第027話 幕間 シャルロッテ、旅路
私が10歳の頃隣国アデール王国から質の良い砂糖が流れて来た。私はその砂糖の出来に戦慄した。この技術は既存の技術の延長上の物ではないと感じたからだ。
ラージヒルド商業王国の物ならアデール王国以外からも流れて来る筈だけど、実際は来ていない。もしアデール王国で生産された物ならこの国は詰んだかも知れない。
下手をすればレンリート伯爵領をフォシュレーグ王国からアデール王国に鞍替えさせなければならないかも知れない緊急事態だ。
当時はまだ前伯爵が当主をしていたのだけれど、現伯爵と同じく優柔不断で愚鈍な性格であった。その愚鈍な伯爵に一から懇切丁寧に説明して脅は……説得して調べさせた結果、アデール王国ではなくリアースレイ精霊王国と言う国から流れて来た物だと言う事が判明した。
間者を放ち砂糖を此方に売り付けた商人を見つけて聞き出し、更にアデール王国内の情報を引き出す事で漸く得た情報だ。
更に調べてさせていくとラージヒルド商業王国とルードルシア教王国に対抗する第3の超大国と言う驚くべき情報が手に入った。砂糖がアデール王国の生産品じゃ無かったのは良かったと言えるけど事態は最悪と言って良い。
リアースレイ精霊王国がアデール王国で扱う商品はこれまでの商業ギルドの扱う物の品質を大きく超えている。早急にそのリアースレイ精霊王国との伝手を得ないと、アデール王国がリアースレイ精霊王国との取引で国力を上げてフォシュレーグ王国との国力に差が出てしまう。
恐らくアデール王国側にリアースレイ精霊王国はあるのだろう。取引が出来たとしてもアデール王国に通行税を取られるのは良くない。他の国にも取引させて複数の国に入手経路を作らなければならないわね。
私は引退した騎士と何人かの兵士を冒険者登録させて共にアデール王国に潜入して行った。前伯爵を説得するのに当時現伯爵と婚約したばかりだった子爵令嬢のエウレカ様に事情を話し後押ししてもらった。あの方は此方側の人間ね。
前伯爵は隠居する時私の相手をするのが疲れた等と言っていたけど失礼な話しよね。
冒険者のランクが低ランクだと国を越えるのは大金が必要になるし目立つ。伯爵の権力をチラつかせれば高ランクにさせる事も出来るけどそれも目立つ。
冒険者ギルドはラージヒルド商業王国の系列だからリアースレイ精霊王国との取引を妨害される可能性がある。だからどちらも選べず目立たない様にランクを上げさせるのに少し時間が掛かってしまった。
アデール王国側に入った途端に盗賊に遭遇してしまったけど農民崩れの盗賊だったので護衛が簡単に蹴散らした。私も経験を得たかったから盗賊を殺す事に、返り血を浴びない様に相手の胸を突いた。これで今後必要な危機が起きても躊躇わずに殺れるわね。
私は代々レンリート伯爵に任命されているとは言え、たかが1代限りの準男爵家の令嬢、でなければ殺らせてもらえなかったでしょうけど、何故か護衛の元騎士達が引いてるのよね。
(身分ある10歳の少女が自ら率先して人を殺すなど、しかも返り血を浴びない様に気を使い、あまつさえ目も反らさずに冷徹に事を成すとは、……何と恐ろしい少女だ)
引退した元騎士がこの様なら現役もたかが知れる、今後騎士も兵士も徹底的に鍛え直させないといけない様ね。
その後紆余曲折を経て何とかアデール王国の王都まで潜入した。王都で情報収集した結果リアースレイ精霊王国の施設は商工ギルド、傭兵ギルド、それに精霊神社、その下部組織の治癒院とあった。
どれも王都の庶民や貴族にも評判は良いようだ。庶民には兎も角この貴族にまでと言うのは不味い。
ラージヒルド商業王国、ルードルシア教王国が幅を利かせている大陸でそんな事が出来てしまう国があった事は驚きだけど、そんな国が敵国のアデール王国にここまで浸透してるなんて。
「難しい顔してるな嬢ちゃん」
声をかけて来たのはシェルビド、今回一緒に来た元騎士達の1人で以前からの知り合いだ。嬢ちゃん呼びはまだ良いけど長年騎士を勤めておいてこの現状に危機感が薄いのはいただけない。
「傭兵ギルドに行って来ましたけど、かなり待遇が良かったですな。その分面倒も多い様ですが……」
「確かに、ウチにある冒険者ギルドとは比べる迄もないわね」
「んん~、けど王都にある冒険者ギルドはウチと変わらなかったですな。あの待遇の差があって何故冒険者になる者達があれだけ居るのか……」
「リアースレイ精霊王国はアデール王国では王都内でしか活動が許されていないからでしょう。まだ知名度も低い様ですし、王都内の系列施設の護衛くらいしか仕事が無いから人を増やすつもりも無いのかも知れないわね」
「「………………」」
お互い言葉が出ない。当然だ。此処に来て初めて見た空を飛ぶモノ、飛空挺。空を飛ぶあんな巨大な物体、あんな物がこの世に存在するなんて想定を遥かに越えた事態だ。
「うーむ、しかしリアースレイ精霊王国がアデール王国にそこまで力を入れているとは思いませんでしたなあ」
「どうかしらね。リアースレイ精霊王国からすれば大した事ないと言うだけなのかも知れないわよ?」
「はっはっはっ、それは凄いですな」
何がおかしいのよ! 自国! 自領の一大事なのよ!! バカしか居ないの!? 殺意が沸いてくるわねっ!! 子供の殺気に目を逸らすんじゃないわよ!!!
「…………さて、どうするかしらね」
とは言えやるべき事は決まっている。リアースレイ精霊王国のなるべく上の、話しの通じる相手を見つけて交渉しなければならない。
けど商工ギルドにしろ傭兵ギルドにしろ働いているのは殆どがアデール王国の人間だろう。
私は持って来た宝石類を商工ギルドで全て売り払った。買い叩かれるとかは無かったけどあくまで事務的、色々話しを振っても媚を売ってくる感じも無いし上と繋ぎを持てそうも無いわね。
最悪商工ギルドの商品を買い漁ってレンリート伯爵領に持ち帰って、品質の高さをアピールして危機感を煽って戦争の備えをさせるしかないわね。それでも勝てるとは思えないんだけど、何とかレンリート伯爵領を生き残らせないと。
――場合によってアデール王国側に付いてフォシュレーグ王国(自国)と戦争する事も考えないとイケないわね。
そこで次に選んだのは精霊神社、どんな怪我でも癒してしまうと言われる巫女がいる所だ。
精霊神社やその下部組織の治癒院では庶民でも払える低価格で治療を受けられている。お金が無ければ無理な請求もせず掃除等の手伝いで払わせる場合もあるらしい。
お陰でどちらも毎日山の様に人が詰めかけて来ている。その中には王族貴族もいるそうだ。
アデール王国にもラージヒルド商業王国やルードルシア教王国からの圧力がある筈なのに、王族貴族がリアースレイ精霊王国を王都のみとは言え受け入れているのはその巫女の能力もあるのだろう。
「寄付、……ですか?」
「ええ、出来れば巫女様にお会いして直接お渡ししたいのですが如何でしょう」
「お気持ちは有り難いのですが巫女様はお忙しいのです。申し訳ありませんがそう言った事では時間は取れません」
精霊神社まで行き少し上等な衣服を着ている男に話し掛けてみたけどやはり良い手応えが無いわね。
「そうですか、それは残念ですね。ところで巫女様はどの様な怪我でも治せると言うのは本当なのですか?」
「どうでしょう。ただ私は巫女様が生きて此処にたどり着いた患者を救えなかった事は見た事がありません」
「それにしても沢山の患者が並んでいますけど、巫女様が全て対応している訳ではないのですね」
「そうですね。多くは巫女様でなくとも回復魔法の使い手であれば癒せますから、巫女様の手を煩わせる必要はありませんよ。とは言え巫女様は積極的に治療をして回ってしまうのですがね」
「それは素晴らしい事ですね。流石巫女様とまで言われるだけはあります」
苦笑いする男に巫女を誉めておべっかを使っておく。そんな人材をこんな国に派遣するなんて思った以上に肩入れしてるって事かしらね? 飛空挺と言い嫌になるわね。
でもだからこそ私は是が非でも巫女に会わなければならないのだ。私は懐に忍ばせていた短剣で自分の腹に深く突き刺していった。
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