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      第二作戦

放送を終えた後、俺はまだ校舎内に残っていた。


最初は、そのままグラウンドに向かうつもりだったのだが、予想外の事があった。


それは、校舎に隠れていた生徒の数だ。


俺や美景先輩の予想だと、校舎に残っている生徒の数は三十に充たず、教師と合わせてもせいぜい四十に足りないものの筈だった。


しかし、放送につられて出てきたのは、その予想を遥かに上回る数だった。


百には充たず、しかし五十は確実に越えてしる。


そんな数の人間が、校舎中から一斉にぞろぞろと、列をなして移動しはじめたのだ。


無論、未だに校舎には例の化け物鼠が徘徊していた。


それに出会った生徒たちは、再び教室に逆戻り。


仕方がないので、一度美景先輩と合流。


今は第二の作戦の最中だ。


「避難勧告の次は、避難誘導か」


立て続けに出された、美景先輩の作戦指令。


その内容から考えるのは、どうでもいいこと。


「卒業したら、消防士にでもなろうかな…」


呟き声が聞こえたのか、俺の後ろにいる二人が楽しそうに、反応する。


「おっ、いいんじゃないか?それ」


「先生としては、宮前君には似合うと思いますよ?」


俺と共に行動するのは、裕久と薫先生の二人だ。


美景先輩は、最初に助けたなぎなた部の三人娘と行動している。


「裕久、薫先生。あまり騒いでると、また例の連中と出くわすことになりかねないから、少し静かにしてくれないか」


「「はーい」」


俺の苦言に、声を揃えて返事する二人。


そう、例の鼠はまだ残っているのだ。


連中、どうやってかあの巨体を隠し、こちらが隙を見せれば襲ってくる。


おそらく、今も俺たちは連中に見張られているのだ。


〈さてと…この階には…〉


廊下の角を曲がり、教室の並ぶ区画に入る。


そこから、まず見るのは教室の前にある廊下。


もし、そこに椅子か机が落ちていれば、それが、


〈救助要請の印…あった〉


それは、美景先輩と合流した後に、再び放送室に蜻蛉返りして伝えたこと。


もし、校舎を徘徊する化け物鼠に阻まれて自力での避難が困難な場合、適当な教室に立て籠って、そこの机か椅子を教室の前に置いておくこと。


それが在る場所に、俺たちや美景先輩たちが、助けに向かう、と。


ちなみに、これまで自力で避難をしてきたのは、体育系のゴツい先生がいた組と、運動部の汗臭い連中が組んだ組だけだった。


そして、今確認できる廊下に、救助要請の印は一つだけ。


この階は、比較的楽に終わりそうだ。


俺たちは、その教室の前までくると、まずは扉をノックする。


そして、化け物鼠が扉を揺らすのと、決定的な違いを見せるために、薫先生が声をかけた。


「放送委員会副顧問の村上です。皆さんを、助けにきました。扉を開けてください」


薫先生に声かけをするように頼んだのには、理由がある。


学校のような場所だと、薫先生の教師や、美景先輩の生徒会長といった、権力を持つ肩書きは、一般の生徒に対して与える影響は大きい。


とりわけ、非常時ともなれば、肩書きが与える安心感は計り知れないだろう。


〈教師が中にいた時に、俺たちも口うるさく言われないし…〉


案の定、教室の中からは安堵の声が口々に聞こえてくる。


続けて聞こえるのは、机や椅子、ロッカーなどを動かす音。


どうやら、この教室は中からバリケードを張っていたようだ。


暫くして、教室の扉が開かれる。


中から出てきたのは、男女合わせて六人の生徒と痩身の男性教師が一人。


「ああ、村上先生。救助ありがとうこざいます。どうにも、私一人ではあの化け物には対応できなくて」


男性教師は薫先生を代表と見たのか、薫先生に礼を告げる。


「いえ、私なんて彼らがいなかったら動くこともできませんでした」


言いつつ、薫先生は肩を並べて立つ、俺と裕久を指す。


「そうですか。君たちは勇敢なようですが、あまり無茶はしないように」


これは、救助要請者の中に教師がいた場合の、お決まりのやり取りだ。


最初のうちは、その言い方に文句も言いたくなったが、今では相手にしないことにしている。


「それよりも、先生。早く避難しようぜ。正直、俺も早く外に出たいんだ」


裕久のタメ口に、普段言葉遣いに五月蝿いことで知られるこの教師も、今回は気づく余裕もないようだ。


しかし、表面上は余裕をもって、一緒に隠れていた生徒たちに指示を飛ばす。


「さあ、落ち着いて避難しますよ。…村上先生、誘導をお願いします」


「分かりました。後ろについてきてください」


薫先生の言葉と同時、俺たちは予め決めてあった隊列を作る。


まず、薫先生と裕久を先頭に、その後ろに救助要請者を続かせる。


最後、しんがりは俺の役目だ。


これは、戦闘能力を考慮した結果だった。


威力はあるが複数の敵に弱い薫先生と、威力はないが俺の竹刀を使ったレンジの広さを持つ裕久を組むことで、なんとか互いに短所をカバーしあえる。


一番戦闘能力の高い俺は、後方の警戒を一人で受け持つ。


咄嗟に考えて、最良と思った隊列だ。


俺たちは用心深く進み、無事にグラウンドまで辿り着く。


だが、まだ仕事は終わっていない。


もうワンフロアだけ、確認していない場所がある。


「あと一ヶ所で終わりだな」


粗方終わらせて、裕久はすでに気を抜いているようだ。


そんな裕久に対し、薫先生は再び忠告する。


「気を抜くのは、全部終わってからにしてくださいね。さっきも、それが原因でやられかけましたよね?山崎君」


「はい…そうでした…」


何故か裕久は、薫先生には逆らえないようだった。


これは使えるかもな、などと考えている内に、目的の廊下に到着する。


廊下に沿って並ぶ教室。


その前に、救助要請の印は、


「なし…」


この階に人はいないようだった。


後は、自分たちが避難すれば、俺たちの仕事は完了となる。


「よし。グラウンドに行くぞ。美景先輩たちも帰ってくるだろうし」


そう言って、俺はグラウンドに向かって駆け出した。

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