第001話 ある日の朝の日常、治癒院で小遣い稼ぎ
このアデール王国の王都にも神聖教会はある。怪我人の治療、神聖教会は回復魔法ではなく祝福とか言っているけど一応そう言う事もやってはいる。ただ法外なお金が請求される事になる為、神聖教会は何時もガラガラに空いている。
同じ王都内で精霊神社や治癒院があり精霊神社では巫女様がどんな難病でも格安で治癒をしてくれている。その下部組織の治癒院でも同様に格安で治療が行われていて、大金を取る神聖教会では相手にならないのだ。
なら値段を下げればと思うだろうが無理な話しだ。彼等は無駄にプライドが高い。それに人が来ないのはあくまでも精霊神社がある王都だけで他ではぼったくりまくって大金を稼いでいる。
ぶっちゃけ金稼ぎだけなら王都で無理して精霊神社と競う必要が無いのだ。
まあそうは言っても王都での収入はこのアデール王国で1番の稼ぎ場所だった。その上王都にいる王侯貴族も治療を受けるなら巫女の居る精霊神社に、となってしまっている。
当然相手にされていないと言う事で無駄にプライドが高い神聖教会の面々は不愉快で仕方ない事だろう。
治癒院では偶に重症患者がやって来る。本来は精霊神社に行って巫女の手当てを受けるべきだけどそこまで保たない緊急事態の時だ。けど治癒院は本来は簡単な手当てしか出来ない為結局手遅れになってしまう場合が多い。
俺がいる時にも何度かその場面に居合わせた。一部の人は俺が巫女並みの回復魔法の使い手で、回復魔法の手加減を覚える為に治癒院で働いていると思わせているので俺がいる時は俺が助けている。
『リリィのお陰じゃろ』ドヤ顔
はいはい、……と言っても重症患者が来たら他の手当てを止めて皆んなで手当てするからそれに混じってこっそりやれば目立たないし、巫女の手当てを受けるまで保てば良いので最低限の手当てしかしていない。
アイリス、自重、覚えた。
『何を言うとるのじゃ。リリィが教えとるから出来てる事なのじゃ』
うぬぬ。リリィのイジワル。
『幼児化しとるのじゃ』ボソッ
そしてこの日も重症患者が来た。
「貴族の馬車に撥ねられた! アイツ等そのまま走り去って行きやがって!!」
親子3人、父親は腕と肋骨骨折、母親は頭から血を流して意識不明、8歳くらいの男の子は口から血を吐いてコチラも意識不明だ。
「子供は血を吐いてる! 内臓をヤラれたんだろう! もう助からないからそこらに置いとけ!!」
「チッ、確かに息をしてねえ! クソ貴族がっ!!」
「母親もヤバいぞ! 意識が戻らない!!」
「何だと!?」
「父親の方は大丈夫だ! 全員母親の方の手当てを!!」
治癒院で働いてる人達も患者で来てる人達も大騒ぎだ。俺も母親の方の手当てに駆り出された。
「お願いします! 妻だけでも! 妻だけでも助けて下さい!! これで妻まで亡くしたらっ、俺はどうやって生きていけば良いかっ!!」
父親は泣きながら母親を見て周りに懇願してる。子供の事は諦めてるんだろう。俺も母親の手当てに行くけど意識が戻らないって事で他の治癒師が頭の方に集まっているから横に回った。多分この程度の怪我ならリリィが居れば場所なんて然程関係ないしな。
『うむ、なのじゃ』
何時もの事だけど何故か他の患者の皆んなも母親の方に集まって注目して来る。患者が集まるのは邪魔でしかないんだけどな。
ふと入り口近くで1人取り残されている子供を見る。いや取り残されてると言うより打ち捨てられてるか、小さな体を血で汚して1人寂しく倒れている。
全く、貴族貴族、これだけの騒ぎを起こしておいて他人事か。腹立たしいな。自分が本気で高貴な存在だと思ってるんだろうか。特に何かに秀でている訳でもない唯の人間の癖に。
『全くじゃ。人と言うのは数が多くなると途端に醜悪な者が増えて来る』
ビアンカお嬢様を見てるから一括りにはしたくないけどこう言う屑を知ると貴族なんていなくなれば良いと思っちまうな。
……子供は無理?
『いやどうかの? しかし明らかに厳しいの。やるとなるとリリィも外魔力循環を全開でやらねばならんぞ?』
うぐ。
母親の所から子供の方を横目に見る。息を引き取った幼い子供を見ながら貴族の起こした理不尽にイラついて腹の中が熱くなる。
子供の側まで行って地べたに座り込んで血塗れの子供を抱き上げる。治療には本当は寝かせたままの方が良いんだろうけど密着させた方が子供の状態を感じられ魔法も掛け易い気がしたのだ。
『そう思うならそれでやって見ると良いのじゃ、やるのじゃ』
「んっ」
体の中の魔力が回復魔法にされて一気に子供に注がれる。更に外魔力循環によってリリィが大気から魔力を集め清浄化してから体内に注がれて駆け巡る。
きっつい、何時もの感覚だ。腹に溜まった理不尽に対する怒りが、流れ込む清浄過ぎる魔力によって洗い流されていく。そして回復魔法として消費される度に新たに清浄過ぎる魔力が体を満たしてくる。
消費するたびに清浄過ぎる魔力が駆け巡る。ああ、まるで自分が作り替えられていくよう。気持ちが悪い、自分が自分でなくなっていく。
でも子供を助ける為にはなるべくリリィの回復魔法の邪魔をしないようにしなければ。そうすれば早く治療も終わるから早く楽になれるのです。
リリィの魔力を通し易いように受け入れていくと心から優しい気持ちが溢れてきました。こんな小さな幼気な子供の未来が閉ざされるなんてあってはいけません。何としても助けなければ。
魔力を通して子供の状態が分かってきます。内臓もめちゃくちゃですが先ず脳に酸素を送り込まなければ、魔力でゴリ押しです。理不尽な目に遭った幼子に涙が出てしまいます。幸いこの子の源とも言うべき魂はこの子の中で無事のようです。
「アイリスちゃん、残念だがその子はもう助からない。それより父親の方の手当てをしてあげてくれませんかな」
治癒院の人がアイリスに声を掛けて来た。母親の方は頭を打って意識が戻らないから確実に治る父親の手当てをさせようとしたのだ。亡くなった幼子を涙を流して抱きしめているアイリスを見てトラウマにならないように配慮したのだろう。
『むむ、これは流石に厳しいか、……せめて精霊神社であれば精霊神様の御力添えを頂けるのじゃが……………………は? 精霊神様?? 何で此処にって!? ぬおおおお!!?』
リリィから更に心地良い魔力が大量に送られてきます。ああ、神様の御力を感じます……。
肋骨が折れて内臓を突き破っているので内臓は治す前に肋骨を無属性魔法で元の位置に、繋げるのは後回しにして内臓を、穴を塞いで、流れ出た血を回収綺麗にして、心臓を、動かして、血を戻していきます。
「アイリスちゃん……、残念だがその子はもう……、助からないんだよ」
ああ、素晴らしいです。心臓の鼓動を感じます。命の息吹を感じます。まるで私までが神と共にあるような。
『…………………………』
脳が深刻なダメージを負っているようですがリリィの魔法によって癒されていくのが私にも分かります。まだ重体ですが山場は超えたでしょう。血流を整えながら内臓を回復させていきます。
「こふっ、けほっけほっ、――すぅ、――すぅ」
子供が血を吐き出して呼吸を取り戻しました。
「えっ、…………嘘……、息を……吹き返した?」ゴクリ
「はい、もう大丈夫ですよ。ただ血を流し過ぎているので何か消化の良い物を食べさせてあげて下さいね」
何故か愕然としたままの治癒院の人に再度子供の事をお願いして母親の方へ向かいます。まだ意識が戻らないようです。早く助けて差し上げなければなりません。
「うおおー!! 子供が生き返った!! 生き返ったぞぉーーっ!!!」
「何馬鹿言ってんだ! ふざけた事言ってるとブチ殺すぞ!!」
「本当だって! 見てみろ息をしてるぞ!! あの子が治したんだ! 俺は見てたんだ!!」
「だから馬鹿言ってんじゃ――――っ!?」
「うおっ! マジだ! 生きてる!! 生きてるぞ!!!?」
後ろが騒がしいです、先程の方が正気に戻ったのでしょう。次は母親です。
『脳をやられとるの、じゃが急げば間に合うのじゃ』
「はい、すぐに治して差し上げましょう」
親子の誰が欠けても悲劇になってしまいますからね。
今話から第4章、初っぱなからアイリスがやらかしてしまいました。これからどうなるのでしょうね?
明日から05時10分と11時10分に投稿します。
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