第008話 日常的学院生活、後編
「クスクス、なっさけな」
ナージャさんからやっと引き離されて一息ついた所で見知らぬ女の子の声が聞こえた。
俺に言われたのかと思ったけど絡んで来た3馬鹿に言ってたようだ。勝気そうな女の子が3馬鹿を前に小馬鹿にしていた。この娘も上級生かな? クラス移動の時間だからな。俺達のクラスの生徒達も移動で集まって来たし。
「なっ、んだとテメェ」
「どうせ問題起こし過ぎて同級生に相手にされなくなったからって下級生の女の子に手を出そうとしたんでしょ?」
「余計なお世話だ! テメェに関係ねえだろ!? 引っ込んでろ!!」
「関係あるわよ、同じ伯爵位を持つ貴族として恥ずかしいのよ。間違っても同類扱いされたくないし」
「へっ! そりゃコッチの台詞だ!! 誰がテメェなんかと同類だ!!」
「あら入学当初に気持ち悪い口説き文句を吐いてきた人の言う台詞とは思えないわね」
「ちっ、ちがっ、そんな話し知るか! おい行くぞ!!」
「まっ、待って下さいロブル様!」
3馬鹿が走り去るのを見送っているとさっきの女の子がフラン達に話し掛けて来た。
「災難だったわね。大丈夫?」
「あっ、はい。ありがとうございます」
「良いのよ。一応私の方に意識が向くように煽っておいたけどもしまだ貴女達に付き纏うようなら私に言って来なさい。助けてあげるから」
「はっ、はい!助かります」
「私は2年1組のマーブル・アスタードよ」
「私はフラン、フラン・リエンスと申します」
「私はエリカ・クレスタです。ありがとうございました」
「私はホリー・ミューズです。ありがとうございました」
「良いのよ。それじゃあね、……あら」
目が合った、俺も挨拶? お礼? した方が良いのかな?
「えと、……アイリス・……フローディア。……ありがと?」コテリ
「まぁあ! 何て可愛いらしい!!」
「ふぎゅっ!」
いきなり両頬を掴まれた!おおぅ、キラキラした目で見られてる。またこのパターンか。
「本当にそうですわねマーブル様! えっ? 男の子、ですよね?」
「どちらにしても可愛い過ぎますよマーブル様!」
「ええ、ええ本当に。ねえ貴方、これから一緒にお茶しましょう」
「お茶、…………お菓子?」コテ
「ふふっ、勿論沢山あるわよ」
「ん、行く」コクリ
「「「アイリスちゃん!?」」」
アイリスが答えた途端、連れ去るように引き摺られてしまった。ホリー達は唖然として見送るだけだった。
「ま……まあ、ナージャさんも追い掛けて行ったから大丈夫でしょう」
「そっ、そうよね、大丈夫よねアイリスちゃん」
「えーっと、多分?」
「「「………………………」」」
日頃の付き合いからナージャのおかしさを知って若干の不安と、お菓子に釣られて見知らぬ人にホイホイ付いて行くアイリスに多大な不安を覚えた3人だった。
「――それはそれとして、エリカ達って可愛さでアイリスちゃんに負けたのね」
「「…………」」
自分の見目にそれなりに自信のあったエリカとフラン、人並みと自負のあるホリーでも男のアイリスに負けたと言うのは少しだけ思う所があった。
「一度裸に剥いて本当に男の子か確かめてみましょうか」
エリカ達が不穏な会話をしている中、アイリスは連れられた教室に入ると無駄に豪華な部屋があった。
訳の分からない壺とか置いてあるし、あの絵とかも分からないけど額縁の方が高そうだし貴族ってこう言うの好きだよなぁ。
「此処は第一学院のサロンを参考に作られたのよ。一定額以上の寄付をした貴族の子息子女しか使えないの」
「さっきのお馬鹿さん達も使えていたんだけど、ちょっと問題起こして出禁になったから安心して良いわ」
「まあそれでも第一学院には劣ってしまいますけどね。でもお茶菓子は同等の物を取り揃えているんですよ」
もぐもぐ、お馬鹿が来ないなら、もぐもぐ別に良いか。もぐもぐ、お菓子が上等なのも凄く良い。
『マーブルとやらの膝に乗せられておるのは良いのか?』
俺に害は無いしなぁ。
「はぁ〜、本当に可愛いわねこの子。男の子とは思えないわ」
「んっ、もぐもぐ」
「はいはい、次は苺のクッキーですね。はいあーん」
「あーん、んっ、……もぐもぐ」
んまい、色んな味のクッキーがあるな。ジャムやフルーツを乗せて食べたり色々楽しめるのも良い。他にもフルーツヨーグルトのクレープとかもあって大変美味しい。
「美味しい? アイリスちゃん」
「美味し〜〜い♡」
おっと、思わず満面の笑みで答えちまったぜ。流石に大人げ無かったな。
「「「可愛い〜♡」」」
『……何時も通りじゃろ』ボソッ
「マーブル様、私も膝の上に乗せたいですわ」
「私も、私もお願いしますわ」
「では私はその次ですね」
「「「えっ?」」」
ナージャさんが名乗りを上げて皆んな唖然としてる様だ。どうしたんだろう? この人は何時もこんな感じなんだけど?
「…………貴女は侍女ですわよね?」
「はい、私はアイリスちゃん付きの侍女をしておりますナージャと申します」
「侍女が、いささか自己主張が激し過ぎではないかしら?」
「いえいえ、お嬢様方が同世代の男子と抱き合っている方が問題ではないでしょうか?」
「ぐっ、……言うわね貴女」
「ふふっ、有難う御座います」
「褒めて無いわよ」
どうやら和解したようだ。
「はぁ、それにしても本当に可愛いらしい。うちの弟なんて我儘乱暴に育ってしまって可愛さの見る影も無いと言うのに」
「ウチの兄もですわ。次期当主なんて言って傲慢になってしまって、先が思いやられますわ」
「ウチは妹ですけど両親には良い顔して私や侍女達には、ナージャさん? この子は何時もこんな感じなのですか?」
「そうですね。基本的には真面目で頑張り屋です。ただ甘い物に目が無くて。この間はご学友とクレープを食べて帰ったのですが、その為夕食のスイーツを出さなかったらポロポロと涙を流し泣いてしまったのです。大変可愛い、……可哀想で胸が痛かったですよ」
可愛い関係無いだろ。だが何を言われようと動じない。膝抱っこされようと頭を撫でられようと動じない、所詮子供のする事、お菓子の前では小さな事なのだ。
『ナージャも居るのじゃが?』
アレは別、気にしても仕方がない。
『確かにの(スイーツで泣く大人と言う方が異常なのじゃがな)』
「それでは今日の夕食もスイーツは出ないのでしょうか?」
な・ん・だ・と!? 恐る恐るナージャさんを見上げると人差し指でシーってしてた。内緒にしてくれると言う事か!!?
「ナージャさん好きー♡」
「くはっ!?」ガクッ
ん? 思わず感謝を声にしてしまったけどナージャさんが崩れ落ちてしまった。
「アイリスちゃん、私の事はマーブルお姉様と呼びなさい」
「んっ、……マーブルお姉様?」コテリ
「ぐっ、コレは効きますね」
その後マーブルお姉様の連れの2人もお姉様呼びするように言われてしまった。まあお貴族様相手だし受け入れるけどね。
「アイリスちゃん? 私達がいる時なら何時でも此処を利用しても構いませんからね? 話しを通しておきますから」
「えっ? 本当? ありがとー、わーい♪」
良い人だー! 食べ放題じゃないか。最早無敵だな!!
「違います、やり直しですわアイリスちゃん」
「んにゅ?」
両手で頬を挟まれて迫られた。何だ? 何か間違ったか?
「……侍女さんに言った台詞でお願いしますわ」
?? はて?
『ああ、ナージャさん好きー♡のやつじゃろ』
ええーっ? 改めて言えと言われると恥ずいんだけど!?
『なら此処の利用を諦めるのじゃな』
「マーブルお姉様大好きーー♡」
「ぐふっ!」
『いっそ潔いの』呆れ顔
リリィの呆れ声が聞こえるけど得られる利益に比べれば些細な事だ。その後マーブルお姉様の取り巻き2人にも言わされたけど問題無い。因みにナージャさんにも大を付けて言い直すように言われた。断ると面倒臭そうだから言っておいたけどブレないねこの人。
「ん〜っ、美味しーい♡」
この桃入りクレープは大当たりだ!思わず足がパタパタいっちゃうぜ。
『ブレないの、お主も』
「ですから胸の大きな女性は卑怯なのです。アレがあれば私も孤児院で子供達に人気者になれると言うのに」
「貴女中々ぶっ飛んでいるわね。それとも貴女の国では当たり前なのかしら?」
「何を言っているのです? そんな事では幼子を愛でる会には相応しくありませんよ?」
「そんな珍妙な会に入るつもりはありませんわよ」
「それは残念です。素質はありそうでしたのに」
「止めて下さる?」
(((この人、ヤバい人なんじゃ)))
この世界、他家の侍女とは言え貴族の令嬢相手なら表向き取り繕っても敬うべきなのに、その聖域を個人の趣味であっさり犯すナージャに3人はドン引きし始めた。
んっ? 何かマーブルお姉様達難しい顔してるな、何かあったか?
『お主全く話し聞いとらんかったな』
何かリリィまで疲れたようにしてるな。けど女子供の話しなんて大人の男である俺の頭には入って来ないのよ?
『……取り敢えずお姉様大丈夫とでも言っておくのじゃ』
「お姉様達大丈夫?」コテ
「(きゅん!?)ええ、問題無いわ。貴方はなーんにも心配しなくて良いのよ」
いきなり上機嫌になって頭を撫で頬ずりしてきた、簡単な子供だな。
「やはり幼子を愛でる会に……」
「入りません」
「クソックソッ、許さないぞあのクソチビ共! 平民の癖にこの俺様に向かって!!」
「しかしロブル様、あの者に手出しをすれば侯爵家の3男の二の舞になるのでは」
「チッ、ではあの女達だ! アイツ等を連れて来い!!」
「そうですね。あの女達なら大丈夫でしょう。あっ、それなら侯爵家に渡すのも良いかも知れませんね」
「そうだ、ついでにあのイケ好かないマーブルの奴も攫ってしまえ!」
「ええっ! しかしそれは……」
「バレなければ良いんだよ!!」
学院の片隅、ホリー達に絡んだ3馬鹿が理不尽な怒りに燃え、どす黒い感情を吐き出していた。
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