駄目だ! 気を失う訳には行かない!!
あまりの痛みに顔から表情が抜け落ちて涙が止まらない中、急に誰かに体を持ち上げられて意識が飛びそうになる。意識を保つ為に唇を噛みしめ様とするけど噛めてるのか分からない。更に次第に痛みが麻痺して来たのか刺したお腹の痛みも感じなくなって来た。
「巫女様っ! 急患です!」
宮司のザイールに呼ばれて巫女オリビアは患者の治癒を止め他の者に任せて足早に現場に向かいました。そこでは慌てふためく仲間と思われる男達、様付けで呼んでいる事から患者は庶民ではないのでしょう。
見るとベッドに寝かされていたのはお腹に剣を突き刺され血塗れになっている10歳頃の綺麗な女の子だった。冷たそうな印象を受けるけど、大人になればさぞや美人になるでしょう。
すぐに短剣を抜きながら治癒を施していった。かなり深く刺されているけど問題は無いわ。そうして治癒に集中していると血塗れの小さな手が私の腕を掴んで来た。
「貴女が巫女様ですか? 私はシャルロッテ、――巫女様にお話しをさせて頂きたく、――この様な真似をしてしまいました。申し訳ありません」
まだ体に力が入らないのでしょう。掴まれた腕には弱々しい力しか感じません。けれどこの少女の瞳からは強い力を感じるわ。
――余程私に話したい事があるのでしょうね。
「今は急患はいません。伺いましょう」
巫女オリビアの力は恐ろしいわね。あの短時間で痛みも傷も残さず消し去ってしまったわ。囲い込むにも精霊とやらに守られているとかで神聖教会も手が出せないらしい。これではどんな権力者も不興を買う様な真似は出来ないでしょうね。
「成る程、フォシュレーグ王国の、レンリート伯爵領の方々でしたか」
私は血塗れの体と衣服を何とかしてから話す様に言われたけど拒否してこの場ですぐに話しを進めた。
何時急患が来て話しが終わらせられるか分からないのに無駄な時間は一時も無い、騒ぐ仲間達を黙らせて巫女に現状と助力を願う。
血塗れの子供相手なら何らかの譲歩を引き出せるかも知れないしね。
「それにしても守るべき子供の自傷を目の前で止められないなんて……、いえ、傷の深さから言えば自決と言っても良いかしら」
「むうっ、面目ない」
「あらあら、反省を口に出来るなんてこの国の騎士よりはマシなのかしらね? ……今後に活かせればの話しですけど」
巫女オリビアのシェルビド達を見る目が冷たい。子供が自傷した事と、それを防げなかった元騎士達に対して怒っている様だ。巫女と呼ばれているのだからそう言った事が許せないのかも知れないわね。まあ自傷なんてした私が言う事ではないけど。
「騎士の再教育を上に打診しておきます。それで、巫女様はご助力頂けますでしょうか?」
「ふふっ、随分と快活な子なのね。他の巫女様方から陳情の為にこう言った事をされる事もあると聞かされていました。けれどまさかこんな子供がと、とても驚きました。貴女自身がそう決断しなければならない程頼れる大人が居ないのかしら? 話しによっては助けになれればと思いますけど」
「他の巫女様方と言う事は、これ程の力を持つ者が他にも複数人居るのですか?」
「ええ、それなりに居ますよ? 精霊神様に加護を頂いたのは私だけではありませんから」
「精霊神様……」
神様が本当に居ると言うのかしら? でもこの巫女の能力は異常だ。人間の資質、――などと言う言葉で片付けるには無理がある。それだけの力を与える超常の存在が居ると言う方がしっくり来てしまう程に。
そんな存在が味方に付いている。か、そう見せられる体制を整えていると言う事かしらね。まあそこは今考える事でも無い、複数人居るのだとすればウチの国にも来て頂けるかも知れないと言う事の方が大事よね。
その後もチクチクと私の自傷行為とそう決断させた無能な仲間へのお叱りを頂きながらも何とか商工ギルドのギルド長への紹介状を受け取る事が出来た。
「副ギルド長のダールトンと申します。申し訳ありません。今ウチのギルド長は留守にしていて、宜しければ私がお話しを伺いましょう」
「……ギルド長はいつ頃戻られるのでしょう」
商工ギルドに着いて紹介状を見せてギルド長室に案内され漸く本番だと思ったのだけどトップが居ないと言われるとは、……本当に居ないのかしら?
紹介状の中身は見せていないけど、巫女からと言うのは分かるからこの男がアデール王国の人間ならこの場で握り潰されるかもしれない。
「1ヶ月程でしょうか、隣の国軍の訓練地に行っているので、此処までは半日程なので途中で一旦帰って来る可能性もありますが」
「そちらに伺う事は出来ますか?」
「流石に国軍の施設ですので確約は出来ませんよ。使いを出す事も出来ますがそれに見合う用件なのか判断出来ませんと」
1ヶ月、私達の正体がバレる危険があるからなるべく長居はしたくないのよね。
「この場で見て返して頂けるのなら紹介状を見て貰えますか」
「拝見致しましょう」
私の言い様に反感を持たれるかもと思ったけど受け入れてもらえたわね。まあ私が子供だから反発するのはみっともないと考えたのかも知れないけど。
この男がアデール王国側の人間なら私達の情報は行ってしまうのは止め様が無いんだけど、それはこの場の交渉で判断するしかないわね。場合によってはまた巫女様に助けを乞う事になるかも知れないわ。
もし不審な行動を取る様なら殺してでも紹介状は取り返す。……この元騎士達に出来るかしら。
迂闊だったわ。事前に言っておけば良かった。動かない様なら私が殺るしかないわね。
「成る程」
と覚悟を決めていたらすんなりと紹介状を返された。
「貴女方の出自は分かりました。念の為、目的はこの商工ギルドから購入したい物があると言う事ですかな?」
「……もっと大きな取り引きがしたいです」
「――ふう、そうなって来ると貴女方にとっては大きな話しですね」
そう言うとダールトンは目を閉じて考え出した。まるで自分達にとっては大した話しではないみたいな言いようね。
「うーむ、取り敢えず紹介状の中身の事を話してみますか。それでギルド長が此方に戻ると判断すれば交渉、と言う事で如何でしょう?」
「ええ、それでお願いします」
「それで、何方にお伝えすれば宜しいですか? それとも此方で部屋を用意致しましょうか? 安全ですよ」
如何にも面倒そうに部屋を勧めて来る。少しは隠しなさいよね! それでも商人なの!?
それともそれは私が理解出来ない裏がある高度な交渉術なのかしら?
「いえ、結果が分かる頃に伺わせて下さい」
貴方がアデール王国の間者の可能性もあるんだから宿なんて教えられないし用意された部屋なんて怖くて使えないわよ。
「はあーっ、一気に話しが動いたな。それにしても嬢ちゃんが腹を刺した時は肝が冷えたぞ」
「ああ、巫女様の祝福も凄かったな」
「回復魔法を祝福等と言って暴利を貪っているのは神聖教会の方よ。そんな言葉を使ったら怒られるかも知れないから止めて頂戴」
「ああー、成る程。そうだな。そう言う事もあるのか」
宿に戻って好き勝手話し込んでいる護衛の元騎士達に釘を刺しておく。交渉が出来たら此奴等には黙らせておいた方が良いわね。
「嬢ちゃん、交渉は任せちまうが良いんだな?」
「貴方方に出来ると?」
「「「うぐっ……」」嫌、無理だな」
自身の精神的負担が大きかった所為かジト目になって、つい冷たい口調になってしまった。
けどそんなに怯える程かしら? 貴方達を刺した訳でも無いのに何を恐れるのか、不甲斐ないわね。仕方ないから無理してちょっと笑顔を見せてあげたら余計に怯えられた。――腹立つわね此奴等。
子供相手に悪ふざけでもしてるのかしら? もし本気なら騎士、兵士の再教育を進言しないとイケないわ。
そう、――徹底的にね。
明日から03時10分と9時10分に投稿します。
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