第006話 幕間 レンリート伯爵の受難、後編
「……頭が痛い」
ビアンカから手紙が届いたが無かった事にしたい。着いて早々アイリスが精霊神社に愛し子認定されただの商工ギルドでランク8を与えられそうになっただの訳が分からんわ!!
愛し子って何だよ!? いや凄そうなのは分かる! 商工ギルドがランク8を与えようとした事と同じ理由なんだろう。ランク8なんてこの国には1人もいないんだぞ!?
伯爵家の当主である俺ですらランク5なんだ。多分飛空艇の王都への乗り入れを許可して商工ギルドの王都進出を正式に許可したら陛下がランク8クラスの扱いになるってレベルじゃないか?
怖っ! あのちびっ子怖っ!! 手元に置かなくて本気で良かった、――ビアンカは大丈夫かな。
その後も手紙が止まらない。アイリスが侯爵の子息と揉めただの獣人達に目を付けられただの、留学に来てた他国の王女や公爵令嬢に興味を持たれただの、……いったい。
「どうなってんだよぉおおおーー!!!?」
「落ち着いて下さいグランツ様」
執事長のビルドラードに声を掛けられるが、落ち着ける材料が何一つ無い! こんな状況でどうしたら落ち着けるんだよ!!
「ビアンカお嬢様の方が大変なのですよ?」
「ぬうっ!」
それを言われたら黙るしか無いではないか。
「それで如何致しましょう? ビアンカお嬢様はシャルロッテを呼んで欲しいそうですが」
「……無理だ。此方もライハルト子爵の絡みで王家やランドリッピ公爵との話しもまだ落ち着いて無いし、元アドン男爵領の再開発もある」
「――ですな、ビアンカお嬢様には申し訳ないですが、向こうは向こうの人間に任せるしかないでしょう」
「……胃が痛い」
「軟弱な」
今日はシャルロッテも屋敷に来ていたのだが気疲れでつい弱音を吐いたら冷たい視線を浴びてばっさり切り捨てられた。
「俺、一応上司なんだけど? お前に振り回されてる所為でもあるんだからな?」
「ビアンカお嬢様はアデール王国でリアースレイ精霊王国との関係強化、エウレカ様(グランツの嫁)は王都で社交、どちらも敵ばかりの中で奮闘してるのですが?」
「すみません」
はい論破。――恨みがましい目で見たら冷笑された。凍りつくかと思ったよ。さっさと話題を変えよう。
「アドン地方はどうだ?」
「問題ありません。ああ、先日アドン地方の傭兵ギルドに加えて商工ギルドの方のギルド長にもなりました」
「えっ!?」
いやいや! 何で?? ――頭が痛くなりそうだから深く聞くのはやめよう。必要ならシャルロッテの方から言ってくるだろ。
「ビアンカからの手紙が絶えんのだ」
「そうでしょうね」
ぐっ! コッチは日々の報告に頭痛胃痛に悩まされ振り回されていると言うのに全く動じないで茶なんぞすすりやがって、……俺が出させたんだけど。
「アイリスの通う第二学院では教師の粛清が起こっているらしいが……、詳しくは分からんがアイリスが原因だそうだな。奴は落ち着くと言う事を知らんのか?」
「あの子が貴族も通う学院で問題を起こさず通えると思っていたのですか?」
「………………」
頬に手を当て何でそんな事も分からないの? って顔された。マジでムカつく。高身長に爆乳、色白の肌に白銀の髪に碧眼切長の目で冷笑してくる。美人なのは認めるがそんなんだから人間味が薄くて結婚出来ねんだよ。――言わないけどな! ……だって怖いし!
「さっ、最近では獣人の男女間で仲間割れ? 諍いが起きたらしくてそれもアイリスが原因だとか、何をやったらそうなるのか分からんが」
「アイリスちゃん絡みなら問題無いですよ。家族が此方にいる以上愛し子が向こうに渡る事はありませんし、彼等も敵対出来ませんから」
「ちょっと待った。その愛し子ってのは結局どう言うものなんだ?」
シャルロッテと目が合うとふっ、と微かに笑みを零す。だから怖えんだよ!
「リアースレイ精霊王国は精霊王国をうたっているだけあって精霊に好かれている人達を敬愛しています」
「うむ?」
「精霊を見れる人も巫女もその上の大巫女もあの国にはそれなりにいるそうです。………まあそれなりと言うのがどれほどなのか分かりませんが」
大巫女がそれなり?? 聞くに巫女の上位互換て事だよな?
巫女ですらどんな病いも怪我も癒せるとまで言われている。人気取りとしてもそんな巫女を一国に1人とは言え派遣するのに、何らかの思惑があるのだろうと思っていたがやはり力の独占はしているか。
その思惑が分からんのは不気味だがシャルロッテが意識してないなら問題無いのだろう。
「問題なのは大巫女並みの回復魔法を使えるあの子は、力のある精霊が力を貸していると言う事です」
シャルロッテが厳しい目つきに変わって思わずゴクリと唾を飲み込む。
「精霊神社の宮司が言うにはそれに精霊神が気付かない筈が無いと言う事で、つまり精霊神がそれを許容、……認めたと言う事になるのです」
精霊、神? えっ? 神?? 何言ってんの??
「つまりアイリスちゃんは彼等にとって自分達が信奉する神様に認められた存在と言う事です」
「…………マジで……、言ってんの??」
「ええ」
「イヤイヤあり得ねえだろ! 神様だぞ!? マジで居ると思ってんのかよ!!」
俺は口では否定しながらも精霊が見えるとか巫女の能力とかを考えて、もしかしてと怖れとも言える感情が湧き立つのを抑えられなかった。だがシャルロッテは半眼で如何にも残念なモノを見るような目で溜め息をついてきた。
……嫌、俺伯爵だぞ。お前一応今は平民だろ。不敬じゃないか?
「彼等が信じる神様が、アイリスちゃんの存在を認めていると、彼等は思っている。その事実が重要なのです」
「事実がどうあれ、か」
いや、話しに聞くアイリスの能力を考えれば充分にあり得るのか? ビアンカも大変だな。――いや俺もか。呪われているんじゃねえかな? この家。
「問題は、無いんだな?」
「ええ、……それにしてもアイリスちゃん。ふふっ、本当に甘味を食べて感想をビアンカ様に伝えているのね」
ビアンカからの手紙を読みながら微笑んでいる。そんな顔も出来るんだな。
「うむ、確かにビアンカがアイリスを釣る為にアデール王国の甘味の調査をして欲しいとは言ってはいたがな」
まさか本当にヤルとは思わなかったぞ。そんな理由で雇う訳ねえだろ! 信じるなよ! 子供かよ!?
「ところで、ビアンカお嬢様がアデール王国でリアースレイ精霊王国との関係を深めると言う当初の目的は果たしたので、アイリスを此方に帰したいと言って来ておりますが?」
執事長のビルドラードがしれっと恐ろしい事を言って来た。
「駄目よ」
だがシャルロッテが止めてくれた。アイリスを戻さないのは賛成だ。聞いてるだけでも胃がやられそうなのに冗談じゃない。ビアンカには悪いがシャルロッテが止めてくれて助かったが、――何でだ?
「理由を聞いても?」
「アイリスちゃんがいればアデール王国で何かあってもビアンカお嬢様達ごとリアースレイ精霊王国が守ってくれるわ」
「待て、逆に言えばアイリスがいないと守られない? と言うかアデール王国はそこまでヤバいのか?」
シャルロッテが先導してここ10数年ウチのリアースレイ精霊王国との取り引きの純利益はアデール王国との国境の軍備増強にほぼ全て突っ込んでいる。
そもそもリアースレイ精霊王国との取り引きが始まった当初、商品のレベルが高過ぎて国家規模で取り引きをしてるアデール王国に対し、シャルロッテが危機感を持ったから自領での取り引きを強化する事になったと言う流れがあるのだ。
「ビアンカお嬢様が直接標的になると言う事は無さそうですが、安心出来る状況ではないですね」
「むうぅ、ビアンカは戻した方が良いか?」
「アイリスちゃんが向こうにいる内は大丈夫でしょう。アイリスちゃんだけを向こうに残す訳にもいきませんし、此方に戻してリアースレイ精霊王国との繋がりが薄くなってしまっては問題です」
マジで呪われてそうだなレンリート伯爵家。
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