第002話 ある日の朝の日常、天使ちゃん誕生!?
私が母親の元に行くと邪魔をしないよう皆んなが場所を開けてくれます。頭の前に座り今度はそのまま動かさず、両手で挟むように側頭部に手を置いて回復魔法を施していきます。
この人も脳に酸素が行ってませんね。子供の時と同じように酸素を送り込んで頭部の外傷も回復魔法で治療して行きます。
「んっ、……あ、……なた」
「マッ、マリー!?」
「…………っ! こっ、子供は!?」
目を覚ました母親が詰め寄るけど父親は悔しそうに俯くだけだ。
「おいアンタ、子供は無事だぞ!ほれ、息もしてる! 生きてるぞ!!」
職員が先程手当てをした子供を両親の元に抱き上げて来ます。
「ああ! ラクシス!! 本当に!? 生きてる?? 生きてるのか!!?」
「んっ、パパ、どうしたの? 何で泣いてるの?」
「んあっ、何でもねえ! 何でもねえよ! なあマリー?」
父親は泣きながら子供を抱き締めて母親に話し掛けている。そんな姿を見て周りの人達も盛り上がっていく。
「良かったなあ。絶対に助からないと思ってたのに」
「おおよ、凄え回復魔法だったぜ! 完全に死んだと思ってたのにな! ガハハハハ!!」
「ああ凄かった。俺ゃあ聖女様かと思ったぜ」
父親と子供、それに周りの人達が喜びに満たされている中、母親だけが顔を青くしているようです。
「お腹の…………、赤ちゃん」
母親のその一言で周囲は一気に静まり返った。母親のスカートの一部分が血で濡れていたからだ。今までは頭の怪我に注目していて赤ちゃんが出来てるとは思いもしなかったが、それを見て皆お腹の赤ちゃんは絶望的だと理解しているのだろう。
「あっ、……赤ちゃんは……」
母親は頭では理解しているけど心では理解出来ずにうわ言のように赤ちゃん赤ちゃんと繰り返している。
私は母親の横に周りお腹に手を当て祈りを捧げるように魔力を母親に注いでいきます。赤ちゃん、確かに居ました、……ですがこれは駄目ですね。一から命を創り出すくらいの力が必要なのが分かります。
そう思った瞬間、神様が寄り添って来たかのような感覚を感じました。ああ、この万能感……、私は今、間違いなく神の思いを行使出来ます。その万能感に自身を委ねると自然と言葉が出てきます。
「精霊神の、……御心の…………ままに……」
素晴らしい。
「神の奇跡を」
神を身近に感じます。
「賜りましょう」
私の全てが愛で満たされていく……、この気持ちを皆に教えてあげたい。こんなにも世界は愛の輝きで満ちていると言う事を。
誰もが分かる程の神聖で濃密な魔力が母親とお腹の赤ちゃんに注がれ周囲にまで清浄な魔力が迸る。血、肉、骨、赤子のそれら全てを復元していくと母親の冷たくなっていた手も暖かくなっていく。
「あ……、んっ」
母親は何が起こっているのか分かっているのか私の手を握って来て、何としても赤ちゃんを助けて欲しいと言う想いが伝わってきます。安心させる為に母親に微笑んであげます。周囲の人達はその様子を邪魔しないように注視しています。
「尊い」
誰が呟いたか分からないけどその場にいた誰もが同じ想いを抱いたのではないだろうか。後に居合わせた人々がそう想いを馳せる光景が目の前にあった。
10かそこら(間違い)のとても美しい少女(男です)が神と見紛う程の神聖な気配を漂わせ、涙を流しながら神様による癒やしの祝福としか言いようのない御技を見せているのだから。
誰もがその尊い瞬間を見逃すまいと息をするのも忘れて固唾を飲んで見守っている。中にはその美しい少女に涙を流して祈りを捧げている者達も居る程だ。
何とか赤ちゃんは息を吹き返したようですね。……いえ、寧ろ生まれ直したとでも言いましょうか。その後母子共に健康な状態になったのを確認してからリリィの外魔力循環を止めて一息つきました。
徐々に清浄過ぎる魔力が自分の薄汚れた魔力に染まっていってホッとする。ああ気持ち悪い気持ち悪い、何だよ愛ってバカじゃねえのか、ぺっ、ぺっ。
『いや薄汚れたって(本当に薄汚れてたらこの家族を助けようとはせんじゃろ)』
「お腹の赤ちゃんももう大丈夫ですよ」
取り敢えず母親の手を取ってお腹に手を当てて、目を見て落ち着かせるように微笑んで語りかけた。
「天使……様?」
んん? 何寝ぼけてんだこの女。目を見開いて訳の分からない事を抜かしてきやがった。
「天使?」コテリ
「おお、……なんと神々しい……」
「「「……天使様」」」
て言うか周り皆んなが俺達に向かって平伏してる!? 何?? 何があったの!??
『ああ〜、リリィの魔力に当てられたかも知れんのじゃ』
へあ!? 何それ怖っ! 涙を流しながら祈ってるジジババとかいるし引くわ。本当お前の魔力ってマジでヤバいじゃん!?
『良い事しとるのに引くななのじゃ。お主も涙を流しながら回復魔法を使っておったじゃろうが』
何それ怖い! もう洗脳じゃん!!
『ぬなっ! 何ちゅう事を吐かすのじゃ!! 罰当たりが!!! リリィの魔力は精霊神様とも繋がっておるのじゃぞ!!』
それだよそれ! その神様だよ!!
確かに赤ちゃん治した時そんな感じしたぞ!? あれマジもんの神様の力だったじゃないのかよ!!
『じゃからそう言っておる! 寧ろ何でお主は精霊神様の御力を一番身近に感じておいて皆みたいに心酔せんのじゃ!! 畏れ多いと思わんのか!!?』
いやいや! 自分が自分じゃなくなる感じがしたんだぞ? もう戻れないんじゃないかってめっちゃ怖かったんだぞ? そんな風にされて何で心酔なんてするんだよ!?
今考えても恐ろしいわ。寧ろウエッてなるよ。
『おま…………、もうええわ』
?? そうか?
『コレが天使扱い……、なまじ見目が良いから手に負えん、世も末なのじゃ。いや、この無邪気さはある意味らしいと言えるのか?』
誰が無邪気だ。
「うう、素晴らしい体験でしたね。しかし皆さん、この子が権力者に狙われない為にも今の回復魔法については秘密にして頂きたい。下手をしなくともこの子の命に関わりますので……グスッ」
治癒院の院長が俺の横に立って涙ながらに語り掛けるように皆んなに話している。……キモいわオッサン。
『酷いの』
だよな? だって優しい口調なのに涙流しながら顔は険しくしていて得も言わせぬ迫力があるんだよ? 皆んなもコクコク頷いてるし。
「俺はっ!」
うおっ!? いきなり怪我した父親が叫んだ。びびったじゃないか。何だよコイツ。
「っ妻と、息子に、……赤ちゃんまで、……助けられたんだ! アンタの為なら命にかえても! 貴族相手にだって戦って見せます!!」
えっ? 何言ってんのこの人、マジ怖い。貴族に殺され掛けたのアンタでしょ? 何で俺が貴族と揉めんのよ?
『………………(無いとは言えんのじゃ)』
「あんちゃん良い事言った! 俺もやってやるぜ!!」
「おう! 皆んなで天使ちゃんを守ろうぜ!!」
「「「おう!!」」」
「皆さんの気持ちは嬉しいのですが一番は噂にならずこの子が静かに暮らせる事ですからね?」
「「「あっ、はい」」
誰が天使ちゃんか。――って、えっ? 俺が危険なの?? 何で!??
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