第016話 ある休日の……デート? 終幕
まあ良いや。ホリー達やマーブルお姉様達に怯えられてささくれ立った気持ちを落ち着かせたい。ふと思い出してナージャさんの周りを見て回る。
「? どうしましたアイリスちゃん?」
「……んと、猫の」
「ああっ! ぬいぐるみ!? ああ……、アイリスちゃんごめんなさい! 拾って来る暇が無くて、私とした事が初めてのまともなプレゼントでしたのに!」
ナージャ的には今まで買った可愛い服等は自分の趣味を押し付けただけで、猫のぬいぐるみはアイリスが欲しがった(と思い込んでいる)物であり初めてアイリスに喜んで貰う為に買った特別な物だったのだ。
アイリスを抱き上げたまま崩れ落ちるナージャ。それでも離さないからアイリスがナージャに抱き付いているようにしか見えない。ホリー達から見るとアイリスがぬいぐるみを失くして落ち込んでるように見えた。
そしてナージャに対してはその性癖を再確認させられた。
((((今までどんなまともじゃないプレゼントを??))))
「アッ、アイリスちゃん。例え見つからなくても新しいぬいぐるみを買ってあげますからね? 一緒に、2人で買いに行きましょう!?」
要らないよ!? ――と思っているとは思わず皆んなはアイリスの不服そうな顔を、買って貰ったぬいぐるみを大事にしたかったんだと思った。そしてナージャに対してはぬいぐるみにかこつけて幼い子供をデートにまで誘う姿勢に戦慄していた。
「そっ、そうですアイリスちゃん! 甘い物! 甘い物を食べに行きましょう!! ねっ? ねっ?」
((((必死か!!?))))
「……甘い物」ゴクリ
「そう甘い物ですよ! 最初から食べに行く予定だったでしょ?」
「んっ、だった」コクリ
アイリスの反応が悪いと見て即座に甘味へとシフトさせ話題を逸らそうとするナージャ。最初からあったか怪しかったナージャへの周りからの信用は綺麗に消え去ったようだ。
しかしその光景を見てぬいぐるみで落ち込んだりあっさり甘味で釣られたアイリスに対する畏怖は緩んでいった。
そうとは知らずホリー達の反応に落ち込んだままのアイリスは今回の戦闘をふと振り返った。手を抜く余裕は無かった。リリィのサポートがあるとは言え手練れがいたらこっちが危なかったかも知れない。
もしかしたら死んでいたかも知れない。――そう思うと唐突に家族、妹に会いたくなって来る。
「……ねぇねに会いたい」
あっ、口に出したら余計に……、ナージャさんが困ったような顔をして頭を撫でて来るけどその優しさがヤバい、気持ちが緩んでしまう。一歩間違えてたら死んでいて、もうねぇねと2度と会えなくなっていた。そう思うとポロポロと涙が溢れて止まらなくなってしまった。
「ああっ、アイリスちゃん大丈夫よ? もう大丈夫、もう怖い事も何にも無いからね? 安心して良いのよー?」
「そうよー? 私達もいるからねぇ」
焦ったナージャさんに再び抱き上げられ背中をさすられミリアーナにも慰められる。その優しさが! 温もりが駄目なんだよ! ああー、駄目だ、止まらない。涙が、声が。
「うぅ……、ひっく、うえぇ……、うえぇええーーん」
『(いきなり感情が決壊したのじゃ)』
ホリー達、マーブル達はナージャに抱き抱えられながら号泣しているアイリスを見てやっぱりアイリスも怖かったんだと、自分達を守る為に無理をして頑張っていたんだと理解した。――いや真相は違うのだが。
兎も角、感謝はしても人殺しの出来る異物と言う意識から、恐怖を押し殺し自分達を守る為に命懸けで誘拐犯に立ち向かい倒した幼げな子供と言うイメージに変わっていった。――好感度爆上がりである。
その後アルタード伯爵家の馬車が来てマーブル達を、更にビアンカが馬車を出してホリー達を帰しアイリス達も屋敷に帰った。
「……それで?」
「アイリスは泣き疲れて寝ています。ナージャとミリアーナもアイリスを風呂に入れた後添い寝をしております」
「ナージャは呼んで来なさいよ! 何で当事者に説明させないのよ!?」
「……無理でした。明日落ち着いたら改めて説教したいと思います」
椅子から立ち上がり机をバンバンと叩きつけて怒鳴りつけるビアンカに執事長のヒストロスが青筋を立て怒りに震えながら話していく。
ナージャは明日地獄を見るだろう。堪えるかは分からないが。
「ならヴェルンはどうしたのよ!?」
「ヴェルンはアルタード伯爵家に事情説明とその後商工、傭兵ギルドへ今回の件で会議に出ています」
「くっ、…………そう」
友人の女の子達と遊びに行くと聞いてちょっと微笑ましく思っていたのに……、何で被害者加害者双方に貴族が絡む重大犯罪に巻き込まれているのよアイリスちゃん! 危うく意識が飛びそうになったわよ!!
「て言うか泣き疲れてって何なの? お父様と同年代よね? 状況は分かるけどお父様がそんな事になったら幻滅するわよ?」
「子供として生活する事で精神的にも引っ張られたか。いえ、此処に来た時点でアレは既におかしかったですね。アレは元からああだったのでしょう」
机に両肘を付き頭を抱えているビアンカに同情しながらヒストロスはアイリスについて考えた。しかし巻き起こるトラブルに対応策が浮かばず今後も頭を悩まされ続けるのだろうかと遠い目をするだけだった。
コンコン
「ヴェルンです、戻りました」
「入って良いわよ」
「失礼します。アルタード伯爵家と商工、傭兵ギルドに行って事情説明と今後の対応について会談して来ました。アルタード伯爵からは感謝の意とアイリスをパーティーか食事会に誘う許可を欲しいと手紙を預かっています」
ヒストロスが手紙を預かって封を開け中身を確認する。難しい顔をそのままにビアンカに手紙を渡した。
「パーティーは駄目よね? 内輪の食事会なら、……拒否出来ないかしら」
「礼儀ですよビアンカお嬢様。受けない理由が無ければ受けるしかないでしょう。私と侍女長のアリーニャ、そしてヴェルンで行きましょう」
「ナージャとミリアーナは外すのね?」
「勿論です。相手方はアイリスを勧誘する可能性があります。あの2人は暴走しかねません」
「……有り得るわね。――ところでアルタード伯爵ってどうなの?」
「確か、王族派だった筈ですが詳しくは……」
「私が、商工ギルドのダールトン様が言うには王族派の中でも穏健派で比較的常識的な人物だそうです。それとアルタード伯爵からの誘いの話しをしたところ、商工、傭兵両ギルド長が共に参加したいとの事です」
「――アイリスに対する牽制ですかな?」
ゴンッ! ビアンカはついに机に突っ伏した。商工ギルドのトップはこの王都においては王族並みの発言力を持っているのだ。アイリスの為に王族が動くようなものである。
それはビアンカも机に突っ伏すと言うものだろう。
「……まあ、アイリスに関しては両ギルドに任せておけば良いと言う事でしょう」
「リアースレイ精霊王国に引き抜かれなければね」
「「「………………」」」
ヒストロスの言葉にビアンカが返し、そして沈黙が流れた。
ブックマークや何らかの評価を頂けると励みになるので大変嬉しいです。
これからも宜しくお願い致します。




